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王たちの宴  作者: スギ花粉
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悩み

え~~スギ花粉です。今回のは、赤と黒の話の続きです。お手数ですが一話前の魔王編を読んでいただけるとどんな話だったか思い出してもらえると思います。さて、今回はある設定をやっと出せますね。自分はへたれの主人公はあまり好きではないんですが、カイのある一面のルーツというか……ある意味少しへたれの部分に隠された理由(ほぼバレバレだと思います)が明らかになります。では、楽しんでいただけたら幸いです。

「その……あのね?正直に答えてくれていいんだけどさ……………お、俺の事、どう思う?」


カイはレンの目を真っすぐ見ながら、はっきりと言い切った。


(言ってしまった。だけど、後悔はしてないぞ。いつもの事とはいえ、さすがにレンとはかなり親しくなってたからショックは大きいけど……思い切って理由を聞いてみるんだ!!)


レンはカイの言葉を聞いた瞬間、そのトレードマークともいえる真っ赤な槍を落としてしまう。槍はコロコロ、と地面を転がった。だが、転がる槍とは対照的にレンは目を見開いたまま固まっている。


「あ、あの………レン?」


カイがまるで石像のようになってしまったレンに問いかけると………


「…………な、何だと?」


こちらを黙って見つめていたレンは、声を震わせながら絞り出すようにいった。だがカイはすでに腹をくくっていた。どんな辛い現実が待っていようと耐えて見せる覚悟である。


「だからね?俺のことさ、どう思ってる?その……俺なんかに遠慮なんかしないでズバーン!!っと言っちゃってくれ。いや……ごめん、ちょっと待って。やっぱりもう一回心の準備するから」


す~~は~~す~~は~~っと何度も深呼吸をし、パンパンっと両手で顔を叩く。そんな様子を見たレンは顔を真っ赤にしながら慌て始めた。


「ま、待ってくれ、カイ。その……俺も、急にそんな事言われても……その…こ、困る」


レンは目に見えてうろたえ出している。キョロキョロと辺りを見回したり、明らかに挙動不審である。


「そんな事言わないでさ、お願いだよレン!!俺だって覚悟を決めてきたんだ!!」


カイはレンの方に体ごと向き直り、頭を下げた。ゴクっとレンが生唾を緊張で飲み込む音がカイにまで聞こえてきた。レンはカイの後頭部を見下ろしながら……


「……い、いいか?カイ。俺はお前の事を信頼しあえる友だと思っている」


「それは………本当?」


カイは俯いていた顔を上げ、上目づかいでレンを見る。そして、そこには顔を真っ赤にしながれではあるが、大きく頷くレンの姿があった。


「あ…あぁ…本当だ。つまり…だな…友である事は間違いないんだが…その…お、俺としても、嬉しくない訳じゃないんだ。だが…その…突然でな」


しどろもどろになりながら説明するレン。だが、カイはすでに話を聞いていなかった。


「本当に?……じゃあ…俺の事を嫌いになった訳じゃないの?」


「こんな混乱している状態ではまともに返事…………何?………嫌……う?」


キョトンっとするレンとは対照的に、カイは本当によかった~~っと胸を撫で下ろしていた。そんなカイの様子をしばらく見つめていたレンは、眉をひそめ怪訝そうに問いかけた。


「つまり……どう思うというのは、嫌っていないかどうか…という事か?」


「そうだよ!!いや~~本当に良かった。もう、心配で心配で仕方なかったからね。心の痞えがとれた気分だよ」


っとカイは何やら晴れやかな表情を見せている。


「………」


レンはそれを聞くと……はぁ~~っとため息を吐き、なぜか若干肩を落としながら地面に転がっている槍を拾った。そして、胡坐を書き直しゆっくりと鑢で穂先を研いでいく。


シャー……シャー……シャー……シャー…何やらその鑢の音に、カイはうすら寒いものを感じ始めた。心なしかレンからどす黒い、魔法でも…闘気でもない何かが迸っているように感じられた。


「……………カイ」


しばらく無言で穂先を研ぎ続け………レンは底冷えのする声音でカイの名を発した。


「は、はい!!」


カイは咄嗟に敬語になってしまった。それだけ、今のレンから感じるプレッシャーは凄まじいものがあったのだ。シャーシャーシャー……だんだんとその音がさらに研ぎ澄まされたものへと変わっていく。


