マーティン家 竜王編
え~~スギ花粉です。アンケートを作りました。ぜひ、回答してください。ちなみに、。
セシルとライサは、アーサーに連れられ南へと飛んだ。北に敷かれているであろう王妃派の包囲網も、大空を飛ぶアーサーに対しては何の意味もなかった
北はかなり複雑となっている……ドラグーン王国の三大名家の二つであるウェンデル家とヴァンディッシュ家は常に争っている政敵同士だ。王家に忠誠を誓っているものもいるが、ほとんどの貴族がそのどちらかの派閥に入っている。
正直な話、誰が味方で誰が敵なのか分からないのだ。だから、セシルとライサは南へと飛んだ。
ドラグーン王国の南には先代王妃を輩出したマーテル家をはじめ、王女派の領主たちが揃っている。そして何より………三大名家の最後の一つである、ヴェラリオン家がある。
800年前、伝説の女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンを輩出した騎士の系譜。ヴェラリオン家の王家に対する忠誠を疑うものはいない。
そして今、とある城の一室でセシルの前に一人のでっぷりとした領主が頭を垂れていた。
「セシル様。心配なさいましたぞ。貴方様が盗賊に襲われ、お亡くなりになったという報告をイライザ王妃より受けておりましたので」
歳は50代後半の白髪の男。南部の有力貴族であるマーテル家の領主でもある、サイモン・マーテルである。
「ええ…危ない所でしたが何とか。それと……あの方は私の命の恩人です。決して無礼がないように」
「は!!」
アーサー様がドラゴンである事はまだライサしか知らない。アーサー様は大陸制覇のための切り札だ。ドラゴンとて不死身ではないのだ……神聖帝国の……特にレイスに情報を与えるわけにはいかない。
セシルは頭を垂れているロリスに話しかけた。
「………マーテル家領主・ロリス。これは、王妃の反乱です」
「何と!!……やはり、そうでしたか」
ロリスは聞いた瞬間は驚いた様子を見せたものの、すぐに納得したようだ。依然から王妃の不穏な噂は知っていたのだ。
「ええ……私を盗賊の仕業に見せかけ殺そうとしたのです。全領主にドラグーン王家の名において、通達を出しなさい!!これより………イライザ王妃を討ちます!!」
「は!!」
ロリスはその重そうな足取りのまま、部屋からすぐさま出て行った。バタンっと扉が閉まり、部屋にはセシルだけが残った。
(………ヴァンディッシュ。王家の威光を借りるだけでは飽き足らず、遂にドラグーン王家そのものを飲みこもうとするとは。ですが……爪が甘かったようですね?この窮地は最大限利用させてもらいましょう。この機会にヴァンディッシュとそれに与する領主を根絶やしにしてさしあげます。……………邪魔なのですよ。誇りを失い、国の害悪にしかならないような者どもは。そう………新生ドラグーン王国にはね)
ふふふふふ……っとほほ笑んだ次の瞬間……ぐっと苦しそうにセシルは呻いた。椅子の手すりがミシミシっと軋む程、強く握りしめている。
「はぁ………はぁ……これは…かなり厳しいですね」
セシルの額には、いつの間にか玉のような汗が浮かびあがっていた。
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今、マーテル家の主城の客間に二人の人物がいた。一人は金の長髪を後ろでしばり、金色の鎧を纏った男。人間族の姿に化けた最後のドラゴン………‘ドラゴン王・黄昏の支配者・アーサー’
もう一人は茶色の髪をし、栗色の瞳をしている小柄な女性。没落貴族……ライサ・マーティンである。
二人はセシルがマーテル家の領主であるロリスとの会談の間、共に客間で時間を潰していた。アーサーは絨毯が敷いてある床にドカっと寝転がっており、ライサはそれを見てわめきたてている。
「アーサー様!!そのような所で寝ないでください!!」
「ふん!!我に指図するな……チビ助が」
ピキっと自分の額にうっすらと青筋が浮かぶのが分かった。だが、大丈夫。まだまだ我慢の範囲内だ。ライサは一度大きく深呼吸をし、心を落ち着けた。
そして、また目の前で寝転がっているドラゴンへと話しかける。
「そこに長椅子もあるではありませんか!!…先ほどなど、侍女の方が目を見開いておられたのですよ!!」
ライサは必死に叫んだ。だが、アーサーはそんな悲痛な叫びを聞いてもまったく動こうとしなかった。
「……我に指図するなといっておるだろう……チビ助。そんな事より、早く酒を持ってくるのだ」
「お、お酒?」
「そうだ……人間族は愚かだが、酒を造る事に関してはだけは確かに有能だ。昔、ある者共が我に振る舞ったあの酒の味だけは忘れられぬ。その酒の名は忘れたが……まぁ、どこかにはあるだろう。手当たりしだい持ってくるのだ。安心しろ…チビ助。ドラゴンは酒によって暴れたりせぬ」
それだけ言うと、アーサーは眠たそうにふわぁぁぁぁっと大きな欠伸をした。ピキピキっとさらにライサの額の青筋がはっきりし始める。
「…………分かりました。持ってまいりましょう……で・す・が!!アーサー様にこれだけは言っておこうと思います」
