表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王たちの宴  作者: スギ花粉
148/200

噂話 竜王編

え~~お久しぶりです。では、楽しんでいただけたら幸いです。

(ど、どうしてこんな事になったんでしょうか?)


ライサは一人混乱していた。今、ライサがいる部屋には自分以外に二人の人物がいる。一人は金の長髪を後ろで縛り、金色の鎧をまとい、腰には見事な双剣を携えている。人間に化けている、ドラゴンの王。‘黄昏の支配者・アーサー’である。


そして、もう一人は濃褐色の双眸に、乱雑に切りそろえられたオレンジの髪をし、白い鎧をその身に纏っている。ドラグーン王国ガウエン元帥が副将にして、ヴェラリオン家の唯一の後継者。そして‘無敗の神将’っと称される女将軍・アシャ・ヴェラリオンである。


アーサー様は開けた窓の淵に凭れかかりながら、徳利からコップに酒を注ぎゴクゴクっと飲んでいる。そして、アシャ将軍は自分の隣に立ちアーサー様の方を不審そうに睨みつけていた。


いきなり部屋から現れたアーサー様が、アシャ将軍を自分の酒盛りに誘ったのだ。ライサはかなり驚いた。先ほどなど、いきなりアシャ将軍に斬りかかっていたのにもかかわらずである。


また、こんな城の中で決闘でも始まってしまうのではないかと思っていたのだが、アーサー様の態度からまったくそんな様子は見られなかった。それにアシャ将軍も少し戸惑っているようだった。


グイっと徳利をアシャ将軍の方へと向けるアーサー様。


「どうだ?アシャ・ヴェラリオン?お前も?」


「………いや、私はこれから仕事もある。それにこんな昼間から、酒など飲めない」


「そうか……それは残念だ」


っと断られた事をまったく気にしていないかのごとく、またグイっと酒を飲み始める。そんなアーサーを見てライサは一人騒ぎ始めた。


「ア、アーサー様!!なぜ、アシャ将軍は名前で呼んでくださるのに、私はチビ助のままなのですか!!」


ぎゃんぎゃん騒ぐライサを、アーサーはいつものように胡乱げに見て……


「………アシャ・ヴェラリオンは我がその力を認め、‘古の決闘’を申し込んだ相手だ。その名は我の胸に刻みこんだのだ。例え、途中であの小娘の邪魔が入り決着がつかなかったとしても忘れはせん。そんな相手に最低限、礼を尽くすのは当然の事だ」


それだけ言うと、トクトクトクっとまたお酒を注いでいくアーサー。


(……じゃぁ……私が名前で呼ばれるのはいつになるのだろうか)


名前で呼んでくれたのは一番最初だけだ。その後は、ずっとチビ助…チビ助…チビ助………略…だった。何やらアーサー様には私をからかって面白がっている伏しがある。いづれ、決着をつけねばならないだろう。ライサがそんな決意を秘かに固めていると……


「………お前は、いったい何なんだ?」


アシャ将軍は眉をひそめながら、アーサー様に疑問をぶつけ始めた。


「いきなり私に斬りかかってきたかと思えば、今はそんな私を酒盛りに誘う。貴族でもないようだし……王族であるセシル様を小娘呼ばわりする。お前は、いったい何者なんだ?」


それを聞いたアーサーは面白そうに笑っている。


「カカカカカ……まぁ、当然の疑問であろうな。教えてやろう、アシャ・ヴェラリオン。我はドラゴン…」


「わぁぁぁぁぁぁ!!わぁぁぁぁぁぁ!!」


アーサーが喋ろうとした瞬間、ライサは奇声を上げてそれを遮った。それをアシャは驚いたような表情で見つめる。


「あ…あははは……す、すみません。マーティン家の者は、定期的に奇声を上げてしまう病気なんですよ…ははは」


ライサは追い詰められて明らかに嘘とわかる言い訳をしてしまった。だが……


「そ、そうなのか。苦労しているんだな」


っとアシャ将軍は憐憫の視線を私に向けてきた。


(い、いや……確かにそういったのは私なんですけど、本当に信じられても。アシャ将軍って意外と常識ないのかも)


だが、ライサはそんな失礼な事を考えていると………


「うん?……何?そ、そんな病気がある訳ないじゃないか!!そんな嘘で私はごまかされないぞ……今この者は確かにドラゴンっと口にしていたぞ?何を隠しているんだ?」


っと突然、アシャ将軍は私の嘘を見破ってきた。


(いや、まぁ…ばれて当たり前なんですけど、何でしょう…この時間差は)


