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王たちの宴  作者: スギ花粉
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血の契約 竜王編

ライサはセシルとの話しあい終え、重い足取りで自分の執務室の扉の前まで戻ってきていた。そしてドアノブに手をかけようとしたが、ライサはそこで深いため息を吐いてしまった。


「はぁ~~~」


脳裏には先ほどセシルから言われた事が渦巻いていた。


(私が………アーサー様の弱点を探る。そんな事できるのでしょうか?)


ライサは僅か半年という短い期間ではあるが、アーサーの事が好きになり始めていた。初めはドラゴンという事もあり緊張もしていた。しかし、最近ではアーサーがドラゴンであるという事すら時々忘れてしまっている事がある。


正直な話……どこか人間の世界の常識に疎い所はあるものの、ライサとしては諸侯の方や貴族の人と接するよりもアーサーと一緒の方が楽だった。


宮廷という所は本当に気が抜けない。表面上はみなにこやかにしてはいるが……誰が味方で、誰が敵なのかも分からない。本当に狡猾な狐と狸の化かし合いという感じなのだ。


しかも、セシルから特別な権限を与えられているとはいえ………ライサはマーティン家という低級貴族の出であり、どうも名家の貴族たちから陰口を叩かれている気配を感じるのだ。


そんな環境の中では、アーサーのように裏表のない存在というのは非常に救われるものがある。しかも、遠慮も何もなくずけずけ物申す感じが、今はなき父親に少し似ているのだ。


ライサはため息をもう一度吐いた後、自分を叱咤するように頬を叩いた。そして、自分の執務室への扉を開け、中へ入って行った。


アーサーはライサが部屋を出て行った時とまったく同じ格好のまま、窓に腰かけて酒を飲んでいた。アーサーは入ってきたライサに気付き、いつものように憎まれ口を叩いた。


「遅かったではないか、チビ助」


「…………私はチビ助ではありませんよ」


「うん?」


ライサは明らかに元気がなかった。アーサーはほんの少しばかりそれを不思議に思ったが、別段追求しようとも思わなかった。


ライサはぎこちない足取りで腰かけているアーサーに近づいた。そして、極力いつものような調子を心がけ話しかける。


「ア、アーサー様……その、陛下がお話があるという事でして、今すぐ執務室に来てほしいという事なんですが」


「そうか。ならば……行くとしようか」


アーサーは窓枠からその重い腰を上げると、扉へとゆっくりと向かっていった。ライサはその間ずっと俯いていた……アーサーと目を合わせる事などできなかったのだ。


「ああ、そうだ。………チビ助、お前に確認しておきたい事がある」


部屋を出て行こうとしたアーサーは、ふと何かを思い出したかのようにライサへ尋ねた。


「は、はい!!何でしょうか?」


ライサは絶対にありないはずなのだが、先ほどセシルに言われた事がばれているのではないかと感じ、嫌な冷や汗をかいた。しかし、アーサーから尋ねられたのはまったく予想外の事だった。


「あの小娘は……………まだ、正気を保っているか?」


「は、はい?正気?え~~と、それは………どういう意味でしょうか?」


ライサは質問の意味が分からずに混乱してしまった。そんなライサにお構いなくアーサーは、矢継ぎ早に質問攻めにした。


「あの小娘に、おかしな所はなかったかどうか聞いているのだ。普段と変わりはなかったか?いきなり笑いだしたり、脈絡のない事を喋り出したり……そういった奇行がないかどうかだ」


