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王たちの宴  作者: スギ花粉
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え~~お久しぶりです。スギ花粉です。いや~時間がなくて書けませんね。では楽しんでいただけたら幸いです。しばらくはこんな感じで不定期更新になりますが、よろしくお願いします。うまくいけばまた毎日更新できるようになると思いますので。

「レ、レン……ちょっと落ち着い「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


カイが何とかレンを説得しようとした時、森の奥から若い女性らしき者の悲鳴がそれを遮った。それを聞き、瞬時に二人とも表情を厳しいものへと変える。


レンは近くに横たえていた自らの真っ赤な槍を握りしめると、身を翻し目にも止まらぬ程の機敏な動きで悲鳴が聞こえた方へと走り出した。


カイもすぐに立ち上がり、すぐにレンの後を追おうとしたが………ここが森の中である事を思い出し、動きを止める。


先ほどまでの夕食の火の後始末などをしていない事に気付く。下手をすれば山火事になりかねない。瞬時にそう判断したカイは、レンの後ろ姿に向かって叫ぶ。


「レン!!先に行ってくれ!!俺もすぐに後を追うから!!」


「…ああ!!」


カイが叫んだ時には、すでにレンの姿は森の中へと消えていった。






================  森の中   =================





「はぁ……はぁ……はぁ……」


ブロンドの長髪をした人間族の女性は、息を切らしながらも懸命に走っていた。歳は十代後半といった所だろうか……着ている服も質素なもので、片田舎の町娘といった印象を受ける。


女は走りながら後ろを振り返った。すると、バッと自分が今出てきた藪の中から一際大きな体をしたオ―ガ族が飛び出してくる。その巨躯に似合わずに、凄まじいスピードで人間族の女との距離を少しづつ詰めていく。


女は青ざめながら、必死に走った。すでに森の中を突っ切って走り続けたために、体中は枝や藪などで傷だらけだった。


しかし………遂に追いつかれてしまいガシっと二の腕を掴まれ、凄まじい力で引き寄せられてしまう。


「いや!!お願い!!来ないで!!助け………ぐ!!」


女は呻き声を上げてゆっくりと気を失った。その女の腹にはオ―ガ族の一際大きな拳が叩きこまれていた。


「…………」


拳を叩きこんだオ―ガ族は地面にその人間族の女を雑に転がした。その手には巨大なこん棒が握られている。


オ―ガ族がしばらく息を整えながらその場に佇んでいると、暗い森の奥から気味の悪い笑い声と共に、若い人間族に担がれた人間族の老人が現れた。


「ヒョッヒョッヒョッヒョ………さすがは盗賊・鷹の団の副頭領を務めておられたカメ―ン殿ですな。手際が素晴らしい」


ヒョイ…と背から下りると杖をつきながらゆっくりと近づいてくる。その老人を担いでいた召使いは地面に腰を下ろして汗をぬぐっていた。


「………御託はいい。さっさと済ませろ………早くここから離れるぞ」


カメ―ンは少しばかり急かすかのように言った。しかし、それを聞いても老人はまったく動じない。


「ヒョッヒョッヒョッヒョ……何を慌てる事がございますかな?こんな森の奥に誰かがいる訳もございませんよ。まぁ……この娘にあの‘商品’たちを見られてしまったのは儂らの不注意でしたが………ヒョッヒョッヒョ……労せずに‘商品’がもう一つ増やせて儂としてはありがたい限りですじゃ。ヒョッヒョッヒョッヒョ……この娘もなかなかの上玉のようですし、少し品定めでもしておきますかな。こりゃ!!いつまでそこで休んでいるのじゃ!!さっさとこ奴を馬車まで運ばんか!!」


その喝を受けて地面にへたり込んでいた召使いは、慌てて立ちあがると女を担いで運び始める。


「ヒョッヒョッヒョ……では、カメ―ン殿も早く戻って下され。スタットック王国が復国して、最近はこの類の商売もしにくくなっておりましてな…………まったく神聖帝国の頃は、魔族に対してだけは規制が緩かったのでボロイ商売だったのですが……おっとカメ―ン殿の前でいう事ではございませんな」


