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王たちの宴  作者: スギ花粉
173/200

黄金 竜王編

え~~明けましておめでとうございます。スギ花粉です。

長く更新を滞らせてしまいまして、本当に申し訳ありませんでした。色々と忙しかったもので。


久しぶりの更新ですので、ほとんど内容を覚えていない方も多いのではないかと思います。すみません。

時系列の確認としては、竜王編はまだ盗賊王編と並行しているとお考えください。ですが、もう追いつきます……その『瞬間』は絶対に分かりますので。

詳しい事は登場人物を読んで、こんな話だったなと思いだしていただけると幸いです。


それで、今回の話なのですが……できれば2話前の『威風堂々』からでいいので、読みなおしていただきたいと思っています。それというのも、タイウィンとパトリックという登場人物はかなり重要な二人ですので。できればでいいので、お願いします。


前書きが邪魔だというご指摘もありますので、以後は基本前書きを失くしますので。ご安心下さい。


では、楽しんでいただけたら幸いです。

========= ラニスポート城  中庭    ================




「「………」」


凄まじい息苦しさだった。タイウィン・ウェンデルが自分につけてきた……護衛役とも監視役ともつかない眼帯をつけた少年は、一定の距離を保ちながら自分の後方をずっとついて来ていた。


ラニスポート城の中庭はかなりの広さがあった。人の背丈ほどあろうかという藪がきれいに整備され、まるで迷路のようになっている。アシャはその素晴らしさに瞠目しながら、一歩一歩奥へと進んでいった。


少年は時折、そちらは行き止まりです……とか。貴重な植物があるので、そちらに行かないで下さい…と軌道修正の単語を発するだけで、後はずっと黙りこんでいる。


アシャは堪らなくなり、心の中である人物に語りかけた。


(な、なぁ……ファルナ?)


(何です?……アシャ)


心の中で呼びかけると、自分の横にフワっと魔剣に宿っているファルナが現れる。


(いや…別に用がある訳じゃないんだが、また話相手になってくれないか?)


ジェイムの時のように、ファルナと喋る事でこの気まずさから逃げられるとアシャは考えたのだ。しかし、ファルナはそんなアシャをやさしく嗜めた。


(それでは、あの少年が可哀そうではありませんか。きっとあの少年もアシャとお話をしたいと思っていますよ?)


「………」


そうは言うものの、少年にはこちらと会話をしようという気がまったくないように感じる。何度か話しかけてみたのだが、庭園の事以外の話題にはまったく反応を示してくれなかった。


アシャはため息を吐きながら、中庭をパトリックに軌道修正されるままに進んでいった。そのまましばらく歩いていくと、一際大きな噴水のある所にたどり着いた。


その噴水の周りにはきれいな碧い花が咲き乱れており、素晴らしくきれいな場所だった。


(…………きれいだな)


(ええ……月の光に照らされた花が光り輝いて見えます。見事な庭園ですね。……うん?アシャ、あれは何でしょうか?)


ファルナが噴水の奥にある何かを指さす。アシャも目を凝らして見ると、そこには花に囲まれた石板のようなものが建てられていた。


アシャはもっと近くにいって確認してみようと、一歩を踏み出した時だった。


「………あなたは何者なのですか?」


いきなりだった。今まで余計な事はまったく喋ろうとしなかった少年が、自らアシャに問いかけてきてくれた。まだ声変わりもしていない甲高い声で。


それを聞き、歩みを止めるアシャ。そして、自分がパトリックと呼ばれる少年に対して自己紹介すらしていないという事に気付いた。


(ほら……少年の方から話しかけてきてくれましたよ?)


(そ、そうだな)


ファルナは微笑を浮かべながら、アシャにチャンスだと促す。アシャはコホンと咳払いを一つしながら、振り返りタイウィン・ウェンデルにパトリックと呼ばれていた眼帯をつけた少年に相対した。


「すまない。自己紹介がまだだったな。私はアシャ・ヴェラリオン。ガウエン元帥の副将を務めている者だ。君の名前を教えてもらってもいいだろうか?」


アシャは相手を怯えさせないように、極力気をつけながら話しかけた。常に戦場を駆け抜け、年上の男たちと付き合うせいか、自分が時に子供に怖がられてしまう事をアシャは悲しくはあるが自覚していたからだ。


パトリックは自己紹介をするアシャに…………………そこで、チラリと視線をうつした。そして丁寧に頭を下げる。


「申し訳ありません……アシャ将軍。自分が申し上げましたのは、あなたの事ではないのです」


そう言うと少年は、すっとアシャの真横を指さした。そう……空中に浮いているファルナをしっかりと見据えたまま。


「!!!」


アシャは宝剣の柄に手をかけながら、一気にパトリックから間合いをとった。いつでも抜剣できる構えである。そして、警戒心を露わにしながらパトリックを睨んだ。


しかし、そんなアシャとは対照的にパトリックは落ちついたものだった。


「その反応…………やはり、『それ』は自分の見間違いではないのですね」


パトリックはそう呟くと……ゆっくりと自分の頭の後ろに手をもっていき、左眼を覆い隠している眼帯を慎重に取り外した。そして閉じられた左眼を少しづつ……少しづつ……開いていく。


そしてその左眼が完全に見開かれた時、黄金の光が辺りを眩く照らした。アシャは最初、そのあまりの眩しさに目を細めてしまった程だった。


少し目がその光に慣れてくると、それをしっかりと確認する事ができた。右目の碧い瞳とは似ても似つかない、黄金の輝きを放つ左目が露わになっていた。爬虫類の瞳のような神秘的な瞳だった……少なくとも人の瞳では決してない。


アシャはそれに根源的な恐怖を感じ、少しばかり後ろに後ずさった。パトリックはもう一度しっかりとファルナを見据え問いただす。


「今ならはっきりと視えますよ……白い儀礼服を纏い、両目を白い布で覆った、黒の長髪の女性が。もう一度聞きます………あなたはいったい、何者なのですか?」


アシャはチラリと自分の横に目を向けた。しかし、問いただされたファルナは驚愕の表情を浮かべたまま、パトリックを見つめている。心なしか震えているようだった。


(ファルナ……ファルナ!!)


