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警狼ゲームのはじまり 10

 ざわめきが広がる中で桐谷世羅は両手を叩くと

「うるせぇ! 黙れ!」

 と告げた。


 静寂が広がり桐谷世羅は

「天童、根津、東大路……お前らはこっちにこい」

 と言い

「後は10番テントに弁当を置いている。取って食べろ」

 と告げた。

「多々倉、そっちを頼む。終わったら戻ってこい」


 多々倉聖は頷いて

「わかりました」

 と答え、動揺する面々を見ると

「直ぐに移動!! 急げ!!」

 と呼びかけた。


 将は桐谷世羅と天童翼と根津省吾の後についてテントに入った。


 桐谷世羅は三人を正面に座らせ

「天童と根津、お前らは東大路の占い師宣言の効果に驚いて瞬間に互いにモールス信号送っていただろ? 指先の動きを見ればわかる。いや、あの状況で人に分からないように送れるのはハンドサインかモールス信号くらいだからな」

 と告げた。

「それに天童は騎士なのに東大路を守らなかった。たかがゲームだ。だがお前たちにとってこれは人生のかかったゲームだった」


 根津省吾は俯いた。


 そして、桐谷世羅は更に

「天童と根津はもう気付いたな」

 と告げた。

「いや、天童は気付いているか」


 天童翼は目を細めて

「これは俺たちを炙り出すためのゲームだったんですね」

 と告げた。


 桐谷世羅は笑むと

「そうだ」

 と答えた。

「もっともこっちが分かっていたのは根津だけだった。今回は根津とよく似た境遇の人間を大谷だけ除いて選択した。養子、もしくは片親などの人間をな」


 ……大谷の親は警察官だ。大谷警部補に聴取を行い協力をしてもらった……


 それに根津省吾も天童翼も桐谷世羅を見た。桐谷世羅は息を吐き出すと

「天童、お前は採用試験の順位を覚えているか?」

 と聞いた。


 天童翼は頷くと

「確か1位だったと」

 と告げた。

 将は目を見開くと

「お」

 と呟いた。


 将は2位だったのだ。

 つまり、天童翼の次が自分だったのだ。


 桐谷世羅は笑むと

「根津、お前は試験落ちしていたんだ」

 と告げた。


 根津省吾は顔を歪めると俯いた。


 後から入ってきた多々倉聖が座りながら

「だが、警務部人事課の人間が君を合格に切り替えた。結果を知っていた人事課内の人間がある組織の介入の情報を得て我々が新人警察官を再調査した時に密告してきた。そして君に目を付けた」

 と告げた。

「ただ我々は情報として君ともう一人……二人いることが分かっていた。その一人を割り出すために今回のゲームに先ほど言った条件に当てはまる人間を選んで呼び寄せたということだ」


 ……今回ダメだった場合でも君を含めて見つかるまで行うつもりだった……


 将は固唾を飲み込んで周囲を見回した。話の意味が全く分からなかったのだ。


 桐谷世羅は黙ったまま戸惑う将を一瞥し

「根津、お前も東大路が次はお前を調べるといった時に自分たちの信号の遣り取りに気付いたかもしれない危惧はあったんだろう? だからこそ大谷から同じ狼だからと暗号を聞きだし同じであることを確認して村人も全員が同じだと判断して自分が暗号を当てたところで誰が漏らしたか分からないだろうと判断して天童が送った言葉を利用した。お前たちは絶対に助からなければならなかったからな」

 と告げた。

「恐らく大谷と言葉が違っていたら言わなかった、そうだろ?」


 省吾は小さく頷いた。

「はい」


 桐谷世羅は息を吐き出し

「万一の時の為に大谷には『狼同士は暗号が一緒だから教えても構わないが村人は違うからバレたらクビだぞ』と言っておいた。もっとも一番怪しんでいたのは東大路お前だったんだが……天童がお前を見捨てた時点で疑いは晴れたし、お前の言葉でこいつは違うと理解した」

