小説とデジタルな交流①
遠山さんとの思いがけない再会から4日後の、12月28日。
世間は年末特有の、慌ただしい空気に包まれていた。
数日前まで街を彩っていたクリスマスの装飾は、純和風な正月飾りにとって代わられ。
大きな買い物袋を手に下げた主婦、余裕のない表情で電話をするサラリーマンなど、数多くの人物が足早に大通りを行き来する。
そんな、活気と焦燥がないまぜになった街をぼんやりと眺めながら、俺はドリンクカップのリッドに口をつけた。
(う~ん、やっぱりここのハニーミルクラテは美味しいなぁ……)
真冬の突き刺すような寒さで冷えた身体に、ラテの温かさが染み渡る。
現在俺は、駅前のカフェでゆったりと読書を楽しんでいた。
ちなみにこれは、ぼっちをこじらせて一人の過ごし方を模索し続けた末に辿り着いた、最も快適な休日の過ごし方だったりする。
──あの日から結局、遠山さんと関わることはなかった。
彼女がSNSで写真をアップすることはなかったし、ましてや彼女とDMで会話する……なんてイベントもなく、相互フォローしているだけ。
それ以上でもそれ以下でもない関係だ。
「SNSを交換したのだから交流するべき」なんてルールがないことは、勿論分かっているのだけれど。
彼女が思い切ってSNS交換を提案した意図についてずっと考えていた俺としては、実際に全く連絡がないとなる何だか拍子抜けした気分だし、少しだけ寂しい。
(……特に深い意味はなかったのかな)
甘ったるいハニーミルクラテを口に流し込みながら、ぼんやりと考える。
もしかしたら、あの日話しかけてきたこと自体、彼女のきまぐれだったのかもしれない。もしそうだとしたら、今の俺はラブコメ脳のイタイ奴だ。
(……そもそも俺、何を期待してるんだか)
自分は彼女に何を求めているのか。それすら分からない。
少し前まで、女子やら恋愛やらには全く興味が湧かなかったのに。
彼女と再会してからの俺は、何かがおかしかった。
心の奥底で根を張っている、正体不明の感覚から目を逸らしながら、トン、とカップをテーブルに置く。
気を取り直して俺は、中断していた読書を再開することにした。
◇
「……ふぅ」
読みかけだった本は、30分ほどで読み終わった。
本を閉じ、そのままゆっくりと読後感に浸る。
(面白かった……)
人里離れた神社で運命的な出会いを果たした男女3人の、不思議な交流を描いた群像劇。
笑いあり涙あり、どんでん返しありのジェットコースターみたいな作品で、気づけば一気に読み切ってしまっていた。
ラストの怒涛の展開で生まれた高揚感や、決してハッピーエンドとは言えない終わり方に対するやるせなさ・悲しさ。そして、もう登場人物たちの人生を覗くことができないという寂しさ。
ベクトルの違うたくさんの感情が、胸の中を縦横無尽に行き交っている。
……この感覚、誰かに伝えたいな。
そんな衝動に背中を押されスマホを取り出した俺は、ブックカバーを外して、本の表紙をパシャリ。
そのままノータイムでインスタを開き、ストーリーに本の写真とその感想をアップした。
……この一連の行為は、俺の悪癖。
あるいは良く言うのであれば、ルーティーンのようなものだ。
心動かされる物語に触れると、俺はいつもこうやって、本の写真をSNSにアップしてしまう。
感想や読んだ後の感情を誰かと共有したい、という衝動に駆られるのだ
いつもはぼっちをこじらせている俺だが、人との交流を望む気持ちまでは死んでいないらしい。
(……まぁ誰も反応しないし、ただの自己満足なんだけどな)
思わず苦笑いしながら、空になったカップを持って席を立つ。
さっきまで空が曇っていたので気付かなかったが、時刻は夕方4時を過ぎており、早くも空が赤らみ始めていた。
(本の感想を語るなんて、夢のまた夢だろうなぁ……)
──店を出るまでは、そう、思っていたのだが。
「……。」
件のストーリーに、返信が届いた。
しかも送信元は、最近気になっている例の少女。
SAKURA
『それ私も読んだ!感想めっちゃ分かる!』・5分前
「遠山さんから、DMが来てる……。」