神将 竜王編
今回は人物紹介みたいなもんですかね。時間的には神王編あたりだと思って下さい。では、楽しんでいただけたら幸いです。
ドドドドドドドドド!!っと5千あまりの騎馬隊が草原を縦横無尽に走り回っている。その騎馬隊の全員が白い鎧を身にまとっており、遠くから見るとまるで一頭の白い獣が暴れまわっているようにも見える。
その騎馬隊の前方にはしっかりとした陣が敷かれていた。その陣の所々に太陽をやさしく抱いたアートス神の旗がたなびいている。
ヒュンヒュンヒュンっと前方から矢が射られてくるが、その騎馬隊は矢の射程ギリギリでバッと向きを変え、そのすべてを避け切った。
時に纏まり、時に散らばり、まさに変幻自在の動きしながら前方の敵陣を翻弄していく。
「…………あそこだな?……ああ…私もそう思っていた!!」
騎馬隊の先頭を疾駆する騎士がそう呟き、手に持っている剣を頭上で振る。その剣は何とも不思議な剣であった……刀身が普通の鋼の色ではなく、神秘的な薄紫色をしているのだ。
それを合図に騎馬隊があっという間に一列の隊列を組み、敵陣の隙間へと突撃していく。
「く…弓を!!」「ダメだ!!懐に入られた!!槍部隊前……」
陣を組んでいた前衛の兵士たちは慌てふためき、急ぎ槍部隊を前に出し騎馬隊に備えようとしたが……
「遅い!!」
そう叫びながら騎馬隊が敵陣へと突っ込んだ。その先頭の騎士は薄紫色の剣を一閃させる。プシュ――!!っと鮮血と共に敵兵の首が宙を舞う。
その後から続々と他の騎馬隊が突撃していった。そこはあっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図とかした。騎馬隊に踏みにじられるもの……騎士たちに殺されるもの……騎馬隊が突っ込んだ左翼はもはや陣としての形をなしてはいなかった。
騎馬隊はそのまま左翼を突っ切ったまま、後方で見事に反転し今度が中央の陣へと揺さぶりをかける。
先ほど突破した左翼には、ドラグーン王国の歩兵部隊が突っ込んでいくのが見て取れた。
「……相変わらず、あいつはおいしい所は見逃さないな………………まぁ、その通りだな」
騎馬を指揮している騎士は独り言をつぶやきながら、戦場を駆け抜けていく。すでに大勢は決している。後はどれだけの犠牲を出させるかだ。
「アシャ将軍!!敵右翼が撤退をし始めましたぞ!!」
自分のすぐ後ろで馬を操っている老将・スイプトンが報告してくれた。
「よし!!隊を二つに分ける!!爺は、撤退する者たちを何とか足止めしろ!!後はエドリックが何とかするはずだ!!」
「は!!」
それを聞いた瞬間、騎馬隊がきれいに二つに割れ、撤退しようとしている右翼の方へと疾駆していった。
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ドラグーン王国と神聖帝国の国境付近は常に小競り合いが絶えない場所だ。かつては大陸の半分を支配したと言われるドラグーン王国も、今や絶頂期の3分の2にまでその国土を減らしていた。
ドラグーン王国の北西に位置し、神聖帝国の北部へと続くルードンの森。古の時代より生い茂る木々に遮られ、エルフ族がひっそりと暮らし、さらに数多くの魔獣が生息する魔の領域。そこはまさに人が立ち入る事ができぬ領域だ。
だから、北から侵攻があるという事はまずありえない。主に戦場とかすのは、ドラグーン王国の東部なのだ。ここを守りきれるかどうか……それこそがドラグーン王国の存亡に関わるのだ。
そんな東部の大地をドドドドドド……っと砂煙をあげながら5千の騎馬隊が縦横無尽に走り回り、ダガムル城へと到着した。ここは神聖帝国とドラグーン王国との国境付近に位置する難攻不落の城であり、防衛線の要でもあった。
その騎馬隊が到着すると同時に、ダガルム城の門がゆっくりと開門し騎馬隊はそのまま城壁の内側へと入っていった。
「…よし………休止!!」
騎馬隊の先頭で指揮をとっていた騎士が右手を上げて合図をする。すると、ピタっとその騎馬隊全体が動きを止める。何千頭もの、バルルルルルっと馬のいななきが響き渡った。
「爺……私は、ガウエン元帥にこの度の撤退についてお聞きしたい事がある。後の処理を頼んだぞ」
「かしこまりました。アシャ将軍」
先頭で今まで騎馬隊の指揮をとっていた騎士は、そう言いながら兜をとった。そこにいたのは、一人の女性だった。
濃褐色の双眸に、乱雑に切りそろえられたオレンジの髪をし、他の者と同じように白い鎧をその身に纏っている。
歳はかなり若い。10代後半から、20代前半といた所だろうか。しかし、その顔には若さゆえのあどけなさなど微塵も感じられない。会った者の心根を締め付けるような、武人ならではの威厳を兼ね備えている。