「………別に気にしない。俺も同類のようなものだ」


「ヒョッヒョッヒョ……そうですか。まぁ……後少しで出発しますのでな?カメ―ン殿も遅れませぬようにお願いしますじゃ」


嫌らしく笑いながらひょこひょこ…と森の中へとはいっていく人間族の老人を、カメ―ンと呼ばれたオ―ガ族は何も言わずに見つめていた。


「…………」


カメ―ンはずっと嫌な感じをぬぐいきれずにいた。子供の頃から自分には変に感の良い所があった………そのおかげで今も生きていられるのだが。


南の大砂漠で、ギガン族達が暮らしているチャングル山という所を大挙して攻めた。砂漠中の盗賊達をかき集め、4万もの頭数を揃えての攻撃だった。


自分は初めからあまり乗り気ではなかったのだ。兄が何とかという商人に、チャングル山には大量の宝石があるからと唆されての事だったが、自分はその話をあまり信じていなかった。


何度かギガン族の小さな集落を襲った事もあるが、宝石など欠片ほどしか見つからなかったのだから。


それでも兄の決定には逆らわなかった……いや、逆らえなかったというのが正しいのかもしれない。オ―ガ族の中でも兄は一際体が大きく、自分などが意見できるような存在ではなかったのだ。


そんな兄も死んだ………あの総攻撃を翌日に控えた夜、オガン・ストレイユとか名乗ったギガン族の男に殺されたのだ。


確かにあのギガン族はかなりの強さだった………いったい何十人の仲間が殺されたか分からない。しかし、それも時間の問題だったはずだ。しっかりと取り囲んでいたし、明らかに動きも鈍くなってはいたのだ。


わざわざ兄が相手をする事もなかったはずなのに…………兄にはそういう軽率というか……迂闊な所が昔からあった。


兄が死に、主だった盗賊団の頭が殺された段階で自分は一人でその場をすぐに離れた。今感じているような嫌な予感がしたからだ。


そして、それは正しかった。そのすぐ後に魔国の正規軍が大挙して押し寄せてきたのだ。魔国がなぜ動いたのか……初めはよく分からなかったが、今の現状を見ればそ大体の予想はできる。


元々魔国は砂漠に流通拠点が欲しかったのだ……きっとギガン族にも以前から交渉していたに違いない。


今思えば、包囲網を突破した何者かがいたという報告を無視したのも間違いだったかもしれない。しかし、それもすべて後の祭りだ。


「…………はぁ~~」


カメ―ンは深い深いため息を吐いた。ともかく……何とか危機一髪で逃げる事に成功し、魔国へと秘かに戻った。


そして、そこで見た光景は未だに忘れられない。国が………国がそこにあったのだ。


自分が南の大砂漠へと兄と共に渡ったのは30年も前の話だ………いや、たった30年しかたっていないはずなのだ。それが………こうまで変わるというのか。


魔族はもともと好戦的な種族だ……誰もが自分が一番強いと思い、上に立たれるのを嫌う種族。反目し、血みどろの戦いを長年繰り広げていた種族だ。


何千年も魔族には‘王’という存在はいなかった。必然的に国という存在もなく、部族がより集まっていただけだったのだ。


……………知ってはいたさ。ヴァンパイアが……人狼族が……リザードマン族が……巨人族が……同胞であるオ―ガ族さえも神聖帝国に襲われ、住んでいた土地を追いやられている事くらい。


しかし……自分にいったい何ができたというのか。神聖帝国は強大だった…………情けない事に逃げる事しかできなかったのだ。


信じられなかった………そんな魔族たちをまとめ上げられる者が現れるなど。あの神聖帝国に真っ向から闘いを挑む者が現れるなど。


初代魔王・ギルバート・ジェーミソン。魔人族の20歳にも満たぬ男だ。そんなどこにでもいそうな魔族が……あの巨人族の協力を取り付け、‘壁’という前代未聞の建造物までつくりあげた。あの‘壁’がなかったらと思うと寒気がする………すでに大陸の東方は神聖帝国の領土となっていただろう。


かの者はいったいどこまで考えていたのだろうか。国という構想を考える事など誰にでもできる。それを実現させるなど。


そして、二代目魔王・カイ・リョウザン………神聖帝国を滅ぼし、そして人間族の国であるスタットック王国との同盟まで成し遂げた異世界人。


当然……人間族を怨んでいる魔族は多い。だが………攻め込まれる心配がないという安心感。家族といつまでも共に暮らせる………死から離れた生活………多くの家族が待ち望んだ幸福がそこにはあった。


