大丈夫 2
こんにちは。私の名前はシルヴィアです。今、最大の関門であるリサ様を騙す事に成功した私達は魔王城の正門を目指し、逃走中なのです。
「………なぁ?シルヴィア」
「陛下……その姿で男の声を出さないで下さい。何かちぐはぐです」
今、私とマリアとカイ様は順調に廊下を進んでいます。先ほどから何人もの兵士たちがカイ様(カレン様)の横を通り過ぎていくのですが、その度にカイ様(カレン様)をジロジロ見ていきます。あまりに露骨です。
カイ様はそんな様子にはまったく気づいていないようです。
「何か…リサ、調子悪そうだったよね。大丈夫かな~~?(裏声)」
「…………本当に分からないのですか?」
「何が?(裏声)」
それを聞いた私は、ハァ~~っと深いため息を吐いてしまいました。
(この人は……なぜこんなに鈍いのだろうか。リサ様は陛下がカレン様が…その…そういう仲だという事を聞いてショックを受けているのに)
陛下は私のため息を聞いて、何やら真剣に考えはじめたようです。そして……
「………シルヴィア。俺、分かったよ………これからは、もっと真面目に政務に取り組もうと思う!!(裏声)」
半ば予想した通り、まったくもって見当はずれの答えにいきついたようです。
「…………」
「やっぱり、交易の話とか魔国の事とか少しリサに無理をさせすぎたのかもしれないね(裏声)」
「………そうですね」
私が適当な相槌をカイ様にうっていると、
「ほら!!魔王さん!!あの兵士見てみ~~!!魔王さんに釘付けやで!!」
マリアが面白そうにカイ様に耳打ちしていました。それを聞き、そちらを見ると確かに一人の兵士がカイ様(カレン様)の方に熱い視線を送っています。
「………」
カイ様は黙ったまま、そちらの方に手を振っていました。それを見た兵士が顔を真っ赤にしてあたふたと手を振り返してきていましたが、警備隊の隊長に思いっきり拳骨をくらっています。
自分とマリアには見向きもしないのに………少しざまぁみろって思ったのは内緒です。
「……なぁ、シルヴィア?やっぱり、ちょっと鏡貸してよ。俺も自分の姿見てみたいよ(裏声)」
「ぜ、絶対ダメです!!」
カイ様は一度も自分の姿を見ていません。というより、私たちが見せていないのです。こんなに似合っているのだ……万が一、カイ様がそっちの世界にはまり込んでしまったら取り返しがつかない!!
「え~~?自分がどんな感じが見たいのにな………カメラとかあればな~~(裏声)」
カメラとはなんでしょうか?っと私がカイ様に尋ねようかと思っていた時、廊下の先から誰かが歩いてきました。
その人物は黒い長髪を後ろでしばり、腰に半月刀をぶら下げています。間違いようがありません。カイ様が記憶を無くされていた間に知り合った、メリル様という盗賊の方です。
「お!メリルの姉さんや!!お~~い……姉さ~ん!!」
メリル様に気付いたマリアが大きく手を振っています。メリル様とマリアは、自分が南でカイ様の情報収集をしている間に、一度死闘を繰り広げた事があるという話を聞きました。
「う~~ん?………おう!!マリアじゃね~か!!」
メリル様は少しかなり変わったお方です。一度、お話をした事があるのですが………会話になりませんでした。マリアはメリル様と馬が合うようです。魔国の者でメリル様とまともに話せるのは、カイ様とマリアぐらいのものです。
メリル様は私たちの方へと近づいてきて………そして…………
「あははははははははは…げほげほ……ははははっはっはは!!」
カイ様を指さして大爆笑していました。苦しそうにお腹までおさえています。
「ヒヒヒヒヒヒヒ……カ、カイ…お前…ヒヒヒ…何だその格好は!!」
「え?俺だって分かるの?」
「キキキキ…当たり前だろ~~?あはははは……お、おもしろい趣味だな!!ヒヒヒヒヒ」
「い、いや!!メリル、違うんだよ?これは俺の趣味とかじゃなくて……」
カイ様が必死にメリル様に向かって、誤解を解こうと躍起になっていました。ですが、メリル様は笑ってばかりで全然話を聞いていません。
「「………」」
私とマリアはかなり驚きました。この状態のカイ様を一目で見破るなんて………改めてメリル様の凄さを実感したような気がしました。
「あ~~面白かったぜ~~カイ~~。そうだ!!レンにも見せてやろうぜ!!」
「………え?」
それを聞いた瞬間………カイ様の顔色がさ~~っと変わりました。そしてブンブンブンっと勢いよく頭を横に振り始めました。
「い、いやだ!!レンにこんな格好をしてるなんて、絶対し、知られたくない!!……ぐ!」
っと怒涛の勢いで喋りだしたカイ様が急に呻き、ふらっと倒れそうになっていました。
「陛下!!」「カ、カイ!!」
私はすぐにカイ様に駆け寄り、何とか支える事に成功しました。メリル様も急に気を失ったカイ様を見て慌てています
その時気付きました、カイ様の首筋に小さな針が刺さっているという事に。
「あ~~大丈夫やで……メリルの姉さん。魔王さんは、少し疲れて寝てもうたんや………今が絶好の機会やで!!レン様連れてきてーな~~」
マリアが自分たちの間に割り込んできました。そして、私は見てしまいました。マリアが後ろ手に吹き矢を持っているのを!!
