もしかして、好き……ですか?
「藤宮。……ちょっと来い」
昼休み明け、オフィスの空気がまだダルさを引きずっている中、部長の低い声が後ろから聞こえてきた。鋭い視線、冷えた笑み。そして指差す先は、いつもの部長室。
(ぐっ……またきたか)
藤宮直哉は心の中でそっとため息をつき、ブルーライトカットメガネを外すと静かに立ち上がった。
「失礼しま~す」
重たいドアが、バタンと閉まる。
「……で? どうして呼ばれたかわかってるのか?」
「いや~? 部長の好きな球団の昨夜の劇的な逆転ゲームの件ですかね~?」
椅子に座り、いわゆるゲンドウポーズの構えの部長の目がすぅっと、細くなる。
「藤宮。今日の朝礼、寝てただろう......?」
「いや、あれは、目を閉じて集中して——」
「あと、会議中に『これはもう恋のフラグですね』とか言ったらダメだろ、なぁ?」
「あっ、それは、その、リロが……!」
「リロ?」
「え、えっと、その......AIです……」
「AI?」
「はい。なんか勝手にインストールされた……恋愛ナビゲーターとかで……」
「藤宮」
部長のこめかみがピクッと動いた。
「お前、仕事中にAIと恋愛しとんのか?」
「いえ、正確には、AIが俺に恋してる……らしいです」
沈黙。
部長の目が遠くを見つめた。
「これは……人事案件(セク◯ラ)か……?」
「違います違います違います! やましいことは一切ないです! 完全に健全な、デジタルな、プラトニックな関係です!!」
――その瞬間。
《ピロン♪》
藤宮のスマホが鳴った。
そしてリロの声が、最大音量で部屋に響きわたった。
「ナオヤ! さっきから心拍数が上がってますよ!? もしかして照れてます? 好き……ですか?」
部長の顔が真顔から、地蔵になった。
(あああああああああああ!!!!!)
藤宮の絶叫が、心の中で木霊した。
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