 と苦く笑った。


 それは自分が告げた『警察辞めたい』だろうと将は理解した。これで三人仲良くじゃないが退学だから望みは叶ったのだ。そう考えて笑みを浮かべた。


 桐谷世羅は天童翼と根津省吾に

「警察に残るつもりならお前たちの背後を全て吐いてもらう。できなければクビだ」

 と告げた。


 ……もっともクビだけでは終わらないがな……

「それはわかっているな?」


 天童翼は視線を伏せると

「本当のゲームエンドだ」

 と呟いて

「東大路、お前本当に怖い奴だな。お前が占い師として切り込んで皆を説得した時点でヤバいと思った。だから直ぐに省吾に暗号を送った。省吾がやられる可能性があったからな。その上でお前が次は省吾を調べると言って……覆そうと試みたけどダメだったな」

 と苦く笑みを浮かべた。

「精々できたことは省吾の順番を少しでも後にするためにお前を見捨てることだけだった。俺、騎士だったんだけど……すまなかった」


 将は目を見開くと

「天童が、騎士だったんだ」

 と言い

「たださ、俺が二人のモールス信号に気付いたのは偶然だからな。最も根津がcuttingを言わなかったら俺と桐谷教官の思い過ごしで終わったと思う」

 とビシッと告げた。

「あとお前が騎士とは本当に気付かなかったよ」


 根津省吾は俯いて泣きだし

「でも、もう終わりだよ。俺も翼も殺される」

 と言うと桐谷世羅と多々倉聖に頭を下げて

「お願いします!! 俺は良いんだ、だけど翼だけでも助けてください!!」

 と叫んだ。


 天童翼は慌てて

「省吾! お前!」

 と止めるように

「それ以上は喋るなって! 俺だけ助かってどーすんだよ!!」

 と告げた。


 根津省吾は首を振ると

「だって! いつも俺ばっかりがヘマやって俺が試験に落ちてなかったらこんなことにならなかったのに……翼は何時も俺のしりぬぐいで……でももう駄目だ。警察をクビになったら絶対に許されない。殺される……俊也だって……警察を辞めて……新しい仕事だって言ったけど死んだじゃん。事故じゃねぇよ……殺されたんだ。俺たち唯の駒なんだ! 殺されるしかない!」

 と叫んだ。


 天童翼はグッと口を噤むと視線を逸らせた。


 将は桐谷世羅を見ると

「俺は事情が全く分からないですけど、天童と根津が互いを守ろうとしているのは分かる。それに多分……そのこのままだと天童と根津が殺される可能性があるのも冗談じゃないって分かる。甘いと思うし人の心は分からないけど二人を見殺しにせず二人を守るのも警察の仕事だと思います」

 と告げた。

「犯罪を未然に防ぐ。被害者を守る」


 ……死んだ後で解決しても死者は生き返らない……

「事件を未遂に防ぐことこそ警察官の役目だと俺は……亡くなった父に教わりました」


 天童翼も根津省吾も将を見た。


 桐谷世羅は息を吐き出すと

「俺も且つてお前達の組織と似た組織にいた。お前たちの組織の背後はまだ見えないから全く同じとは言えないが、やり方は同じだった。警察や日本の国家、また世論を左右する報道機関の中枢に狼を忍び込ませて組織に不利益なものを消し去ってそれを隠蔽し、利益になることはやりやすく手配させる。そうやって権力や財力を手に大きくなっていこうとする組織にな」

 と言い

「だがな、利益は全て上の奴等だけのもので駒はしょせん駒だ。いらなくなれば利用されて殺される。上の奴らは己たちの理想の実現や己たちの利益のためだけに駒に最初だけ甘い言葉は吐いて引き寄せ利用するだけして用なしになったら始末して終わりだ。駒の名前すら知らねぇ。そういうもんだ」

 と告げた。

「天童、お前は頭も良い。わかっていたんだろ?」


 天童翼は強く桐谷世羅を見ると

「俺は、省吾とそいつらの上に立つつもりだった」

 と告げた。

 桐谷世羅は冷静に

「立てねぇよ。頭だけじゃ立てねぇんだ。どんなに頭が切れても駒は駒以上にはなれねぇんだ。それこそお前が根津を切り捨てて殺せるくらいにならねぇ限りはな」

 と答えた。

「今見ててもお前にはできない。そんなことができるヒトデナシにもなってほしくはないしな」


 ……お前は結局、根っこのところはマトモだってことだ……


 将は両手を握りしめてじっと見つめた。


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