ライサは頭をフル回転させた。セシル様からアーサー様がドラゴンであることは絶対に秘密にするように言われている。アーサー様もちゃんと念を押されているはずなのだが、すっかり忘れてしまっている。


「えっと……えっと…そう!!アーサー様は、ドラゴンについて研究している学者なんですよ!!」


「……ドラゴンの学者だと?そんな者がいるなど聞いたこともない。しかも、なぜ学者が剣を持って、私に斬りかかるんだ? 」


アシャ将軍は不思議そうに首を傾げていた。だが、ライサは何とかつじつまを合わせる事に成功した。


「えっとですね?アーサー様は実は戦闘狂でして、強い人を見ると戦わずにいられないんですよ。可哀そうなことに!!しかも、ドラゴンについて調べるために魔獣が棲むルードンの森を頻繁に訪れるから、もの凄~~く強くなっちゃって訳なんです。しかし、それが幸いしてですね?セシル様を襲ってきた賊を見事にやっつけてくれた訳なんです!!」


ピクっとそれを聞いた瞬間、アシャの顔色が変わる。


「何だと?じゃあ……この者がセシルを救ってくれた者なのか?」


アシャはガシっとライサの肩をつかんだ。もの凄い力だった……女性とは思えない。


「は、はい」


何とっとアシャ将軍は驚いたように呟き。クルっと自分に背を向け、アーサー様に向き直り、近づいていくと深く深く頭を下げた。


「アーサー……っと言ったか。この国の者として感謝する。セシル王女様を救ってくれて本当にありがとう」


「よせ……我は別に助けようとした訳ではない。事の成り行き上そうなったというだけの事だ」


グビっとまたグラスのお酒を一気に飲み干すアーサー様。それを見て、アシャ将軍はにっこりと笑いながら、そうかっとだけ言った。二人の間にもう殺伐とした空気は感じられなかった。


ライサは何とかごまかす事に成功し、ほっと胸をなでおろしていた。その時、アシャ将軍は何かを思いついたようにアーサー様に話しかけていた。


「なるほど……ドラゴンについて研究しているのか。すまない、これは興味本位なんだが、ドラゴン騎士・ディーンの事はもちろん知っているだろう?ぜひ、詳しい話を聞いてみたいんだ。あのドラグーン王国絶頂期を創り上げたアラニス様が、どのような力をもってドラゴンを使役していたの……」


だが、そのアシャ将軍の言葉を聞いた瞬間、


「カカカカカカカカカカ!!」


っと手に持つグラスを落とさんばかりの勢いで大笑いし始めた。アシャ将軍と私は、どういう事か分からず困惑したような表情を浮かべてしまった。アーサー様はしばらく笑い続け……


「カカカカ……いや、すまん。許せ、アシャ・ヴェラリオン。くくくく……使役か。これでは、あ奴も報われぬであろうな」


「???何の話だ?」


「いや、こちらの話だ。ふむ………ドラゴンとは至高の存在だ。他の種族とは比べ物にならぬほどの時間を生きる事が許されている。しかも、ドラゴンは炎・氷・光・闇……世界の源ともいえる魔法の4属性すべてを使いこなせる存在。さらには、はるか昔に新たな魔法まで創造している。それが、風魔法だ。そんな存在であるドラゴンをたかが、一人の人間が操れると本気で思っているのか?」


「い、いや……だが、伝承では」


「人間族の伝承ほどあてにならぬものはない。まぁ……信じる信じないはお前たちに任せよう。氷結……あ~~つまりはドラゴン騎士・ディーンだが……あ~~あの小娘は何といったか?」


「あの…アラニス・ドラグーン様の事でしょうか?」


ライサが思い出せないアーサーに助け舟を出すと……


「そうだ……そう…アラニスとかいったな。ふむ……その者には実に不思議な力が備わっていたのだ。人の心が読めるという力がな」


「「心を??」」


私とアシャ将軍は声を揃えて聞き返してしまった。そんな話は聞いた事もないし、心が読めるなどそんな事が本当にありえるのだろうか。そんな私たちをアーサー様は馬鹿にしたように鼻で笑っていた。


「ふん………そんな事も知らぬのか?まったくこれだから…………まぁ、良いわ。そうだ、その者は人の心が読むことができるという特別な力を持っていたのだ。だが、己の力をしっかりと制御できてはいなかったようだがな。近くにいる者の感情や思惑が勝手に流れ込んでくる状態だったらしいのだ。それは想像を絶する苦しみであったであろうな。特に人間族の業とは恐ろしいものがある………まぁ、我も詳しくは知らぬがそんな時に人間に化けたディーンと出会ったのだ。その小娘は驚き、そして歓喜したそうだ。相手の考えている事が分からない……感情が流れ込んでこないという事にだ」


