異変
え~~時系列の確認ですが、竜王編は神王編の途中あたりだと思って下さい。魔王編にいたっては、少しずつ追いついていきますので。では、今回は少し別サイドからの話です。楽しんでいただけたら幸いです。
~~~~~~~~スタットック王国・北西部・ルードンの森近く~~~~~~~~~
「ふわぁぁぁぁぁ……あ~~眠み~~」
「まったくだ。今日も異常なしっと」
今軍営の見張り台の上で、二人の兵士が雑談をしていた。ここはスタットック王国北西部にある、最前線の軍営だった。しかし、ここの兵士たちに緊張感は皆無である。
ルードンの森は魔物や魔獣が多く住み、軍が通れるような所ではない。だから、仮に西の大国であるドラグーン王国が攻めてくるとしてももっと南だ。しかも、スタットック王国とドラグーン王国は現在交戦しているわけではないのだ。だから、仕事などないに等しい。緊張しておけという方が無理である。
「なぁ…シオン?今日はどうするよ?また、近くの街にいって一杯やるか?それとも、妓館にでも乗りこむか?」
「いや、俺はやめとく。二日酔いぎみだし……それにな」
っとシオンと呼ばれた兵士は、にやにやと本当に幸せそうに笑っている。そんなシオンを恨めしそうに見ながら……
「何だよ~~。お前、結婚してから付き合い悪くなったよな~。昔なら、酒でも妓館でも断らなかったのによ~~」
そんな友人のからかいの言葉を受けて、恥ずかしさを隠すためなのか大声を上げてしまうシオン。
「う、うるせーー!!俺はもうすぐ父親になんだよ。へ……羨ましいだろ~~?」
「はん!!何て締りのねー顔してんだよ、あ~~やだやだ。結婚したらここまで変わっちまうもんグボ!!」
っと今まで話していた友人が急に呻いたかと思うと、そのままゆっくりと見張り台から落ちて行った。だが、その瞬間しっかりとみてとれた。その落ちていく友人の首に一本の矢が深深と突き刺さっているのを。
「お、おい!!」
っとシオンは身を乗り出して助けようとしたが、間に合わなかった。そのまま落下していき、地面に叩きつけられていた。
「!!!」
それを見たシオンは塀に隠れながら、カンカンカンカンカンカンカン!!っと一度も鳴らしたことがなかった敵襲を知らせる鐘を叩きまくった。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
っとルードンの森から雄たけびをあげながら、何百もの敵が続々と現れてくるのが見てとれた。シオンは見張り台に隠れながら、敵の様子を確認した。しかし、そこには驚愕の光景が広がっていた。
「あ、あれは…ドラグーン王国の兵じゃないぞ!!あれは!!」
だがその時、シオンは一本の矢が自分の方に向かって飛んでくるのを目の端にかろうじて捉える事ができた。すぐに見張り台にしゃがみ込み、その矢を避ける。だが………………
ひゅんっと見張り台の上を通りすぎていったはずの矢が、空中で変幻自在の動きを見せながら軌道修正し、自分に向かってきたのだ。
「ば、馬鹿ガ!!」
その一本の矢はシオンののど元へと突き刺さり、いとも簡単にその命を奪っていった。
============ スタットック王国・首都・トーラン =================
「………はぁ~~~」
今、一人の青年が椅子に座り、深い深いため息を吐いていた。赤茶色の髪をした、16~17ぐらいの男。その名をソロス・スタットック。スタットック王国・第87代・北の王である。
(まったく……次から次へとよくもまぁ~~こんなに問題ばかり起きてくれますね)
ソロスは1枚の報告書を手に取り、何度も読んだであろうその内容をもう一度確認する。神聖帝国を滅ぼし、スタットック王国の復国を宣言したソロスであったが、国内の問題は山積みだった。
