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王たちの宴  作者: スギ花粉
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ルードンの森 竜王編

時系列の確認だけ……竜王編は、盗賊王編の辺りだと考えて下さい。

では、楽しんでいただけたら幸いです。

「グォォォォォ――――!!」


獰猛な獣の咆哮が辺り一帯に響き渡った。その獣は黒き毛皮に覆われ、人の二倍の身の丈はあろうかとう凶悪な二本牙をもつ猪の化け物だった。


その名を『ワイルドボア―』、熊を超える大きさでありながら敏捷性に優れており、その突進から繰り出される体当たりは、小さな岩山なら簡単に突き崩す事ができる程の威力をもっていた。


そして今、その暴れまわる『ワイルドボア―』を半円上に囲むようにして、ある者たちが奮戦していた。


「く!!殺せ!!何としてでも、ここで殺せ――!!」「これ以上、集落に近づけさせるな!!」「戦士たちは武器をとり、前衛に集まれ!!」「『結界』は!!『結界』はまだなのか!!」


半円上に囲む者たちは皆が皆、流れるような神秘的な金髪をもち、特徴的な尖った耳をしている。


彼らは、ギガン族と同じように長命を生き、滅多に人間たちの前には姿を現さない『風の民』………エルフ族である。彼らは平穏を好み、闘いを嫌う事で有名な種族だった。


それと同時に、ギガン族と同じくらい他の種族に排他的でもあった。だからこそ、『ルードンの森』という人間族が寄り付かない所に集落をつくって暮らしているのだ。


そんなエルフ族たちが、手に手に弓や剣などの武器をもち死に物狂いで戦っていた。しかし、『ワイルドボアー』が暴れている一帯にはエルフ族の躯が点々とし………辺りはすでに血の海となっている。


「弓構え―――!!………放て―――!!」


一人のエルフ族の号令の元、一斉に大量の矢が『ワイルドボア―』に放たれる。その矢は一直線に『ワイルドボア―』に向かっていき、そのすべてが眉間や背に突き刺さった。……しかし……


「グォォォォォォォ!!」


魔獣が不機嫌に体を震わせると、その矢のすべてが吹き飛んでしまう。お世辞にもダメージがあるようには思えなかった。


「く!!……何がどうなっているというんだ!!」


元々、『ワイルドボア―』はかなり凶暴な魔獣ではあるが、風魔法を駆使するエルフ族の前では脅威とはならないはずなのだ。


しかも、普段エルフ族の集落は風魔法を応用した『風の結界』に守られているために、集落に近づく事はおろか……気づくことすらできないようになっているはずなのだ。


しかし、その異変はあまりに突然起こった。いきなり、集落を囲むように展開されていた『風の結界』がきれいさっぱり消えうせたのだ。


そればかりか、普段自分たちが駆使している風魔法すらまったく使えなくなってしまったのだ。こんな事は前代未聞だった。


今、この『ルードンの森』で暮らすエルフ族の中でも、最も長生きであるこの集落の長ですら原因は分からなかったのだ。しかし……エルフ族たちには、戸惑う暇すら与えられなかった。


元々『ルードンの森』は魔獣の巣窟と呼ばれている場所だ。だからこそ、長年に渡り人間族の侵攻を防ぐことができたし、エルフ族はひっそりと暮らせていたのだ。


それは『風の結界』によって、魔獣たちが外界との防壁となってくれていた事を意味していた。しかし、それがなくなってしまった今、エルフ族の集落は一気に魔獣に囲まれた危険地帯と化してしまったのだ。


