ヴェラリオン 竜王編
え~~スギ花粉です。楽しんでいただけたら幸いです。では、どうぞ~
「ハァァァァ!!」「カカカカカカカ!!」
アシャは気合いを放ちながら……アーサーは歓喜しながら、同時に前に飛び出した。
中央で二人は衝突する。ギンっと火花を散らし、アーサーのクロスした双剣とアシャの宝剣が正面からぶつかり合った。
ぶわっとアシャの体が一気に飛んだ。それでも、アーサーの攻めは止まらない。飛んだ後を追い、次の一撃を加える。キン!!っとその双剣の順手持ちの剣をアシャは受け、逆襲に転じるが、アーサーはそこに根が生えたかのように動かない。
キリキリキリ……っと鍔迫り合いになった所で、アーサーはにやっと笑った。ヒュン!!っと左手に構えた逆手持ちの剣が唸りを上げてアシャに迫る。
「く!!」
アシャはそれを紙一重で避けると同時に、渾身の蹴りを腹に当て距離をとった。それと同時に左手に魔力を集中させた。一瞬にして手のひらに光が集まる。アシャの魔力は光だった……闇よりは多いとはいえ、炎の魔力や氷の魔力から比べればかなり珍しい。
ヒュンヒュンヒュンヒュン……っと四つに収束された光の矢を放つ。アーサーは身をひねってそれをかわした。
だが、アシャはその空中へと飛んだアーサーに一瞬の隙が出来たのを見逃さなかった。一際大きな光の球体をつくりだし、渾身の魔力を込めて放った。唸りを上げて空中にいるアーサーへと迫る。
「………は!!」
アーサーは空中でクルクルクルクルっと体と腕を高速回転させ、その光の魔弾をすべて真っ二つに切り裂いた。割れた魔弾はそのまま、空高く消えていった。
スタっと華麗に地面へと着地するアーサーと…それをじっと見つめるアシャ。
互いの闘う気がぶつかり合い………ジリジリと間合いを詰めてゆく。そして、二人が跳躍しようとした瞬間………
「双方、退きなさい!!」
アシャとアーサーが間合いをとり互いに突撃しようとした瞬間、そこに大声が響いた。何事かと思いアシャが振り向くと……自分達を囲んでいる兵士たちが一歩下がりできた道を、何十人もの騎士を従えた一人の女性が歩いて来ていた。
「………セシル?」
そう。その人物は純白のドレスに身をつつみ、きれなブロンドの髪を腰まで伸ばした19~20ぐらいの女性だった。最後に会った時とは、少し姿は変わっていたが見間違えるはずもなかった。ドラグーン王国第1王女・セシル・ドラグーンだ。
(よかった……本当に無事だったんだ)
アシャはセシルの無事を確認した瞬間、安心感から宝剣を落としそうになってしまった。だが………
「ふざけるな!!小娘……貴様、何のつもりだ!!」
アーサーは右手に握った剣をひたっとセシルの方へと向ける。
「我は今‘古の決闘’の最中だ!!何人たりとも、邪魔はさせん!!即刻立ち去れ!!」
「き、貴様!!このお方は、ドラグーン王国・第1王女・セシル・ドラグーン様であらせられるぞ!!控えろ、無礼者!!」
アシャは、アーサーのセシルに対する暴言を聞き、新たに宝剣を握る手に力を込める。だが、セシルはそんなアーサーの剣幕にもまったく動じず……ゆっくりと近づいて行った。
アシャはそんなセシルを止めようとしたが、セシルはアイコンタクトで大丈夫っと言ってきた。そして、アーサーに近寄ったセシルは周りには聞こえないような小さな声で何やら囁いていた。
それを聞きみるみるアーサーの表情が険しくなっていき、ギリっと周りを囲む兵士にも聞こえるような大きな歯ぎしりをしたかと思うと……キンキン!!っと乱暴にその双剣を鞘におさめた。
そして、ふらっとセシルに背を向けてその場を去ろうとするアーサー。だが、周りを囲む兵士たちがその行く先を阻もうとした。だが………
「その方は私の命の恩人です!!無礼を働くとこは、この私が決して許しません!!道を開けなさい!!」
セシルの命令を聞き、ザザザザザっと兵士たちは睨みつけながらではあるが、アーサーに道をつくった。アーサーは周りを囲む兵士などいないなのように悠然っと進んでいった。
「………セシル様」
アシャは剣を片手にゆっくりとセシルへと近づいて行った。セシルはこちらを振り向くと、昔のようににっこりとほほ笑んだ。
「アシャ将軍。私の檄によく応えてくれました。感謝します」
アシャはキンっと宝剣を鞘に収めた。そして右手を自分の胸にあて、片膝をつき頭を垂れる。
