酒 神王編
ジョンは今、ルーウィン様とダリオン様が酒盛りをしている所に控えて、酒を注いでいた。
神聖帝国の主力が到着するのは、どう急いでも4日後だ。
ゴーラス平原・・・・・・・それが決戦の舞台となるだろう。
敵は18万の大軍である。それに対して、こちらはおよそ20万。
確かに兵力ではこちらが上だが、向こうは精鋭。
こちらは、武器も満足に使えない平民が多い。
不利な戦いになることは、ジョンにも理解できた。
だが・・・・・この二人は何としてでも・・・命に代えても護ってみせる
「名将ジョルンか・・・・・」
「ああ・・・・中央の将軍の中でもやっかいな方が来てしまったな。あの方ならすでに情報を集めているだろう・・・対策もうってるやもしれん」
「やけに詳しいな・・・・」
「・・・昔・・少し世話になった事がある」
「そうか」
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「ダリオン・・・ついに、ここまで来たな」
「ああ、長かった・・・・本当に長かった」
ダリオン様が酒をぐいっと飲み干す。
自分が空のグラスに酒を注ぐ。
「まさか、本当に実現できるとは思わなんだ」
「ふん!!俺も半信半疑だよ!!」
ジョンから見て、二人とも本当に嬉しそうであった。
「撫の悪い戦になるであろうな・・・・こちらは今回凌いでも・・次が来る・・か」
「それを承知で始めたのではないか?魔国の侵攻がもうすぐ始まるだろう。その備えのために中央軍の一部と帝国の東部の軍は動けまい。これほどの僥倖は望めない」
また、グイっと酒を飲むダリオン様。
少しペースが速いのではないかと、心配する。
それから二人は、戦とは関係ない世間話のようなものを話し始める。
旅をして、出あった人々、風景、聞いたこともないような食べ物、ダリオン様が酔って暴れた話など・・・・・・
ジョンにとっては、すべてが耳新しいものであった。
夜も更けてきたころ
「ジョン」
と、ルーウィン様が自分の名前を呼んだ。
「はい」
すぐに、返事をする。
ダリオンは、腕を組んで目を瞑っている。
少し考えていたようであったが、自分の目をしっかり見つめながら
「ジョン・・・・私の・・・・・昔話をしようか・・・・・・」
といった。
================ 昔話 ====================
昔・・・・神聖帝国の魔法学園に通っていたことがあったのだよ。
こんな西部の田舎者がな。普通なら貴族しかいけないような学校だ
しかも・・・・男だ。あそこの9割が女でな。無理だと思ったよ。
だが、魔法の才能はあった。確かに、魔力は平均以上はあったのだよ
両親は大喜びだった。そこを卒業すれば、帝国の要職にはつけるからな。
恥ずかしい話、自分でも浮かれていた。まさか、自分にこんな才能がとな。
だが、それも一瞬の夢でしかなかった
確かに魔力はあった。だがな、魔法はまったく使えなかった。
笑ってしまうだろう?今は自分の能力がわかるが、昔はまったく理解できなかった
全部無力化してしまう。先生たちも、出来そこないとして見捨てたよ。
そこからが、地獄だった・・・・・
ただでさえ、女尊男卑の中。平民の、しかも魔法が使えない男
かっこうの的となったな・・・・・・・
毎日・・・・陰険ないじめを受けたよ
ジョン・・・怒ることはない。もう、昔のことだ。
まぁ・・今でも夢で見ることがある。
あの日々を一度も忘れたことはない・・・・・・・・・・・・・
そしてある日・・・・・・・・・・濡れ衣を被せられてな
学園から追い出される羽目になった
両親はひどく傷ついた、無理をし続けたこともあって・・・あっけなく死んだよ
あの時ほど、神を呪ったことはない
陳腐に聞こえるかもしれないがな・・・・・・許せなかった
学園も、あの女どもも、神聖帝国も、神も、何もかもが・・・・・
だから・・・・・・・全部壊してやろうと思ったのだ
驚いたか?この大規模な反乱もな、すべては復讐なのだ
何万人も死ぬこの闘いがだ・・・・・・・・・・・
小さい・・・・・・・・自らの小ささに潰されてしまいそうになる
軽蔑したか?お前の主はただの人だ。
小さな・・・・・・
=============== ジョン =================
「これが、私のすべてだ」
「・・・・なぜ?自分などに、そのような話を?」
「ふむ。なぜであろうな。ただな・・・・お前にはすべてを知っておいてほしかったからかな」
つまみを、ひょいっと食べ、酒を飲むルーウィン様。
「どうだ?決意は変わったか?」
「???」
ルーウィン様の言ってる意味がわからない。
「私などを、護る価値はないと思わんか?命を懸けるほどではないと?」
「・・・・・・・・変わりません」
「なぜだ?」
「自分にとっては、そのような事は関係ありません。あの雪の日がすべてです」
これは、自分の本心だ。
あの雪の日・・・・・差し出された・・・・・・ルーウィン様の手。
温かく、すべてを包み込んでくれた・・・・あの手。
この気持ちが揺らぐことは・・・・・・ない
「・・・・そうか・・・もう、何も言うまい」
と、なぜか悲しそうなルーウィン様。
そこで閉じていた目を開け、ダリオンがこちらを見つめる。
「小僧・・・・お前も飲め」
「いえ・・自分などは・・」
「いいから飲め!!」
そう云ってグラスを、押し付けてくる。
「はぁ・・・」
(・・ダリオン様・・何でそんなに悲しそうなのですか・・・・)
他人が見れば、ただ怒鳴っているだけに見えるだろう・・・・・
だが・・・・・・・ジョンには分かってしまうのだ
トクトクと赤いワインが注がれていく。
「さぁ!!飲まんか!!」
ではと、何の疑いも抱かずグラスのワインをごくごくと飲みほす。
グラッ
急に、視界が揺れた。
酔いではないことはすぐに分かった。
(ぐ・・・もしや、毒か?ダリオン様とルーウィン様があぶな・・・・・)
と、二人の方を見るが、二人はまったく影響があるようには見えない
「ジョンよ・・・・・許せ」
ルーウィンの悲しそうな声が響く
ジョンの意識はそこで闇へと落ちて行った。