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王たちの宴  作者: スギ花粉
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ケープラス山地 竜王編

更新が遅くてすみません。最近忙しくて書けませんでした。では、楽しんでいただけたら幸いです。

「はぁ~~~………ヴェラリオン、お前はまったくもって気にする必要はない。これはすべて俺の見通しの甘さが招いた事なのだからな」


今、アシャはガウエン元帥に呼ばれて本営へと来ていた。そしてその隣にはアシャと同じくガウエン元帥の副将であるエドリック・スターフォールが直立していた。


エドリックは白い鎧をまとい、金髪の坊主頭をし、碧い瞳をしている。いつ見ても、その眉間には不愉快だといわんばかりの深い皺が刻まれている。そして今、その口元には冷笑が浮かんでいた。


「いやいや恐れ入った………俺もまさかこんな短時間で、地図を水びたしにされるとは思わなかった。すまなかったな、ヴェラリオン。俺はお前の事を少し過大評価していたようだ。借りたものをそのままの状態で返す事ぐらいはできるかと思っていたんだが………はん!!認識を改めねばならないようだな」


アシャは悔しそうに唇をかみしめながら、エドリックの嫌みに耐えていた。今回ばかりはどう考えても自分が悪いので反論のしようもなかったのだ。


「エドリック……もう良いではないか。アシャも悪気があってやった訳ではないのじゃろう?」


アシャがそろそろ我慢の限界に達しそうになった時、入口からガウエン元帥が入ってきた。


ガウエン元帥は見事な白髭をたくわえた70代後半の老人であり、その顔の中央には額から頬にかけて大きな切り傷が見てとれた。だが、軍人というよりは好々爺という印象が強かった。


ガウエン元帥を見た二人は片手を胸に当て一礼をする。先ほどからずっと嫌みを言い続けてエドリックも、ガウエン元帥のその一言でピタっと悪態をつくのをやめた。


エドリックはガウエン元帥にのみ忠実だった。エドリックはもともと平民出の傭兵であり、その才能を見出し自分の副将として抜擢したのがガウエン元帥なのだ。


エドリックは大の貴族嫌いで有名だった。だから、ドラグーン王家への忠誠など欠片ももっていないのだ。王家を侮辱する事もしばしばで、その事でよくアシャとは喧嘩になっている。


ガウエン元帥は持ってきた地図をバッと机の上に広げ、隅から隅までじっくりと目を光らせた。しばらくじっと地図のみを見つめていたガウエン元帥は、頭を上げてアシャを見る。


「アシャ……それでどうじゃ?可能か?」


「は!!地形は完璧に頭に叩き込みました。起伏も多い地形ですし、成功させる自信はあります」


アシャは一歩前に出て自信満々に応えた。それを聞き、ガウエン元帥は満足そうに頷く。


「うむ…………良かろう。ヴァンディッシュの軍勢はこちらの数を上回っておる。このままぶつかるのは得策ではではない。まずは機先を制する必要があろう。斥候の報告では敵はここに駐屯しているという事じゃ」