「うん……頼んだぞ」
アシャは、ひらりっと華麗に馬から飛び降りると従者に馬を預け、ダガルム城の中へとはいって行った。
長い廊下をその返り血で真っ赤になった鎧のまま、独り言をいいながらずんずん進んでいく。
「……なぜ、私達が撤退をする必要がある?あのまま、追い打てばかなりの損害を与えてやれたはずだ。………それは分かっている。だが、府に落ちないんだ。しかも、至急ダガルム城へと帰還とはどういう……まぁ…そうなんだが」
しばらく進んでいくと……ガウエン元帥のいる部屋へとたどり着いた。アシャは自分であれこれ考えていても答えは出ないと結論づけ。ガウエン元帥に直接聞くために、その扉を叩こうとした……だが。
「…………………ヴェラリオン」
自分が歩いてきた廊下とは反対側から、あの憎たらしい男の声が聞こえてきた。それを聞いた瞬間、ピタっとアシャは動きを止めそちらを見る。
そちらには、自分と同じように白い鎧をまとった若い男が近づいてきていた。金髪の坊主頭をし、碧い瞳をしている。いつ見ても、その眉間には不愉快だといわんばかりの深い皺が刻まれている。
二人いるガウエン元帥の副将の一人………エドリック・スターフォール。
「…………貴様、なぜもっと早く戦場から帰還しなかった?至急戻るようにとの命令だったはず」
エドリックは、非難しているという事を隠そうともしなかった。それを受け、アシャもひたっとエドリックを見据える。
「……あの状況では、もう一度敵が纏まる危険性があった。だから、確実に国境の向こう側まで追い払う必要があったんだ。それから………私の事をヴェラリオンと呼ぶなと忠告したはずだがな?エドリック」
「黙れ、ヴェラリオン。直ちにという厳命だったはず……俺なら貴様の首を軍令違反ではねている所だぞ?」
「ほう?お前に私を裁く権限があるのか?エドリック?」
アシャとエドリックはガウエン元帥の部屋の前で、バチバチバチっと火花を散らす。
ドラグーン王国には、その武の象徴として元帥がそのトップに君臨している。その下に多くの将軍たちが同列に続くという形だ。
そして現在のドラグーン王国の元帥・ガウエンの元には、二人の若き副将がついていた。
一人目は、エドリック・スターフォール。エドリックは元はただの傭兵だった。それがガウエン将軍の目にとまり異例の出世を果たした、まさに生え抜きの将軍だ。その闘いぶりは、堅実の一つに限る。エドリックの闘いぶりに派手さこそないが、引くべき時には瞬時に引き、攻めるべき時は果敢に攻め、確実な勝利をもぎ取る粘り強さがある。だが、貴族ではなく……平民の出であり、いまいち目立たない事もありドラグーン王国内での評価は低かった。
そしてもう一人は、アシャ・ヴェラリオン。ドラグーン王国3大名家の一つ……ヴェラリオン家の唯一の後継者でもある。アシャの闘いぶりはまさに、神出鬼没の一言に限る。常に相手の裏をかき、少数で敵に大きな損害を与える事もしばしばだ。さらに驚嘆に値すべきは、アシャ自身の剣の腕前だった。ドラグーン王国の武芸大会で圧倒的な力を示して優勝している。しかも、アシャが指揮をとった戦は負けたことがないという逸話まであった。
アシャには見る者を振り向かせる美貌………そして優れた剣の腕前……さらに無敗という神話性も兼ね備えられている。しかも、800年前、あの伝説の女騎士・ファル―ゼ・ヴェラリオンを輩出した騎士の名門・ヴェラリオン家のものだ。注目するなという方が無理である。
民衆は彼女の事を称え、今やアシャは‘無敗の神将’と呼ばれるまでになっていた。
バチバチバチっとしばらく、エドリックとアシャが睨みあっていると。ギギギギギっとゆっくりとその目の前の扉が開いた。
「……はぁ~~。アシャ、エドリック……お前達はどうして、会うたび会うたびそのように喧嘩ばかりなのじゃ」
扉を開けたのは、見事な白髭をたくわえた70代後半の老人だった。その顔の中央には、額から頬にかけて大きな切り傷が見てとれた。だが、軍人というよりは好々爺という印象が強い。
ドラグーン王国元帥・ガウエン・ブラックス。若き頃より多くの戦場を闘ってきた真の猛者である。
しかし、ドラグーン王国で彼を呼ぶものは皆声を揃えてこう呼ぶ
―――――――――――――――――‘負け犬将軍’っと
ガウエン元帥の言葉が聞こえた瞬間、今まで睨みあっていた二人はばっと右手を胸に当てる。
「「申し訳ありません!!ガウエン元帥!!」
そう声を揃えて叫ぶ二人の若者を見て、ガウエンは大きなため息をつくのだった。
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