そして、変化はすぐに起きた。集落に気付いた魔獣共が次々と押し寄せてきたのだ。


エルフ族の戦士たちは風魔法が使えない中、勇敢に闘ったがジリジリと後退せざるをえず、今や集落の最終防衛ラインにまで撤退させられてしまったのだった。


「ぐ!!」「が!!」


『ワイルドボア―』がまた荒れ狂いながら突進した。そして、弓を構えていたエルフ族の数人をその牙で串刺しにし、乱暴に宙に放る。


「グォォォォォォ―――――!!」


魔獣がその勝利を自ら祝うかのように咆哮した。そこにいるエルフ族たちがみな諦めかけた瞬間………上空から影が飛来した。


いや…影というのは正しい表現ではなかった。一瞬の事だったので影のように見えてしまったのだけだったのだ。


その者は、エルフ族ではなく……人間族の男だった。金色の鎧を纏い、長い金髪を後ろでに縛りあげており、その両手には鋼色に輝く見事な双剣が握りしめられている。


その人間族の男は凄まじいスピードで魔獣に向かって一直線に降下し、その双剣を魔獣の頭に見事突き立てた。


「グモォォォォォォ!!」


『ワイルドボア―』は先ほどまでとはうってかわり、悲痛な咆哮をあげると苦しそうに暴れ出した。自分に双剣を突き刺している男を振り落とそうとしているようだが、男は平然と剣を握りしめていた。


しばらくの間暴れ続けていた魔獣であったが、ドシン!!…という音とともに地面に倒れ込み、動かなくなってしまった。


魔獣を半円状に囲む形で闘っていたエルフ族たちは初めは呆然としていたようだが、助かった実感がわき始めると喜びの声を上げ始めた。


「助かった……のか?」「助かった!!私たちは助かったんだ!!」「負傷者を集落へ運びこめ!!気を抜くな!!また、すぐに別の魔獣が襲ってこないとも限らん!!」


辺りが先ほどまでとは別の意味で騒がしくなる中、エルフ族たちの戦闘を指揮していたリーダー格のエルフが鎧の男に近づいて行った。


「はぁ……はぁ……人間族よ…はぁ…我らを助けてくれて事を感謝する」


心の底から感謝の念を伝えるエルフ族に対して、その人間族の男は意地悪く笑いながら……こう言った。


「カカカカカ……感謝……か。エルフ族よ、お前はその言葉をすぐに後悔する事になるだろうな」






================    ===================






アーサーは木の上に造られたエルフ族特有の屋敷の床で、眼を閉じ、胡坐をかきながらこの集落の長が現れるのをじっと待っていた。


『ルードンの森』奥深くへと入っていき、エルフ族の集落を見つけ出した。難しい事ではなかった……風の魔力の流れを感じ取り辿っていけば、すぐに発見する事ができるのだ。


(それにしても……『風の結界』とは、エルフ族も面白い事を考えつくものだ。人間族や魔獣に襲われないために独自に編み出したのだろうが……まぁ、我らにはそんなもの必要ないから、考えつかんのも当たり前か)


アーサーがそんな事を考えていると、若いエルフ族の女に手を添えられながら、一人の老エルフがゆっくりと屋敷に入ってきて、アーサーの正面に座った。


そして、アーサーを中心に円をかくようにして屈強なエルフ族たちが周りに座っていた。恐らく、この集落の主だった者たちなのだろう。皆が皆、包帯や薬草のようなもので手当をうけていたが。


すると、目の前の老エルフが咳をしながら話し始めた。


「ゴホゴホ……あ~~…人間族よ、先程は儂らの集落を魔獣から守ってくれたと聞いた…ゴホゴホ…はぁ、この集落の長としてお礼を言わせてほしい」


「礼などいらん」


老エルフは苦しそうにではあるが感謝の言葉を述べた。それにアーサーは短く答えただけだった。


「ところで……お前さん、名は何という?」


「カカカカカ……我が名はアーサー。『黄昏の支配者』……アーサーだ」


そのアーサーの名乗りを聞いた老エルフは少し怪訝そうに顔をしかめる。


「ゴホ…黄昏の………支配者?う~~む……どこかで聞いた事があるような…ゴホゴホ…まぁ、良いわ。名はアーサーというのだな?人間族よ。それで?儂らに話があるとのことじゃが、いったい何を……そもそも人間族がこんな『ルードンの森』奥深くで何をしておるのじゃ?」