「………なぜ、そんな事を聞く?俺をおちょくっているのか?」


冷静沈着なレンにしては珍しく感情が面に出ていた。そこからは、怒りとも…失望とも…悲しみともとれぬような何かが感じられた。


「少し残念だ。俺はお前を信頼していたし、同じように信頼されているというある程度の自負もあったんだ。………………………だから、そんな事を言われるのは心外だし、少し悲しい」


「…………」


カイはそんなレンの言葉を聞き無言で俯いた。二人の間に会ってから一度も感じた事のない嫌な空気が漂い始めていた。


「………レンになら打ち明けてもいいかな」


そんな状態がしばらく続き……さすがに少し言い過ぎたかもしれないっとレンが考え始めた時に、カイが意を決したように呟いた。


「???」


レンはその呟きを聞き眉をひそめた。その声音は今まで自分がカイから聞いた事もないような弱弱しいものだったからだ。


カイはレンの隣で情けなく体育座りの格好をとり、頭を膝の上に乗せはじめた。極限まで自分の体を小さくしようとしているようだった。


「レン……俺の悩みというか、ちょっと相談にのってくれない?」


「…………相談?……俺が答えられる事なら、別に構わないが」


「ありがとう。…………………俺ね……向こうの世界にいた頃なんだけど、一人も異性の知り合いっていうか……仲良い人がいなかったんだ。男友達は結構たくさんいたんだけどさ。まぁ……幼馴染のカエデは別としてだけど。最初はね?みんな普通に接してくれるんだよ?会話も弾むし……時には頼りにしてくれたりもするんだ」


「………」


レンははカイの雰囲気が明らかにいつもとは違うことを瞬時に感じ取り、穂先を研ぐ手を止めて真剣にカイの言葉に耳を傾けた。


「けどさ………ある程度仲良くなったら、ある日を境にみんな俺を避けるようになるんだ。話しかけても、震えながら頷くだけだし、何か青ざめたりしてね。理由を聞いても、涙目でごめんなさいごめんなさいって連呼されるんだよ?何度も悩んだよ……俺、何かしたのかなってね。本当に訳が分からなくて、一度カエデに相談したこともあるんだ。………………けど、全然話聞いてくれなかったんだ!!」




================    =================



今、水月道場に小学生3、4年くらいの子供が二人何やら真剣な表情で向かい合っていた。一人は白い髪を肩まで伸ばし、手には竹刀をもって正座している。この水月家の一人娘である、水月楓である。


もう一人は黒い髪をし、その両手には黒い鉄鋼のついた手袋を装着していた。楓の幼馴染であり、了山家の後継者でもある了山楷である。


カイは自分の悩みを思い切ってカエデに相談していたのだ。なぜ、仲良くなった女の子は自分を避けるようになってしまうのか。これは重大な問題だった。理由は簡単だ。俺だって……………彼女が欲しい!!


カイの話を最後まで真剣に聞いたカエデは、竹刀を持ったまま立ちあがった。そして……


「……………カイ。お前の事を不憫に思うし、できることなら助けてやりたいと思う。だが、すまない。私もまだ死にたくないんだ」


とカエデは言った。それを聞いたカイは頭にクエスチョンマークを浮かべる。


「はぁ??訳わかんないよ!!てゆーか、俺の話ちゃんと聞いてた!?」


「ああ………ちゃんと理解しているつもりだ。力になれない自分を不甲斐なく思う。未熟な私を許してくれ!!」


カエデは悔しそうに言い、カイに頭を下げて謝ってきた。まったく意味がわからない。なぜ、相談しただけなのに頭を下げられるのか。そして、カエデはなぜか全身に気合いを漲らせ素振りをし始めた。