ガウエン元帥は地図のある一点を指さす。そこはドラグーン王国の山岳地帯である、ケープラス山地を示していた。


「………ケープラス山地ですか。確かに入り組んだ地形が多く、夜襲・奇襲にはもってこいですね」


エドリックがずいっと身を乗り出すようにして地図を見る。アシャはすでに目を瞑っていても地形を完璧に思い浮かべる事ができたが、もう一度ケープラス山地を確認する。


「ふむ…………それでじゃ、アシャ。大凡で良いのじゃが、明日の夕方にここを出発するとしてどれくらいで辿りつける?」


「は?……そう……ですね。………はっきりとは言えませんが、7……いえ、6時間程あれば到着するのではないかと。しかし、あくまで予測ですので絶対とは……」


するとガウエン元帥は困惑したような、何とも言えない表情のまま腕を組んだ。


「まぁ……そうじゃろうな。いや、すまぬ。実はセシル様より総攻撃や奇襲をする場合は、日にちおよび時刻まで詳しく報せるように命じられておってな」


その困ったようなガウエン元帥の言葉を聞き、エドリックはいつにも増して眉間の皺を深くした。そして怒りをあらわにする。


「馬鹿が!!軍学の何たるかも知らぬ素人が!!軍人でもない愚か者が戦に口出しすると碌な事にならない!!」


それを聞いたアシャは腰の宝剣に手をかけた。キン!!…と鞘から少し剣を抜く。


「エドリック………セシルに対しての暴言は私が許さない!!」


そう叫ぶアシャをギロっと睨みつけるエドリック。そして、いつものように非難する事を隠そうともせずに人差し指をつきつけた。


「黙れ、ヴェラリオン。ではお前はどんな不測の事態が起こっても、決めた時刻通りに奇襲できるとでもいうのか?」


「それは………」


アシャはエドリックからの追求をうけ、答えに窮してしまう。確かにそんな事は不可能だ。言い淀むアシャにエドリックは、指をつきつけながら叫ぶ。


「できないだろうが!!誰が敵味方か分からないこの状況で、情報が敵の手に渡ったらどうするというのだ!!はん!!ドラグーン王家様大好きの貴様はそれで死んでも本望だろうがな!!」


二人の口喧嘩を黙って聞いていたガウエン元帥は嘆息しながら止めに入った。


「……………二人とももう良い。うむ……エドリックの言うことにも一理ある。しかし、セシル様としてもこの戦いは自分の命運がかかっておるのじゃ、詳しく知りたいと思うのも仕方がないじゃろう。良いか?アシャ。確かにセシル様に報告はするが、それにとらわれるでないぞ。戦は変幻自在の生き物じゃ。すべて想定通りいくはずがないのじゃからな。ヴァンディッシュ側に夜襲の備えがあったなら無理に攻撃する必要はない。できる限りの情報を集めて帰還するように。敵は10万規模の軍勢じゃからな」


「…………かしこまりました」


アシャはエドリックを軽く睨みつけなら、そう呟くのが精いっぱいだった。





=========== ヴァンディッシュ陣営  =================




「なぁ………俺たち勝てると思うか?」


今、ヴァンディッシュ家の兵たちが仮設テントの中でサイコロ賭博に興じていた。それを聞いた兵士の一人が馬鹿にしたように答える。


「大丈夫だろ。ヴェラリオン家の軍勢はいねーらしいし、数ではこっちが上だ。しかも………敵の総大将はあの‘負け犬将軍’だぞ?俺らが負ける訳ねーよ」


それを聞き、周りの兵たちの間でハハハハハハ……と笑い声が上がる。


「はははははは……それもそうか。あまりにも弱過ぎて、神聖帝国の何とかって将軍からお情けまでかけられたって話だしな。何でそんな奴が元帥になってやがんのか…………きっと金で地位を買ったにちげーねーや!!」


「そういえば………国境付近に何でも‘無敗の神将’とかいわれる女将軍がいるらしいぜ?」


「ああ……それなら俺も聞いた事がある。ヴェラリオン家の一人娘だろ?中々の上玉らしいぜ?」


ほう……っと周りの兵士たちが舌舐めずりをし、目にランランと怪しい光を宿す。誰一人言葉にしなかったが、考えている事は同じだった。みながみな下衆な笑みを浮かべていた。だが、その時………


「て、敵襲―――――――――――――――――!!!」


カンカンカンカンカンカンカンカン!!と自分たちがいる軍営に敵襲の鐘の音が鳴り響いた。


「な、何だ?」「て、敵襲だと!!」「馬鹿な!!見張りは何をやってたんだ!!」


兵たちは急ぎ武装を手にとりテントから躍り出た。だが、そこには凄まじい光景が広がっていた。


まず目に飛び込んできたのは、真っ赤に燃える火だった。自分たちが今までいた野営地が火の海になっている。並んだ仮設テントや兵糧にも火が燃え移り、さらには火ダルマになっている兵士たちが何十人もいた。