「もったいなきお言葉です……セシル様」
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セシルとアシャの二人は、マーテル家の城のある部屋にいた。アシャとセシルは依然から面識があった。ヴェラリオン家の後継ぎとして、しばしば王都へと父のお供として連れて行かれたからだ。
二人は歳が近い事もあり、すぐに仲良くなった。公式の場では主と臣下としての態度を崩してはいないが、二人しかいない所では敬語を使わずに、理想を語りあえるような仲だった。
「アシャ……あなたがここに来たという事は、ガウエン元帥の軍はこちらに加勢してくれると考えて良いのですね?」
そう、にっこりと笑うセシルに対して、アシャは少し気まずくなりながら言葉を紡ぐ。
「………いや、ガウエン元帥の軍勢は国境から動かない」
ピクっとそれを聞いた瞬間、セシルの顔にほんのかすかな影が差した。そして少しトーンを落とし、底冷えのするような声を出した。
「……………説明してもらえますか?それは、ガウエン元帥が日和見をしているという認識でいいのですか?」
アシャはその今までにセシルから感じた事がなかった空気に少し戸惑いながらも、しっかりと答えた。
「ち、違うんだ、セシル。実は、神聖帝国の西部で宗教反乱が起きたらしい。詳しく調べてないから、確かな事は言えないが、‘神王’と名乗る人物がその中心にいるらしいんだ。狙いはよく分かっていないが、かなりの数だ。だから国境から動く訳にはいかなくなったんだ」
それを聞いたセシルはある程度納得したようだった。
「………そうですか。しかし、困った事になりましたね。ガウエン元帥の助力が望めないとなると……ヴァンディッシュとの決着が長引く事になりそうですね、南部は人口が少ない。しかも、こう言っては何ですが南部諸侯の軍は軟弱ですし……」
「ウェンデル家は?」
「………ウェンデル家は動きませんよ、高みの見物を決め込むつもりのようです。こちらの檄にも何の反応も示してきませんし……」
アシャは今自分の顔に嫌悪感が出ているだろうなっと思った。かつて、大陸の半分を支配下においたという誇り高きドラグーン王国は、今や存在しない。王家の威信は失墜し、発言力は低下の一途をたどった。
その大きな理由の一つは、ドラグーン王国の三大名家の台頭だった。ウェンデル家……ヴァンディッシュ家……そして、ヴェラリオン家の発言力が大きくなってきたのだ。特に依然より宮廷で幅を利かせてきたウェンデル家と、王妃を輩出した事で急激に勢力を伸ばしたヴァンディッシュ家の水面下での争いは凄まじいものだったと聞く。
諸侯は私腹を肥やし、賄賂は横行し、地位は金で買われることもしばしばだった。そのために予算は底をつき、軍費までみるみる削られる始末だった。
セシルはいつもそんな国の状況を嘆いていた。このままではドラグーン王国は衰退の一途辿り、神聖帝国に滅ぼされてしまうと危惧してもいた。アシャ自身もそう思っていた。だから、小さい頃に約束したのだ。共に、ドラグーン王国を‘理想の国’にしていこうと。
アシャがそんな事を考えていると、セシルは自分の髪を人差し指に巻きつけていた。それは自分が知らないセシルの癖のようだった。
「まぁ……もともとウェンデル家の力などあてにしていませんがね。……ウェンデル家も、ヴァンディッシュ家同様ドラグーン王国を蝕む害虫でしかありません。…………いづれ決着をつけてやりますよ」
ふふふふっと笑うセシル。そんな様子を見ながらアシャは腕を組む。
「だが、ウェンデル家はかなり狡猾だぞ?そう簡単に尻尾をつかませてくれるとも思えないが…」
「ええ……私もそう思っていますよ。ですが、面白い人材を見つけましてね?裏工作を得意とするウェンデル家にはうってつけだと思っています。クレイトン宰相からの紹介だったのですが、不正を見抜く能力に秀でており、なおかつウェンデル家に対して恨みも抱いている。しかも……………王家に対する忠誠は疑いようがありませんでした。アシャ……私はね?命がけの状況でこそ、人はその本性をむき出しにすると思うのですよ。裏切られたら、堪りませんからね?」
「……………」
こんな表情も自分の知っているセシルなら絶対にしなかったと思う。だが、自分がセシルと最後に会ったのはもう5年も前だ。その頃からセシルは王妃派との命をかけた死闘を繰り広げてきたに違いない。自分は確かに戦場という命をかけた所にいたが、ガウエン元帥やエドリックという信頼できる者たちに囲まれて生活してきた。
