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王たちの宴  作者: スギ花粉
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誓い 竜王編

「ほう……そうか。こういう陣形もあるのか、中々勉強になるな」


みなが寝静まるような深夜………マーテル家の主城のとある部屋は未だにランプの光に満ちていた。その部屋にあるベットの上で興味深そうに本を手にとっている女性がいた。


濃褐色の双眸に、乱雑に切りそろえられたオレンジの髪をした細身の女性。ガウエン元帥が副将であり、ヴェラリオン家の正統後継者でもある、ドラグーン王国内では‘無敗の神将’と呼ばれる女将軍・アシャ・ヴェラリオンである。


アシャはいつも着ている純白の鎧を脱ぎ、今は下着のみという姿のままベッドで胡坐をかいていた。その近くにはヴェラリオン家の宝剣が大切そうに横たえられている。


{……アシャ……誰もいないからといってはしたないですよ}


ふわっと漆黒のドレスを着き、両目に白い布を巻きつけた、黒の長髪をした女性が部屋の空中に現れた。1200年前、とある大魔導士により造られた魔剣に宿りしもの。名前をファルナといった。800年前、ドラグーン王国存亡の危機を救った伝説の女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンが名付け親でもあった。


「別にいいじゃないか。誰もいない事だしな」


アシャはベットで下着姿で胡坐をかきながら、戦略の本を読みふけっていた。ファルナの叱責をまったく聞く気がないようだ。


アシャがセシル王女の元に駆けつけてから、すでに2か月もの月日が流れていた。


本来であればすぐにヴァンディッシュ家を討伐するべきだったのだが、王都には病に伏せっている国王のエダード様がおられる。こちらが不穏な動きをすれば、エダード様の身に危険が迫るかもしれない。セシルとしても迂闊に兵を出せないであろう事は簡単に想像できた。


今自分の父であり、ヴェラリオン家の当主であるデニス・ヴェラリオンがイライザ王妃へと使者を何度も送っているらしい。南部領主…ヴェラリオン家…そして、神聖帝国の宗教反乱も佳境を迎えているらしい今、ガウエン元帥の軍勢の一部がこちらに加わるのも時間の問題だ。


いかにヴァンディッシュ家の影響力が強かろうと、これだけの兵力差は覆しようがないはずなのだ。だが、ヴァンディッシュ家は一向に兵を王都から引こうとはしないらしい。何か秘策でもあるというのか。


しかし実際、すぐに出兵しなくて本当によかったと思っている。なぜならこの2カ月間、南部領主の軍の脆弱さを思い知らされたからだ。国境付近で常に戦ってきたアシャにとって、まさに唖然とするしかなかった。陣形一つまともに造れないのだ。


アシャはセシルから南部領主の兵士を鍛える許可をもらい、地獄のような鍛錬をかした。地獄といってもガウエン元帥の元ではみな普通にこなしている訓練のはずだった。


しかし、半日もたなかった。丸一日走る事もできないとは、いったい今まで何をしてきたというのか。今でこそ最低限の基礎はできるようになったが、あのまま出兵していたら確実に大軍の弱点となってしまっていただろう。


{はぁ……まったく、あなたぐらいの年頃の娘ならもっと身だしなみに気をつけるでしょうに}


ファルナは嘆息しながら、その白い布で塞いだ両目をアシャへと向ける。


「私にそんな女らしい事を求めても無駄だぞ、ファルナ」


それを受け、アシャはチラっとファルナを見上げながら少し可笑しそう笑う。そんなアシャの様子をしばらく見つめ……


{……そういう所は、ファル―ゼとは全然違いますね}


っと何やら少し懐かしそうに、ふふふふっとファルナは呟いた。アシャはそんな笑い声を聞き、ページをめくる手をピタっと止めファルナを見上げる。


「珍しいな。ファルナが、伝説の女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンの話をするなんて。初めてじゃないか?」


{ふふふふ……そうかもしれませんね}


っとファルナはやさしい笑みを浮かべながら、その塞がった目で虚空を見つめている。それを見て、自分の憧れであり、ファルナの前の主であるファル―ゼ・ヴェラリオンについて少し知りたくなった。


