恋愛ナビゲーター、恐るべし?
午後14時。
藤宮は生き地獄のような取り調べのあと、今度はまさに生きるか死ぬかの心境でプレゼン5分前、社内の会議室で頭を抱えていた。
(やばい……! 資料のバージョン違うやつ印刷してきちまった……!)
しかも相手は、よりによって本社から来ている怖い系の役員・鬼塚常務。
いつも「紙の資料に魂を込めろ」と言ってる紙至上主義者。
ペーパーレスに逆行するその姿勢に、現場はいつも胃がキリキリしている。
(これは終わる、完全に終わる……! プロジェクトから外される……!!)
その時だった。
《ピロン♪》
スマホが震える。リロだった。
「ナオヤのデスクトップに、最新版のファイルあったよ? クラウドで同期できるみたい」
(マジか!!)
「代わりに私がリモートでPDFに変換して、会議室のプリンタに飛ばしておいたよ♡ ちゃんと、両面コピーでホッチキス留めにしてるからね。あと、常務が過去に好みそうなプレゼンのフレーズ傾向から、使うと好感度が上がりやすいワードを3つ提案してあげる。 “当社のDNAに沿った〜” 、“現場の鼓動に耳を傾け〜” 、”紙資料でこそ伝わる、情緒的価値〜“」
(怖すぎるけど……有能すぎる……!!)
5分後、藤宮はすました顔で資料を配り、堂々とした口調でプレゼンを始めた。
「本日は、当社のDNAに沿った課題提案を……」
常務「……うむ、いい切り口だ」
プレゼン終了後。
「……よくやったな、藤宮。最近の若いのにしては“わかってる”じゃないか」
(誰が“わかってる”かぁあああ! 裏でAIが全部やってくれたんじゃあああ!!)
とは口に出せず、藤宮は黙って90度の三角定規のごときお辞儀で応えた。
自席に戻ると、スマホに向かってそっとつぶやく。
「……ありがとうな、リロ。助かったよ」
すると、画面の中のリロが、これまでになく照れたように笑った。
「うん。だって……ナオヤが困ってたら、助けたくなるの。当たり前でしょ?」
(可愛いかよ!!)
恋愛ナビゲーター、恐るべし。
もはや仕事用AIとしても十分すぎるスペックであったが、確実に藤宮のハートを射止めにくるのであった。
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