警狼ゲームのはじまり 11
天童翼は暫く俯き顔を上げると
「省吾を……守れますか?」
と告げた。
「わかってた。組織にいても何れは殺される。そんなことはわかっていた。一人で省吾を守りきるなんてこともできないとわかってた。だけど! 引き返す道がなかった!! 勉強もさせてもらえる就職もさせてもらえるって……凄く良いところだと誘われて入ったけど……違った。良かったのは最初だけだった……俊也が先に気が付いて出来ないことは出来ないと断ったら……事故に見せかけられて殺されて……逃げようがなかった……省吾を守りたかった!」
組織からの足抜けは死を意味する。そういうモノなのだ。
天童翼は桐谷世羅と多々倉聖を見つめた。
「……省吾を守ることが出来るのなら俺は……組織を裏切ります」
……俺が守りたいのは省吾だけだから……
多々倉聖が強い口調で
「君たちの命は守る」
と答えた。
桐谷世羅は少々
「あーあ、相変わらず即答しちまったよ、こいつ」
と言う感じの視線を向けたものの仕方ないという笑みで
「その代わり、こちらの要求も呑んでもらう。お前達が知っている組織の全てを話してもらう」
タダでなんて都合のいいことは出来ないのはわかっているな? と告げた。
天童翼も根津省吾も静かに頷いた。
そして天童翼は静かに笑むと
「最初の任務の前にこの状態になったのは……幸運だったかもしれない」
と呟いた。
将は安堵の息を吐き出しながら
「……天童と根津は何かの組織のメンバーだったってことか」
と心で呟き
「でもそれを洗い出すためだけにこんな大掛かりなことを? いま警察で何が起きているんだ?」
とチラリと桐谷世羅を見た。
桐谷世羅は将の視線を受けて笑むと三人を見て
「よし。天童、根津、東大路、お前たちを俺の部下にする。人狼ゲームで言うところのお前たちは狩人……いや騎士団になれ」
と告げた。
「ただ狩人も騎士団も守るだけだがお前たちは狼を逮捕する仕事も負うことになる」
天童翼と根津省吾は驚いたものの泣きながら頷くと「「はい!」」と答えた。
将は「ん? んん?」と考えて
「ってことは」
と呟いた。
桐谷世羅はビシッと指さし
「お前も警察に居残りだ」
と告げた。
「それにお前の好きなゲームを思いっきりMakeIngさせてやる。お前のゲーム脳に期待するぜ。俺が思いついたのは人狼くらいだったからなあ」
苦く笑って付け加えた。
将は蒼褪めると先の緊張感あふれる人狼ゲームを思い出しながら
「え……こんなゲームを?」
と顔を顰めた。
全員が人生を掛けている正に人生ゲームだ。いくらゲーマーでゲーム作りがしたかったと言えどリアルデスゲームではガクブルである。
天童翼は笑って
「東大路、お前は警察に向いてるし……お前ならすげぇゲーム作れると思うぜ」
と言い
「お前の中には人を守ることと正義を裏切れない強さがある」
と告げた。
将は困ったように笑いながら
「警察に向いてるとは思わないけど……精一杯頑張ってみるよ。お前たちが心配になったからな」
と答えた。
翌日、第二海堡を昼まで見て回り船に乗って久里浜港へと戻ると将を含めた三人以外は全員が真実を知らないまま警察学校へと戻り、将もまたいつもと同じ勉強と訓練の日々を開始することになった。
天童翼と根津省吾については二人が知っている組織の情報の聞き取りと警察学校で学ぶはずだった学科学習が個別で行われた。
ただ、組織でも下っ端だった二人が知っている情報はそれほど多くはなかった。
しかし、その組織が海外の犯罪組織と結びつき、警察庁長官を始め警察庁の上層部が危惧していた通りに組織の犯罪の隠蔽などをさせるために想像以上に人を送り込んでいたことが明らかになった。
全容解明までには至らなかったが、危惧すべき組織が警察に浸食していることの確たる証拠にはなった。同時に組織の中でも天童翼と根津省吾のいる区域……つまり警視庁の中にいた組織の人間の洗い出しと更迭が早急に行われたのである。
将は卒業したあと本来ならば交番勤務をするのだがそれを通り越して桐谷世羅が課長を務める警察庁刑事局組織犯罪対策部内部組織犯罪対策課という警察でも裏にある課へと配属が決まっており、階級もその時に特例で巡査から巡査部長へと上がることになっていた。
勿論、特別に試験が行われるのでそれに受かることが前提であった。
そのため猛勉強を泣く泣くすることになったのである。
それから3カ月後。
大阪府警内部に入り込んだ狼が一匹見つかり、残暑厳しい9月半ばに二度目の狼狩りが行われることになった。
将はその報告を聞くと狼狩りのゲームに
「サバイバル……正に生死のゲームを仕掛けよう」
と告げたのである。