まず一つ目は、中央の領主と北部の領主のいざこざだった。北部総督の頃から自分につき従ってくれた北部領主と、神聖帝国が滅びてから忠誠を誓ってきた中央領主との兼ね合いがうまくいかないのだ。頭が痛い問題だった。
そしてさらに旧帝都では未だに、狂信的なアートス教信者が叛乱を企てているという噂もあった。調べてはいるが詳しいことは分かっていなかった。こういう時、神聖帝国のレイス…魔国の闇の軍のような存在がないのが痛かった。諜報などにも力を入れようとしているが、なかなか育っていないのが現状なのだ。
レイスの存在も無視できない。レイスを撲滅すると宣言したはいいが、なかなか成果が上がっていなかった。いや、魔国の闇の軍の協力がなかったら一人たりとも見つけ出せなかっただろう。本当に恐ろしい部隊だった。レイス全員の生首をみるまでは、枕を高くして眠れない。いったいどこに隠れているというのか。
さらには最近の魔国とドラグーン王国の交易が順調なのが気にかかる。ギガン族の協力をとりつけ、あの大砂漠を自由に行き来きし、かなりの利を上げているらしい。いったいどんな魔法をつかったというのか。
(そして極めつけは…………エルフ族の凶暴化ときましたか)
エルフ族は温和な種族で有名だ。ルードンの森でひっそりと暮らし、めったに人前に出てこない。それがスタットック王国北西部の軍営を襲い、小さな村々を焼き払っているというのだ。まったくもって謎だった。だが、スタットック王国にもかなりの犠牲が出始めている。これ以上放置する訳にはいかない。
ソロスが頭を悩ませていると……コンコンっと扉を叩く音と、深みのある声が聞こえてきた。
「………陛下、ジョルン・ツインズです。入ってもよろしいでしょうか?」
「はい……待っていました。さぁ…入って下さい」
ガチャっと扉を開け、ジョルンが部屋へと入ってきた。神聖帝国との闘いを終え、ジョルンはソロスから、スタットック王国の軍すべてを掌握する権限を与えられていた。一部から軍部に力を結集するのは危険だという意見もでたが、ソロスは無視した。ジョルンにそんな野望がない事など、自分にはすでに自明の理だ。
「陛下、さっそくですがどのようなご用件でしょうか?」
コツコツコツっと机を叩くソロス。ソロスはジョルンに対してだけは、王としてではなく普段通りのしゃべり方をしていた。意識している訳ではないが、ジョルンに対しては自然とそうなってしまったのだ。
「………聞いての通りですよ、ジョルン将軍。エルフ族が、スタットック王国の軍営を、村を、民を襲っています。ジョルン将軍、あなたにエルフ族の討伐を命じたいと思っています」
それを聞き、ジョルンはしばらく考え込んだかと思うと………
「………難しいですな。軍を配置してエルフ族が村を襲うのを防ぐ事はできましょうが……ルードンの森に軍が入っていくことはできません。討伐となると相当の犠牲を覚悟しなければならないでしょう」
コツコツコツコツっと執務室にソロスが机を叩く音が響く。
「………やはりそうですか。仕方ありませんね、討伐の件は後で考えるとして。さっそく北西部に軍を配置してください。これ以上の犠牲は出したくありませんので。さて、エルフについては調査隊を派遣しなければなりませんね」
ソロスはエルフ族襲撃の報告書を机に積み重ねられている紙の束の上に乗せた。そして、疲れたように両目を指でゆっくりとマッサージをする。そんな10代の若者らしくない仕草を見たジョルンは……
「………陛下、少し休まれてはいかがですか?最近はまともに寝ていないとも聞いております。問題が山積みなのは存じておりますが、すべてを一人でやる必要はないのではないでしょうか?一部……臣下の者に任せてもよいのではないですか?」
そんな心配そうなジョルンの助言を聞いたソロスは、少し皮肉そうにハハハ…っと笑う。
