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王たちの宴  作者: スギ花粉
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予感 竜王編

スギ花粉です。楽しんでいただけたら幸いです。アンケート答えて下さりありがとうございました。ちなみに好きなキャラ人気投票1位はレンでした~~。シーンとかは凄く励みになりましたね。では、どうぞ~~

「………何か嫌な予感がする」


ドラグーン王国中央部の地図を食い入るように見ていたアシャは突然一人ごちた。


ここはマーテル家の主城を少し北上した所の軍営であった。南下を始めたヴァンディッシュの軍勢と闘うためにガウエン元帥軍は、陣を張り敵の到着を今か今かと待っているのだ。


ウェンデル家が西に兵を集めているという報告があったため、父であるデニス・ヴェラリオンがヴェラリオン家の軍勢のほとんどを引き連れ、それの備えとして西に駐屯している。だから、ヴァンディッシュ家とは国境から到着したエドリックも含めた元帥軍の精鋭のみでの闘いとなる。


南部領主の軍はセシル王女の護衛という名目で北上させなかった。正直な話、足手まといにしかならないと判断されたのだ。勝手に死ぬだけならまだしも、軍の弱点となりかねない。


(アシャ……いったいどうしたのですか?)


フワっとアシャの独り言を聞きつけ、半透明の一人の女性が現れた。長い黒髪をし、漆黒のドレスをまとっている。そして、その両目には白い布が巻かれており、完全に視界が遮えぎられている。ヴェラリオン家の宝剣に宿っているファルナである。


「いや……直感だからうまく説明できないんだが。………逃げ出した方がいいような変な気分なんだ」


(何を訳の分からない事を。……ああ、もしかしたら戦の前で不安になっているのかもしれませんよ?)


「私は戦で逃げ出したくなった事などないぞ。そうだな……昔、ガウエン元帥が私に縁談の話をもってきてくれた時に似ているような気がする」


何年前だったか………ガウエン元帥に縁談をもちかけられた事があった。ガウエン元帥には実家を家出した時からずっとお世話になっていた。だから、嫌々ながらも受けた事があった。後から分かった事だが、父がガウエン元帥に裏で働きかけていたらしい。


それを聞いたファルナはその時の光景を思い出したのか、何とも言えない表情を見せた。


(………あぁ、あれですか。あの縁談は………本当に見るに堪えないものでしたね)


はぁ~~っと悲しそうにため息を吐くファルナを、アシャは怪訝そうに見上げる。


「なぜだ?私は逃げずにちゃんと縁談を受けたぞ?ガウエン元帥の顔に泥を塗る訳にはいかないからな」


心底理由が分からないという表情を見せるアシャに対して……ファルナは淡々と告げる。


(………アシャ、どこの世界にこれでもかと殺気を振りまきながらする縁談があるというのですか?可哀そうに、あの青年はずっと怯えていたではありませんか)


「ふ、ふん!!男のくせに戦が恐いなどとほざくから、性根を叩き直してやりたくなっただけだ!!それに、たったあれっぽっちの殺気に怯えるなど情けない」


(まったく……何が不満だというのですか?せっかく御父上があなたのためを思っ)


だが、そう悲しそうに呟くファルナの言葉をアシャは乱暴に遮った。


「いらぬ心配だ。私はもう子供ではないし、ヴェラリオン家の継承権は放棄したんだ。自分の事は自分で決められる」


アシャは少しカリカリしながら、また地図を見入り始める。時々何やら書き込んだりを繰り返している。ファルナはそんなアシャを見下ろしながら…………重々しい声で尋ねた。


(アシャ………前から思っていたのですが)


「何だ?」


アシャは喉が渇いたので、水差しから水を口に含んだ。ガウエン元帥の教えにより、将校も末端の兵も食糧に差をもうけていないのだ。だから、お茶や酒の類も闘い中は飲む事が禁止されていた。


(…………あなたは同性愛者なのですか?)


ブ――――――――――――――っと口から水を吐き出してしまった。そして、エドリックから借りた地図にもろにかかってしまった。


アシャは愕然としながら、その地図を見つめる。確実に後で長々と嫌みを言われる事になるだろう………乾かしてもあいつは絶対に気付く。だが、今はそんな事より重要な事があった。


アシャは顔を真っ赤にしながら、目の前の机をバン!!…と思いっきり叩いた。


「ファ、ファルナ!!な、何を馬鹿な事を言っているんだ!!」


しかし、そんな激昂したアシャにも怯まず淡々とファルナは言う。


(いえね?……あの縁談の相手も中々の美青年でしたよ。それなのにアシャは微塵も心を動かされているようには見えませんでした。さらに、以前求婚された相手もすぐに断っていたでしょう?まさかとは思いますが………男性に興味がないのではないかと思いましてね。恥ずかしがる事はありませんよ?愛の形は人それぞれですからね)


「ま、待てファルナ!!誤解だ……私は断じて同性愛者などではない!!」


アシャは真剣に悩み始めたファルナを見てさらに声を荒げてしまう。しかし、そんなアシャの態度を見た瞬間、ファルナはからかうように言う。


(あらあら………では、殿方とお付き合いがしたいと?)


「そ、そこまでは言っていない!!」


アシャはその楽しそうに笑うファルナを見て、自分が嵌められたという事に気がついた。しかし、気付くのが遅すぎた。ファルナは実に生き生きとアシャを質問攻めにする。


(それで?アシャはどんな殿方と恋がしたいのですか?アシャとは長い付き合いですが、そういう話はまったく聞きませんからね~~。ふふふふふ……それともすでにどなたか好きな方でもいるのですか?)


