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王たちの宴  作者: スギ花粉
154/200

え~~スギ花粉です。何か消えてましたね。これは魔王編の続きですが、赤と黒もやっと終わりましたね。これが終わると魔王編も少しづつ……物語が進み始めるかと思います。テンポが遅くなっているのは申し訳ないですね。では、楽しんでいただけたら幸いです。

「ば、馬鹿者ーーーーー!!!」


ダン!!…っとレンは力強く踏み込むと、カイ目掛けて神速の槍を繰り出した。


「え……えぇぇぇぇぇぇ!!」


カイはあまりの事に頭がついていかなかった。だが、体だけは瞬時に動いてくれた。パシっと真剣白刃どりの要領で槍の穂先を何とか受け止めることに成功する。


カイの眉間数センチの所に、レンの槍の切っ先が突きつけられる格好になった。


「何!!レン、やばいって!!ち、力込めないで!!死ぬって!!これ、死んじゃうってーー!!」


「ふ~~ふ~~ふ~~」


カイはあまりの事に絶叫したが、レンはまったく力を緩めなかった。というより、どんどん力が強まっていくように感じられる。


「や、やばい!!し、死ぬーーー!!てゆーか…嫌われるとかいう次元じゃないよね、これ!!お、落ちついてよ……レ―――――――ン!!」


そんな悲鳴を上げるカイに対して、レンは震える声で一言………こう言った。


「……………安心しろ。すぐに終わる」


「終わるって何が!!俺の命が?ちょ……やばい、本当に終わっちゃうよーーー!!」


少しづつ……少しづつ……槍の穂先がカイの眉間へと近づいてくる。後、数センチでカイの頭を貫く事になる距離だった。カイはあまりの事に軽く涙目になりながら懇願しはじめる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…略……何がいけないのか分からないけど、ごめんなさい。俺が悪いんです、だから許してーーー!!」


レンはそんなカイの叫びを聞き、槍に渾身の力を込めた。


「……お、お前。自分が何を言ったのか分かってるのか?俺をいったい何だと思ってるんだ!!」


「違うんです!!レンがメリルと勝負したいって言ってたから、良かれと思っただけなんです!!許して下さい!!」


「…………何だと?」


ピタっとレンの槍が止まる。カイは未だに真剣白刃どりをした状態のまま、槍の穂先を凝視していた。そんな状況の中、レンは恐る恐るというようにカイに確認する。その顔は恥ずかしさからか、少し赤みがかっている


「………………つ、つまり、一緒にやるとは……その………メ、メリルとの鍛錬の事なのか?」


「そ、そうだよ!!え?いったい何だと思ったの?」


カイが少し冷静になったレンにほっと胸を撫で下ろしながら、レンに尋ねる。すると、それを聞いた瞬間、レンの顔がその深紅の髪に負けないくらいみるみる真っ赤になっていった。


「う、うるさい!!」


レンは声を荒げながらジャキっと槍をどけ、プイっとあらぬ方を向いてしまった。


(よ、よく分からないけど………俺は助かったのか)


カイはその両手を上げたまま荒い息を吐き、自分が何とか生き延びた事に心からほっとしていた。そう……完全に緊張感を解いてしまった、まさにその時…………


「カ~~イ~~!!」


ドゴーン!!っと魔王城の壁から飛び降り、全力で走ってきたメリルがカイにダイブした。そう……その両手を上げた事で無防備となっていた脇腹に。


「ゲフ!!」


っとカイは肺の空気をすべて吐き出し、メリルと共にレンの目の前から吹っ飛んで行った。ゴロゴロゴロっと中庭を10メートルは転がったかと思うと、その先でメリルがカイに馬乗りになっていた。


「カイ!!遅いぞ!!早く来いっていっただろ!!」


メリルはカイの胸倉をつかんで、前後に揺らしている。カイの首がカックンカックン揺さぶられていた。かなり辛そうだった。


「ぐほ…ゲホゲホ……メ、メリル?ちょ…ちょっとそこに座りなさい!!」


腹のあたりを押さえながら、カイはゆっくりと立ち上がると、メリルをちょこんっと正座させ始めた。カイの眉がぴくぴくっと小刻みに動いている。


「メリル!!危ないから突っ込んじゃダメだって、あれ程言ったでしょ!!」


「む~~~でもよ~~」


「でもじゃないよ!!俺だからまだ何とか生きてるけど、普通なら死んでもおかしくないんだからね?」


珍しくカイがガミガミっとメリルを叱っていた。それを聞き、だんだんプ~~っと頬を膨らませていくメリル。そして……


「む~~カイのくせに生意気だぞ!!あんな変な格好してたくせに!!」


(………変な格好?)