いつの間にか、私は聞き入ってしまっていた。この話は恐らく、1000年もの昔の本当の真実なのだろうから。


「ふ~~~………そして人間に化けたドラゴン騎士・ディーンは、少し風変わりなドラゴンであったのだ。奴は人間に憧れていた……ドラゴンでありながら、人間になりたいと切に願っていたのだ。その気持ちは我にはまったく理解できぬがな。そしてさらに馬鹿げた事であったが、ディーンは恋をしたのだ。そのアラニスとかいう人間の小娘にな」


「恋?ドラゴンが人間に恋?……そんな事がありえるのでしょうか?」


トクトクトクっとまた空になったグラスに酒を注ぐアーサー。そして、それを一気に飲みほしまた喋り始める。


「………ドラゴンには他の種族のような雄雌の区別がない、いうなれば両性体だ。恋という概念が正しくないのかもしれぬ。その者が望む事なら、そのすべてを叶えたいと思い。その者に仇なす者を、すべて屠りたいと思い。その者のためなら、死んでもいいとすら思う……そんな感情だそうだな。常にその小娘を一番近くで見守っていたのだ。そしてこの国はその風変わりなドラゴンのおかげで、大陸の半分を支配するまでになったという訳だ」


アーサー様がそう締めくくると、アシャ将軍は自分の隣でほぅっと感嘆をもらしていた。


「………今まで聞いた事がない面白い説だった。さすがは独自の研究をしているだけの事はある。私ももっと詳しく聞いていたいのだが、すまない。そろそろ戻らないとならないんだ。やらねばならない事もあるからな。また、面白い話を聞かせてくれ……えっと……アーサーと呼んでいいかな?」


それを聞いたアーサー様は別に構わんっというように手をぞんざいに振っていた。それを見てアシャ将軍は嬉しそうに笑うと………


「さっきはぶつかって、本当にすまなかった。ライサ・マーティン」


「い、いえ!!私なんかに謝らないで下さい!!失礼だったのはこちらなのですから!!」


それを聞き、そういってもらえるとありがたいっと言い残し、アシャ将軍は部屋を早歩きで出て行った。


(三大名家の方のはずなのに、全然気取ったところがない人だったな~~。私なんかにこんなに優しくしてくれて)


ライサが感動しながら、アシャが出て行った扉の方を見ていると………


「…………まぁ、そんな‘氷結の’を殺したのも我だがな」


「???アーサー様、何かおっしゃいましたか?」


「何でもないわ。それにしても…………惜しい。アシャ・ヴェラリオン。人間族にしては中々やりおる。我の相手としては少し物足りなさも感じるが………まぁ、万が一という事もあったであろうにな」


アーサー様は少し落胆したような表情を見せたかと思うと、懐から一枚の用紙を取り出していた。ライサは目ざとくそれに気付き………


「あの~~アーサー様?それは、何でしょうか?」


「これはこの国が調べ上げた、我と渡り合える可能性のある者の一覧だそうだ。アシャ・ヴェラリオンも名を連ねておるわ。だが……‘血の契約’で我がこの国の大陸制覇の邪魔をする訳にはいかぬ。だから、もう闘う訳にはいかぬのだ……………残念だがな」


「あの~~少し見せてもらっても、よろしいでしょうか?」


勝手にみるがいいっといわんばかりにアーサー様はその用紙をピラっと投げ捨てた。ライサはどうせ渡すなら手渡しでくれればいいのに……っと思いながら、拾い上げ確認してみた。


そこには確かに様々な者の名前が書かれていた。ドラグーン王国内の有名な騎士はもちろん、神聖帝国にいる最強の老魔法使いだの……異世界から召喚されたという光の勇者や闇の勇者だの……伝説の傭兵・赤き狼だの……ドルーン山脈にいるといわれている伝説の鳥人族の戦士だの……魔族をまとめ上げた魔王だの……さらには盗賊だという者までいる。噂話のたぐいにしか見えなかった。


「…………」


ライサは正直、誰であろうとドラゴンと単体で太刀打ちできるような者がいるとは到底信じられなかった。いったいセシル様はどうするおつもりなのだろうか?アーサー様の力は大陸制覇の大きな武器になると思う…………けど


「2年か………長いようで、何と短い年月だ。その間に我の夢が叶うというのだから、いくらでも我慢してやろうではないか。カカカカカカカカ!!」


もし、アーサー様の願いをかなえる事ができなかったら。この国は………地図上から消えてなくなる事になるかもしれない。


感想・ご意見ありましたら。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王たちの宴・アンケート!!
王たちの宴アンケート
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