「それは…………」


ライサは一瞬口ごもった。もしかしたら、アーサーはセシルの思惑に気付いた上でそれとなく探りをいれているのではないかと疑ったのだ。


しかし、アーサーからはそんな思惑は感じ取れなかった。むしろただ純粋に心配………というより、セシルの状況を確認しているだけのように感じられた。


「いえ、陛下に別段おかしな所は…………なかったと思いますけど」


「そうか。ふむ………‘血の契約’から半年たっても、まだ正気を保つか。さすがというべきか……まぁ、この程度で狂われても拍子抜けだがな」


アーサーはカカカカカ……と愉快そうに笑っていた。しかし、ライサにはアーサーの質問の意味がまったく理解できなかった。


「………アーサー様、陛下が狂う……とはどういう事ですか?あの日、お二人が交わした‘血の契約’とはいったいどういったものなのですか?」


真剣な面持ちで詰め寄るライサに対して、アーサーは肩を竦めながら淡々とドラゴンの‘血の契約’について説明した。


「…………‘血の契約’とは、ドラゴンが他の種族と取引をする時に用いるものだ。だが……人間族・魔族・エルフ族・ギガン族・ドワーフ族……このどの種族にも言える事ではあるが、ドラゴンに比べてあまりにも貧弱すぎるのだ。特に人間族など、魔力も込めていない刃物で簡単に死に至り……疫病や天災などでもすぐに死ぬ。これでは取引をする側としては困るのだ………だから我らドラゴンは‘血の契約’を執り行う。ドラゴンの血には特別な力がある………ドラゴンの血を飲む、又はそれを浴びた者はドラゴンの加護の一部を受け継ぐ事ができるのだ。具体的には、疫病や病魔にも罹らなくなり……幾分かは筋力や魔力も向上する……さらには首でも斬り落とされない限り死ぬ事もなくなる、まぁ……半分不老不死になるという訳だ」


「………」


ライサは黙ってアーサーの話を聞いていた。今までの話を聞く限り、どうしてセシルが狂うのかという事については分からなかった。アーサーはさらに続ける。


「しかし………ドラゴンの血は他の種族にとっては毒性が強すぎるのだ。はるか昔……傷つき、動けなくなってしまった我が同胞に、愚かな人間族の国が何万もの軍勢を差し向けた事があった。カカカカカ……人間共は都合良く解釈するものだな。我らの生き血を飲めば、何の代償もなく不老不死になれるなどと。まぁ……我が同胞といえどもかなり衰弱している状態であったために、無残にも殺されてしまったそうだ。だが、同胞も最後の力を振り絞り、飛ぶ事もできぬ体で誇り高く闘い抜いた……………有能な兵士・傭兵・魔法使いをかき集めた精鋭部隊だったようだが、かなりの犠牲を出した。そして生き残った者たちもみな等しく、ドラゴンの返り血を大量に浴びる事になったのだ。そして………カカカカカカカ……その全員が狂気に落ちた……それからその国はどうなったと思う?」


アーサーはライサの方へと振り返るとその口の端を吊り上げる。それは人間の愚かさを嘲笑っているような笑みだった。


「………分かりません」


ライサはそういうのが精いっぱいだった。


ライサがアーサーがドラゴンであるという事を再認識するのはこういう時だった。普段は人間の姿をしているため改めて意識する事もないのだが、彼らにとって人間とは自分たちにとっての蟻のような存在なのだ。


蟻がどうなろうと人間の自分たちが気にしないのと同じく、アーサーにとって人間がどうなろうとそれは結局は些細な事なのだ。ライサが‘ルードンの森’で初めてアーサーに会った時、アーサーは動けなくなった近衛騎士に止めを刺した。


ライサは後に、アーサーをその事で非難した。確かに斬りかかったのは近衛騎士が先だが、彼はすでに闘う事すらできなかったではないかと。すでに助からなかったかもしれなかったが、彼だって誰か大切な人へと伝えて欲しい思いがあったかもしれないではないかと。


しかし、それを聞いたアーサーは今のように口元を吊り上げて笑ったままだった。そして、考えておこうと心にもない事を言っていたものだ。


アーサーはまるで愉快なおとぎ話でも話しているかのように、楽しそうだった。


「カカカカカ……滅んだそうだな。我が同胞の生き血を浴び、狂気に落ちたその国の最精鋭の軍勢が自らの国に襲いかかったのだ。都は惨劇と化したそうだぞ?兵士たちは自らの家族や知人をその剣にかけ、建造物のすべてを燃やし尽くした………群雄割拠だったその時代、そんな混乱の隙をついて他国にあっという間に攻め滅ぼされたそうだ。自業自得とはまさしくこの事だ…………代償なくして力が得られぬのはこの世界の理だというに。まぁ……とにかくだ……ドラゴンの血は様々な恩恵を与えもするが、それと同時に身を切り裂くような痛みと狂気の誘惑に常に晒される事になる」


「そんな…………で、では、陛下はそれを知った上で‘血の契約’を交わしたというのですか?」


「そうだ……あの小娘は、今なお……この世のものとは思えない激痛に晒されているはずだ。そして、いずれ必ず正気を失う事になり、死に至る。………助かる術はない。遅いか早いかの違いしかありはせんのだ。小娘はそれを承知の上で、我と契約を交わした。それだけ小娘は自らの野望に命を懸けている訳だ…………まぁ、我としては後1年半狂わないでいてくれればそれでいいのだがな」


アーサーは心底どうでも好さそうに呟くと、呆然とするライサを残してセシルの執務室へと向かっていった。

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