好戦的とはいえ、魔族に心がない訳ではないのだ。


「……………」


遠くから見た同胞たちは本当に誇らしげだった。今は魔国の兵士として……警備兵として……国のために日々働いている姿は、胸を張っているようにも見えた。


それに比べて………………自分の何と恥ずかしいことか。スッと自分の手を見つめる……その血塗られた手を。


仕方がないではないか。ずっと盗賊を続けていたような俺だ………すでに手配書も出回っている。そんな俺が生きていくためには、裏社会での用心棒をするぐらいしかないのだ。


あの爺は奴隷が禁止されていた神聖帝国の頃からずっとこんな人攫いのような事をしているらしい。根っからの悪党だ……………俺と同じ……な。


カメ―ンはもう一度深くため息を吐き出しながら、攫った奴らを繋いでいる馬車がある所へと戻ろうとした。


だが………………ピタっとその歩みをとめた。何やら、前方の茂みから凄まじい気を感じ取ったのだ。しばらくじっとそちらを見つめるカメ―ン。そして…………バッと何かが飛び出してきた。


その茂みから飛び出してきたのは…………人攫いの爺だった。


「カ、カメ―ン殿!!た、助け……グフ!!」


しかし、茂みから出た瞬間………その貧弱な体から鋼が突き出された。爺は助けを求めるかのように、こちらに手を伸ばしかけたが、その手は途中で力を失った。


爺の胸を貫いていた鋭利な鋼が、一気に引き抜かれる。爺はそのままゆっくりと地面に倒れた……おそらく即死だろう。


「…………」


カメ―ンは油断なくじっと爺の後ろにいる何者かに注意を向ける。


その人物はさきほどのブロンド髪の女性を片手で抱きかかえながらも、自分に向かって真っすぐに得物を構えるローブを着た人間族だった。


「…………貴様も……こいつらの仲間だな?なるほど………人攫いの仲間という訳か」


その声音からかなりの怒気が感じられる………尋常ではない殺気もだ。


「…………」


カメ―ンは内心で舌打ちをした。あの爺が名前を呼ばなければ、しらを切る事もできただろうに。


(死ぬなら、勝ってに死ね。俺まで巻き込みやがって……)


カメ―ンはゆっくりとこん棒を構えた。これでも盗賊という荒くれ者たちをまとめ上げてきたのだ。ある程度、腕には自信がある。


相手をよく見てみる。シルエットからも分かる通り、筋骨隆々という事はない……むしろ線が細いといえるかもしれない。


しかも、今は先ほどの女を抱きかかえている。かなり動きが悪くなるはずだ……勝機はある。


暗闇で顔はよく確認できない………というより自分には人間族の性別の区別があまりつかない。まぁ、男でも女でも関係ない。どちらだろうが………殺すだけなのだから。


カメ―ンは、静かに息を整え……………一気に踏み込んだ。相手はまだ動かない。


こん棒を思いっきり、横殴りにする…………殺った!!そう思ったが、ブンっとこん棒は空を切る。目の前にいた相手と女が一瞬にして消えた。


だが、カメ―ンはしっかりと目の端に捉えていた。


「甘い!!上だ!!」


カメ―ンは空を見上げ、跳躍しようとする。しかし、そこで違和感を覚えた。見上げた空には気絶しているらしいあのブロンド髪の女しかいなかった。かなり高く舞い上がっている。


カメ―ンは背に嫌な汗が一気に噴き出した。


(何!!どこだ!!あのローブを着た人間族はどこ……ぐ!!)


ゴハ!!………カメ―ンは口から大量の血を吐いた。そして、ゆっくりと目線を下に向けると己の胸から鋭い切っ先が突き出されていた。


「馬鹿………な………あの一瞬……で……後ろにまで………回り込んだ…だと」


カメ―ンは地面に膝をつき、ゆっくりと前のめりに倒れ始める。そして少しづつ近づいてくる自らの血だまりを見つめながら、カメ―ンは自虐的にこう思った。


(…………いつものように……さっさと逃げとけば………よかっ………た)