レンはそんな二人にゆっくりと近づいて行った。さすがにあれはやりすぎだったと反省し、カイに謝ろうと考えたからだ。すると正座させられていたメリルが立ち上がり、カイをビシっと指さしながら大声を上げる。


「へ、変な格好なんてしてないよ!!」


「嘘だ!!金の鬘かぶって、ドレス着て、女装してたじゃね~~か!!」


「!!!」


ピタっとその歩みを止めるレン。この距離だ………聞き間違うはずもない。メリルは今、カイが女装しているといったのだ。その証拠に、それを聞き後ろ姿からでも分かるほどカイが動揺し始める。


「え?え?メ、メリル?あれを…………み、み、み、見たのか?」


カイの声が面白いほど震えていた。だが、メリルはそんなカイの言葉を聞き首をを傾げる。


「何言ってんだ?俺っちたちは会ったじゃね~か?キキキキ……あんな下手な変装したって俺っち達にはバレバレなんだぞ?なぁ……レン?」


とメリルがレンに話をふった。それを聞いた瞬間、カイはばっとレンの方を振り返った。


「な………レ、レンも見たの?ち、違うんだよ…あれは城から抜け出すために仕方なくやったのであって、俺の趣味ってわけじゃないんだ!!」


「…………」


カイはレンの方を振り向くと、しどろもどろになりながら言い訳をし始めた。そんなカイの様子をじっと見つめながら、瞬時に頭をめぐらす。


(つまり……あれがそういう事で……こういう事なのだから…………)


レンはあの時の状況、そしてカイとメリルの発言を元に自分の頭の中で瞬時に正解を導きだした。そして…………………ふっとレンは小さく笑った。


「レ、レン?」


急に笑ったレンに怪訝そうな表情をみせるカイ。そんなカイにレンは落ち着き払ったまま話しかける。


「………そうか、あれは城から逃げ出すためだったのか。まぁ…………俺は一目見た瞬間からお前だと看破していたぞ。なぜ、あんな格好をしていたのかずっと疑問に思っていただけなんだ。そうかそうか……城から逃げ出すためだったのか。それで合点がいった。良かっ…ゴホン!…うん、謎が解決すると気分がいいものだな」


とレンは何やら晴れやかな表情をみせていた。それは本当に小さな変化であったが、長く一緒にいるカイにははっきりと分かった。


(よ、よく分からないけど………俺が女装してたのが悪いのか?あ、あんなレン初めて見たよ………こ、恐かった~~。もう二度とあんな真似はしないようにしよう……俺もまだ死にたくないし)


カイが心の中で秘かにどうでもいい決意を固める中、ポンっとメリルが何かを思い出したように両手を叩いた。


「そうだ……カイに聞いておきたい事があったんだ!!」


「うん?何、メリル?」


レンの方を向いていたカイは、またクルっとメリルに向き直る。自然とレンに対して背を見せる格好となった。そして、メリルはカイに自分の疑問をぶつけ始める。


「なぁ、カイ~~。さっきレンが言ってたことが、よく分からなかったんだけどどな?俺っちとカイは契を……」


「!!!」


メリルが不穏な言葉を言いかけたその瞬間………まさに神速。およそ人間の肉眼では捉えられない程の、まさに奇跡というしかないスピードだった。カイ程の実力者であっても、レンに対して背を向けている状態ではその手刀を防ぐことなどできるはずもなかった。ドスっとレンの手刀がカイの延髄にきれいに決まった。


「きゅ~~~」


カイは奇妙な声を出しながら一瞬のうちに気絶し、メリルの方へとゆっくりと前のめりに倒れて行った。そしてそのまま、ポニュンっとメリルの豊満な胸へと顔をうずめてしまう。