「えぇ…休みたいのはやまやまですがね。どうも……上げられてくる報告書にはどこか、粗が見えてしまうのですよ。スタットック王国の人材不足も深刻ですね……」
すると、真面目なジョルンにしてはかなり珍しい事ではあるが、少しからかうかのように言った。
「そうですか………いやはや、優秀すぎるのも考えものですな。私のような凡人には羨ましい悩みでもありますよ」
そう言いながらにっこりと笑うジョルンに、ソロスははぁ~~っとため息で返した。
「………ジョルン将軍、からかうのはやめて下さい。あなたも同じでしょうに。軍において優秀な人材が不足している事は、聞いていますよ?」
「いえいえ……私は優秀とは程遠い人間ですよ。まぁ…軍でも人材がいない訳ではないのです。しかし、それは千人将までなら、という事でして。指示を受けなくても、自ら判断して動かなくてはならない将軍クラスとなりますと……なかなか」
「そうですか……まぁ、確かに私もすべてを一人でやる事には無理があると前から思っていました。いくつかの仕事は臣下に任せてしまいましょうかね」
「それがよろしゅうございますよ。では私は遠征の準備を整えたいと思いますので、これにて」
ジョルンはソロスに深く礼をすると、踵を返し部屋を出ていこうとした。それを今までとは少し違うトーンでソロスは呼びとめた。
「………ジョルン将軍、ひとつ聞いておきたい事があります」
「はい、何でしょうか?」
ジョルンはそれを聞き振り向く。そこには執務室の上で両手を絡めたソロスがジョルンの方をじっと見つめていた。
「…………率直にお聞きしましょう。魔国とドラグーン王国。どちらが手ごわいと思いますか?」
その言葉の意味を誰よりも一番理解しているジョルンはしばらく、黙ったまま考え込み…………
「………………そうですね。確かに私はドラグーン王国とは長年に渡り闘ってまいりました。しかし、最近はずっと神聖帝国で新兵の訓練ばかり任されていたため、戦場には出ておりません。報告では何やら才能ある若い芽が何人かいるという話です。ですから、厳しい闘いになる事も予想できます。そして、魔国に至っては私は一度しか闘った事がございません。ですが、それでも魔族の強靭さについては身にしみて味わったと思っております。巨人族の怪力…ミノタウロス族の突進力…狼人族の俊敏さ…鳥人族の脅威ともいえる跳躍力…いづれも戦況にかなりの影響を及ぼすでしょう。ですから、数で勝る魔国との闘いもそう簡単にはまいりますまい。判断が難しい事であると考えます。ですが…………」
ジョルンはそこで一度言葉をきり、しっかりとソロスの薄青い目を見つめ言葉を紡いだ。
「……私は軍人です。主君である‘北の王’が命じて下さるのであれば、例えどんな強大な敵であろうと戦い抜く覚悟はできております。絶対とは言い切れませんが…………私のすべてを懸けてスタットック王国を勝利に導いてごらんにいれます。………では」
それだけ言うと、ジョルンはソロスの執務室から出て行った。ソロスはしばらくそちらを見続け……椅子に深く座り直し、小さくほほ笑んだ。
「‘名将・ジョルン’………何とも頼もしい限りですね。すでに歴史に名を刻んだ希代の英雄。そんな方を臣下に持てるなど、これほど王として嬉しい事はありませんね。…………さて、魔国とドラグーン王国ですか。戦略的にはどちらかと同盟を組み、残る一つを滅ぼし、そして……雌雄を決するという形が一番無難でしょうか。未だに魔族への恐怖心が根強い魔国か……神聖帝国が滅びたとは言え、少し関係が曖昧となっているドラグーン王国ですか。ふ~~~……大陸を制覇するのも楽ではありませんね。ですが、しっかりと見ていてもらいましょうか………私は絶対に成し遂げてみせますよ」
ソロスのそんな呟きは、誰に聞かれることもなく消えていった。
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