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自殺転生

作者: 小雨川蛙

 

 ある日、僕は限界を迎えて学校の屋上から飛び降りた。

 虐められていたからだ。

 何が切欠かは分からない。

 だが、相手の程度が低いことは分かる。

 奴らの多くは何も考えていない馬鹿ばかりだ。

 きっと、勇気を持って立ち向かえばこの状況を抜け出せるかもしれないとも思った。

 けれど、もう僕は何かをする活力がないほどに疲れ切っていた。

 だから飛び降りたんだ。

 恐怖はなかった。

 疲れ切って何もできない苦しみから解放される事の方がずっと魅力的だったから。


 目覚めると僕はまるでゲームで見るような王座の前に居た。

 そして、これまたゲームでしか見ないような王様やお姫様や騎士や兵士が居て、彼らは口々に言った。

「素晴らしい! 遂に勇者様の召喚は成功したんだ!」

 歓喜に湧く人々を見て僕はそれとなく何が起きたか察した。

 どうやら異世界転生をしてしまったらしい。

 お姫様が僕の前へやってきて仰々しい剣を手渡して言った。

「どうか、この聖剣で魔王を倒してください!」

 冗談じゃない。

 僕は即座に否定した。

 自分には無理だと。

 するとお姫様を始めとした皆が言った。

「とんでもない! あなたは自ら命を絶てるほどの勇気があるんですよ!? あなた以上に勇気がある者……つまり、勇者なんているはずないんです!」

 ほんっとうに冗談じゃない。

 僕はあらゆるものから逃げたくて死んだんだ。

 学校でさえ辛いのに、魔王と戦うだって?

 勘弁してくれ!

 そう思った僕はお姫様から剣を受け取ると躊躇うことなく自分の心臓を貫いた。

 恐怖はなかった。

 こんな状況から解放される方がよっぽど魅力的だったから。


 そして、目覚めると僕はやっぱりこの場所に居た。

「一度ならず二度までも! まさにあなたは勇者だ!」

 お姫様がまた聖剣を持ってくる。

 僕はそれを奪い取り再び自分の心臓を貫いた。

 とてつもなく嫌な予感を抱きながら。


 そして、案の定。

「なんと三度までも!!」

 僕は自らお姫様から聖剣を奪って自殺した。


「四回!? なんという勇者だ!」

 自殺。


「五回!!! これは歴史に残るぞ!」

 自殺。


「六回!!!! もうこりゃ、すげえや!!」

 自殺。


 自殺!


 自殺!!


 自殺!!!


 やがて、僕は諦めた。

 死んだ目をしたままお姫様から聖剣を受け取る。

「遂に世界を背負って戦ってくださる覚悟が出来たのですね」

「うん……」

 死んだ目のまま頷いた僕を見てお姫様はふと顔色を変える。

「おや。勇者様……あなた、まだレベルが1ですね」

「そりゃ、ここに来たばっかりだし……いや、なんか、おかしいけど、まぁ来たばっかりでしょ……?」

「ええ。ですが、いくら勇者様と言えどレベル1は流石に危ないです。レベル上げをしてきてください」

「はいはい。で、どこにいけばいいの?」

 投げやりに問う僕にお姫様は笑って言った。

「今から転送魔法を使います。しっかりレベルをあげてきてくださいね」

 すると僕の身体が青白い光で包まれる。

 あぁ、本当にここはファンタジーの世界なんだ。

 そんなことをぼんやり考えていると、王様や兵士や騎士が穏やかな顔で僕を見送っている。

 そして、その中でお姫様は誰よりも優しい笑みを向けて言った。

「胸を張ってください。勇者様。あなたは強いのですから」


 そして。

 僕は気づくと学校の屋上に居た。

 聖剣はない。

 つーか、死ぬ前と全く何も変わっていない。

「なんだよこれ」

 呟いて、僕はため息をついた。

 夢か?

 くだらない夢でも見ていたのか?

 そんなことを思い、屋上から地面を覗く。

 仮に夢だったとしたならば、ここから飛び降りれば今度こそ死ねるはずだ。

 だけど、もし夢じゃなかったら?

 あの無限に続く光景を思い出して僕は舌打ちをする。

 世界を背負って戦うよりは、こっちで生きる方がよっぽど楽そうだ。

 色々と。

「んだよ、マジで」

 自分でもびっくりするほど力強い悪態をつきながら僕は歩き出す。

『胸を張ってください。勇者様。あなたは強いのですから』

 お姫様が言っていた言葉がふと蘇った。

「強かったら自殺なんてしねえよ、馬鹿」

 そう呟いた口の端に笑みが浮かんでいたことに僕は自分でも気づかなかった。


 その後、僕…もとい勇者はレベルを上げのために虐めをしてきた雑魚敵をあっさりと倒したことは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
 面白かったです。  何度も自殺し、褒め称えられて「自殺なんて逃げてるだけ」と気付いた彼がいいですね。  強かったら自殺なんてしねえよ、馬鹿  このセリフが男前です。成長しましたよね。  あり…
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