「…………なぁ、ファルナ。少し気になったんだが……ファル―ゼ・ヴェラリオンとはどんな人物だったんだ?ぜひ、知りたいんだが」


800年前、何百という戦場を駆け抜けたヴェラリオン家の英雄。弱小貴族だったヴェラリオン家が、三大名家といわれるまでになれたのはファル―ゼの活躍が大きかった。


そんなファル―ゼ・ヴェラリオンの実際の様子を聞けるなど、恐らくこの広い世界で自分だけだろう。そう思うと自然と胸が高鳴った。それを聞いたファルナは…………


{………構いませんよ、アシャ。あなたには、いつか話そうと思っていましたからね。そうですね~。ファル―ゼは………本当にアシャとは違っていましたね。ファル―ゼはですね……普通の女の子でしたよ}


「……ふ、普通の女の子?」


アシャは少し驚いた。あの伝説の女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンとは一番かけ離れている言葉のような気がしたからだ。


そんなアシャの様子をおもしろうに見ながら、ファルナはさらに続けた。


{ええ…ファル―ゼは普通の女の子でしたよ。本当に甘い物が好きな娘でしてね、それでいて…ふふふふ……いつも体重が増えていないか気にしてばかりでしたね}


「………」


アシャは唖然としてしまった。自分の中にある英雄像がどんどん崩れていくような気がした。そんな様子に気づいているのか、いないのかファルナはさらに続ける。


{いつも口癖のように言っていたものですよ。私も、きれいなドレスを着てみたいとか……他の貴族の娘のように楽しくお茶をしたい……そして、物語のようにかっこいい騎士と恥じらうような恋をしてみたいとね}


「………それが、どうして?女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンは、戦場を駆け抜けた英雄だと聞いている。そんな思いがあるなら……」


それを聞いたファルナは、悲しそうにはぁ…っとため息をついていた。


{……あの頃は、そんな生易しい時代ではなかったのですよ。1000年前、大陸の半分を支配下においたドラグーン王国は、まさに栄華を極めたといっていいでしょう。しかし……ドラゴンたちが狂い、ドラゴン騎士・ディーンが消息をたち、アラニス・ドラグーンが亡くなった後は、それはもう大変でした。国のいたる所で反乱がおき、200年にわたる混沌が続いた時代だったのです}


それはアシャも知っていた。制圧した国々では反乱が絶えず、しかもそれを好機とみた‘北の王国・スタットック王国’もまた侵攻を開始したのだ。まさに、戦乱の世だったと歴史の本には記してあった。


{……ファル―ゼは優しい娘でした。そして、自らの祖国であるドラグーン王国を心から愛していた。本当は……闘いたくなどなかったのでしょう。その証拠に、戦のたびに敵・味方に限らずその犠牲を嘆き、苦しんでいましたよ。しかし、この剣を抜いてしまった……そして力を手にしてしまった。まさに、ドラグーン王国存亡の危機でした。そのような状況で、力を手にしてしまったあの娘は逃げるなどと微塵も考えなかったのでしょう。すべては、祖国のため……そこで暮らす無辜の民のために……っと、それに比べれば自らの思いなど、取るに足らないとね}


「……………」


アシャはいつの間にか、壁によりかかり片膝に頭をのせるようにしてその話を真剣に聞いていた。ファルナは、その白い布で覆った目でアシャをしっかりと見据えた。


{アシャ、いったい何人の兵士がこれまで戦で死んだのでしょうか。戦争は悲劇しかうまない……悪い事だと罵るのは誰にもできます。それでも、戦争はおこる時にはおきてしまう。その過酷な状況で、実際に決断を下せるのか……そこが重要なのです。自分の大切なものを守るために、誰かの大切なものを奪わなければならないとしたら?…………多くの、王や騎士や将軍や兵士が……悩み、苦しみ、もだえ、そして……皆覚悟を決めていく。最後まで、戦争をなくそうと躍起になる者……自らの大切なもののために、恨まれる覚悟を決めた者……考える事を放棄した者……そんなものたちの思いが入り乱れる場所こそ、戦場なのですよ。そんな中、ファル―ゼは最後まで闘い続けましたよ。あの娘を恨んでいるものなど、それこそ星の数ほどいたでしょう。それでも……あの娘は祖国のために命をかけた。自分のすべてをかけたのですよ}


