出撃 北の王編
今、北部の首都トーランの城壁に二人の人物がいる。北の王・ソロス・スタットックと将軍・ジョルン・ツインズである。
「よく時間を稼いでくれたな・・・ジョルン」
「ありがとうございます。ですが、城を落とされてしまいました」
「構わない。あんなちっぽけな城、これから我らが奪うものに比べようもない。くれてやれ」
ジョルンは城壁の外に整列している軍勢を見る
「・・・・・圧巻ですね」
「ああ・・・若くして北部総督についた時から、ずっとこの時を待っていた。取り戻す時をな…」
「神聖帝国の精鋭との闘いは、厳しいものとなるでしょう」
「だが・・・やるしかないぞ」
「はい。期待には応えてみせます。魔国を動かされた陛下のなされたこと、決して無駄にはいたしません」
「ああ」
そしてゆっくりと城壁の端へと歩いていくソロス。そして宣言する。
「我らは北の民。父祖の大地を取り戻す日がついに来た…進撃する!!!!」
「「「「おおおおおおおお!!!」」」
兵士たちの雄たけびが、トーラン中に響き渡った
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北部軍は南下を始め、北部と中央の境あたりに駐屯していた中央軍とぶつかった
今、神聖帝国軍と北部軍は一進一退の攻防が続いていた
「右翼は少し後退しろ!!・・・左翼に伝令!!何をしている!!おせーーー!!」
ジョルンの怒号が響きわたる
中央の精鋭の一部は東へと向かうことになった・・・・まさか魔国があの状態から侵攻してくるとは思わなかった。
さすがは、ソロス・スタットックだ。
国とは意外と脆いものだ・・一人の英傑によって強く結び付いた国ほど、その主柱を失うとあっという間に壊れてしまう。
だが・・魔国はすでに新しい魔王の元でまとまり始めているという。
その者も英傑であるのだろう
「く・・・敵にまわすと、これほどまでに厄介だとは!!」
数の上では北部の軍勢が優っている。だが、さすがは神聖帝国の精鋭達だ。あの動きはさすがだ。少しずつ圧されてきている
ジョルンはどうすればいいか、ずっと考え続けていた。
(どうする…このままでは後退せざるを得なくなるやもしれん。だが…この状況を打破する策など)
その時…脳裏にある言葉がよみがえってきた
{…ジョルンは頭で戦を考え過ぎる………荒ぶる魂でよ!!}
「・・・・・・・ハハハハ」
(何と懐かしい・・・今この時になって思いだすとは。答えを出そうか…ミリア)
「皆のもの!!騎乗しろ!!…私の剣を持て!!」
ジョルンが言うと、従者が長剣を差し出してくる。それを受け取りジョルンは自分の愛馬に跨る
長剣を横に構え、ジョルンは進み始めた
神聖帝国の頃から自分を支えてくれた兵士1千と、北部軍勢から選び抜いた者たち1千が一つの獣のように動き始める
戦だぞ・・・ジョルンは愛馬の腹を挟んだ脚でそう伝えた。愛馬は荒い息を吐いている。
敵陣営がこちらを見つめていた。
愛馬がいくらか脚を速めた・・・・・・2千の騎馬隊が後方に続いてくる。
何度か突っ込む様を見せていた。だが、今までは敵の槍部隊の前で引き返してばかりを繰り返していた。
稚拙だったかもしれない。だが、すでに動き出している。決断したら迷わない事だ。
神聖帝国の左右の陣は、やや突出している。もし突っ込めばその左右は囲んでくるだろう。
つまり、巨大な袋の中に自分たちは突っ込んでいく格好となる
神聖帝国の将軍はこちらの事を笑っているかもしれない。自ら包囲される。そうとしか見えないはずだ。包囲の輪を縮めれば、自滅するしかないのだから。
ジョルンはさらに駆けだした。一騎で突っ込んでくる・・前衛の兵にはそのように見えるだろう。だが真後ろには2千の兵が続いてくる。一列の縦隊である。それが魔法でも矢でも防ぐのにも一番いい。
ヒュンヒュンヒュンヒュン・・・・・・自分の横を矢や魔法が飛んでいく。
(ゴ―ン・・セバス・・・ピップ・・・ミリア・・・見ててくれ!!)
