バークルホイート
「カイ!!あれを見ろ!!うまそうな食べ物があるぞ!!お?あっちにも何かあるぞ!!」
と、あっちこっちを動き回る、この国の最高権力者・・・・・魔王。
「ギル!!待て!!もう少しゆっくり・・・・・こら!!勝手に裏路地に入るな!!」
魔王の勝手さを、全力でカバーするカイ。
それを、横で冷静に観察するレン。
「ハァァァァァー」
深く深く溜息を吐くカイ。
「・・・・・・・・大変そうだな?・・・・・」
レンが、少し心配そうに聞いてくる。
「ああ。ギルの相手がここまで疲れるとはね」
心底疲れたというように、喋るカイ。
「最近忙しくてな。こうしてレンと喋るのも久しぶりじゃないか?」
「・・・・・・ああ・・・・確かにな」
と、ほんの少しうれしそうに話すレン
「懐かしいね。異世界に来て、初めてできた信頼できる友達がレンだったよ。二人っきりで旅をしたのが遠い昔みたいだね」
「・・・・・・ああ・・・・・・・いきなり槍をぶん投げて悪かったな・・・・」
「はは。気にしてないよ。まぁ、実際・・俺も本気だったしね」
「・・・・・まぁ、まだ決着はついていないがな・」
赤い槍を傾けるレン。
「・・できれば、ごめん被りたいね。勝てるとは思わないし・・それに・・・・・・・本当に大事に思っている人とは真剣になれないよ」
「・・・・・・・・・・・・」
驚いたような表情をするレン。
ポリポリと顔を恥ずかしそうに掻くカイ。
少し気まずい雰囲気が流れそうになる。
それを壊したのは・・・・・
「カイーーーー!!カイはどこだ?早く来い。あそこで、口から火を噴く犬が・・・・・・」
「今行くぞ!!今行くからな!!だから、何も触るなよ!!分かったか!?」
カイが血相を変えて裏路地へと入って行く
一人さびしく取り残されるレン。
「・・・・・・・・・・・・・・・チッ」
珍しく舌打ちをすると、ゆっくりと裏路地へと向かっていった。
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テラスで、3人で落ち着いてお茶を飲んでいる。
「いやー楽しいな」
終始、にこにこな魔王。
「いい加減にしてくれ」
心底疲れた表情のカイ。
「・・・・・・・」
いつものように、冷静に座るレン。
しばらく、お茶を飲んでいると魔王が突然。
「カイ。我はバークルホイートが食べたい」
と、言い始めた。
「バークルホイート?」
「そう、バークルホイートだ!!どうしても、食べたい!!今すぐに食べたい!!」
「わかった。わかった。市場にいけば売ってるんだな??」
「ああ!!できるだけ早くな!!」
溜息を吐き、急ぎ席を立ち、市場の方へと小さくなっていくカイ。
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「レン・・・・・・」
「・・・・・何だ?」
急にまじめになる魔王に、冷静に対応するレン。
「もう・・いいのではないか?」
「・・・・・・・・」
「いつまでも、隠し通せるものでもあるまい。まぁ、むしろ今までばれてない方が驚きだが・・・・」
と、肩をすくめる魔王。
「・・・・・・・・」
沈黙を貫くレン。
「お前も気づいていると思うが、あいつは相当鈍いぞ。生半可な態度では気付きもせん。・・・・・いい加減、素直になったらどうだ?」
「・・・・・・・・」
「まぁ、これ以上は何も言わんが・・・・・我としても、カイは優秀な人材だ。できることなら主君と臣下という絆で結ばれるだけではなく、血という繋がりで結ばれたいとも考えている」
「・・・・???」
「我が妹、リサとの婚約」
「!!!」
「驚くことはあるまい。優秀な血を加えることは必要だ。例え人間族でもな・・混血種などざらだ。さらに・・・・リサはカイを嫌ってはいないしな。まぁ、あいつも素直になれていないがな」
と、目の前の紅茶をすする。
「・・・・・・・・」
レンは冷静さを装っているが、相当動揺しているのが丸わかりだった。
すでにティーカップの取っ手をへし折っているが、気づいた様子はない。
そこに手に、ココナッツらしきものを持ってカイが戻る。
すると、普段のギルに戻る魔王。
「ギル。何とか見つけ出したぞ。これが、バークルホイートでいいのか?」
「おお、それだ。それだ。よく見つけてきたな」
「・・・・・・・・・・」
それから、レンは城に戻るまでカイが話しかけても、心ここにあらずといった状況であった