そしてカメ―ンは、意識を完全に失った。




===================     ======================




オ―ガ族から得物を一気に引き抜き、返り血を浴びないように飛び退る。そして、跳躍し落下してくるブロンド髪の女をやさしく抱きとめた。


「うぅぅ………う~~ん………え?え?」


気絶していた女は苦しそうに魘されていたが、衝撃を受けて気がついたようだった。そしてブロンド髪の女性は自分が抱きかかえられているのに気付き、慌てて逃げようとする。


それをやさしくも……しっかりと抱きとめ続ける。


「…………安心してくれ。………あいつ等の仲間ではない、通りすがった時に君の悲鳴が聞こえたものでな………助けに来たんだ」


「ほ、本当に?」


「……ああ。大丈夫か?乱暴などされていないか?」


女性はフルフルと力なく首を横に振った。それを見て心から安堵したような表情をみせる。


「……そうか………随分、恐い思いをしたのだろうな」


それを聞き涙をためていく女性。そして、ギュッとローブを強く掴む。それをしっかりと感じ、やさしく語りかける。


「………こんななりをしているが………‘私’も女だ。気持ちは痛いほど分かる………もう大丈夫だからな」


「うぅぅぅぅ………うぅぅぅぅ……」


スタットック王国の森の奥底に、女の子の嗚咽が静かに消えていった。






=================     ===================





「レン!!」


火の後始末を終えたカイは、すぐにレンの気配を感じ取りながら後を追っていった。そして、森をいくらか進んだ所で追いつく事に成功する。


そこは森の中にも関わらず、少し木々が少なく………ひらかれた場所になっていた。そしてそこには一際大きな馬車と…………武器を持った人間族やゴブリンなどの魔族が何人も血を流して倒れていた。


「…………」


レンはその真っ赤な槍を持ち、厳しい表情をしながら一際大きな馬車に掛けられている布をめくって中を覗き込んでいた。


カイが周りに倒れている者たちに注意を向けながら、レンの方へと近づいていくと………


「来るな!!」


レンが大声で叫んだ。あまりの剣幕に、驚きながらも歩みを止めるカイ。


「……レン」


「………すまない。だが、頼む。来ないでくれ………彼女たちの尊厳のためにも」


レンは怒りに身を震わせているようだった。それを聞き、カイもその‘馬車’がどういうものであるのか大体の想像がついた。


「…………」


カイは厳しい表情を崩さずに、倒れている者たちを見る。人間族の比率が多いようだが、ゴブリンやオークなどの魔族も何人か混じっていた。


盗賊の類か……または人攫いなのかは分からないが、仲間割れでもあったのだろうか。しかし、仲間割れが起り全滅したとは考えにくい………というより全員が一方的に殺されたように見える。


レンはゆっくりとカイの方へと近づいていく。


「…………カイ。確かこの近くに町か村があったはずなんだ。少しルードンの森へ着くのが遅くなるかもしれないんだが………」


「大丈夫だよ……レン。俺もだいたいの状況は分かってるつもりだから………」


レンはコクっと黙ったまま頷いた。顔の下半分を黒いマスクで隠していたが、その目には凄まじい怒気が感じられる。何とか理性で抑えつけているという印象を受けた。


「…………まだ油断はできないぞ……カイ。……俺も最初は仲間割れかとも思ったが、これはそうじゃない。一方的に殺されている………かなりの腕とみた。そいつはこの森のどこかにまだいるは………」


しかし、レンがそこまで言った所で二人はバッとどちらからとも言わずに離れ、同じ方向に向き直り構えをとった。


レンはその真っ赤な槍を両手で持ち上げ、頭より高く構える。炎の魔力が込められた槍は、赤いオーラを放つ。


カイは両手に鉄鋼のついて手袋をはめ、闇の魔力を込めていく………両手を漆黒のオーラが纏う。


森の奥から凄まじい闘気が感じられたのだ。怒気に近いかもしれない。何者かは分からないが、その闘気を隠す気はないようだ。少しづつ少しづつこちらに近づいてくる。


カイとレンは目配せをして、その何者かに備えた。カイは深く息を吸い込み……ゆっくりと吐いていく。


ガサガサと藪をかき分ける音がしっかりと聞こえるまでになった。カイは相手の姿が見えた瞬間、一気に突っ込もうと考えていた。


しかし………そこから現れたのは、カイがもっともよく知る人物だった。


「………カイか?」


麻色のローブを纏い、肩にかかるか否かくらいにまで伸ばされた流れるようなきれいな白髪。そして腰には、この異世界では珍しい刀を吊るしている。


「カエデ!!」


そう………森の奥から女の人を抱きながら現れたのは、カイと共に異世界に召喚された光の勇者であり、カイの幼馴染でもある………………水月カエデだった。


感想は本当に励みになります。ぜひ、お願いします。

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