ルーウィンとダリオン 神王編
「・・・・・・圧巻だな」
「ああ」
ルーウィンとダリオンが見守る先には、神聖帝国の精鋭18万が、きれいに陣形を組んでいる。
太陽をやさしく抱える女神・・・・・・アートス神の旗が所々になびいている。
ゴーラス平原の少し小高い丘となっている所で、自らの敵と向かいあっている。
「・・・・ジョンには悪いことをしたな」
「ふん!!これは、俺たちの闘いだ。小僧には関係ない」
そう悪態をつくダリオンを、ルーウィンは微笑ましく見る。
この男は、心やさしい奴なのだ。
ただ、素直になれないだけだ。
今の言葉にも、ジョンを巻き込みたくたいという思いがある。
・・・・・・・・・・・この男の隠れたやさしさに気づいたのは、いつだっただろうか?
「うむ。私はそろそろ能力を発動させようか」
「ああ。すまんな」
「何の・・・・これもすべては悲願のためだ」
「・・・・・・・」
ダリオンは、敵の陣営を食い入るように見ている。隙がないか探しているのだろう。
「・・・ダリオン。お前と・・・・友になれてよかった」
「・・・俺もだ」
二人はそれだけ言うと、自分のいるべき場所へと別れて進んでいった。
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さすがは、ジョルン将軍が鍛え上げた精鋭だった。
あの騎馬隊は見事なものだ。中央の歩兵部隊に突っ込み、こちらが応戦する間もなく、見事に離脱していく。
ダリオンは直後に直属の5千で、追い打ちをかけようとした。
しかし、それに対しても、新たに出てきた騎馬隊が見事に牽制してくるため、思うような成果がだせない。
ダリオンは、全身の血が熱くなるものを感じていた。怒りではなく、高揚だ。
これこそ、戦だ。
自分が望んだ・・・・
右翼、左翼の軍は数は多いが、農民あがりの信者が多い。
勝つためには、この中央の精鋭で相手を突き崩し、快走させるしかない。
だが、あの騎馬隊に勝てるのか?
「・・・・くくくくく、何を言っているのだろうな。俺が弱気になるとはな。小僧に笑われてしまうわ」
ダリオンは、自らが鍛え上げた精鋭たちを見る。
(こ奴らを信じずに何を信じる)
ダリオンは馬上のまま、大声をあげる。
「突っ込め!!!」
叫びながら、ダリオンは剣を振って合図を出した。
敵軍からも、騎馬隊が出てきた。
おそらく、若い将校なのだろう。
動きがまだ固い。
ぶつかる。
その寸前に、ダリオンは馬の速さを落とし、後ろの味方の騎馬隊に自分たちを追い越させた。そして、敵軍を包み込む。
ダリオン自身、二騎を斬り落とした。
馬を返して、また突撃しようとしたが、もう一度切り結ぶ余地はなかった。
敵が去っていく。こちらの犠牲はほとんどない。
「どうだ、若造が!!野戦とはこうやるのだ!!」
そこで、敵の全軍が進軍を開始し始めた・・・・小競り合いは終わりだ・・・・ここからが本当の戦いの始まりだ。
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ぶつかり合いはすでに、3日目になった・・・・・
さすがは、神聖帝国の精鋭だ・・・・・
これで崩せると、という攻撃をかけても、踏みとどまる。
押しこんだと思っても、やわらく受け止められ、いつの間にか立ち直っている。
魔法を封じても、ここまでの用兵・・・・さすがは、ジョルン将軍・・・・・
「右翼に、敵の騎馬隊が回りこみました!!」兵がいった。
朝からのぶつかり合いは、歩兵の押し合いだった。
それはこちらに不利で、いつの間にか押し込まれている。
どこで騎馬隊を使って、敵を打ち崩すか・・・・ダリオンが3日間考え続けていることだ。
はじめは、突撃して正面突破をはかった。
突破はしたものの、敵の陣を二つにしたということにすぎなかった。すぐに元通りになっている。
そして、今敵の騎馬隊の一部が右翼に回り込んできている。
だが、ほおっておいた。
中央の本陣から突然、騎馬隊が突然現れた。その旗を見て、ダリオンは驚愕する・・・・
「ジョルン将軍の旗だと??」
見間違いかと思った。だが・・・・間違いない。
自分の首だけを獲ろうとしている。それが、ダリオンにははっきりとわかった。
およそ、5千騎・・・・・見事な騎馬隊の動きだった。
「・・・ここが正念場だ!!行くぞ!!」
自分の直属の騎馬隊を率いて、突っ込んでいく。
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敵の騎馬隊の動きは、まさに変幻自在だった。
何度も、何度も、ぎりぎりの所ですれ違う・・・・・
死に物狂いで、ダリオンは正面からジョルン将軍に突っ込んだ。
すると、避けるでもなくジョルン将軍も全軍で突っ込んできた・・・・・
ぶつかる時、ダリオンのまわりは騎下がしっかりと固めていた。
それでも、敵は突き進んでくる。
ダリオンも、駆けた。
騎下の兵が次々と斬り落とされている。
ジョルン将軍!!
馳せ違った。
手に・・・・・・・・
斬った感触は残っていた。
ジョルン将軍の軍勢は、駆け去っていく。
斬った感触はある。
だが、致命傷までいっているのか・・・・・・・・・・・
「さすがです・・ジョルン将軍!!」
その時、気づいた。
自分の胸から一本の槍が突き出している。
すでに、致命傷であることが明らかだ。
死など・・・・・・・あっけないものだ。
「・・・・・ふん!!ここで、終わり・・・・か・・・・・」
そのまま、ダリオンは馬から崩れ落ちた。
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ルーウィンは陣営の奥で、集中して能力を極限にまで広げていた。
そこに、信者が駆け込んでくる。
「神王様!!・・・ダリオン様、討ち死に!!我が方の軍勢は、総崩れです。お逃げ下さい!!神聖帝国の軍勢が迫ってきております!!」
それを聞き、能力の発動をやめ、瞑っていた目を開く、ルーウィン。
「・・・・・・・そうか・・・・・ダリオンが逝ったか・・・・」
まったく動く気のないルーウィンに慌てる信者。
「神王様!!お逃げください!!」
「・・・・・うむ・・・・すべて・・・終わった・・・」
「神王様!!」
すっと立ち上がる神王。
「松明を持て・・・・」
「神王様・・・」
「松明を持て!!」
「・・・は!!」
そのまま天幕を飛び出していく信者。
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天幕にある、壺を手に取り、中の液体を周りにぶちまける。
そのまま松明を、投げ捨てる。
液体に引火し、周りはあっという間に火の海となる
「・・・地獄の業火はこんなものではないだろうな・・・・・・私には、こんな死に方がふさわしい・・・・・・生きろ・・」
ルーウィンの姿は、真赤な炎の中に消えていった。