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王たちの宴  作者: スギ花粉
162/200

決断

え~~スギ花粉です。楽しんでいただけたら幸いです。では、どうぞ~~

カイに別れを告げたレンは、魔国とスタットック王国との境にある……神聖帝国の攻撃を防ぐために建設された難攻不落の要害である‘壁’から通してもらい、大陸北西部に位置する‘ルードンの森’を目指していた。


今は、スタットック王国内(旧神聖帝国領地)の名もない森の中を凄まじいスピードで駆け抜けていた。整備された街道などもあるが、レンは森や崖があろうとそこを避けずに‘ルードンの森’へと最短距離を突き進んでいるのだ。


「……………」


一人無言で森を駆け抜けていく。‘ルードンの森’近くには今や、スタットック王国軍が派遣されており………エルフ族の襲撃に備えているらしい。


調査隊の志願者は直接軍営へと足を運ぶ必要があり、そこである程度の任務の説明や報酬の話などが聞けるらしいのだ。


別に報酬の額によって依頼を断ったりはしないが、ある程度の報酬は頂きたい所だった。蓄えもある程度はあるが、金はあって困る事はない。どんな事があっても、ソロスに借りなどつくりたくなかった。


「…………」


(それにしても………久しぶりだな……一人で旅をするのも)


顔の下半分を黒いマスクで覆い隠しているため、表情は分からないが………レンはふっと少しおかしそうに笑ったようだった。


(……………不思議なものだ。これが当たり前なはずなのに………何だか少し違和感がある)


レンがそんな事を考えていた時、ヒュン!!…っと唸りをあげた何かが前方から飛んできた。


「!!!」


それにすぐに気付き……瞬時に担いでいた荷物を捨て、槍でその何かを叩き落とした。


前方に意識を集中しながらチラっと飛んできた得物を見る………刃物か何かかとも思ったが、どこにでも落ちていそうな木の棒だった。


レンはその真っ赤な槍を高速回転させ、ビタっと構えをとった。そして氣を放ち、辺りを探りはじめる。その何者かは気配を消しているのか…………特段何も感じ取れなかった。


「………………」


レンは警戒心を解かずに、一歩一歩……油断せずに森をゆっくりと進んでいった。


傭兵稼業をしていれば、必然的に恨みをかってしまうものだ。用心棒の時に叩きのめした輩が、人数を集めて復讐しに来た事もある。その全員を叩きのめしてやったが。


森を進んでいき………………見つけた。少し離れた所にある大木の枝に誰かが乗っかっているようだった。


しかし………………そこにいた人物はレンがよく知る人物だった。


「……………ふっふっふっふ。我は貴様を待っていたぞ………遅かったではないか。聞け!!我が名は………………カイ・リョウザン!!」


そこには………木の枝に仁王立ちをして、何やら口調を変えて面白そうに自分を見下ろすカイがいた。


「…………カイか?」


レンは驚いた。それも当たり前だった。何日か前にアゴラスで別れを告げたはずのカイが、スタットック王国のこんな森の中にいるのだ。


よっと……と木の上から飛び降りると、普段通りにレンに近づいていくカイ。


「いや~~~……ごめんごめん。でも、レンには一度でいいから……ちゃんと身をもって理解してもらおうと思ってね。今のは棒きれだから安全だけど、急に槍とか投げられたら危ないでしょ?だから、もう絶対にやらないでね………死んじゃうから」


と………カイは何やら説教くさい事をいいながら、うんうんと満足そうに頷いていたが…………正直、どうでもよかった。


「………カイ。何でお前がこんな所にいる?」


「うん?あぁ……えっとさ………俺にもその調査の依頼やらしてもらえないかな~~ってさ」


「…………何だと?」


その答えを聞き怪訝そうにするレン。


「実はさ、ドラグーン王国のデニス・ヴェラリオンという人から聞いたんだけどね?……ドラグーン王国内で、そのエルフ族の凶暴化は、魔王である俺が裏で糸を引いているって噂が流れてるらしいんだよ。それをうけて鷹派の諸侯にいたっては、魔国に宣戦布告すべきだって主張しているらしいんだ。…………俺としてもそんな根拠のない噂が流れて、魔国とドラグーン王国が戦をするなんて絶対に回避しなくちゃならない。だから、エルフ族が凶暴化してしまった真の原因を調べたいんだ」


