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王たちの宴  作者: スギ花粉
156/200

いいんじゃない

スギ花粉です。更新が遅くなっていて申し訳ないですね。竜王編よりも少し進んでいますが、もうおいつくと思います。では、楽しんでいただけたら幸いです。

「…………バリスタン殿、心より感謝いたします」


今、魔王城のバリスタンの部屋で、ある人物が頭を下げていた。それを見て魔国第二将軍である、ミノタウロス族の老将バリスタンは可笑しそうに笑っている。


「フォッフォッフォ……頭を上げて下さい   殿」


「やめて下さい………私に敬語を使うなど。あなたの前では、私はいつまでも愚か者のままなのですから」


「フォッフォッフォ……懐かしいですな。もう30年も前になりますか……あなたがドルーン山脈を越え、今の魔国へと武者修行に来たのは」


カラン…とグラスに入った氷が溶けて澄んだ音が耳に届く。二人はテーブルに向かい合う形で、お酒を飲んでいるようだ。


「…………あの頃の私は自分を英雄か何かと勘違いしていた、愚かな小僧に過ぎませんでしたよ。世界は広かった。自分の力を過信し、どんな相手でも剣一本で渡り合えると本気で思っていたのですから。

……………そんな私に現実を教えてくれたのは、バリスタン殿……あなたではありませんか。‘豪胆のバリスタン’と呼ばれたあなたにね」


「フォッフォッフォ……いえいえ、もう昔の事ですよ。悲しい事に………自分の得物であるバトルアックスも、もう自由に振り回せなくなりました」


バリスタンは自分の部屋のすみに置かれているバトルアックスを見る。そのバトルアックスはすでに柄から何からボロボロであり、そこからは長い闘いの歴史が感じられた。


バリスタンは少し懐かしそうな表情を見せながら語る。


「それに私などは、本当に大した事はない。………今でもはっきりと覚えていますよ、自分の孫ともいえるような魔人族の少年にいとも簡単に叩き伏せられた時の事をね。強かった。文句のつけようがないほどの圧倒的な強さでした。そして…………フォッフォッフォ、魅力的な方でありましたなぁ。魔族をまとめ上げ、この魔国を建国さなれたギルバート様は。カイ様とはまた違う魅力がありましたよ」


「…………時は流れ、自分たちが力の限り生き抜いた時代は過去となっていく。かつて名をはせた武士たちは消え去り、無名の者たちから作り上げられる新たな時代が幕をあける…………少し、虚しくなってしまう時があるのですよ。自分はいったい何をのこせたというのか、私のしてきた事は無駄だったのではないか……とね」


バリスタンの正面にいるその人物は悔しそうにグラスを握る手に力を込める。


「フォッフォッフォ………お辛いでしょうな。親友であり、主君でもある者を失ったあなたの気持ちは幾許か。……………孤独なのではないですかな?」


「……………孤独。そうなのかもしれませんね。ですが、愚痴を言ってばかりもいられません。考えなければならない事は山のようにありますし、ここで投げ出してしまってはエダードに申し訳が立ちませんからな。……………………それにしても、楽しみです。あなたからの手紙を読み、一度でいいから会ってみたいと思っていましたから。しかしバリスタン殿………本当によろしいのですか?」


その人物は確認するように尋ねた。それを聞いたバリスタンは滅多に見せない苦笑をしながら、ため息を吐いた。


「……構いませんよ。いえ、正直に言えば私はリサ様を応援したいと思っています。ギルバート様とともに小さい頃からよく知っておりますからな。できることなら幸せになって欲しいのです。しかし、魔国の後継者の問題もございますのでな………できるだけ早く後継ぎが欲しいとも思っているのですよ。その点、カイ様は少し女性に対して奥手すぎる!!………魔王なのですから、何十人でも妻を娶られればよろしいのです。フォッフォッフォ……私も少しやきもきしていた所なのですよ。そこに   殿からのこの度のお話、まさに渡りに船とはこの事です。いっそこれが起爆剤になって欲しい所ですな」


二人はその後も夜遅くまで、様々な事について語り合っていった。




==============  執務室    ==================



ペタンペタンペタン…カキカキ……ペタンペタンペタン……カキカキ……略……


カイは自分の腕を機械的に動かしていたが、ピタっとその動きを止める。そして突然……カイは呟いた。


「…………何か、嫌な予感がする」


それは魔国第一軍の調錬を終え魔国へと戻ってきていたリサと共に執務をこなしていた時だった。


「陛下?どうなされたのですか?」


リサは、何の脈略もなくいきなり独り言を呟いたカイを怪訝そうにみる。


「う~~~ん……いや、直感だから説明が難しいんだけど………逃げた方がいいような気がするんだよね」


「陛下!!何を訳の分からない事を!!そうやって、また逃亡を企てる気ですね!!」


リサはすぐに立ち上がるとカイを逃がすまいと、唯一の出入り口の前に立ちふさがった。その手にはいつの間に取り出したというのか、銀の呼び笛が握られていた。魔王城を一瞬のうちに魔の監獄へと変えてしまう……通称‘魔の呼び笛’を。


