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王たちの宴  作者: スギ花粉
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なんでやねん?

「…………」


レンは自分の両目をその細い両指でしっかりとマッサージした。疲れというものは自分自身が気づかぬうちに溜まってしまうものらしい。


じっくりと時間をかけてマッサージを終えると、レンをゆっくりとその両目を開いた。そして、木の陰からもう一度そ~~っと顔を覗かせた。


そのレンの視線の先には、大量に積み上げられた薪が炎をあげて燃え上がっていた。一つ間違えば山火事にでも発展しそうなほどの大火だった。


そしてその大火のすぐそばに、突然居なくなったカイは確かに居た。しかし………………それはあまりに異様な光景だった。


「オンバラバラバラ……オンバラバラバラ……オンバラバラバラ……滅!!」


カイは頭に二本の蝋燭を括りつけながら正座をし、何やら独特の形をした紙を結びつけた木の棒を右に左にと一心不乱に振り回していた。さらに、カイのすぐ側には大量の塩が山積みにされている。


しばらく拝み続けたカイは、その塩の塊を手で握り締め、燃え盛る火の中に投げ入れた。一瞬だけ火の勢いが増し、また元の状態に戻っていく。


「…………」


レンはじ~~っと木の陰から覗き続け………また、カイに気づかれないように木の後ろに隠れた。


(……………こ、声をかけづらい)


カイが一体何をしているのかは分からないが、何というか………カイの見てはいけない一面を見てしまったような恐怖感をレンは感じていた。


塩は旅においては必需品の一種であり、かなり貴重なものだ。それを火に投げ入れるなど、正気の沙汰ではあるまい。


「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前~~!」


さらに怪しげな呪術のような文言をカイは大声で叫び続けている。今すぐにここから立ち去るべきか……それとも、勇気を振り絞って声をかけてみるべきか……レンは真剣に悩んでいた。


本心を言ってしまえば、今見た事のすべてを忘れて立ち去ってしまいたかった。 しかし、このままカエデの元へと、のこのこ帰る訳にもいくまい。


それに………もしかしたら、あれは異世界では当たり前の光景なのかもしれない。今までも自分が気付かなかっただけで、カイは秘かにあの儀式を執り行っていた事も考えられる。


何をやっているかはまったく想像できないが…………異文化にもある程度の敬意を払わねばなるまい。そう考えたレンは、意を決したように木の陰から姿を現しカイに近づいていくと、恐る恐るという風に話しかけた。


「………カ、カイ?その~……夕食が出来そうだから……カエデが呼んできて欲しいとの事なんだが。その……い、いったい何をしているんだ?」


すると、ピタリ……とその動きを止めるカイ。そして、カイは虚ろな表情をしながら振り向きこう言った。


「ああ………レン………今ね、塩をまいているんだよ」


「………そんな事は見れば分かる。なぜ……塩をまいているのかを聞いているんだ」


未だ困惑しながら尋ねるレンに対して、カイは半べそをかきながら答えていった。


「お清めのためだよ……グス……せめて京都の二の舞だけは避けようと思って。悪霊的な不浄を清めておかなくちゃって………それで、翡翠から学んだ陰陽術の真似ごとを一生懸命………」


「………」


レンはカイが何を言っているのか、さっぱり分からなかった。ただ、カイが精神的に追い詰められているのだけは理解できた。


「つまり………これは祈祷師の除霊のような儀式なのか?」


スタットック王国では太古の昔から精霊信仰が盛んだった。精霊信仰とは、自然界のありとあらゆるものに精霊が宿っているという考え方だ。


今でも北部の民は人生における重要な儀式は森の中で執り行う。歴代の『北の王』たちも、その王位を継ぐ時は玉座などでではなく本当に何もない森の中で王冠をいただいた。


実際に見てはいないが、ソロスが第87代・『北の王』となった時も恐らく王位継承の儀式は森の中で執り行われたことだろう。


精霊たちはどこにでもいる。そして、いつも見守ってくれている。その大勢の精霊たちの前で誓いをたてるのだ………必ず守りぬくと。


精霊信仰においては、絶対的な神という存在はいない。だからこそ、スタットック王国と神聖帝国は信仰という部分においても相容れなかったのだ。


そしてもはや迷信の類になってしまったが、人が病になるのは精霊の悪戯が原因だと考えられていた時代もあった。そんな時に、精霊の許しを乞うために祈る者たちが祈祷師だ。


ある程度医術が発展した今でも治らない病というものは存在する。そういう時に北部の民は祈祷師を呼び、精霊に祈りを捧げるのだ。


カイはレンの確認するような問いに対して、頷きながら答えた。


「そう………素人の俺が見よう見真似でやってもどれくらい効果があるか分からないけどさ。一応、気休めでもいいから清めておこうかなって……」


バサッと……会話の途中にも関わらず、カイは律義に一定の間隔をおいて塩を火に投げ入れている。さらに、辺り一帯の木や地面には五芒星が描かれたお札がペタペタと貼りつけられていた。