アシャが心の中で叫ぶと、そこでハッとしたようにファルナが気づいてくれた。


(ア、アシャ……)


(ファルナ、あの少年は何者だ?ファルナは私にしか見えないはずだろ?)


そう心の中で問いかけるアシャに対して、ファルナは困惑したように首を横に振る。


(……分かりません。魔剣をお造りになった大魔導師・ツェリ様からは、私をこれを抜いた者しか視認する事ができないようにしたと聞いています。自分でも教えられた事しか分からないのです。けど、あの黄金の瞳………あれは人の瞳ではありません)


ファルナのを怯えをしっかりと感じ取り、アシャは依然としてファルナを見つめるパトリックに視線を戻した。


「パトリック………といったな?その黄金に輝く左眼……少なくとも人間の瞳ではないな。君は…………いったい何者だ?」


「質問しているのは自分ですよ、アシャ将軍。まずは自分の問いに答えていただきたい」


パトリックはゆったりとした仕草で両腕に纏った服を捲った。そこから露わになった両腕には白い包帯が巻きつけられている。


「まぁ……いいでしょう。その者が何者で、どういった存在であるかは分かりませんが、見る限りその腰に携えている剣から魔力が流れ出ているようですね?アシャ将軍……単刀直入に申し上げます。その剣を置いていっていただきたい」


「……何だと?」


パトリックはさらに両の手の拳を握りしめ、自らの胸の前で思いっきり打ちつけた。その瞬間、鉄同士を打ちつけたような澄んだ音が響き渡る。包帯の下に何か仕込んでいるのかもしなかった。


「アシャ将軍には大変失礼かもしれませんが、自分はあなたの事をよく知りません。そして、不埒にも親方様を亡き者にしようとする輩がいるのもまた事実なのです。自分はそんな者たちから、親方様を守らねばなりません。あ、もちろん徹底的に調べた後、無害である事が分かればお返しいたします。どうか、ご理解していただきたいのですが……」


パトリックは本当に申し訳なさそうな表情をしていた。アシャはしばらく黙った後……こう切り返した。


「断る……といったら?」


ファルナはアシャにとって、小さい頃から一緒にいた大切な存在だった。それを簡単に引き渡せるはずがなかった。


「…………残念です。力尽くという形はとりたくなかったのですが……」


スッとパトリックは腰を落とし、右手をやや前に突き出すような形で構えをとった。それと同時に空気がピンと張り詰めていくのが分かる。パトリックから発せられる気は完全な殺気だった。


アシャも宝剣をゆっくりと鞘から抜き放ち、中段に構える。相手は年端もいかない少年である。ただ、その小さな体から放たれる気が、その存在感を何倍にも膨れ上がらせていた。


すでにアシャの頭の中から、パトリックが子供であるという事はきれいさっぱり消えていた。


(…………手加減ができるような相手じゃない)


アシャも魔剣に魔力を込めはじめた。その薄紫に光る魔剣が、光の魔力を注入されさらに強い光を放った。中庭は魔剣の放つ薄紫の光と、パトリックの左眼から放たれる黄金の光に満たされる。


その一触即発の空気の中、どれだけの時がたっただろうか。アシャの頬を緊張のの汗が一筋落ちた。


そんな中、先に構えをといたのは…………パトリックの方だった。


「……………親方様の敵は、自分が殺さなければなりません。しかし、あなたに危害を加える訳にもいかない」


「………どういう意味だ?」


「そのままの意味です。しかし、これだけはしっかりと覚えておいてください。もし、親方様を害するような素振りを少しでも見せれば…………自分はあなたを生かしてはおきません」


「それは………警告か?」


そう尋ねるアシャに対して、パトリックは飛びっきりの笑顔を向けながら即答していた。


「いいえ、脅迫です」


「………」


アシャはパトリックが構えを解いた後も、剣を鞘に納めずに警戒心を露わにしていた。しかし、パトリックの方はすでに殺気も消し、先ほどまでの人形のような無表情に戻っていた。


そして、まるで今思い出したかのようにアシャに問いかける。


「ところで………アシャ将軍?酔いは醒めましたか?」


「………ああ。吹っ飛んだよ」


「そうですか。それは良かった。では、『舞踏の間』に戻りましょう。自分もあまり親方様の側を離れていたくありませんので」


パトリックはそう言いながら、その手に持つ革製の眼帯をもう一度しっかりと顔に巻きつけた。すると、黄金の光で眩いばかりだった世界が、元の月の微かな光に照らされた夜の世界へと戻った。


「それでは…………戻りましょうか」


パトリックはそれだけ言うと、すっと来た道を戻り始めていた。アシャはしばらくそこから動く事ができなかった

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