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ちょっと歪なデート回①

 自宅から5分ほど歩いたところにある、大通りの外れ。

 そこに、遠山さんの家はある。


 家の近所といっても差し支えなく、小学生の頃よく遊びに行った場所でもあるのだが、今となってはその馴染み深さはどこかへ消え去り、見ず知らずの他人の家のように見える。

 当時はただ家が近い同級生というだけでお互いに親近感を抱くこともよくあったのだが、それは子供心が生み出した、ただの幻想に過ぎなかったことを思い知らされる。


 実際、俺の家も彼女の家も、引っ越しなどで場所が移動したことはない。つまり基本的な生活フィールドは、ずっと彼女と同じだったのだ。

 それなのに俺たちは、小学校を卒業してからイブの夜に再会するまで、一度も顔を合わせたことがなかった。


 物理的な家同士の距離なんて、たかが知れていた。「会わない」という選択さえしていれば、いくらでも会わないようにすることは可能だったのだ。


 ......このような現実に少しずつ気づいていく過程が、「大人になる」ということなのだろうか?



 そんなことを考えながら、俺は黒を基調とした一軒家からスマホの時計へと視線を移した。

 神戸港の青々とした海の壁紙の上に、「12:55」の文字が浮かんでいる。



 ──遠山さんから「直接会って話したい」という旨のメッセージを受け取った後、特に冬休みの予定がなかった俺は、彼女の誘いに乗ることにした。


 これといいメッセージの件といい「どういう風の吹き回しだ?」とツッコみたくなる気持ちもあったが、イブの夜の彼女の姿を思い出すと、理由もなしに断る気にはなれなかった。


 数年ぶりに会った遠山さんの表情には、何か切実な感情が見え隠れしているようで。

 今回の件に関しても、彼女は何らかの理由で自分を必要としている......そんな気がしてならないのだ。



 予定としては、繁華街である三宮の書店に行った後、カフェかどこかで購入した本を読みつつ話をしたい、とのことだった。そのため多くの人でごった返す正月休みの期間は避け、本日1月4日に会うことが決まったのだ。

 世間一般におけるデートとは少し違う気もするが、「男女2人で出かける」という広い意味で捉えれば、デートに当てはまるのだろう。



 自分の着ている服に目を向け、はぁ、と小さくため息をこぼす。


 .「.....デートなら、服装には最大限気を遣うべきだったんだけどなぁ」


 あいにく、急なデートの予定に合わせて服を買えるほど、俺はお金に余裕を持たせていなかった。

 最後の頼みの綱だったお年玉も、「今後予備校に通うことになった際に使う」とかいう理由で、母さんに回収されてしまっている。


 ゆえに現在の俺は、数年前に買った安物の服を組み合わせて着ただけの、非常に簡素な姿だ。

 はっきり言ってデートの雰囲気のカケラもない。


 多少無理してでも、おしゃれな服を買うべきだったかな......という後悔の念がじんわりと心に染み始めた頃、正面に見える家のドアがガチャリと開いた。

 そこから出てきた少女は俺の姿に気づくと、パタパタと小走りでこちらへとやって来る。


「ごめんっ!待たせてもうた?」

 深緑のロングスカートがふわりと揺れる。

 この前会った時とは違うオフホワイトのアウター(ファッションに詳しくないので正式名称が分からない)に身を包んだ遠山さんは、やはり俺が「さくら」と呼んでいた少女とは大きくかけ離れて見えた。