「お、おい?カイ!!どうしたんだ!!」


メリルは急に気を失ったカイを見て慌てている。メリルとレンの間にカイが立ちふさがっていたため、レンがカイに手刀を喰らわせた所は見えなかったのだ。


「レ、レン!!なぜかカイが気絶しちまったぞ!!」


カイを抱きとめながら、ワタワタとあわて始めるメリル。それを見たレンは、ばっと魔王城の適当な所を指さす。


「大変だ、メリル!!恐らくあっちの方から、正体不明の何者かがカイに未知の攻撃を仕掛けたんだ。まったくもって油断をしていた、俺とした事が!!」


レンはかなり芝居がかった感じでぎゅっと悔しそうに拳を握りしめる。だが、それを聞いた瞬間メリルの表情が瞬時に変わる。


「何だと!!俺っちのカイを襲うとはいい度胸だ!!レン、カイを頼んだぞ!!」


とメリルは自分にもたれかかっているカイをレンの方へと突き飛ばした。


「あ、危ない!!」


レンは咄嗟に突き飛ばされたカイが怪我をしないように支えた。必然的に抱き合うような格好になってしまう。メリルはそんな二人の様子を確認することもなく、レンが適当に指差した方へと走って行ってしまった。


中庭に取り残されるレンと、気絶したままレンに支えられるカイ。遠目から見れば抱き合っているように見えないこともなかった。


レンは誰かに見られてはいまいかと周囲をキョロキョロ見渡してみたが、幸運にも誰もいないようだった。ほっと胸をなでおろしながら、近くの森へとカイを引きずっていった。中庭は鍛錬場としてもつかわれていたが、その一角には憩いの場所としての小さな森があるのだ。


そして、心の中ですまないっと謝りながら気絶したカイを大木にもたれ掛らせようとしたが、なかなかうまくいかなかった。


しばらく四苦八苦していたレンであったが…………何かを思いついたようにピタっとその動きを止める。そして、コホンっと咳払いをしたかと思うと、奇妙な一人言をつぶやき始めた。


「ま、まぁ………今回は完全に俺が悪いわけだし……気絶したカイを放っておく訳にもいかないからな………うん。し、仕方がないことなんだ………うん」


レンはパンパンっと自分の服に付いている埃などを入念に落とし始めた。そして、真っ赤な槍をいつでも手が届く範囲にある木に立てかけた。


そして、レンはいつものように胡坐をかくのではなく、少し違和感を覚えながら正座に近い体勢で膝を折った。そして目を回しているカイの頭を、自分の膝に乗せて膝枕のような体勢をとらせた。


脈を測ってみたが別に異常はみられない、おそらくただ気絶しているだけだろう。だから、しばらくすればカイも普通に気がつくはずだ。


「「………………」」


静かだった。辺りには二人以外の人の気配もなく、ときおり気持ちのいい風が吹き込んでくる。今日はかなり日差しが強いのだが、森の中はちょうどいい木漏れ日に満ちている…………平和だった。


(……………お………落ち着かない)


あたりの森を気で探ってみたが、誰の気配もしなかった。だから見られているという事はないはずなのだが。誰かが急に来ることも考えられる。


こんな姿など恥ずかしくて誰にも見せられない…………もちろん、カイにもだ。カイが目を覚ます瞬間を見極め、この体勢をやめればいいのだ。そうすれば見られなくてすむ。そのためには一瞬の気の緩みも命とりだ…………失敗は許されないのだから。


レンはちらっとカイに視線をうつした。そこには小さな寝息を立てながら、こちらに顔を向け寝ているカイがいる。


「……………」


そんなカイをしばらくじっと見つめ、レンはこんな緊張感から早く解放されたいと思った。しかし、それと同時に………こうも思っていた。




(……………………まぁ、もう少しこのままでも…………問題ない………よな)


それからカイが起きるまでのおよそ1時間あまり、レンはその場から一歩も動かなかった。そして……………………レンは自分の顔が少しほころんでいる事には、最後まで気づかなかった。

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