そこら中に兵士たちの絶叫が響き渡り、軍営は大混乱におちいっていた。訳が分からず同士討ちも始まっているようだった。


「な、何だこりゃ!!」「て、敵はどこだってんだ!!」「く……風が強い!!ひ、火を消せ!!全部燃えちまうぞ!!」


兵士たちは軽いパニックに陥りながらも、できるだけ冷静に対処しようとした。だが、その時……………


ガァァァァァァァァァァァァァァァ!!………軍営に耳をつんざくような咆哮が木霊した。


兵士たちは驚きながら、その咆哮が聞こえた方を見やる。そう………軍営の火に照らされ赤く染まった夜空を。そして……………


「う……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


一人が悲鳴を上げながら逃げ出した。それを皮切りにその姿をみた兵士たちが鎧を脱ぎ棄て出来るかぎる身軽にし、絶叫しながら走り出した。


腰が抜けてしまったのか、兵士の一人はペタンとその場に座りこみ空を見上げていた。そして震える声でたった一言呟いた。



「…………………ま、守り神」





================== アシャ  ==================





「………何だこれは」


アシャは驚愕の表情のまま眼下の光景を見つめていた。アシャは7時間前、直属の5千の騎馬隊が率いて本営を出発していた。


ケープラス山地の近くまで出来る限り隠密行動をしながら、闇にまぎれて行軍していたのだ。そして、ヴァンディッシュ家の軍勢が駐屯している盆地を見渡せる小高い山へと到着した。


アシャはそこから敵陣営の様子を確認し、奇襲をするかどうか判断しようと考えていた。だが、そこでアシャが見たのはまったくもって想定外の光景だったのだ。


ヴァンディッシュ家の陣営がすでに炎に包まれていたのだ。かなり離れているはずのここにまで敵兵士たちが混乱して絶叫する声が聞こえてきていた。


「………これはいったいどういう事だ。なぜ、ヴァンディッシュの陣営がすでに火の海になっている?仲間割れか?」


「アシャ将軍………どういたしましょうか?」


老将のスイプトが多少困惑しながら、馬を寄せて尋ねてくる。アシャは愛馬の手綱を握ったまま敵陣営をじっと見つめていた。しばらくじっと見つめていたアシャは、心の中で呟く。


(ファルナ……どう思う?)


その声を聞きつけ、フワっと両目を白い布で覆い隠した黒の長髪の半透明の女性が現れる。ヴェラリオン家の宝剣に宿るファルナである。


ファルナもアシャと同じようにその布で覆われた両目で敵陣営を見つめ………


(…………私にも、どういう事なのか分かりませんよ、アシャ。………ですが、あの炎の大きさやこの騒ぎようはただ事ではありません。敵の罠にしては妙です)


うん……とアシャはファルナの意見を聞き、自分の考えと同じだと確認する。しばらく考えていたアシャであったが………


「よし………皆、聞け!!なぜかは分からんが、敵は今大混乱に陥っている!!10万の軍勢とて恐れる事はない!!もはや敵は烏合の衆だ!!私に続け!!突っ込むぞ!!」


「「「「おう!!」」」」


アシャを先頭にドドドドドドドドド!!っと5千あまりの騎馬隊が山を駆け下りていった。その騎馬隊の全員が白い鎧を身にまとっており、遠くから見るとまるで一頭の白い獣が猛スピードで突進していくようにも見えた。


アシャはヴェラリオン家の宝剣を抜き放つ。その薄紫色の刀身が炎の光を受けてキラっと光る。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


そう叫びながら騎馬隊が敵陣へと突っ込んだ。アシャは薄紫色の剣を一閃させる。プシュ――!!っと鮮血と共に敵兵の首が宙を舞う。


「て、敵だ!!」「じ、陣形を!!」「ダメだ!!退けーー!!」


その後からも続々と5千の他の騎馬隊が突撃していった。そこはあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図とかした。騎馬隊に踏みにじられるもの……騎士たちに殺されるもの……もともと混乱していたヴァンディッシュの軍勢はいとも簡単に崩れ去っていった。


ドラグーン王国歴1232年………僅か5千の軍勢が10万の軍勢を討ち破るという奇跡ともいえる大戦果を上げたこの戦いは‘ケープラス山地の奇跡’といわれ後世にまで語り継がれることになった。


そしてこの戦いを契機として……………‘無敗の神将’アシャ・ヴェラリオンの名がドラグーン王国中に響き渡る事となった。


感想は本当に励みになります。ぜひ下さい。

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