終わっていない 神王編
「おい………リフィン!!お前召集かけられてるぞ」
「あ?召集?」
神聖帝国西部で発生して宗教反乱を静めたばかりだった。今はドンチャン騒ぎをしている。騒いでいないとやっていられないのだ。
神王との闘いは今までとはまったく違っていたのだ。魔法が使えない事には、まぁ驚いた。かなり苦戦したともいえる
あの時ジョルン将軍が敵の大将を倒してくれたおかげで、犠牲をかなりおさえる事ができたのだ
だが、そんな事より兵士でない老人や子供と闘う方がもっとつらかった。槍もまともに使えないような子供達が特攻をかけてくるのだ。
殺すしかなかった…………自分だって兵士だ。多くの戦場で、兵士たちを斬っている。今さら偽善者ぶるつもりもないが、帝都にいる自分の子供とどうしても重ねてしまう。
みな声には出さないが、この戦いが終わってほっとしているのだ。
「ち……何だってんだ」
よっこしょと立ち上がり、酔いを覚ますために冷や水で顔を洗い、城門の前へと行った。
ガヤガヤっと城門前に20人程が集まっていた
「おいおい……何だってんだ?」「今酒盛りの最中なんだぞ?」「やってらんねーよ」
とその集められた20人も自分と同じように不満をあらわにしている
そんな中どこで情報を仕入れてきたのか、一人の兵士が説明している
「何でも、神王の軍の生き残りがいるらしい。それがゴーラス平原に旗をおっ立ててるらしんだ、それを聞いたクレア将軍が追っ払えって命令したんだとよ」
「はぁぁ??それなら、夕方何人かが向かってったじゃねーか?相手は一人だって言ってたぜ?」
それを聞いた兵士たちが怪訝な表情を見せる。
「ああ……そうだ。ちょうど夕暮れどきに見張りの兵士がそれを見つけたんだ。一応10人規模の部隊が調べに行ったんだが、それが………一人も戻らないらしい」
「「「・・・・」」」
その発言を何となしに聞いていた兵士たちは、少し緊張する。
そこに一人の女性騎士が現れる。
「整列!!早くしなさい!!まったく……よく聞きなさい!!私たちは神王の軍の生き残りの討伐を命じられました、相手は報告によるとたった一人です。絶対神アートスに逆らう愚か者どもを一人たりとも許すわけにはいきません。出陣します!!」
その号令とともに全員が馬に乗り、城門の前に整列する
ギギギギギーっと城門がゆっくりと開き、隊長格の女性騎士一人とリフィンを含めた兵士20人の騎馬隊がドドドドドドドっと出陣した
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ゴーラス平原を少し進むと、大きな旗が立っているのが見えてきた。
そこには、アートス神の旗に大きなバツ印が書いてある。まわりは暗かったが、近くに焚火があったためそれがよく見えた
そして……そこに何者かがいた。こちらが近づいてくるのに気付き、ゆっくりと立ち上がる
それを見て、リフィンは不審に思った
(…………………子供?)
そう……そこにいたのは黒い槍もった年端もいかない少年だったのだ。何人かの兵士が緊張を解くのが分かった。
だが、リフィンは嫌な気分になった。帝都にいる自分の息子と同じくらいの歳だったのだ
騎馬隊はゆっくりと止まり、パカパカっと少年に近づいて行った。そして女性騎士が問い詰めはじめた
「……お前は神王の軍の生き残りか?」
「そうです!!神聖帝国軍の将軍に伝えて下さい!!まだ、戦は終わっていません!!自分が……自分がいます!!」
それを聞いた者たちの反応はまちまちだった。あきれるもの……大笑いするものもいた。だが、リフィンは少し悲しくなった。
(はぁ~~……この歳の子供なら遊びたいさかりだろうに。すっかり神王に毒されてしまっている)
女性騎士が一人前に出て馬鹿にしたように叫ぶ
「愚かな!!お前のような子供に何ができるというのです!!クレア将軍にそんな暇はないのです。神王にはすでに神罰が下りました……アートス神に逆らい、神の炎で消し炭になったのですよ!!」
それを聞いた、少年がピクッと反応する。リフィンはそれに気付いたが、女性騎士はさらに続ける
「まったく馬鹿な男です…アートス神こそ絶対神。それに逆らうなど言語道断……馬鹿にはふさわしい無様な最後です」
「………ぃ」
その少年がプルプルっと震えている
「は?何ですって?よく聞こえません」
「取り消してください!!」
とその場に凄まじい闘気が立ち上った。リフィンは鳥肌がたった。本能が警鐘を鳴らしているこいつはやばいと。
だが、その女性騎士はそれに気付いていないのかさらに続けてしまった。
「はん!!何度でも言って差し上げましょうか?神王は馬鹿な……」
「!!!」
それを聞いた瞬間ヒュンっとその少年が、飛んだ。
リフィンは何とか目の端で捉える事ができた。馬に騎乗している女性騎士より高く飛び上がり、その漆黒の槍で鎧ごと女性騎士を貫いた
「が!!」
という言葉を残して、ゆっくりと馬から女性騎士が崩れ落ちる
周りにいた自分を含めた20人の兵士はまったく動くけなかった。それを見て初めて、兵士たちが騒ぎ始める
「な、何だこいつ…が!!」「た、助け…ぎゃ!!」「落ちつけ!!相手は一人…グワ!!」
一瞬のうちに兵士が一人……また一人と殺されていく
リフィンは信じられなかった。自分たちは神聖帝国の精鋭だぞ……それが……こんな簡単に
ヒヒヒ―ンっと自分の馬が棹立ちになり、自分は転げ落ちた。
ドン!!っと地面にたたきつけられ、あまりの痛みにしばらく地面に転がっていた。
しばらくの間、兵士の悲鳴やら馬のいななきが聞こえていたが、シ―――ンっとそこを静けさが支配した。
ザッザッザッザッっと自分に近づいてくる足音が聞こえてきた。
リフィンは自分が震えていることに気付いた。
(…怖い……怖い!!こいつは……こいつは人間じゃねー……こいつは)
ジャキンっと自分に槍が向けられた。そして幼い声が聞こえてくる
「………あなたとは闘いません。伝令役となってもらいます………将軍でも誰でも構いません…伝えて下さい…まだ闘いは終わっていないと!!まだ……自分がいると!!」
行って下さいっと槍をどけられた……リフィンはバッと立ち上がると恥も外聞もなく近くにいた馬に乗り逃げた。
どうやって砦まで戻ったのかは覚えていない。味方の明かりが見えてきたときも、あれが後ろから迫って来ているんじゃないかという強迫観念に迫られていた
「た、助けてくれ!!」
城門がギギギギーっと開き、自分はそこに逃げ込んだ。そして馬から下り地面に膝をつく。
「どうした!!何があった!!」「他のやつらは!!」
見張りの兵士たちが集まってくる
カタカタカタカタっと体が震えている……自分は…助かったのか…
「はぁ…はぁ……あれは……人間じゃねー……あれは……化け物だ」
リフィンは壊れた人形のように、何度も何度も繰り返し続けた