 全体的に落ち着いたコーデのなのにどこか華やかさを感じさせるその姿は、高校生というよりはオトナな女子大生のよう。


「いや、大丈夫。今来たところだから」

「ほんま?なら良かったぁ」

 ......彼女が放つオーラ(?)のような何かに気圧されたせいで、すごくベタな台詞が飛び出てしまった。



 俺の視線が自分の服に向いていることに気付いたらしい遠山さんは、不安げな様子で、さっき俺がしていたように自分の衣服をじっと見ている。


「ん......?この服、変?」

「ううん、全然。......同い年には見えないくらい大人びていて、ちょっと驚いてただけ。もちろんいい意味で」

 ……断じてオバサンくさいと言いたいわけではない。


「ふふっ、ありがと。......どう?似合ってる?」

「は、はい」


 尋ねる際にちょっとだけ上目遣いになっているのは、果たして天然なのか狙ったものなのか。

 どっちにせよ、俺の返答が不自然になるくらいのインパクトがあった。


「......紺野くんは、こういうの慣れてる感じ?」

「? こういうのって?」

「ほら、こういう、男女間の交流......みたいな」

「......んなわけないでしょ」

 俺は別に経験豊富なチャラ男とかではないぞ。

 

「そう?紺野くんなら彼女の一人や二人、簡単にできそうやけど」

「いやいや二人はダメでしょ」

「そういう意味やないて。それに、紺野くんならそんなことせえへんやろ?」

「まあ、そりゃそうだけど......。」


 ……どこまでが本気でどこからが冗談なのかが全然分からない。

 

 困惑している俺をよそに、今度は俺の目の上辺りををまじまじと見つめてきた。


「うーん、でも前髪が長すぎるのはちょっとだけ惜しいなぁ......。これやと暗い人に見えちゃう」

「......あぁ」


 「知らんがな」と言いたいところだが、これに関してはぐうの音も出ない。

 ......ずいぶん前からヘアワックスを切らしていることを、当日まで完全に忘れていたのだ。


 元々、自身の見た目に無頓着だったのもある。

 しかし同時に、この前髪で少し隠れた世界を心地よく感じていたのも、理由の一つだった。

 「最低限のものしか視界に入らない」と考えると、随分と気が楽になるから。


 ......まぁ、このことを紫音に話した時は「なんやそれ」と一蹴されたので、もう人には話さないと心に決めているのだが。


「それを言うなら遠山さんだって......この前会った時に話の途中で突然逃げちゃったし......。」

「うっ......それはっ、急に、紺野くんの友達が出てくるから、ちょっとびっくりしちゃっただけで」


 言われっぱなしを許したくない俺のなけなしのプライドが反撃の言葉を紡ぎ出すと、遠山さんは分かりやすく顔を赤くした。おそらくあの夜の挙動不審さを思い出しているのだろう。


 口をパクパクさせながら何かを言おうとしては止めてを何度か繰り返した後、もぅ、と彼女は小さく不満の声を漏らす。

 予想以上に素直な反応だったのがなんだかおかしくて、彼女には申し訳ないが思わず笑みがこぼれてしまった。


「ごめんごめん、ちょっと意地悪な返し方だったね。......あの後、大丈夫だった?」

「ん?あの後って?」

「あぁいや、俺たちのせいで友達とはぐれてしまったのなら申し訳ないなと思って」


 小学生の頃は女子グループのリーダー格だった彼女だ。あの日、一人でイルミネーションへ訪れていたとは考えにくい。

 自分たちが原因で遠山さんだけでなく、彼女の友人にも迷惑がかかってしまったのではないかと、ずっと気がかりだったのだ。


「あー...........うん、大丈夫。あの後すぐに電話して合流したから」


 答える直前、一瞬彼女の目が泳いだような気がした。


「そっか。......あのさ、そろそろ出発しない?話なら歩きながらでもできるし」

「せやね。寒い中立ち話するのもなんだし、行こっか」


 こうして俺たちは、目的地へと足を向けて歩き出す。


 ──さっきの彼女の反応は明らかに違和感を感じさせるものだったが、俺はそれ以上踏み込むことは避けた。


 以前メッセージで会話した時は、思わず通っている高校を聞いてしまったけれど。

 今の俺たちは本来、迂闊にプライベートな領域に足を入れられるほど、親密な関係ではないのだ。

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