だがそんなリサとは対照的に、カイは椅子から立ち上がりすらしなかった。カイは、リサのあまりの俊敏さを見て苦笑していただけである。


「いや……そんな大袈裟に動かなくても。大丈夫だよ、俺ももう懲りたからね。逃げ出す訳ないでしょう~」


(ふっふっふっふ………そう…………今はね)


カイは心の声をひた隠しにしながら、ニコニコと人懐っこい笑顔をリサへと向けた。だが、そんなカイの表情を見たリサはじと目でカイを見つめる。そして……一言。


「……………兄様も、逃げ出す前はいつもそんな顔をしていましたね」


ギクっとリサの言葉を聞き、カイは少し狼狽した。


(な、何だか、リサは最近俺の考えている事を簡単に見抜けるようになっている気がする!!)


カイはリサに対して少し恐怖を感じながら、先ほどの件について弁明しようとした。しかし………コンコンっとタイミングよく執務室の扉がノックされる。


「陛下……バリスタンです。入ってもよろしいでしょうか?」


「おぉ!!バリスタン…入って入って!!」


カイは、何ていいタイミングで来てくれるんだとバリスタンに感謝しながら返事をする。それを聞き扉を開けバリスタンが執務室に入ってきた。大量の書類を手に持ち、さらになぜか扉を閉めずに開けたままにしていた。


「フォッフォッフォ……陛下、今日は魔国の将来を左右する重大な案件をおもちいたしました」


「魔国の将来を?それは…………」


バリスタンの言葉を聞き少し身構えるカイ。リサの顔にも少し緊張がはしるのが分かった。


「えぇ……これは真、魔国の将来を左右する深刻な問題です!!陛下の……………縁談の話です!!」


し~~んっと執務室を沈黙が支配した。カイはパチクリっと面食らったように瞬きを一回し、素っ頓狂な声を出してしまった。


「……………はぁ??え、縁談?何……重要な案件ってそれの事?バリスタン…驚かさないでくれ、何事かと思ったじゃないか」


カイはほっと胸を撫で下ろして椅子に深く座りなおした。その横で完璧に固まったいるリサにはまったく気づかずに。


「陛下……これは非常に重大な問題なのですぞ。もっと真剣にお考えください。どうです?この人狼族の娘など歳も陛下と変わりませぬぞ。おお!!リザードマン一族やヴァンパイア一族などからも縁談がきております。ああ……それともやはり人間族の女子がいいですかな?それなら……」


と手に持つ大量の書類をガサゴソと漁るバリスタン。カイはそんな様子を嫌そうに見つめながら………


「…………バリスタン。前にも言ったよね、俺は縁談なんかしないよ」


それを聞き、書類をあさる動きをピタっと止めるバリスタン。


「陛下…………なぜそんなに邪険になさいます」


「別に邪険にしてる訳じゃない」


と少し機嫌が悪そうにいうカイ。


「だ~か~ら~俺の世界では、結婚は29歳まではできないんだよ。だから、縁談とかはまだ早いんだって」


以前もバリスタンに同じような話題を振られた事があった。その時、カイはさりげなく嘘の情報を織り交ぜていたのだ。


(まぁ、異世界の情報何か知りようもないしね。これで諦めて………)


だが、今日のバリスタンはそれぐらいで引きさがってはくれなかった。


「フォッフォッフォ………陛下はすでに異世界に来ているのです、そんな事関係ありますまい。それに………………何やら嘘の気配がしますな」


「……………」


(く…………無駄に鋭い!!)


何やら今日のバリスタンはいつにも増してしつこかった。


「フォッフォッフォ……陛下、国には後継ぎが必要なのですよ。良いではありませんか……縁談を受けたからといって結婚しなければならない訳ではないのですから。さぁ!!今日は私も覚悟を決めてまいりましたぞ……良い返事が聞けるまで決して逃がしませんからな」


とバリスタンは今までにない程熱のある感じだった。何やらやる気満々である。お見合いを勧めてくる近所の迷惑おばさんを見ているかのようだ。


カイはしばらく黙ってバリスタンを見つめていた。そして……はぁ~~っと諦めたかのように深いため息を吐く。


「………………分かったよ」


「へ、陛下!!お、お、お、お受けなさるのですか?」


カイは渋々といった感じに了承した。それを聞いた瞬間、リサが声を震わせながらカイに確認した。その顔はみるからに強張っている。


「まぁ……いいんじゃない」


(どうせ……その縁談の話だって俺が魔王だからきてるだけだろうし。無理やり俺と結婚させられるなんて可哀そすぎる。全部断れば問題はないさ)