「お~~そうなのか!!だったら安心だな。待ってろよ!!すぐに連れてきてやるからな!!」
メリル様はキキキキっと笑いながら、今来た廊下を引き返して行きました。その姿が見えなくなったのをしっかりと確認して。
「マ、マリア!!あなたは陛下に何という事をするんですか!!」
そう絶叫する私を見て、マリアはまぁ…まぁ…っと宥めるように話しかけてきました。
「大丈夫や…シルちゃん。これは即効性の眠り薬や。すぐに魔王さんも目覚ますで」
「そ、そういう事をいってるじゃ……」
だが、私はガシっとマリアに肩を掴まれ、そしてじっと覗きこまれました。
「なぁ?シルちゃん……魔王さんの事好きなんやろ?」
「!!!」
私はあまりの事に言葉が出てきませんでした。先ほどのリサ様のようにパクパクっと口を動かすのが精いっぱいです。
「まぁ……しっかりと聞き?魔王さんは本当にモテモテや。メリルの姉さんはもちろんの事…リサ将軍もそうやろうし……うちが聞いた所では親衛隊のサンサもそうやって話なんやで?」
「サ、サンサも!!」
(まさか、あの親衛隊の‘荒れくれサンサ’も陛下の事が?)
リサ将軍やメリル様の事は何となく分かっていたが、まさかサンサもそうだとは初耳だった。サンサは私達とほぼ同期だった。魔力に関しては、男よりも女の方が優れている事が多い。だから、軍にも女性がいない事もないが、やはり血生臭い戦場に出るという事もあり男がかなりの割合を占めている。だから私達はすぐに仲良くなった。よく3人で街に買い物にでたり、男の不躾な視線について文句を言いあったりもしている。だが、そんな話は初めて聞いた。
「うちはシルちゃんに頑張って欲しいと思ってるんや。恋愛も闘いやで?情報を多いに越した事はないんや……そこで!!ここではっきりさせておいた方いい事が一つある。………レン様や」
「……レン様?」
「そうや……レン様は結構謎が多いお人や。しか~~し、魔国に来る前はレン様と魔王さんはずっと二人きりやったっちゅう話なんやで?気になるやろ?レン様が魔王さんの事をどう思ってるのか、この機会にはっきりさせとこうや!!」
マリアはそういうとぐっと拳を握りしめていた。私はその様子をじ~~と見つめ、
「………ねぇ……マリア」
「何や!!」
「………………面白がってますね?」
「そ、そんな事ないで!!」
そうはっきりと叫んだマリアでしたが、幼い頃から一緒な私にははっきりと分かります。マリアは嘘をつくときその獣耳がひょこひょこ動くのです。
そして今………マリアの獣耳はこれでもかというほど、ひょこひょこ動いていました。
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しばらくすると……メリル様がレン様の手を引っ張りながら現れました。
「ほれほれ~~レン…こっちだ。こっち」
「……ま、待てメリル。そんなに強く引っ張るな」
レン様はなにが何だか分からないっといった困惑した表情を見せていました。しかし、私の膝の上で気を失っているカレン様(カイ様)に気付くと怪訝そうな表情をしました。
「……………誰だ?」
「あ~~レン様?この方はな~~……略……という訳なんや」
マリアが喋っている間中、私はレン様の様子を窺っていました。しかし、マリアからカレン様の説明を受けている間もレン様はまったく動じていませんでした。
そしてマリアの説明が終わった後、レン様はしばらく黙ってカレン様を見下ろしていましたが……
「…………そうか」
