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王たちの宴  作者: スギ花粉
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この意味 竜王編

え~~竜王編の時系列は北の王編も終わり、ちょうど盗賊王編あたりだと思って下さい。もうすぐ魔王編に追いつきますね。では、楽しんでいただけたら幸いです

「………暇だ」


アーサーは窓枠に腰かけながら、心底つまらなそうにつぶやいた。窓からは活気ある街並みが見えている。


ここはドラグーン王国・王都・アセリ―ナ。その中央にそびえたつ主城に急遽設置された王室直轄特務調査室長官の執務室である。


ケープラス山地での闘いの後、西から味方を装って強襲したウェンデル家の軍勢によってこの王都では血みどろの争いが繰り広げられたが、今はすべての後始末が終わり、何事もなかったかのように日常を取り戻しつつあった。


イライザ王妃……そして、ドラグーン王国第一王子ビリオン・ドラグーンは反逆の罪で討ち首。さらにはイライザ王妃に与したヴァンディッシュ家を始め、それに連なる諸侯たちも徹底的に粛清された。


今やドラグーン王国三大名家も、ウェンデル家とヴェラリオン家の二つとなってしまった。そしてヴェラリオン家の当主・デニス・ヴェラリオンは宮廷への介入を避けるという方針をとっているため、宮廷はヴァンディッシュ家という敵対勢力を失ったウェンデル家の天下となっているらしい。


だが、ドラゴンのアーサーにとってはそんな事はどうでもよかった。人間たちの権力争いなどにまったく興味はないのだ。


アーサーはケープラス山地でヴァンディッシュ家の軍勢を焼き払ってからは、特に何をする訳でもなく毎日酒を飲んで過ごしていた。


「………おい……チビ助」


アーサーがそう呟いた瞬間……バン!!……と何やら机を思いっきり叩く音が、部屋の一角から聞こえてきた。そこには大量の書類が積み重ねられ、紙束の峰が形成されていた。


そして、その紙束の山の中から怒気を含んだ甲高い声音が聞こえてくる。


「だ~~か~~ら~~………私にはライサ・マーティンっていう名前があるって言っているでしょうが!!」


その大量の書類の山をかき分けるようにして栗色の瞳をし、栗色の髪をした小柄な少女が現れた。


没落してしまったマーティン家の現当主であり、横領などの不正を暴くことを主な目的として新しく設立された役職である、王室直轄・特務調査室の初代長官である………ライサ・マーティンである。長官といっても、現在はライサ以外にメンバーはいないのだが。


その初代長官は額に青筋を浮かべながら、ふ~~ふ~~と息を荒くしている。


「……………」


アーサーはそんなライサをつまらなそうにじと目で見つめる。最初の頃はチビ助と呼ぶ度にギャンギャン騒ぎ立てる様子が面白くてからかっていたのだが、最近は少し飽きてきた。


はぁ~~とアーサーはため息と共に窓の外に視線を移した。しかし、ライサにとってはその態度が癇に障ったようだった。


「ち、ちょっと!!アーサー様!!何で無視するんですか!!だ、だいたいですね……何度言ったら私の事を名前で呼んでくれるんですか!!」


ライサはさらにギャンギャンと喚き散らしている。アーサーはほんの少しばかり話しかけた事を後悔し始めていた。


「…………ふん。一々反応するという事は自ら認めている事と同義ではないのか?」


「ち、違いますよ!!」


「カカカカカ………お前が人間族の平均を著しく下回っているのが問題なのだ。そう呼ばれたくなかったら、チビ助……早く人並みに成長して見せよ」


くいっと徳利からドラグーン王国産の酒を飲み干すアーサー。


「………」


ライサはしばらく鬼のような形相でアーサーを睨んでいたが、黙ったままくるりと身を翻し部屋を横切っていった。


そして入口近くに飾ってある、見るからに高価そうな壺をおもむろに手にとった。そして…………


「どっせーーーーーい!!」


淑女とは思えないような気合の入った掛け声とともに、壺をアーサーに向かって思いっきり振りかぶって……………投げつけた。


頭に血がのぼると、考えなしに行動してしまう所がマーティン家の美徳でもあり…………悪い所でもあった。


「…………ふん」


しかし、アーサーは凄まじいスピードで飛んでくる壺に別段慌てる事もなく、窓枠から立ち上げるとその腰に吊るしている双剣を抜き放った。


そして目にも止まらぬ速さでその両剣を振るう。すると、あっという間に輪切りにされた壺が絨毯が敷いてある床に落下し、ガシャガシャと凄まじい音を響かした。


そして、アーサーはまるで何事もなかったかのように窓枠に腰を下ろし、酒盛りを再開してしまった。


「く~~~~~!!」


それを見たライサは言葉にならない声を発しながら、地団太を踏んだ。


(わ、私を怒らせたらどういう事になるか………思い知らせてあげましょう!!)


