プロローグ 3
鷹司陽という人物は階級こそ警視であるが20年前から離島など中央から目の届きにくい全国の田舎にある交番や駐在所を巡回するどこにいても怪しまれない唯一の警察官であった。
離島などで起きる麻薬ルート開発や犯罪組織の拠点建設の早期発見という成果を上げている。
鬼竜院闘平は警察庁が入っている合同庁舎の17階の執務室から窓の外を見つめ
「どんな組織であっても……それこそ政府であっても警察機構を自由にさせるわけにはいかない。そんなことをすれば人間としての国家が崩壊する」
罪なき人間を投獄し罪人を隠蔽することが可能になる、と呟き
「この密告が戯言であることを祈りたいが……」
だが事実だったときは、と拳を強く握りしめた。
一年前の6月に暁埠頭で警察官が銃で胸を撃ち抜く自殺があった。
7月には千葉県鹿嶋市平井海岸で近場の交番の警察官の遺体が流れ着き、自転車が近くの波止場の海底から見つかるという事故があった。
そして2年前の3月下旬に神奈川県横浜市山下公園内で交番員が射殺され、その人物の同僚である交番員も翌朝に横浜海浜交番内で銃撃を受け、同日に同じ区域内で選挙演説をしていた議員が狙撃を受けて死亡するという3件の事件が連続して起きた魔の1日と呼ばれる日があった。
しかし、議員を狙撃した犯人はその場で取り押さえられ、交番員の二人を襲撃した犯人も1年を経て逮捕されて終わった。
全てが警察内部では決着のついているコールドケースではない出来事だ。
だが敢えてそれを警告に使ってきたのだ。
その意味。
「それら全てが終わっていないということか? 何か裏の糸で繋がっているというのか?」
鬼竜院闘平は厳しい表情で呟き、握りしめた拳に力を込めた。
外では血のように赤い晩冬の夕闇が蠢動する黒い影を覆い隠すように夜へと誘っていた。
二カ月後に鬼竜院闘平は密偵を指示した鷹司陽警視から恐ろしい報告を受けることになったのである。