いったいどこにそんな物を隠し持っていたというのか。


レンはカイが執り行っていた儀式の意味を理解したが、なぜ突然こんな儀式をし始めたのかが未だに謎だった。


「………つまり、この場所に邪気が溜まっているという事か?」


しかし、カイは悲しそうに首を横に振った。それに伴い頭に括り付けられた二本の蝋燭の火が同じように左右に揺らめいた。


「違う……違うんだよ、レン。俺がこんな事をしているのはね………カエデが夕食を作るからなんだよ」


「???」


レンは頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべた。ここまでカイの言おうとしている事が理解できないのは初めてかもしれない。


カイは真剣な表情で声を震わせながら、状況が掴めていないレンに淡々と説明していった。


「レン……信じられないかもしれないけど、今から言うことは何の誇張もない真実なんだと思ってね。カエデはさ………本~~当に料理が駄目なんだよ。いや……駄目なんて生易しいものじゃないんだ。カエデの料理はすでに食べ物という領域を踏み越えて、もはや兵器の域に達しているんだよ!!」


「…………」


レンは喋りながら徐徐に興奮していくカイをじっと見つめ続けた。カイの震えは声のみから、体全体へと広がっていった。


「俺もさ……小さい頃ずっと一緒にいるけど、カエデの料理の腕前は年々酷くなっていくんだよ!普通上手くなるでしょ!おかしいでしょ!いや………それだけならどれ程救われた事か。思いだすだけでも恐ろしい………京都でカエデが重箱の蓋をあけて『あれ』を取り出した途端、地面から骸骨やら鬼もどきの魑魅魍魎がわんさか現れて……グス……あの時は本当に死ぬかと。きっと『あれ』から放たれる禍々しい邪気が、妖怪達を蘇らせたに違いないんだ!翡翠は笑ってたけど、そう考えないとおかしいじゃないか!だから………」


しかし、カイがさらに続けようとした次の瞬間…………


「……………な……何でやねん」


レンが手の甲でカイの懐のあたりをぺしっと軽く叩きながら、辛うじて聞き取れるくらいのか細い声でツッコミをいれた。


まさにポカ~~ンとしか言いようのない表情を浮かべカイは黙らざるをえなかった。


(い、今のは………幻……だろうか)


カイは今目の前で起きた事が信じられなかった。というより……今感じているこの世界が現実なのかどうか疑わざるをえなくなっていた。


あのレンが………漫才師のようなツッコミをしたのだ。しかも、たどたどしい大阪弁で……である。驚くなという方が無理な話だ。


未だその衝撃から立ち直る事が出来ないカイとは対照的に、レンは直ぐ様手を引っ込めると………恥ずかしそうに俯いた。そして、微妙な空気を変えるように自ら小さく咳払いをした。


「コ、コホン!!………な、慣れない事はすべきじゃないな。こ、これは言い訳という訳ではないんだが……その……メリルが、カイが冗談を言ったらこうするのが一番いいと言っていてな。確か……マリアという娘から教えられたといっていたな……うん」


マリアは闇の軍の三隊長の一人の人狼族の娘だった。異世界にも関わらず何故か大阪弁を喋るのだが、カイはきっとマリアは独特の部族出身なんだろうと自分自身を納得させ、深く考えないことにしていた。


「そ、そうだったんだ。い、いや~~凄く新鮮で良かったよ?」


アハハハハ……と微妙な空気を吹き飛ばすように明るく笑っていたカイであったが、ハッと何かに気づいたような表情になる。


そして、慌てふためきながらレンの誤解を解こうと必死になった。


「レ、レン!?俺はふざけてる訳じゃないからね!!いたって真剣に………」


「…………カイ。それはもういい………ほら早くしないと頭が燃えてしまうぞ?」


しかし、レンはまるですべて分かっているとでも言いたげな菩薩のような表情を浮かべながら、カイの頭に括りつけられている二本の蝋燭を引っこ抜いた。そして、カイをカエデの元へと連行しようとする。


「ちょ、ちょっと待って!まだお祓いが終わってないんだよ!このままだとまた魑魅魍魎が……」


「…………分かった分かった」


カイはバタバタと暴れていたが、レンはそれに耳を貸さずにカイを力づくで無理やり引っ張って行った。


因みに…………カイとレンがいなくなった瞬間、木々や地面に張り付けられていた五芒星のお札が次々と弾け飛んだのだが…………二人がそれに気づく事は決してなかった。

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