っとだけいいました。口数が少ないように感じるかもしれませんが、レン様はもともと無口な方なのでこれが普通です。別段いつもと変わった様子は見受けられません。
私はほっと胸をなでおろしました。もし、レン様がカイ様の事が好きなら何らかの反応を示すはずです。
私がさりげなくほっとしていると、メリル様がう~~んっと首を傾けながらレン様をのぞきこみました。
「……あれ…う~~ん?レン?何か、変だぞ?」
そうメリル様がいい、それを聞いた私とマリアはえ?っというような顔をしていまいました。
(………変?いや、レン様はいつも通りだと思うけど)
改めてレン様を観察してみた。レン様はいつものように黒いローブを着、顔の下半分をマスクで隠している。髪は赤い髪を短く切り込んでおり、その右手には深紅の槍を握りしめている。
レン様には凛っとしたかっこ良さがあった。伝説とまで言われている傭兵だけあって、その腕前も陛下にも匹敵するものだと聞いている。レン様を遠くからしか見たことがないものが男だと勘違いしてしまうのも、まぁ…分かるというものだ。
この前、レン様を男と勘違いしている侍女たちがカイ様とレン様の禁断の恋について喜々として語っているのを聞いてしまった。ちなみに……その噂話ではカイ様が女性役だったりする。
メリル様から、変と言われたレン様はふっと笑っていた。マスク越しでもそれくらいなら簡単に分かった。
そして、レン様はす~~っと息を吸い込み………一気に喋り始めた。
「何を言っているんだ?メリルは。俺の様子がおかしいなんてそんな事あるはずないじゃないか。俺は大丈夫だ。まったくもって正常だ。そうだ、冷静だ。いつもの通りさ。そういつものように今日も朝早く起きて鍛錬をしたんだ。そしていつものように朝飯を食べて体を伸ばした。怪我をしたら大変だからな。ハハハハハハ。そして、今は昼の鍛錬を今まさに始めようとしていた所だったんだ。それが、メリルに呼ばれて何事かと思ってきてみたら、たかがカイの秘密の恋人に会っただけじゃないか。そうか、これで魔国も安泰というものだ。では、カレンさんといったかな?末長くカイとお幸せにな。ああ…気を失っているんだったな。俺とした事が少し疲れているようだ。まぁ、俺にはカイが誰と付き合おうがまったく関係ないことだがな。おっと、そろそろ鍛錬に戻ろうと思う。少しの時間も無駄にしたくはないからな。ハハハハハハ」
っとそれだけの言葉を一息で言い終えるとレン様は、鍛錬場の方へとしっかりとした足取りで向かっていった。
「ちょ、待ってくれよ!!レン!!どうしたんだよ!!お~~い!!」
メリル様はレン様の後を追って廊下の先を曲がっていきました。唖然としながらその場に取り残される私とマリアと依然として気を失っているカレン様(カイ様)
「………シルちゃん?これは……レン様も確定やな」
「………」
私はそのあまりの競争率の高さに頭を抱えるしかなかった。
ちなみに……しばらくして目を覚ましたカイ様は前後の記憶が少しあやふやになっているようだった。
メリル様に会った事すら覚えていなかったのだ。それでも、リサ様に会った事は覚えていたらしく…
「…ごめん。マリア…シルヴィア。ここまでしてもらった事には感謝してるんだけど…リサが調子が悪いのに自分だけ、街に遊びには行けないよ。俺がリサのぶんの仕事もしなくちゃいけないだろうし、後でお見舞いにも行きたいしね」
そういうとカイ様は、メリル様とレン様に会った事を知らないまま執務室へと戻っていった。知らせようとする私の口を押さえていたマリアは……
「これは………面白くなりそうやで!!」
それはここ最近の中で一番楽しそうな笑顔だった。