「………ファルナ」


{………何でしょうか?アシャ}


「辛かったら言わなくてもいい。だが、女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンの最後を知っているのか?」


ファル―ゼ・ヴェラリオンの死は謎に包まれていた。大陸南部の反乱鎮圧のおり負傷したという話は有名だった。だがその後、付近の森で謎の死を遂げていたのだ。負傷により息絶えたという者もいれば、名のある騎士に打ち取られたという者もいた。だが、それらはすべて憶測にすぎない。ファル―ゼを討ち取ったと名乗り出た者はいなかったし、首をとられるような事もなかった。真実は闇の中なのだ。


しばらく、ファルナは黙ったまま虚空を見つめていた。そして、その重い口を開いた。


{………あの娘は、最後の戦場で瀕死の重傷を負いました。ですが、私の加護があれば何とか助かるはずでした。しかし………逃げる途中の森の中で、一人の名前を知らない平民の少年と出会った。その子供はファル―ゼにいったのです。‘お前は父様の敵だ!!母様を悲しませる奴は僕が許さない!!’っと。その頃のドラグーン王国は、ファル―ゼの活躍で危機的な状況から脱し、ある程度の安定期を迎えていました。だからこそ………ファル―ゼは私に言ったのですよ。




===============    ==================





「もう……自分がいなくても祖国は大丈夫だよね?もう………私は苦しまなくてもいいんだよね?ごめんね………あなたを、また一人にさせてしまう事になるんだね。でも、お願い。私の最後の我儘を許して………ファルナ」





==============    =====================




…………その少年の決死の刃を、ファル―ゼはやさしく受け止めました。初めてだったのでしょう……その少年は震えながら、ファル―ゼの首をとる事もせずにその場から逃げていったのです。そして………………そしてあの娘は私の前からいなくなったのですよ}


「………」


ファルナの白い布に覆われた両目から、半透明の雫があふれ始めた。


{アシャ……あなたにこれだけは分かって欲しい。何気なく野に咲く小さな花も……その根を張っている大地を守ろうとした、何千何万という兵士たちのおかげだという事を。戦争という悲劇は繰り返されると人はいう。だけどそこで失われた命を……人の思いを……そんな軽々しい悲劇なんて言葉で語って欲しくない。あの方は、私をこのドラグーン王国を守護する存在としてお造りになったのです。守りたい……この国を。ファル―ゼが……そして、同じ思いを抱きながら死んでいった者たちのように}


ファルナの話はそこで終わりを迎えたようだった。二人の間を何ともいえない静寂が支配する。アシャはパタンっと読みかけの本を閉じ、自分の側に横たえていたヴェラリオン家の宝剣を手にとった。


ジャリンっとゆっくりと鞘から剣を引き抜く。その神秘的ともいえる薄紫色の刀身が、ゆっくりと光を放ち始める。アシャが宝剣に自分の光の魔力を注ぎ込んだからだ。部屋が薄紫色の光に照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「……………ファルナ」


{……何です?アシャ}


アシャはゆっくりと瞼を閉じ、一度心気を落ちつけた。そして、空中で浮くファルナをしっかりと見つめ直し、言葉を紡いだ。


「私も……この国が大好きだ。セシルも、自分に色々な事を教え、居場所をつくってくれたガウエン元帥も、自分といつまでも競いあっている憎たらしいあいつもな。だから………今度は私の番だ。この剣に誓おう!!私が………この祖国を守ってみせる!!」


その言葉はありきたりな言葉だった。何万人もの騎士たちが、幾度となく誓ってきた言葉だ。しかしだからこそ………何よりも力強く……そして、真っすぐな言葉だった


{…………………ありがとう、アシャ}


ファルナは一筋の涙を流しその滴は床へと落ちていったが、床に染みをつくることなくパァァァンっと霧散してしまっていた。

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