ライサはズンズンっと近づき、寝転がっているアーサーを見下ろす形となった。
「……何だ?」
アーサーは面倒そうに少し顔を上に向ける。そこには、怒りにプルプル震えているライサの顔があった。
「私はチビ助ではありません!!私には、ライサ・マーティンという名前があるんです!!」
「ふん!!……童の事をチビ助と呼んで何が悪い?」
その言葉を聞いた瞬間…………ライサの堪忍袋の緒が切れる寸前までいった。
(…………が、我慢するのよ、ライサ。アーサー様はドラゴンなのだ。そこらへんのチンピラとはわけが違う。軽はずみな行動は控えなくては…………………それに、父の件から学んだではないか。感情的になってはいけないと。落ちつけ~~落ちつけ~~~私~~)
プルプル……っと拳を震わせながら、ライサは耐えていた。もし、やってしまったら自分に命はないだろう事も理解できる。私は父とは違うんだ……ちゃんと理性で感情を抑えられるはずだ。
ライサが何とか理性をフル稼働させながら耐えている中、アーサーはそんな様子に気づくはずもなく喋り続けている。
「我には人間族の区別があまりつかぬ。誰もが同じように見えてしまうのだ。まぁ…………チビ助は周りの人間族より一回り小さいから……」
「せい!!」
という威勢のいい掛け声とともにライサは瓦割りの要領で………アーサーの脇腹あたりに拳を振り下ろした。
メキっ!!っという骨が軋む音と……「ふみゃぁぁぁぁぁ!!」っというライサの悲鳴は同時だった。
「………お前は………馬鹿なのか?」
アーサーは呆れながら、部屋中を走り回っているライサを一瞥する。まさか、ドラゴンに素手で殴りかかるとは予想の斜め上をいった。だから、怒りよりも戸惑いの方が強かった。
「人間の姿をしているとはいえ、我はドラゴンだ。そんな魔力も込めていない拳では我に傷一つつける事敵わぬ」
ふ~~ふ~~っとライサは自分の拳に息を吹きかけている。
(うぅぅぅぅ……また、やってしまった)
こういう所は本当に父親譲りだと思う。頭に血がのぼると後先考えずに突っ走ってしまうのは、我がマーティン家の気質なのだ。だけど………これだけは譲れない!!
「………ぃ」
「何だ?よく聞こえんぞ」
「私は!!小さくなんてありません!!」
分かっているんだ。自分が16歳のくせに身長が140ぐらいしかない事だって。だけど、自分が気にしている事を、改めて誰かに指摘されたくない!!これでも、悩んでいるんだ!!
「い・い・で・す・か!!私の事はライサとお呼び下さい!!今度チビ助と言ったらアーサー様といえど許しませんからね!!」
ふ~~ふ~~っと息を荒くしながら叫ぶライサを、アーサーは珍しいものでも見たかのような表情をした。
「…………許さない?………だと?……ドラゴンである我に対してそんな啖呵を切るとはな………人間族の女では、お前が二人目だ」
アーサーはムクっと起き上がり、小柄なライサを見下ろした。そして、キンっとその腰の双肩の一本を抜き放つとライサの喉元に突きつける。
「…………もう一度だけよく考えろ。チビ助。我にとってはお前を殺す事など造作もない事だ。あのセシルとかいう人間との‘血の契約’には、お前を殺さない事までは含まれていないのだぞ?」
「………脅しですか?」
だが、ライサはひたっとアーサーの金色の瞳を見つめていた。喉元の剣には一瞥くれただけである。そしてライサは………突然笑いだした。
「………あははははは」
「………チビ助。何がそんなに可笑しい?気でも狂ったか?」
アーサーはこの状況で笑いだすライサを怪訝そうに見つめる。だが、ライサはしばらく笑い続け、そしてこう言った。
「ははははは……いえ、私もやはりマーティン家の血を受け継いでいると思いましてね。アーサー様?マーティン家はよく狂っていると他の貴族から思われています。なぜだと、思います?それは、他人にとってはどうでもいいような事で、すぐに命を投げ出すからですよ。でもね?他人にとってはくだらない事でも、自分にとっては決して譲れないものだったりするんですよ。そんな覚悟を決めた私は、何も恐くありません。相手がドラゴンだろうが、国王様だろうが、三大名家だろうが、チンピラだろうが同じなんですよ。だって、そうでしょう?死ぬって結論は同じなんですから、まぁ相手の思い通りになるのも癪なんで、殺される前に舌でも噛切ってやりますがね」
「………」
「さて、どうします?私を殺して、自分でお酒を探しに行きますか?」
ライサはドラゴンであるアーサーの前で不敵には笑ってみせた。しばらく、アーサーは剣を突き付けたままライサを見下ろしていた。だが、キンっとアーサーはその剣を鞘にゆっくりと収める。
「…………煩わしい。名で呼べばいいのであろう?ライサ……といったか、さぁ?これで満足か?さっさと我に酒を持ってこい」
「はい!!」
それを聞いた瞬間、ライサは目が据わっている状態から、いつものような明るさを取り戻した。そして元気よく返事をすると、駆け足で部屋から出て行った。バタンっと扉が閉まると同時に、アーサーは先ほどのように床に寝転がり嘆息した。
「………まったく。人間とはよく分からん。氷結の………お前は人間のいったい何が羨ましかったというのだ」