「ハァァァァァァァァァァ!!!」
ジョルンはそのまま、敵の中に踊り込んでいった。首が2つ3つと飛んだ。それに続くように2千の兵士達も突撃した。
悲鳴が上がる。ジョルンは進み続ける。遮ろうとする者はいなかった。中段まで食い込んだ時、2千騎は瞬時に広がる。
「円陣だ!!円陣を組め!!」
ジョルンが馬上から指示を出す。
そこに、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!と神聖帝国軍の兵士が突っ込んでくる。ここが正念場だ
「持ちこたえろ!!本隊が来るまで守りきれ!!行けーーー!!」
ジョルンは馬を下り、他の兵士と陣形を組み迫りくる敵兵を今か今かと待つ。
ギン!!とジョルンの剣と敵の兵士の剣がぶつかる。ぐいぐいと押してくる。若い兵士だ・・力では勝てないだろう・・・だが
「ぐ~~~・・・は!!」
ジョルンはそれを押し切ると、低くしゃがみ込み足払いをかける。
「わ!!」
とその兵士は意表をつかれ、バランスを崩す。その一瞬を見逃さず、首筋を一線する。
プシュ――!!真っ赤な血が噴き出し、その兵士は倒れる
その血がジョルンの上から降り注ぐ
「はぁ・・はぁ・・・」
(情けない!!・・たかだかこれっぽっち動いただけで、もう息が切れるなんて)
だが、自分は確実に高揚し始めている・・血に・・・酔ったのだ。
「はぁ・・・私は!!ジョルン・ツインズ!!神聖帝国の精鋭よ!!こんな老人一人殺す勇気もないのか!!」
その大声に何人かが気付き、雄たけびを上げて突っ込んでくる
ギン!!それを華麗に受け流し、剣を持っていない方の手で殴りつける。そしてよろけた所で、鎧の関節部分に剣を突き刺す
「ぐわ!!」と倒れる兵士
いくら固い鎧を身に纏おうとも、薄く作らざるをえない所は存在する。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
ジョルンは少し弾んだ息を整えようとした。だが・・・
「せい!!」
と槍を持った兵士がジョルンを突いてくる
「が!!」
ジョルンの右肩に敵の槍が突き刺さる・・・・だが・・そのまま敵を睨みつけるとグイっと自分の肩にその槍を押しこむ。
「ぐ~~~~~!!は!!」
そのまま槍を握り続けている敵を一刀両断する。
「・・・はぁ・・・見たか!!」
ジョルンはゆっくりとその槍を引き抜く
そこにまた二人の新手が現れる。
だが先ほどの攻撃で………腕が持ち上がらない
ここで・・・・・・・死ぬ
そう思った。
・・・・・・だが・・・・・・
ギン!!ギン!!っと鋼がぶつかりあう音が響く
自分の両側から兵士が二人現れ、その新手を斬り伏せる
「ジョルン将軍!!ご無事ですか!!」
その時ジョルンはかろうじて見た・・・北部の本隊が自分達がうちこんだ楔から、続々と突っ込んできている
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
(・・私は・・私は けたのか・・あの者たちのように)
「ジョルン将軍!!しっかりして下さい!!ジョルン将・・・ジョ・・・軍」
そのままジョルンの意識は闇へと落ちて行った
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「討て!!一人でも多く討て!!この原野を赤く染めろ!!」
ソロスが檄を飛ばしている
ジョルンが敵陣営に突っ込んだ時は驚いた・・すぐに離脱すると思ったのだ・・だが一向に出てこなかった
果たして・・・ジョルンは生きているだろうか。あれほどの激戦だ。
ソロスは本陣から、快走する中央軍を見つめている。
「騎馬隊を総動員して、追撃させろ!!決して一つに纏まらせるな!!本隊はこのまま帝都へと進軍する!!」
後はゆっくりと進撃することだ・・・・もう彼らに逃げ道はないのだから