カイはそんな風に考えていた。しかし、そんな事を知る由もないリサはパクパクと口を動かす事しかできなかった。そんなリサとは対照的にバリスタンは上機嫌だった。


「フォッフォッフォ……真ですか。陛下、よくご決断下さいました。で、お相手の方はどういたしましょう?陛下ご自身でお選びになられますか?」


「………………いや、バリスタンが決めちゃっていいよ」


カイは心底投げやりな感じで言う。そんなカイの言質をとったバリスタンは、心から安堵していた。


「それはようございました。フォッフォッフォ……実はお一人目の縁談相手はすでに決まっておりましてな」


「………俺はバリスタンみたいな有能な臣下をもてて幸せだよ」


カイにしては珍しく、その声音には少し皮肉るような響きが感じられた。だが、当の本人は飄々としたものだった。


「もったいなきお言葉です、陛下。それで…………この件に関してぜひお会いしていただきたい方がいるのですが……」


「…………それはもしかして、さっきから廊下に待たせている人の事かな?」


カイが何気ない風に言うと、え?っとリサは驚いたように入口の方を見た。バリスタンは苦笑しながら……


「………さすがは陛下。気付いておられましたか」


「まぁ……気配だけはね。というより、廊下に待たせるなんて失礼なんじゃない?早く中に入ってもらおうよ」


バリスタンはカイに深く礼をし、半開きだった扉をゆっくりと開けた。


「どうぞ……お入りください」


バリスタンが廊下にいるであろう人物に声をかける。すると、カラカラ……カラカラ……カラカラ……と何やら車輪のような音が聞こえてきた。


そしてカイ達の前に姿を現したのは、白髪の入り混じったオレンジの髪を短く刈り込んだ、50近くの人間族の男だった。両足が不自由なのだろうか………車椅子に乗っている。


その人物はカラカラ…カラカラ……と車輪の音を響かせながら、自分一人の力で執務室に入ってきた。そしてカイに向かって優雅に一礼する。


「お初にお目にかかります………魔王様。私はデニス・ヴェラリオンと申すものでございます」


デニス・ヴェラリオンと名乗った人物は、そのブラウンの瞳でカイをじっと見つめていた。その纏う空気は明らかに武人が纏う空気だった。


挨拶をうけ、カイもデニスに自己紹介をする。


「初めまして……魔国第二代魔王・カイ・リョウザンです」


カイはにこにこ笑っていた。しかし、内心は冷や汗ものだった。


(デニス・ヴェラリオン?…………や、やばい。何となくリサの講義で聞いた事ある気がするんだけど……………誰だか分からない!!)


カイは冷や汗を流しながら視線でバリスタンに助けを求めた。バリスタンはその視線の意味をしっかり理解し………


「陛下。デニス・ヴェラリオン殿は、ドラグーン王国三大名家が一つ……ヴェラリオン家の当主であらせられます」


ドラグーン王国……それを聞き、カイはリサから教わった事を思い出した。


大陸の西の果てにあるというドラグーン王国。ドラゴンを神として崇めるこの国には、ドラグーン王家に匹敵する三大貴族があるという話だ。ウェンデル家、ヴァンディッシュ家………そして、ヴェラリオン家。


(つまり………デニス・ヴェラリオンさんはそんな大貴族の当主という訳だ。でも、そんな偉い人が俺にいったい何の用なんだろうか?)


カイは一人首を傾げている中、リサが一歩前に出てデニスに話しかける。


「デニス・ヴェラリオン殿……私は魔国第一将軍である、リサ・ジェーミソンです。恐れながら………ドラグーン王国では最近まで継承権争いが起きていたと聞いていますが」


デニス・ヴェラリオンは何とも言えないような表情を見せながら、それに応える。


「……………その通りです。予想外の結末でしたが、すでに終結しております。まぁ……その経緯は後で詳しくお話しいたします。まずは色々と話しあわねばならない事がありますからな」


「はぁ………話合わねばならない事ですか。あぁ……交易の話ですか?それなら俺より、こちらのリサ将軍が専門ですよ?」


だが、カイは未だにデニス・ヴェラリオンがここにいる理由が分からずまったくもって的はずれな事を言っていた。デニスはカイのそんな様子を面白そうに眺めていた。


バリスタンは、そのカイのあまりの鈍さにため息を吐きながら説明する。


「陛下……交易の話ではございません。この件に関してと申したではありませんか。この度の縁談のお相手はデニス・ヴェラリオン殿の一人娘。つまり…………………ドラグーン王国三大名家が一つ、ヴェラリオン家の次期当主であらせられる

 


―――――――――――――――――――――アシャ・ヴェラリオン殿なのですよ」


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