「……………だが…………お前には魔王としての仕事があるんじゃないのか?それに、あのリサがよくこんな危険な調査を許可したものだ」


レンが率直な疑問を口にすると、カイは咄嗟に目を逸らした。


そしてあらぬ方向を見ながら、今日も空気がおいしいね~~と訳の分からない事を呟いている。


そんなカイの様子を見たレンは……………


「…………………黙って来たのか」


と半ば呆れた口調でため息を吐いた。そんなレンの様子を見て、慌てるカイ。


「だ、大丈夫だよ!!それにエルフ族の調査は、立派な仕事だからさぼった事にはならないしね!!」


「…………それにしても………よくばれなかったな」


「う~~ん……まぁ、どれだけ役に立ったか分からないけど……一応影武者も用意してきたからね」





==============   魔国(数日前)   ==================




            

リサは自分の部屋の中を、うろうろと悩ましげに歩いていた。ぐるぐるぐるぐる…………同じ場所を何度も何度も。


その目元には薄っすらと隈ができており、そのきれいな銀の長髪も幾分か光沢が失われているように見える。


実は昨夜の晩からずっと部屋の中を徘徊しているのだが、本人は時間の流れなど感じないくらいに真剣に考えていたらしく……………先ほど朝日の光を浴びて、初めてすでに朝になっている事に気付き愕然とした表情をしていた。


しかし、それからも部屋の中をぐるぐるぐるぐるぐるぐる………と同じ動作を繰り返し続けている。


(どうしましょう…どうしましょう…どうしましょう…どうしましょう…略……どうしましょう)


リサがなぜこのような行動をとっているのか………その原因は昨夜の晩にまでさかのぼる。





===================     ===============




デニス・ヴェラリオンとカイが二人っきりで話をするという事で、リサは渋々ながらバリスタンと共に執務室を後にした。


「…………」「フォッフォッフォ……」


バリスタンとリサは二人並んで、そのまま廊下を歩いていた。


リサは目に見えて落ち込んでいるようだった。そんな時、バリスタンがリサに話しかけた。


「フォッフォッフォ……さて……リサ将軍、縁談の事について話合わねばなりませんな?」


「………はい、分かっております。私も陛下のために、そのアシャ・ヴェラリオン様について詳しく調べた資料を作成したいと思います。ああ……日取りなどの詳しい日程は後ほどとしても、場所はやはりこのアゴラスがいいでしょうか?それともやはりドラグーン王国に出向いてという形式にいたしましょうか………」


そう極力感情を押し殺したように喋るリサを、バリスタンはやさしげに遮った。


「フォッフォッフォッフォ……リサ将軍、貴方様はいったい何の話をなされているのですかな?」


「???……何のとは?………私は陛下とアシャ様の縁談の話を」


「フォッフォッフォ……いえいえ、勘違いしては困りますぞ?私が言った縁談の話とは、陛下と……リサ将軍………貴方様との縁談の話ですぞ?」


「な!!」


リサはあまりの事に歩みをピタッ……と止めてしまった。そして驚いた表情のままバリスタンをみる。バリスタンはやさしくほほ笑みながら、リサを見つめ返してきた。


「フォッフォッフォ……何を驚く事がございます。私はあの日、あの謁見の間で確かに聞いておりましたぞ?………ギルバート様が、貴方様に婿を娶ってもらうと仰られた事を。そして……そのお相手がカイ様であられるという事も存じております。物事には順序というものがございますからな……先に決まっていたこちらの縁談が先でございます」


「な、何を!!バリスタン将軍!!冗談が過ぎますよ!!わ、私と陛下が…え、縁談など恐れ多い」


「………リサ将軍、自分を卑下にする必要はございませんぞ。貴方様は実力主義の魔国で、その第一将軍という栄誉ある地位にあり、そしてその務めを立派にこなしておられるではありませんか。さらには魔国の交易や経済に至るまで……リサ将軍がいなければこの国は成り立ちません」


「そんな大袈裟な……」


「フォッフォッフォ……大袈裟ではございません。それだけ貴方様は魔国にとってなくてはならない存在なのですよ」


「で、ですが……バリスタン将軍は陛下にアシャ様を推薦したのではないのですか?」


「フォッフォッフォ……確かに私はデニス殿とは古い知り合いであり、できる限り力になりたいとは思っております。しかし…………こればかりは譲れませんな。互いの気持ちも大切ですが………リサ様………陛下の、ひいては魔国の妃として、私は初代魔王・ギルバート・ジェーミソン様の妹君であらせられる貴方様が……もっとも相応しいと思っております」


