スクエズ 神王編
西部の首都・・・スクエズ・・では、門を堅く閉ざし、城壁には多くの魔法使いが並んでいる。
それを数万の信者たちが取り囲み、睨みあっている。
「・・・どう思う?ダリオン」
「ふん!!見てみろ、さすが西部総督である大貴族。多くの魔法使いをお持ちのようだ」
「報告では近隣の領主の魔法使い隊もかき集めたそうだぞ?」
「馬鹿なやつだ!!ここまで予想通りに動くとはな!!そのおかげで、地方の他の城は容易く落とせた・・・・・ろくな奴がいなかったからな」
と、鼻を鳴らすダリオン様。
「・・・ジョン・・お前はどう思う?」
と、ジョンへと質問を向ける。
「・・戦略のことは自分にはまったく分かりません。ただ、はっきりと言えることはただ一つです。奴らにはルーウィン様に指一本触れさせません。それが自分の役割ですから・・・・・」
「ふん!!生意気な!!」
と一括するダリオン様。
ルーウィン様はにっこり笑い、
「信じているよ、ジョン。そうだな・・・・・人には役目がある。ダリオンには、ダリオンのやらねばならぬ事があり・・・・・私には私のやらねばならぬ事がある。私がジョンの代わりはできんし、ダリオンの代わりもできん。つまり3人でやっと一人前というわけだ」
ハハハと大笑いする・・・その声がいつまでも、ジョンの耳に残った。
========= ルーウィンの役目 =========
両陣営が睨みあい、膠着状態が続いていた。
そこにルーウィン様が前に出る。
周りをジョンを含めた護衛隊が囲むのみである。
シンっと静まり返る戦場にルーウィン様の声が、大気を震わす。
「・・・・我こそは、神王なり!!偽りの神を信仰する異教徒どもよ・・・よく聞け!!魔法という悪しき力を使い、人を支配する罪深さ、万死に値する!!これより、神が天罰を下す!!」
それを聞いた城壁から、怒号が飛び交う。
「何が、神王だ!!この世界の唯一の神は、絶対神アートスだ。神に背いた愚か者どもめ、裁きを受けるのは貴様らの方だ!!魔法隊・・魔法撃用意・・・あの神に背きし、大逆人を狙え!!」
城壁の魔法使いたちが、手をかざし、呪文を唱え始める。
すると大量の火の玉が、魔法使いたちの手に浮かび上がる。
「ルーウィン様!!」
ジョンは叫ぶ。
だが、ルーウィン様はまったく動じていなかった。
「ジョン・・・・役目を忘れるな・・お前がしなければならぬ事を・・・・・」
ジョンは自分が云われていたことを思い出す。
「・・はい」
「放て!!」
指揮官の声とともに・・・・・・・・・・・
城壁にいるすべての魔法使いが放った火の玉が、全弾ルーウィン様めがけて飛んでくる。
あと少しで、ルーウィン様に命中するという所で・・・・・・・・・・・
その異変は突然起こった。
何と・・・・・あれだけあった大量の火の玉がルーウィン様の前で一斉に消えた。
ルーウィン様は何事もなかったかのように、立ち尽くしたままだ。
味方では歓声があがり、城壁では魔法使いたちが慌てふためいている。
それから何度も、火の玉がルーウィン様に降り注いだが、すべて無駄だった。
掻き消えてしまう。
そこに、ルーウィンの怒号が響く。
「愚かな!!全知全能の神に、そのような悪しき力が通じると思うてか!!」
そう叫ぶと、両手を大きく広げる
「神の力・・・・・思い知るがいい!!」
しかし・・・・・何も起きなかった
いや・・・・何も起きなくなったのだ・・・・・
魔法使いたちがいくら手をかかげ、呪文を唱えても今度は火の玉すら出なくなってしまった。
「神の力により・・・魔法はこの世から消え失せた!!我が子らよ!!魔法に頼り、堕落した者どもを打ちはらうのだ!!」
うぉぉぉぉぉぉと、信者が城門と城壁に襲いかかる。
何人かの魔法使いは、未だに必死に手をかざし、呪文を唱えている。
指揮官は、素早く判断し弓で信者や兵士を狙うように指示を飛ばしている。
だが、その弓の精度はひどいものだった。
ダリオン様の言っていた通り、魔法の訓練に重点を置き、弓の訓練なんて毎日やっていないのだろう。
弓は一丁一石にできるものでもない。
たまに、当たっているのも運の悪い流れ矢である。
その時、一本の矢がルーウィン様めがけて飛んできた。
それを、槍で軽々と叩き落とす。
「ルーウィン様・・・お気をつけ下さい。流れ矢が飛んでくるかもしれません」
「うむ。だが・・・・ジョンがいれば安心であろう?私はこの西部の首都スクエズが落ちる瞬間を見ていたいのだ・・・」
「・・分かりました。矢の精度もそれほどでもないですし、5,6本の矢なら同時にたたき落とせます」
「ふふふ、頼もしくなったものだなジョン」
「すべては、ルーウィン様とダリオン様のお役に立つためです」
「・・・・・そうか」
と、それ以降は黙って、西部の首都の城壁を見つめるルーウィン様。
信者が城門に、丸太をぶつけている。
もうすぐ、落ちるだろうとジョンは思った。