プロローグ 5
一人の男が第74代警察庁長官の鬼竜院闘平に警察庁が入っている合同庁舎の17階にある執務室に呼び出されていた。
男は窓を背にして立っている鬼竜院闘平をズボンのポケットに手を入れたままぞんざいな態度で話を聞くと、肩を竦めて苦い笑みを浮かべた。
「一課で刑事やってた頃に上司だった杉浦さんから浜中警察庁長官が豪快な男に後を継がせたぞっと聞いていたんだが……あの人が言っていた事は本当みてぇだな。とんでもねぇこと考える」
それに鬼竜院闘平は静かだが重厚な笑みを浮かべ
「密告があり内偵をしたが二件は他殺の疑いがあったが自殺と事故で処理され、もう一件は犯人として捕まった警察官二人共が服役中に『心臓発作』で死んでいることが分かった。再調査をして二件は隠蔽と判明して再調査をしている。服役中の病死の件については看守が行方不明で行方を追って事情を聞かなければならない状態だ」
そしてその一件の隠蔽をした警部が残した遺書がそれだ。と一通の封書を置いた。
男は遺書を手に取り苦く笑うと
「なるほどこりゃ大変だなぁ」
と言い
「まあ『刑務所で心臓発作』も同じ穴のムジナだろうぜ」
んなもん、見え見えの口封じだろう、と肩を竦めた。
鬼竜院闘平は頷き
「その通りだ。つまり警告は事実とみて間違いない。その上で今の警察の自浄能力では追いつかないということが分かったのでな」
受けてもらえるようで助かった、と告げた。
「桐谷世羅警部」
桐谷世羅はふっと笑うと
「だが、一つ言っておくが、俺は俺のやり方でする。まあ、俺の過去も知っているんだろ? その上で十年以上も警察離れてりゃ警察組織のやり方なんて忘れるぜ」
あんたもそのつもりで杉浦さんを通してこの俺を呼んだんだろ? と告げた。
鬼竜院闘平は笑みを深め
「そういうことだな」
と答えた。
……闇は闇を知る……
そう告げて
「俺からのストップは一度だけにする」
終わる時だけにな、と答えた。
つまり、ダメだと思ったら即終了するということを告げたのである。桐谷世羅はにやりと笑うと「それは了解した」というと二人の間にある机の上に置かれた警察手帳と手錠を受け取り内ポケットへと入れた。
そして
「じゃあ、5月1日から3日に第二海堡……あの東京湾の島を使えるように手続きしておいてくれ。それからその期間中だけ多々倉を借りるぜ」
と告げた。
鬼竜院闘平は頷くと
「やはり、当時の相棒は相棒のままのようだな」
と笑み
「その件は了承した。多々倉と海自に連絡を入れておく」
と答えた。
桐谷世羅は背を向けると戸口に向かい
「警察内部に入った狼狩り……警狼ゲームを楽しみにしておいてくれ」
先ずはガキから狩るか、と立ち去った。
鬼竜院闘平は少し考えながら
「なるほど、警狼ゲームか……言い得て妙だな」
と呟いた。
背を向けた窓から陽光が射し込み鬼竜院闘平の前に黒い影を浮かべていた。
そして……警察村へ入り込もうとしている狼たちを標的に警狼ゲームが行われ二匹の狼が確保された。
その二回目が9月に行われることが決まったのだ。