「そんな者いない!!はぁ~~……ファルナ、正直に言おう。私は恋愛というものがよく分からない。男なんてみんな一緒だとも思っているし、自分が誰かを好きになるんて想像すらできない。恐らく私は一生独り身だ、まぁそれでいいとも思っている」


(そんな事はありませんよ、アシャ。それはあなたが運命の人と出会っていないからですよ。さぁ……想像してごらんなさい。あなたが街を歩いているとたちの悪いチンピラ達にからまれ、窮地に陥いってしまうのです。そこに颯爽とあらわれ、あなたを救ってくれる若者がいる。そして、二人は恋に落ちるのです!!」


ファルナはいつもは頼れる存在なのだが、恋愛の話になると少し現実離れした事をいいだす。それとなく尋ねた所、ファル―ゼ・ヴェラリオンが愛読していた本に影響されたらしい。


「………………」


アシャは仕方なく想像してみた。自分が街を歩いていると、向かい側からたちの悪いチンピラ数人が歩いて来て自分にぶつかる。そして、そのままからまれて絶対絶命の窮地に…………


しかし、アシャはそこまで考えて少し疑問を覚えた。


(いや……待てよ。相手が武芸の達人ならまだしも、たかが街のチンピラ数人では私が窮地に陥る事などまずあり得ないのではないだろうか?それこそ百…いや、三百でもギリギリ何とかなるような気がする。絶体絶命の窮地というと、千人規模のチンピラに囲まれるぐらいか)


アシャは改めて想像してみる。街を歩いていると、向かい側から千人のチンピラが歩いてくる。その先頭とぶつかり、イチャモンをつけられる。


「どこ見てんだよ?あん?」「ぶっ殺すぞ!!こら!!」「何とか言え!!こら!!」「この…略…」


千人が一斉に自分にガンを飛ばしてくるのだ。そこまで考えて、アシャは一筋の汗をかいた。確かにそれは絶対絶命の窮地と言えるかもしれない。だが…………


「………なぁ?ファルナ」


アシャは楽しそうに微笑んでいるファルナに重々しい声音で話しかける。


(何です?アシャ)


「私も考えてみたんだが、そんな状況はまずあり得ないんじゃないだろうか。そんな事になったら街の騎士団……いや、もしかしたら軍の出動要請が出るかもしれない。いや待ってくれ……勝機がない訳じゃないぞ。きっと最後尾の連中は何が起こったか把握できていないはずだ……その間に敵の大将格を狙い打ちにして一撃離脱をすれば、まだ勝機はあるやもしれんな……うん」


腕を組みながらふざけた様子も見せず、真剣に訳のわからない事を語るアシャを見てファルナは呆れたように眉をひそめた。


(…………アシャ。あなたは、また変な事を考えていますね?いえ……何も言わなくていいです。私は分かっていますから。昔からそれとなく思っていたのですが………あなたは何と言えばいいのか……そうですね~~常識がないというか……天然というか………まぁ、一言でいってしまうとお馬鹿ですよね?)


「し、失敬な!!」


バン!!っと再び机をたたき激昂するアシャ。ファルナはそれに負けないくらいの大声で喋る。


(そんな事はどうでもよいのですよ、アシャ!!さぁ……どんな殿方があなたの好みなのですか?さぁさぁ……言ってしまいなさい!!)


ファルナはずいっとアシャに詰め寄った。何やら今日は少し熱が入っているように感じられる。


アシャはそれを受けて渋々ながら話し始めた。こうなったファルナは絶対に諦めないと知っていたからだ。


「………………はぁ~~~~……………そうだな。まず、肝が据わっている事が最低条件だ。戦に恐くて出られないような軟弱者はダメだ。見てるだけでイライラするからな。後は、そうだな………私までとは言わないが、ある程度の武芸の心得はもっていて欲しいな。そして状況を的確に判断し、臨機応変に動ける能力に秀でていれば尚良しだな」


(……………まるで自分の軍に加える将校の条件を聞いているような気分ですね。そうでなくて!!もっと内面とか外見の事ですよ!!)


ファルナは予想していたのとはまったく異なる、面白くもなんともない答えに嘆息する。するとアシャは何かを思い出したように言う。


「そうだ……一つだけ、絶対に譲れない所があったな」


(それは………何ですか?)


ファルナの問いにアシャは咳払いをし、そのオレンジの髪を掻きあげながら恥ずかしそうに答えた。


「…………誠実である事だ。世の中には複数の者と付き合う男女がいるようだが、私はそれを美徳とは思えない。特に何人もの女性を口説くような軟派な男など……」


(………男など?)


チャキっとヴェラリオン家の宝剣の柄を握り締めるアシャ。そして………殺気のこもった一言つぶやいた。


「……………叩き斬りたくなる」


淑女とは思えないような発言をしたアシャをファルナが諌めようしたその時、仮設営のテントから兵士の声が聞こえてきた。


「アシャ将軍!!ガウエン元帥より軍議をひらくゆえ、至急集まるようにとのことです!!」


アシャはそれを聞き、地図を丸めながら兵士にすぐに行くとの返事を返した。すでにアシャの顔は先ほどまでとはまるで違う武人の顔になっていた。


「…………遂に始まるか」


アシャはそう呟きながらテントを出て、ガウエン元帥の元へと向かった。


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