「カカカカ………単刀直入に言おう、エルフ族よ。貴様らは今、突然風魔法が使えなくなっているはずだ。その原因を教えてやろうと思ってな」


「何だと?」「人間族…貴様なぜそれを知っている!!」「いったい我らに何が起こっているというのだ!?」


その言葉を聞いた瞬間、アーサーを囲むように座っていたエルフ族たちが皆いきり立った。しかし、老エルフが片手を上げ、騒ぐ者たちを制した。


「ゴホ…ゴホ……あ~~人間族のアーサーよ。確かにじゃ……我らは突然魔法が使えなくなった。その原因をお前さんは知っているというのか?」


「その通りだ」


「ゴホ…ゴホ…ほう?では、教えてもらおうではないか……その原因とやらをな?儂も長く生きておるが、このような事は初めてでの。対応に困っていたところじゃ。………多くの同胞が死んだ。恐らく、他の集落でも同じような事が起こっていることじゃろう。もし……儂らエルフ族に害をなそうとしておる者がいるとしたら、決して生かして帰す訳にはいかぬ。のう?魔法が使えなくなったその日に、こんな『ルードンの森』奥深くに突然現れた……人間族のアーサーよ」


老エルフが意味深に言うと、周りのエルフ族たちがその手に手に武器をとった。そんな緊迫した状況になったになっても、アーサーはまったく動じなかった。


そして、そんなエルフ族たちを馬鹿にしたように嘲笑った。


「カカカカカ……長命を生きるといわれるエルフ族もこんなものか。………驕るなよ?……エルフ族。貴様らはギガン族と同様に、元々魔法が使えぬ種族だったはず。そんなお前たちの祖先は、我が同胞に泣きつき、我らが創造せし魔法の使用を許可されていたにすぎぬ。だが、月日が流れるとともに、お前達は授かった力を、己の力だと過信するようになったのだ。その恩恵を誰のおかげで授かっていられるのか……もう一度よく考えよ!!」


そんなアーサーの怒声が屋敷に響き渡った。一瞬その怒気に怯んだエルフ族であったが……口ぐちに叫び出す。


「何を訳のわからん事を言っている!!」「やはりこれは貴様の仕業なのか!?」「人間族が何をぬかすか!!」


そう騒ぎだしたエルフ族であったが、老エルフだけは何かに気付いたようで瘧のように震え始めた。


「ゴホゴホ……待て!!皆の者……静まるのじゃ、ゴホゴホ…はぁ……そんな……馬鹿な。お前さ……いや、貴方様方は………1000年もの昔に半狂乱になり……死に絶えたはず」


そんな老エルフの戸惑いと恐怖が入り混じった言葉を聞いたアーサーは、意地悪く笑った。


「カカカカカ……残念だったな、エルフ族よ。我らは半狂乱になどなった訳ではない。我らは伝承に則り、『ドラゴンの舞』を行っていたにすぎぬ。そして…………我こそ、この世界に存在する唯一無二のドラゴン………『ドラゴンの王』である!!」


アーサーは王者の風格を醸し出しながら堂々と宣言するとともに、金色の鱗をもつ本来のドラゴンの姿へと一気に顕現した。


屋敷の屋根を突き破るとともに、アーサーはその翼を大きく広げ宙に浮きながら、かの者たちを尊大に見下ろした。


あまりのことにほとんどの者がその現実を受け止められない中、老エルフはしっかりとアーサーを見上げながら震えながら問うた。


「では…ゴホゴホ…では……我らが急に魔法が使えなくなったのは、やはり貴方様が関係しているのですね?なぜ、このような酷い仕打ちをなさいます?我らは、『暗黒の支配者』……メルガデス様との盟約により、永久に風魔法の恩恵を授かることを許されて……」


しかし、そんな老エルフの悲痛に満ちた懇願を途中で遮ぎり、アーサーは無情にも告げる。


「カカカカカ……残念だが、『暗黒の支配者』…メルガデスはもういない。我が直接殺した訳ではないが、同胞の誰かが奴を殺しただろうからな。さて………本題に入ろうか、エルフ族よ。我の気持ち一つで、お前達はまた風魔法をすぐに使えるようになる。そうしてやっても良いが……一つ条件がある。呑むも呑まぬもお前たち次第だ。まぁ……呑まなければ、一生魔法が使えぬ種族として生きていかなくてはならないがな?」


アーサーはエルフ族たちに、自分の立場をしっかりと伝え……半ば脅迫した。


「ゴホゴホ……それは、どのような……」


老エルフがどんな要求をされるのか戦々恐々としながら、アーサーに問う。そんな老エルフにアーサーは淡々と、セシル・ドラグーンが用意した筋書きを伝えていった。

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