そう心の中で叫ぶと、ライサは近くに飾ってあった西洋風の鎧にゆっくりと近づいていき…………


「ふ~~~~~……………ふん!!」


ライサは掛け声とともに、西洋風の鎧をふらつきながらも両手で持ち上げた。そして、窓で腰かけているアーサーに向かっておぼつかない足取りではあるがゆっくりと近づいて行った。


アーサーに向かってそれを投げつけようという意図らしい。アーサーはまったく振り向かなかったが、気配でライサが何をしているのかはしっかりと感じ取っていた。


そして…………ため息と共に一人ごちた。


「……………馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが。ここまでとは」


アーサーは呆れ果てているようだった。しかし、ライサは猟奇的な笑みを浮かべながら確実に一歩一歩近づいていく。


(ふ……ふふふふ!!アーサー様………私の恨み!!思い知って下さい!!)


ライサがまさにアーサーに向かってその鎧を投げようとした瞬間、部屋の扉がノックされ侍女が入ってきた。


「特務長官様。陛下が至急執務室の方に来るように……と………ひ!!」


だが、侍女は凄まじい形相で西洋鎧を持ちあげ、プルプル震えているライサを見て悲鳴を上げてしまった。


そして、突然の悲鳴に驚いたライサは遂………鎧を持ち上げている腕からつい力を抜いてしまった。


「へぇ?……あ…………ぎゃふ!!」


ライサはそのまま、自分よりも大きな西洋鎧に押し潰されていった。





=================    ==============




ライサは扉を控え目にノックした。すると、しばらくして中から入りなさいというセシルの声が部屋から聞こえてきた。


「陛下……王室直轄特務調査室・長官・ライサ・マーティン。只今参上いたしました」


ライサはセシルの執務室に入った。セシルの執務室は中央に執務机があり、そして向かって右側には様々な資料や本がきれいに本棚に整頓されていた。


しかし、一番目を引くのは向かって左側の壁である。そこには巨大な大陸の地図が張りつけられているのだ。祖国であるドラグーン王国が大陸の西に位置し、北には‘ルードンの森’がそして南には‘大砂漠’が広がっている。


大陸の中央には、スタットック王国の文字が新しく書き加えられていた。そして、かつてそこに建国されていた神聖帝国の文字はすでにない。


大陸の東には‘ドルーン山脈’と‘大砂漠’に挟まれた魔族たちの国………魔国の文字が書き加えられていた。詳しい事は分からないが、魔王という存在がその国をまとめ上げているという話だった。


そしてその地図には国名だけでなく、その国にとって重要な拠点や要害なども細かく書き込まれているようだった。セシル・ドラグーンが大陸制覇を目指しているという事が、それを見るだけでも簡単に分かった。


セシルは執務室で報告書か何かを読んでいたが、ライサが机の前まで来るのを確認するとそれを机の上に置いた。


「???………ライサ、その頭の包帯はどうしたの?」


セシルは心配そうにライサの頭を見つめていた。それに問いに対してライサは恥ずかしそうに答える。


「いえ……アーサー様に鎧を投げつけようとしたのですが、その下敷きになってしまいまして……ですが、大した怪我ではありませんので…………」


その答えを聞いたセシルは少しだけ胡乱げな視線をライサに投げかけたが、それ以上深く追求しようとはしなかった。


「………………そう、それは何より。さて………ライサ、調査を頼んだ諸侯たちの件はどうなっているかしら?」


「はい、ほぼ間違いないと思います。賄賂・脱税・汚職だけでなく、殺人や強姦などの犯罪のもみ消しなど……何かしらの不正行為を行っている事は明らかです。しかし……」


ライサは少し恥ずかしそうに言い淀んだ。セシルはそんなライサの様子を見るだけで、すべてを察したようだった。


「なるほど……証拠がないという訳ね」


セシルは腰まで伸びた金髪を人さし指にからめながら嘆息した。


「はい……恐らく諸侯の方々の主城や屋敷などを強制捜査でもしない限り、見つからないと思います」


「ライサ、あなたが恥じる事はないわ。ここまで辿りつけただけでも、あなたの能力に疑いの余地はないのだから。むしろ………決定的な権限を与えて上げられない私に責任があるわ。………王室直轄特務調査室は、私が子供の頃から考えていた事よ。ドラグーン王国では今や賄賂や汚職が当たり前のように横行している………私にはこのドラグーン王国の王族として、この国を‘理想の国’に導いていかなければならない責任があるわ。それにはまず、国に害をもたらすような諸侯は摘発しなければならない。ライサ……辛い任務になるとは思うけど、やり遂げてくれるかしら?」


