心配 北の王編
現在・・・・・森の中で自分は魔王と相対して話し合いを行っている。精霊たちはしっかりと見ていてくれるだろう
「同盟という事でしたが・・・それは共に神聖帝国と戦うという事ですか?」
「はい・・・その通りです」
「しかし、帝都には多くのアートス神の信者がいるのではないですか?・・・信仰心とはそう簡単に変えられるものではないはずです」
「ご安心下さい・・・それはこちらである準備をしてあります。アートス神を敵にまわさない準備を。別に私はアートス神の信仰自体を否定する気はありません。ですが・・・宗教が権力と結びつく事を私は許しません。信仰とはその者の心の中にあるだけで良いのです。魔族の王であるあなたにとっては、アートス神の教えは否定したいかもしれませんが・・・」
「・・・・・いえ・・・アートス神や神聖帝国については少し・・・・詳しく調べましたから。・・それが魔族の害悪にならないのなら、それは人それぞれの考え方の問題です。押し付ける事はできないでしょう」
「なるほど」
「・・・・魔国は、先代の魔王陛下の侵攻の傷もいえていません。ですから、そこまでの兵力は出す事はできません」
「分かっています。神聖帝国を滅ぼすのはあくまで、我ら北です。魔国には精鋭の一部を引き受けていただければよいのです。それだけで、可能性はかなり上がります」
「・・・・・・・そうですか」
と少し考え込む
「そして・・神聖帝国を滅ぼしたあかつきには、現在の神聖帝国の東部を魔国領として治めていただこうと思います。もともと東は魔族たちが多く暮らしていた地域でもあります」
「・・・・・・・・・・」
沈黙する魔王・・・・・・・ソロスはそれを不服があるというように判断した
「確かに平等な条件ではないかもしれません・・・ですが・・・あくまで神聖帝国を滅ぼすのは我々です。西部・中央・南部は治めさせていただきます」
「・・・条件があります」
「はい・・・可能な限り叶えたいと思います・・どのような条件でしょうか?」
(ただで同盟が成り立つなどとは私も考えていませんよ・・・さて・・こちらの領土での最大の譲歩は人口の少ない南部の一部までですね。それをどれだけ抑えられるか・・・)
そして魔王は話しかけてくる
「現在の東部には、多くの人間族が暮らしています。その人間たちの中には、魔族に恐怖を抱いている者も多くいます。どうしても魔国の支配を受け入れられない人は、北で受け入れて欲しいのです」
(・・・・・・・・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・それが条件」
「はい・・これだけは絶対に譲れません。それさえ受け入れてくれるなら、魔国として軍を出しましょう」
自分はじっと魔王を見つめた・・・この元勇者は・・・いったい何を目指しているのだろうか・・
「・・・・あなたは・・不思議な方だ・・」
「そうでしょうか?」
「はい・・・なるほど・・・・・・何となく分かったような気がします」
(気をつけなければ・・・私も魅入られてしまうかもしれませんね)
「????」
とそれを聞いた魔王が不思議そうな顔をする
コツコツコツっと膝を人差し指で叩く・・・これは自分の癖なのだ。それがばれた所で問題はない
「その条件を呑みましょう。同盟のためらな安いものです。・・・・・・ところで・・あなたは本当に異世界から召喚された勇者なのですか?」
「はい・・・」
「信じられない・・・そんな世界があるなんて・・・アートス神の信者の戯言だと思っていました。帰りたいとは思わないのですか?」
「そうですね・・この世界に召喚された時に、戻る術はないという事は言われました」
「・・・・この世界に住む者として、謝りましょう。無理やり我らの問題に巻き込んでしまった。神聖帝国を滅ぼした場合、戻るために最善を尽くします事もできますが・・・どうですか?」
(正直な話・・・強大な力を持つという異世界人の方は危険な存在だ。極端な話・・たった一人のために国が滅びる事もあるかもしれない・・・)
「いえ・・・カエデ・・・・・つまり光の勇者ですが・・はどう考えてるのか分かりません。ですが自分は帰る訳には参りません。自分にはこの魔国を導く責任があるので」
「・・・・・そうですか・・・分かりました。では・・同盟の方は成立という事で」
「はい・・よろしくお願いします」
自分と魔王はぎゅっと手を取り合った
「さて・・・これで同盟の話は終わりましたが。・もし・・よろしければ・・異世界の話を聞かせてはもらえませんか・・非常に興味があるのです」
「いいですよ・・まぁ・・自分の答えられる範囲でなら」
「では・・まず文化や政治制度について・・・略・・・・」
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「いや~~大変興味深い・・特に自らの王を投票で選ぶという制度は素晴らしいものだと思います。上に立つものは、常に監視されている状態になる訳ですから。ただ・・・・・民衆とは時に愚かなものです。本質を見ようとしない・・・それで最善の選択がなされない事もあると思いますが」
(そして何より・・・魔獣を使役する事ができる訳ではないという事を聞けたのは幸いでした。これで不安要素が一つ減りましたね)
・・・二人は雑談をしながら、元来た道を戻っていく・・・・・・
その時、ソロスは聞かねばならないことが一つ残っている事を思い出した
「あ~~~~・・・・・・そういえば・・・魔王は・・傭兵の赤き狼と親しいと聞いたのですが・・・」
「・・・赤き狼ですか?・・はい・・よき友であると思っていますよ」
魔王は意外そうな表情をしている。それはそうだろう。一介の傭兵の名が、突然出てきたのだから。
「・・・赤き狼には、自分が異世界に来てから色々と世話になりました。命の恩人といってもいいと思います。大変感謝してますよ・・・・恐らくですが・・・・・・・今もアゴラスにいると思います」
(・・・そうですか・・まったく・・・便りの一つも寄こさないで・・どれだけ心配しているか分かってもらえないようですね。魔王にも、できるだけ危険な事に巻き込まないようにしてもらわなければ)
だから・・・一応知っておいてもらおうと思っていた。どうせ、内緒にしてるだろうから。
「そうですか・・・お元気なのですね・・・・・・・・・・・・