大阪府警のサバイバル 5
そしてこの日。
晴れ渡った9月の連休初日に将は桐谷世羅と翼と省吾の4人で兵庫県の姫路港で大阪府警の新人警察官たちを出迎えたのである。
将たちが行った一回目は8名だったが今回は新人警察官全員である。
省吾は息を吸い込んで
「今年はかなり採用が少ないみたいだけど……それでも凄い人数だよね」
と呟いた。
少ないと言っても121人いるのだ。
通年ならばその6倍近くの600から700人近くの人間を採用しているのだが、今年は全都道府県に採用する人数を警察庁長官である鬼竜院闘平が急遽抑えさせたので122名で落ち着いたのである。
もちろん、それはJNRつまり他組織の浸食が確認されたことと新人警察官として入ってくるという警視庁の前例からである。
「警視庁であったのに他がないという保証はない」
鬼竜院闘平はそう決断して各都道府県警察へ通達を出したのだ。
将たちは大阪府警の湾岸警察署から船を借り姫路港から太島へ向かい到着すると新人警察官を順々に下ろした。
船はその後、少し沖に出て停泊し船内で省吾と桐谷世羅が控えていた。
将と翼は全員が島に降り立つと彼らを見回した。
砂地の広い場所に100名以上の男女警察官が集っている。ある意味壮観である。
将は自身も彼らと同じ服を身につけ腰に下げていた銃を手にすると静かな笑みを浮かべた。
そして、彼らに
「恐らく船の中で装着してもらった時点で想像できている者も多いと思うが、この島でこれから5時間。君たちにはサバイバルゲームをしてもらう」
と唇を開いた。
全員が横の人間と顔を見合わせた。
船に乗った瞬間に用意されていた薄手のベストと銃を装着するように指示された全員が身に纏っている。
ベストの背中と胸元にはレーザー銃の照射を感知する小型の機械と的が付けられており、配布された銃は全く殺傷能力のないゲーム用のレーザー銃であった。
ただベストの方には赤と青のタグがありそれでチームを見分けることが出来るようになっていた。
将は彼らを見て
「撃たれた場合はペナルティとして10分間はレーザー銃で的を撃ってもカウントされないようにしている」
と告げた。
「またベストと銃は発射回数と受信回数をチェックするためのものなので手放したり脱いだりした時点で失格とみなす」
全員が頷いた。
将は笑むと軽く肩を動かして
「これは凶悪犯などを追いかけた時の銃撃戦の実地訓練なので真面目に取り組んでもらいたい。なので、照射受信0のもの、また照射と受信の差を取り一定順位以下の者。また、負けたチームに関しては警察官として実地訓練に真面目に取り組んでいないということで警察学校を退学してもらう可能性がある」
と告げた。
それには全員が目を見開いて息を呑み込んだ。
つまりは『クビ』ということだ。
大きく広がった騒めきを気にした様子もなく腕時計で時間を見ると
「青チームは左側の島へ赤チームは右側の島へ移動して作戦を立てるように……今から20分後の10時に開始するがそれまで互いの島への移動は禁止だ」
と告げた。
将の話を隣で聞きながら翼は心の中で
「こいつやっぱり怖っ」
と突っ込んでいた。
全員のベストには発信機が取り付けられており彼らの位置情報は常にこちらで掌握されている。照射受けようと受けまいと行動が正常か異常かを判断できるということだ。
それを隠した上で関係のない注意を平然とした顔でして粛々とゲームを進めているのだ。
翼は軽く息を吐き出し口々に話をする面々をスーっと見回すと
「私語は慎め!! ざわついた者はクビだ!」
と怒鳴った。
瞬間に静寂が広がった。
波の音だけとなり、陽光が静かに彼らの足元に動かぬ影を描いた。
その中で将は大きくはないが通る声で
「では、ゲームを開始する」
と宣言した。
「散会!」
すっと立ち上がり全員がそれぞれの島へと移動した。