誰が敵で、誰が味方か分からないような状況で生活するのは想像を絶する苦しさだったのだろう。その間、何もできなかった自分が少し歯がゆくもあった。
「……まぁ、それでも私達の有利は揺るぎませんよ。もうそろそろ、ヴェラリオン家の軍勢が到着するはずですからね?」
それを聞いたアシャは複雑な気持ちを抱きながら目を瞑った。確かにガウエン元帥の軍が参戦しないのは痛手だが、ヴェラリオン家の兵力が到着すればかなり有利になるのも事実だ。
ヴェラリオン家は騎士の家系だ。ヴェラリオン家に忠誠を誓っている諸侯も多い。その擁する騎士……自由騎士……傭兵……兵士の数は他の諸侯に比べれば圧倒的だ。今や、その影響力は王家を超えたというものもいる。
だが、それはつまりあの人がここに来るという事だ。ヴェラリオン家・現当主・デニス・ヴェラリオンが。
「…………そうか、なら安心だな」
アシャは自分のそんな感情を抑えながら、セシルに応えた。だが、その後のセシルの言葉を聞きアシャは完璧に固まる事となった。
「ええ…もうすぐ、ヴェラリオン家当主・デニス・ヴェラリオンがここに来ますよ。そう……あなたのお父上がね?」
「!!!……な………何?」
慌てるアシャに対して、セシルは懐かしいやさしい表情を見せた。本当の善意からくる、心配してくれているような表情だった。
「アシャ……噂は聞いていますよ。あなたが、ヴェラリオン家の継承権を自ら放棄したという事もね?ですが、当主であるヴェラリオン公はそれを認めていません。………あなたは依然として、ヴェラリオン家の唯一の後継者なのですよ」
「………私には、騎士としての誇りだけで十分だ」
アシャは少し憮然とした表情で応えた。それにセシルは嘆息し、相変わらずあなたは頑固ですね?っと言った。
そんなとき、コンコンっと扉が叩かれ、兵士の声が聞こえてきた。
「失礼します!!ヴェラリオン家当主……デニス・ヴェラリオン公が謁見を求めております!!」
セシルはお連れしなさいっと部屋の中から言っていた。アシャは今すぐこの場から逃げ出したかったが、セシルの表情はダメですよっと物語っていた。
すると………カラカラ……カラカラ……カラカラ……っと車輪の音を響かせて、ヴェラリオン家当主・デニス・ヴェラリオンが部屋に入ってきた。
デニス・ヴェラリオンは、アシャと同じオレンジの髪を短く刈り込んだ、50近くの男だった。そして、デニスは車椅子に座っている。
デニスは部屋に入った瞬間、すぐにアシャの存在に気付いた。
「「………」」
アシャは自分の父親を見下ろす形で、しばらく無言で見つめあった。父は両足が不自由だった。だが、それでも絶対に人の手を借りようとはしない。すべての事を自分一人でこなしていた。
久しぶりに会った父は自分と同じオレンジの髪が白くなり、顔には皺が刻まれ、7年前よりさらに年老いたように見えた。
永遠ともいえるような時間が流れたような気がした。そして………
「………すまないが、アシャ。席をはずしてくれないか?私はセシル王女に謁見をしなければならない。そして、ヴェラリオン家の当主として色々と話があるのだ」
「………申し訳ございません。私の用事はすでに終わりましたので、退出させていただきます。では…」
アシャはデニスの横をすっと通り過ぎ、扉へと向かった。振り向いたときにセシルが少し悲しそうな目をしていたが、こればかりは自分の問題だ。どうしようもない。
「……アシャ」
自分が扉を閉め退出する直前、父は私を呼びとめた。ピタっと私はその動きを止める。私からは父の後ろ姿しか見えなかった。
「アシャ、これだけは、はっきり宣言しておく。……………私は自らの考えを曲げるつもりはない」
「…………」
「戦場は、お前のような者がいるべき場所ではない。女のお前がだ。‘神将’っと呼ばれているようだが…自惚れるな。世界にはお前が及びもつかないような化け物が沢山いる。いい加減………戻ってこい」
「…………」
アシャはしばらくデニスの後頭部を黙って睨みつけていたが、そのまま何も言わずに扉を閉めた。
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