「はい……どれだけ祖国に貢献できるかは分かりませんが、全身全霊をかけて頑張らせていただきます」


セシルはライサのその心強い返事に満足そうな微笑を浮かべた。その後、セシルとライサは王室直轄特務調査室の予算や新たな人員について詳しくつめていった。そして話がひと段落した所で、話はアーサーの事へとうつっていった、


「ライサ……最近のアーサー様の様子はどうかしら?」


「はい……相変わらずお酒ばかり飲んでおられますが、最近は私の執務室から動かずじっとしてくださっています。もう鍛錬場に乗り込んだり、行方不明になったりはさすがにもうありません。未だに私の事を名前で呼んでは下さいませんが……」


しかし、アーサーの事を話しているライサは心なしか楽しそうだった。何だかんだいってアーサーとの一連の騒ぎが嫌いではないライサであった。


「……………そう」


しかし、セシルはライサの様子と答えを聞き、何やら考え込んでいるようだった。


「???」


そんなセシルの様子を不審に思いながら、ライサはずっと感じていた疑問を思い切ってぶつけてみた。


「陛下、本当にアーサー様と本気で闘えるようなものが人間族にいるのでしょうか?私にはどうしてもそんな存在がいるとは信じられないのですが………」


これはあの日以来ずっと考え続けている事だった。ライサはドラゴンとしてのアーサーを目の当たりにしているだけに、どうしてもドラゴンに打ち勝つような者がいるなど信じられなかったのだ。


しかし、それを聞いたセシルは怪訝そうな表情をみせた。そして、こう切り返した。


「………………ライサ、あなたは何を言っているの?」


「え?……いえ、ですからあの日アーサー様と……」


しかし、セシルはそのライサの言葉をため息と共に少し乱暴に途中で遮った。


「はぁ~~……いい?ライサ。ドラゴンとは至高の存在とまで呼ばれているわ。悠久の時を生きる事を許され……そして無限ともいえる魔力を有していると云われている。炎・氷・光・闇・風という魔法5属性すべてをつかえるという唯一無二の存在。そのブレスは鋼鉄の鋼さえも容易に溶かし、この世の何よりも固いといわれる鱗という鎧を纏い、その牙と爪は岩山でさえも簡単に粉砕できるといわれているのよ?そんな神にも等しき存在に勝てるような人間がいる訳ないでしょう?」


「はい?し、しかし陛下は……あの日アーサー様との約束で……」


混乱するライサとは対照的にセシルは、先ほどまで読んでいた資料に手をとり目を通しながら淡々と続ける。


「1000年前、このドラグーン王国は大陸の半分を支配下においていた………それは間違いなく、第3王女であるアラニス・ドラグーンが、ドラゴン騎士・ディーンを使役する事ができたからだわ。その何万もの軍勢に匹敵する強大な力を持ったドラゴンがいきなり空から現れ、城壁を壊し、敵兵を炎のブレスで焼き払う。天空の支配者と呼ばれる彼らにとっては、行軍できないような地形も距離さえも問題にならない。…………まさに絶対的な‘力’そのもの。大陸を制覇するにはぜひにとも、アーサー様の力が必要だったのよ」


「そんな……で、ですが、もし2年以内にアーサー様を決闘で倒せる者を見つけ出さなければ、ドラグーン王国はアーサー様に滅ぼされてしまいます!!」


アーサーとセシルがあの日‘血の契約’を交わした所に居合わせたライサは、狼狽してしまう。しかし、セシルはいたって冷静なままだった。そして、セシルを纏う雰囲気が少しだけ変わった。


「………ライサ、なぜあなたをアーサー様の傍に置いていると思っているの?まさか、アーサー様が無茶をしないように見張るためだけとでも思っていたの?………大陸制覇を成し遂げるまでは、アーサー様は本当に頼りになる味方といえるでしょう。しかし、大陸制覇をなしたその瞬間から………………アーサー様は頼れる味方から、私たちが倒さなければならない敵となる。この意味が分かるわね?ライサ」


「そんな………」


セシルが何を言おうとしているか察したライサは、ほんの少しだけ後ずさった。セシルの見えないプレッシャーに押されてしまったのかもしれなかった。


セシルはじっとしばらくライサをその冷たい目で見つめると、はっきりとした口調でこうしめくくった。


「ライサ………あなたは常にアーサー様を監視し、同時に絶対の信頼を得るようにつとめなさい。そして、アーサー様に関してのどんな小さな事でも良いから見つけるのですよ……………ドラゴンの弱点と呼べるようなものをね?頼みましたよ……ドラグーン王国の命運はあなたにかかっているのですからね?」


セシルは本当に酷薄な笑みを浮かべていた。


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