「そんな」


「フォッフォッフォ……何を驚く事がございます。お二人は息もぴったりではありませんか……お似合いですぞ。ギルバート様も、カイ様とリサ様が結ばれて主従という関係だけではなく……血縁という関係でもカイ様と絆を深めたいと常々語っておりました」


「………兄様がそんな事を」


バリスタンはリサに向き直り、ゆっくりと頭を下げる。


「………私に陛下やリサ様を強制する力はございません。しかし、それはつまり…………誰かに命ぜられるのではなく、自分自身で決めねばならないという事でもあります。リサ様………あなたは、どうなされたいのですかな?」






=================    ================




リサはバリスタン将軍と別れた後すぐに自分の部屋へと戻り……………それからずっとバリスタン将軍に言われた事について考え続けていた。


バリスタン将軍の話では、デニス・ヴェラリオン殿がドラグーン王国に戻るまで3週間あまり。そして、それからすぐに縁談の話をアシャ・ヴェラリオン様に伝えるという話だった。


それから調整なども必要という話だったが、デニス殿もすぐさま準備に取り掛かるつもりだという話も聞いた。つまり………最悪の場合およそ1カ月あまりで縁談が実現してしまうという事だ。


バリスタン将軍は自分にその情報を告げ、別れ際にこう言い残していった。


「フォッフォッフォ………リサ様、もうお分かりですね?陛下は何やら意味もなく、自分には何の魅力もないと卑下しておられますが…………ギルバート様とは違った魅力のある方です。私はアシャ・ヴェラリオン様を存じておりませんが、お二人の相性が頗る良く……そのまま縁談が成功する事も十分にありえるのですよ?……………およそ1カ月ですよ、リサ様。それまでに……………ご決断下さいませ」


グルグルグルグル………限界まで部屋を回り続けながらリサは考え続けた。


リサは昔から重大な決断に迫られた時や真剣に物事を考えなければならない時には、じっとしてられずに歩き続けてしまうという癖のようなものがあったのだ。そして…………


(……………………私は………私はっ!!)


そして………ピタ…………と昨夜の晩からずっとまわり続けていたリサは初めて、その歩みを止めた。しばらくそこに佇み、深く息を吸い……ゆっくりと吐き出す。


そしてリサは、自分の頬を軽く叩いて眠気を晴らした。


「…………よし」


リサは自分を奮い立たせるように一旦帯剣している愛剣をきつく握りしめ、自分の部屋の入り口へとしっかりとした足取りで向かった。


しかし………ドアノブに手をかけようとして、リサはピタっとまたその動きを止めてしまう。


「…………」


そして、コホンと小さく咳払いをすると………くるっと身を翻し、自分の寝室へと戻って行った。それからリサは、鏡台の前に座ると……………自慢の銀の長髪を丹念に櫛ですいていった。






================    ==================




コンコン……幾分か控えめにカイがいるであろう執務室の扉をノックする。


「へ、陛下!!その……は、入ってもよろしいでしょうか!!」


緊張で声が上ずってしまっていた。 しばらく、自分の鼓動の音しか聞こえず………永遠ともいえるような時間が流れたような気がした。そして………扉の向こうからカイから返事がかえってきた。


「…………だ……めだ」


「???……だ、だめとはどういう事でしょうか?」


「……い…ま……いま……とりこみ…ちゅうで」


「こ、こんな朝早くにですか?」


リサは不審に思った。先ほど確認した所によると、デニス・ヴェラリオン殿は今朝早くにアゴラスを出発していったという話だった。


そこでリサはある事に気付いた。


(……陛下は朝方までデニス殿との会談をしていて、少しお疲れなのかもしれません。こ、ここは陛下に休んでいただいた方がいいのかもしれませんね。お、お話はその後でも………)