「え?ち、ちょっと待って。何でいきなり素振りし始めちゃうの?てゆーか、やっぱり話聞いてないよね!!」


「安心してくれ、カイ!!私は絶対に屈しないからな!!いつまでもお前の隣にいてみせる!!」


「話を聞けーーーーー!!」


道場にカイの絶叫が響き渡った。




===============     ==================





カイは立ち上がり、自らの両手を見つめながらカタカタカタカタっと震えている。


「何で?…俺がいったい何をしたっていうんだ!!この悲しさが分かる?女であるカエデの方が俺より、女の子にモテるんだよ?それどころか……カエデのファンクラブだか何だか知らないけど、幼馴染で一緒にいるだけなのに憎悪の対象として見られるんだよ??何この理不尽!!俺だって…俺だって……うぅぅぅぅぅ」


「…………」


レンはそんなカイの様子を黙ったまま見つめていた。というより、話しかけられなかった。カイは今までに見た事がない程興奮しており…………少しだけ恐かった。


「…………ふ~~ふ~~、ゴメン少し熱くなっちゃった。けどそれが毎回続くもんだから、さすがにみんなに鈍感だって馬鹿にされる俺にだって理解できるよ。原因が俺にあるんだろうなって事ぐらいさ」


ドォォォーーーン!!っと見るからに落ち込み、今度はカイからドス黒いオーラが放たれる。


「だからさ……俺と普通に喋ってくれる女の人っていったら、幼馴染のカエデと、まぁ特殊な人をを省けば後は……そうだね、もう情けない話だけど京香姉さんくらいのもんだったんだよ」


「……………」


ゆっくりとカイはレンの横に座りなおした。そしてため息混じりに説明する。


「俺もさ、何が何だか分からなくて。けど……こっちの世界に来てからは、まぁ……やっぱりいきなり嫌われた人もいるけど、レンとか……リサとか……メリルとか。まぁ……魔国のほかのみんなもだけど、普通に接してくれるでしょ?本当に嬉しくてね。けど……最近、レンめっきり夜の鍛錬に誘ってくれなくなったでしょ?」


(まぁ……だから、近頃はメリルと組み手ばっかりやってるんだけど)


それを聞いたレンは、少し恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。


「ま、まぁ……そう……だな」


「だからさ……俺は、いつもみたいにレンに嫌われたかと思ってね」


「………カイ、大丈夫だ。異世界の頃の話は俺にも理由はよく分からないが………俺はお前の事を嫌ってなどいないから、安心しろ」


レンはカイを安心させるために、にっこりとほほ笑んだ。レンは顔の下半分を未だに黒いマスクで隠しているが、カイにはしっかりとそれが分かった。それを見て、改めてほっと胸を撫で下ろすカイ。だが、そこである疑問がうまれた。


「でもさ。じゃ………なんで夜の鍛錬に誘ってくれなくなったの?」


ピタっとまた、レンは固まったかと思うと少し赤くなりながら俯いてしまう。そして、顔を近づけなくては聞こえないくらいの小さな声でぼそぼそと理由を話してくれた。


「そ、それは……その……お、俺はお前に迷惑にならないようにだな。つまり……き、気を使ってやってるんだ!!俺はその…お前が何をしてるか知ってるんだよ!!」


「???」


(ど、どういう事だろうか。というよりなぜ、レンはこんなに取り乱してるんだ?)


レンはずっとメリルと本気の勝負をしたいと言っていたはずだ。しかし、メリルの中ではレンはすでに友達というランクに位置づけられているらしく逃げ出してばかりだという話だったのだ。けど、鍛錬という形をとればメリルも納得してくれるのではないだろうか。そうすればレンは喜んでくれるはずだ。


とレンの気持ちを慮ったカイはきっと喜んでもらえるだろうなぁ~~っという思いのまま話しかけた。


「まぁ……よく分からないけど、レンも一緒にやる?」


「!!!」


だが、カイの予想は完全に裏切られる事となった。レンはそれを聞いた瞬間、クルクルクルクルっとその赤い槍を振り回しながら瞬時に立ちあがった。そして……


「ば、馬鹿者ーーーーー!!!」


ダン!!…っとレンは力強く踏み込むと、カイ目掛けて神速の槍を繰り出した。


「え……えぇぇぇぇぇぇ!!」


魔国第2代魔王・カイ・リョウザンの悲鳴が、アゴラスに響き渡った。


ちなみに、まだ続きます。ご意見・感想ありましたら。すごく励みになります。

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