警狼ゲームのはじまり 1
東京湾に浮かぶ孤島……第二海堡。
その一角に立ち、青い海の向こうにぼんやりと浮かぶように見える都心のビル群を目に東大路将は足元から立ち昇る冷気に汗を浮かべていた。
頭上から陽光が音もなく降り注ぎ、足元に深く濃い闇を作る。
他に人はいるが誰一人口を開くこともなく整列して立ち、静寂の中で波音だけが響いている。
何故、自分はここに呼ばれたのか?
そんな疑問が胸を過る。
メーデーと言われる5月1日。
大型連休GWの真っただ中で東京都心では人々が和気あいあいと旅行へ出かけていることだろう。
だが、東大路将は警察学校の特別林間合宿に呼ばれた8名の内の一人として他の7名と共に孤島の中央で並んで立っていた。
百名近くいる新人警察官の中からたった8名。
それの一人に選ばれたのだ。
何故かも何をさせられるのかも今は分からない。
ただ拒否することは警察を辞めることなので出来なかった。
将はチラリと左隣りを見た。
左隣には警察学校で隣席の良く話をする天童翼、そして右隣は大谷大地、根津省吾、花村満也、海野邦男、富山春陽、仙石真美也と並んでいる。
彼らは見知っているがそれほど話を交わしているわけではない。
更に周囲には自分たちを外部から更に切り離すように円形に10個のテントが等間隔で並び、行き交う船の姿はない。
将はそれらを視線だけで観察し、自分たちを選び、そして、呼び出した正面の教官二人を目にして止めた。
背の低い目付きが鋭い男と反対に長身の秀麗な顔つきの優男が立っている。
実はこの二人を将は警察学校でも警視庁の入庁式でも一度も見たことがない。
「まさか、偽の教官って事はないよな」
いやいや、警察学校で指示されたのだそれはない!
将はそっと心で呟きコクリと固唾を飲み込んだ。
今から何が始まるのか。何をさせられるのか。
考えた瞬間に背の低い目付きの鋭い男が将を含めた面々をスーと見回して笑みを浮かべた。
喉元で笑っているのだろう、男は少し軽い声で
「そう緊張しねぇでもやることは簡単だ」
苦笑を交えて告げ、その声とは裏腹の重い声で続けた。
……お前達には此処で2日間。リアル人狼ゲームをしてもらう……
「俺はストーリーテーラー役をする桐谷世羅だ」
そう名乗った。
この時、一陣の海風が将たちにねっとりと絡まりながら通り過ぎて行った。