エピローグ 北の王編
今、ジョルンは一人の青年が王冠をかぶる所を見ている。一人の神官の前に膝をつき、その時を厳かに舞っている。
そこは謁見の間ではない、トーラン近くの森の中である。
北部の慣習は自分にはよく分からない
ただ分かるのは、この王に仕えてよかったという事実のみだ。
すでに神聖帝国はなくなっている。多くの貴族が北の王に忠誠を誓っている。国王でさえもだ。
ただ……法王と一部の神官、そしてエリシア姫は捕虜になる事を潔しとせずに自害している。国に殉じる……それもまた王族としての務めといえる
北の王は高らかに宣言していた
国教は決めない・・自らの好きな信仰を許す・・アートス神でさえもだ。
ただし、それが国に害を及ぼした場合、徹底的に取り締まるというものだ。帝都はアートス神の総本山だ。一部の狂信者の反発などはあるらしいが、今は沈静化している。
神聖帝国の東部は魔族領になり、魔王が支配することとなった。
どうしても耐えられないものは、北へと逃げてきているらしいが。
恭順する意思を示すものもでてきているらしい
やはり王が元勇者であるという評判や、以前の魔国侵攻の時に食糧を現魔王から直接分けられたという村などは積極的に受け入れているという。
そしてこの前、自分の所にソロスが訪ねてきてこう言った。
「魔王は不思議な魅力のある男だよ……そして強敵になるやもしれん。ジョルン将軍…私はこの国だけで満足する気はない。東部を譲ったのもそこに理由がある。いづれ戻ってくるからだ、はるかなる利息をつけてな。私の目指すものは一国の主ではない。さすがに大陸の王となれば、認めてくれるだろうからな」
ジョルンには最後の意味がよく分からなかった。だが、やはりただ者ではなかった。
存分に働いて見せようではないか……みな、すまない。もう少し……会えるのは遅くなるやもしれん。
私はもう少し見てみたくなった。一人の青年の野望を。それに自分がどれだけ携わっていけるのかを。
王冠をかぶった青年が振り返り、自分を含めた臣下達を見る
「我こそ……北の王だ!!」
控えている者がみな膝をつき頭を下げている
「我に………永遠の忠誠を誓うか?」
「「「はい!!!いつ、いかなる時も、あなた様につき従います」」」
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北部の首都トーランで、国民への謁見式が催されている。
レイスを警戒し、警護は厳重である。帝都を攻め滅ぼしたが、レイス達はいなかった。名前すら表に出ていない組織だ。見つけ出すのすら難しい。
だが、北の王はレイスを決して許す気はないらしい。すでに殲滅を明言している。
ソロスが頭に王冠をのせ、ゆっくりとバルコニーの先へと歩いていく。
「我こそが………北の王!!」
「おお!!」と集まった国民が歓声をあげる
「我らは北の民…………どんな辛い寒さも耐えしのぶ誇り高き民。
我らは知っている……どんなつらい吹雪も……冬も、必ず終わりが来ることを!!
かつてこの極寒の大地に誇り高く建国されていた一つの国がある!!
今この時をもって、その国の復活を宣言する!!
胸に刻むがいい!!この国の名は…スタットック王国………スタットック王国だ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」
「「「スタットック王国……万歳!!!北の王……万歳!!!」」」
何万という民の歓声が聞こえる
ソロス・スタットックは堂々とした態度で立っている
ジョルンはその後ろ姿を見つめていた。
王冠をかぶり…何万という民の声援に包まれながら、誇り高く立つ一人の青年
それはまさに………誇り高き一人の‘王’の姿だった