役目 神王編
「は!!」「は!!」「は!!」「は!!」
軍の野営地の端の方でジョンの気合いの入った声が響く
槍を構えて、見よう見まねでブンブンと振り回している。
その槍は一般兵が持つもので、近くに訓練ように用意してあるものである。
「は!!」「は!!」
今、ジョンが槍の訓練をしているのには・・ある理由がある。
============== 旅 =================
ジョンは何が起こっているのか分からなかった。
いつも、お二人での旅のはずなのに・・なぜ今回は自分も一緒なのだろうか?
そんな疑問を抱きながら、どんどん西へと向かい森の中へと入っていく。
ジョンが旅をしてたどり着いたのは、多くの兵隊が集まっている軍営であった。
そこで、ダリオン様は早朝から、夕方まで毎日毎日多くの兵士の調練を繰り返していた。
ルーウィン様の元には、毎日毎日様々な人が会いに来ている。
農民、兵隊、商人らしき人、・・・・貴族らしき人まで・・・それこそ老若男女の区別なく。
全員がルーウィン様と会えたことを、喜んでいた。
時には涙を流している人もいる。
自分にはどういう事なのか、まったく分からない。
ただ・・・・・・・・・・・・・・
お二人が急に遠くへ行ってしまったような気がした。
調理をする担当の人がいるらしく、朝・昼・晩と料理も勝手に出てくる。
ジョンはすることがなくなってしまった。
そこで・・・・・自分なりに一生懸命にできることを考えてみることにした・・・・・
今、この軍営にはたくさんの兵士がいる。
戦でも始まるのかもしれない。
そして、ダリオン様はその兵士を鍛えている。つまり、この人たちはダリオン様の兵なのだ。
戦のことはよく分からないが、人数は多い方がいいに決まってる。
それなら、自分も兵士になれば・・・・・・・役に立てるかもしれない
=============== 今 =======================
見よう見まねで、槍を振り回していると、
「小僧!!」と、
軍の野営地にダリオン様の怒号が響く・・・・・・・
ものすごい形相で、ジョンに近づいてくる。
傍に立ち、ジョンを上から見下ろす
「何をしている?」
「訓練をしています」
ジョンは正直に答えた。
「なぜだ?」
「自分も兵のように戦いたいのです」
と、いった瞬間。
ダリオンがジョンのことを思いっきり地面に叩きつける。
「小僧!!戦場にも出たこともないようなひよっこが、わかったような口をきくな!!」
地面に叩きつけられたジョンは、すぐに立ち上がり直立する。
それをまた、拳で顔を殴りつける。
ジョンはそのまま、2メートルほど吹っ飛んだ。
だが、その飛ばされたその先で必死に立とうとするジョン。
ダリオンはその顔を蹴りつける。それを何度も何度も・・・・繰り返す。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
ダリオンは息を切らす。
ジョンはまるでボロ雑巾のようになりながら、近くに転がっていた。
「はぁ・・・わかったか、小僧。戦場とは命を懸けて戦う場所だ。子供のお遊びじゃないんだぞ!!」
ダリオンは息をふーーー、と吐くとその場を去ろうとする。
それが、ピタっとその場に立ち止まると、ゆっくりと振り向く。
そこには、槍を杖がわりにしながら必死に立ち上がったジョンの姿があった。
口から血を吐きながらも、何とか言葉をつむぎだす。
「・・・・自分は・・・ごほ・・・文字も読めません・・・・・ただ、いるだけです・・・・
自分だって!!・・・ルーウィン様や・・・・ダリオン様の・・・・・・
お役にたちたいんです!!・・・・」
「生意気な!!」
ダリオンが、踵を返すと槍に寄りかかりながら立つジョンを叩き伏せようとする。
「待て!!!」
ピタっと、拳を止めるダリオン。
「ルーウィン」
ダリオンを止めたのは、ルーウィンの一声であった。
ダリオンとジョンの元へ、護衛に守られたルーウィンが近付いてくる。
その顔はおもしろそうに、にやついている。
「ダリオン、よく見てみろ。ジョンはすでに・・・・・・・・・気絶しているぞ」
ダリオンは、ぱっと振り返る。
そこには、直立しながら白目をむき、気絶しているジョンの姿があった。
「チっ・・・・・・本当に馬鹿な小僧だ!!」
悪態をつくダリオン。
「くくくくく、真直ぐな子供ではないか?純真で一生懸命だ・・・それに・・・才能はあるのだろ?」
「・・・・ああ・・・・実際、さっきの素振り・・・・・ただ者じゃない、天賦の才があるやもしれん。それに・・・・・・」
ダリオンにしては珍しく、悪態の一つもなく褒める。
「何だ?」
と、怪訝そうにするルーウィン。
「・・・・・魔法の・・才もあるやもしれん」
非常に言いにくそうに、言葉を紡ぐ。
「・・・・・・・そうか」
ルーウィンは少し、遠くを見るような目をすると、考える素振りを見せる。
「ダリオン」
「何だ?」
「教えてやれ・・・・武術も・・・・魔法もな」
「・・・・・いいのか?」
ダリオンは少し、気遣うような素振りを見せる。
「良い・・・・こいつには・・・・私のようになってほしくない」
「・・・・・・・分かった」
ルーウィンとダリオンは、しばらく黙ったまま気絶しているジョンを見守っていた。