リサはすーはーすーはーと息を整えて、こほんと咳払いをするとドア越しから話しかける。


「で、では……2、3時間後にまた来たいと思います。その……へ、陛下に聞いていただきたき話もありますれば………」


リサはカイを気遣い、そして自分の心を落ちつけるためにも一度部屋に戻ろうとした。しかし……


「……だ……めだ」


「だ、だめ?えっと……その……ど、どういう事でしょうか?」


いきなり断られたリサは面喰ってしまった。結局……入っていいのか悪いのか分からない。


「い…ま……と、とりこ……み…ちゅう」


「いえ…ですから、時間をあけてまた……」


「だ……めだ……とりこ……み……ちゅう……だめ…だ」


「……………」


そこでリサは嫌な予感がした……というより以前も同じような事があったような既視感とも呼べるようなものを感じたのだ。


(いつ頃だったでしょうか………これは?え~~……ここまで出かかっているんですが……そう!!これは兄様がいた頃に……)


「!!!!」


それを思い出した瞬間、リサは扉を蹴破って執務室に飛び込んだ。


そして突入した部屋の中には……………ギルが昔飼っていた喋る紫色の鳥……通称・ドードルくんがいた。


「……だ……めだ……とり…こみ…だ………めだ」


カイの声音で同じ事を繰り返しながら、扉が蹴破られた事に驚いたのか部屋の天井付近をバサバサと旋回している。


そして、しばらくして机に降りてきたかと思えば……器用に口ばしに餌を食いつまんでいた。その無垢な瞳でリサを見返してくる。


「…………」


無言でド―ドルくんと長い事見つめ合うリサ…………そして机の上にある一枚の紙を見つけ手に取った。そこには簡潔にこう記されていた。


{……………‘ルードン森’という所に行ってきます。しばらくしたら戻ると思うので、探さないでください………カイより}


プルプルプル……とその紙を持ちながら、震え始めるリサ。さらには追い打ちをかけるがごとく……


「……い…ま…とりこみ…ちゅう……だめ…だ……めだ……いまは……とりこみ……」


ド―ドルくんが餌を啄みながら、リサの頭にちょこんと着地した。そして、壊れたスピーカーのように同じ言葉を繰り返し続けた。


そして…………リサはす~~~~~っとこれでもかと思うほど息を吸い込んだかと思うと………



「陛下―――――――――――――――!!!!!!」



魔王城にリサの叫び声が響き渡った。





===========  スタットック王国のとある森の中   =======





「うん!!だから、大丈夫なんだ」


「……………そうか?」


カイから逃走するために用意してきた仕掛けの話を聞いたレンは、リサの怒りようを想像して嫌な冷や汗をかいた。


「いいんだよ。どうせ、判子押すだけだしさ………何なら後で纏めてやればいいんだからね。今はこっちの方が重要なんだし」


「…………カイ、俺は前から思ってたんだが……お前、ギルに似てきたな」


「ま、まぁ……そんな話はいいじゃない。それでさ、まだ答え聞いてないんだけどさ。この仕事、俺も一緒にさせてくれない?もちろん……あの約束は守るさ。でも、それは魔国に戻ってからだよ?どうだろ………足手まといにはならないからさ」


「…………」


何やら考える素振りを見せるレン…………………すでに答えは決まっているのに。そして自分を納得させるためにそれらしい理由をはじき出した。


(………確かにカイがいれば、調査の仕事も捗るだろう。そうすれば……すぐに勝負ができるからな…うん)


レンは先ほどのようにふっとほんの少しだけ可笑しそうに笑った。そして………こう言った。


「…………報酬は…………折半だぞ?」


それを聞いたカイは、嬉しそうにこう答えた。


「もちろんさ!!」


そして二人は一途……………大陸北西部にある‘ルードンの森’へと向かう。





そこに何が待ち受けているのかも………………………知らないままに

ご意見・感想などありましたら。すごく励みになります。




作者の近況報告………作品の内容とはまったく関係ありません。



え~~スギ花粉です。依然も報告したかもしれませんが、自分は今年公務員試験を受験いたしました。そして……複数の試験で1次合格を頂けました!!もう、今年はダメだと思ってたんで、本当に嬉しかったです。これから山場である2次面接の山が待ち構えていると思うとゲンナリしますが………頑張りたいと思います。ですのでペースは落ちる事もあると思います。堪忍下さい。……この作品は依然から明言している通り、すでに最後の結末まで決まっておりますので未完のまま終わる事はありえないと思います。今年中には完結までいけるかな?っと思っています…………本当にできるか不安ですが。


作者のすごく個人的な近況報告でした。すみません。これからも頑張っていくので…この「王たちの宴」をこれからもよろしくお願いします!!

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