大丈夫
え~~スギ花粉です。竜王編と魔王編をどういう感じで投降していこうか、迷っています。交互に出した方がいいでしょうか?それとも、ある程度纏めて?う~~ん、まぁ、どっちでもいい気がしますが。では、楽しんでいただけたら幸いです。
「さぁ!!遂にこの日がやってきたで!!」
「「………」」
こんにちは。私の名前は、シルヴィアです。姓はまだありません。私達ヴァンパイア族は両親の姓を引き継いだりせず、結婚した相手の姓を名乗るのが掟なのです。
私はこれでも魔国の隠密・諜報部隊である闇の軍の隊長を務めています。魔国の軍の制度としては、将軍がそれぞれ独自の軍をもっているという形です。
将軍がその軍のトップに君臨し、その下に隊長達が続きます。私たちの軍は、カイ様が将軍時代に神聖帝国のレイスに対抗するために造ったものです。カイ将軍をトップとし、3人の同列の隊長として、私、コーリンさん、マリアと続きます。
この軍の制度では、魔王陛下も将軍と同じように扱われます。ギルバート様の頃は、ギルバート様をトップとする親衛隊がおり、隊長はあの‘荒れくれサンサ’が務めていました。
そしてギルバート様亡き後は、少し複雑な構造となっています。魔王であるカイ様はギルバート様の地位を引き継ぎ、親衛隊のトップになりました。それでいて、未だに闇の軍のトップも務めています。一人が二つの軍をもつことは特例ですが、仕方がない事なのです。
闇の軍の将軍はカイ様以外ありえません。それは隊長格3人の強い思いでもあるのですから。
「……なぁ、マリア。いや、俺から頼んでこんな事言うのも何なんだけどさ、これ絶対うまくいかないよ」
「大丈夫や、魔王さん!!絶対うまくいく!!うちの目に狂いはないで!!」
ぐっとマリアが拳を力強く握りしめています。やる気満々です。それとは対照的にカイ様は少し、不安そうです。
「う~~ん。俺は絶対うまくいくとは思えないんだが……シルヴィアもそう思うよね?」
「………陛下。そもそも、ちゃんと政務をすればいいので…」
私は何とかカイ様を説得しようとしましたが、最後まで喋れませんでした。なぜなら、二人の絶叫が遮ったからです。
「何という事を!!」「そうやで!!」
凄まじい剣幕で怒鳴られました。私は正しい事を言っているはずなのに。すごく理不尽を感じてしまいます。
「俺だってな!!俺だってな!!毎日必死に頑張ってたんだよ?コツコツやれば、5年で終わるっていうから、ゴールははるか先だけど、千里の道も一歩からと思ってさ。けど……」
ドン!!っとその両手を悔しそうに机に叩きつけるカイ様。
「いきなり二倍だよ?どういう事!!絶対無理でしょ!!ほら!!マリアも言ってやってくれ!!」
「そうやで、シルちゃん!!こんな面白そう……もとい、魔王さんが困ってるんや!!助けないでどないする!!」
「………」
今、完全にマリアは口を滑らしました。完全に面白がっているだけです。
「……マリアよ。今のは聞かなかった事にする」
「ありがたき幸せやで。魔王さん」
陛下も気付いています。ですが、それでいて目を瞑る気のようです。
「ええやん…シルちゃん。陛下の命令やで?しかも……げへへへへへ」
っとマリアが下卑た笑い声を上げています。また、何かもらったんだろうな~~っと直感しました。カイ様はマリアの趣味をよく理解しておいでだと思います。
というより……前から思っていたのですが、これは賄賂にあたるのではないでしょうか?
自分がそんな事を考えていると、カイ様が涙ぐみはじめました。
「グス……グス…」
最初の頃はかなり動揺しましたが、今は慣れてしまいました。というより、マリアがカイ様に演技指導している所をこの前発見してしまったのです。ですから効果はありません。
突然でした………ガシっと自分の両肩を掴まれました。
「頼む、シルヴィア!!俺に力を貸してくれ!!」
ずいっとカイ様が顔を近づけ、じっと覗きこまれました。陛下の顔がも、ものすごく近いです。
「あの!!……その!!……」
自分の顔がみるみる赤くなっていくのが分かります。でも、力が入りません。
「シルヴィア!!頼む!!ほら…俺の血でよければいくらでも飲んでいいから!!」
魔力の高い者の血液は、かなり美味しいです。つまり……比類なき魔力をもつカイ様の血液は、他とは比べ物にならないほど美味なのです。
ゴクっと喉がなるのが分かりました。そして、気付かれました。カイ様とマリアが目をキラ―ン!!っと光らせ、アイコンタクトをしていました。
「……大丈夫だぞ…シルヴィア。これは魔王である俺が全部責任をとるから」「そうやで~~」
「……………」
しばらく私は責任と自分の願望との間をグラグラしていましたが………
(………まぁ……いいか)
私はそこで、考える事を放棄しました。どうやっても止められないなら、護衛としてご一緒するべきだと考えたのです。決して誘惑に負けた訳ではありませんからね!!
============== リサ ==================
(…………何やら、嫌な予感がします)
今、魔国第1将軍であり、先代魔王の妹であるリサ・ジェーミソンは廊下をツカツカ……っと幾分か早歩きで魔王の部屋へと向かっていた。
執務室でいつものように政務をしていたリサだったが、恐るべき直感によって不穏な何かを感じ取っていたのだ。
「…………はぁ」
っと歩きながらリサは小さなため息を吐いていた。
(…………私も少しカッとなってしまったようですね)
自分としても仕事を2倍にするなんて……少しやり過ぎだっただろうかっと思っている。
しかし、あのメリルとかいう盗賊とはどうも馬が合わない。私とした事がすぐに感情的になってしまうのだ。
(言ってる事は支離滅裂ですし、兄様の国や陛下の事を……その……じ、自分のものなどと!!)
思いだしただけで怒りが沸き起こってきた。
(そもそも、陛下がしっかりと否定しないのが悪いのです!!)
陛下はあの盗賊とどういう関係なのだろうか……正直、詳しく聞いていなかった。
そこで……ピタリっとその歩みを止めるリサ。脳裏に考えられるかぎり最悪の展開を思いついてしまったのだ。
(………ふ。まさか)
だが、首を振ってその考えを振り払うリサ。そして、また歩みを再開する。だが、その顔は少し曇っている。
(いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ……略……いえ!!だ、大丈夫なはずです。そんな事はないはずです)
自分があの盗賊を王妃様と呼んでいる姿を想像してしまったのだ。怖気がした。
だがそこで、以前バリスタン将軍が陛下も早く結婚して世継ぎをつくるべきだと、陛下に直接言っていたのを思い出した。
私も傍にいたが、その時の陛下はなぜかどす黒いオーラを放ちながら
「……ふ……ふふふふふ。俺と結婚?そんなの…………相手が可哀そうだろ?」
っと狂気の笑いを浮かべていた。
何が可哀そうなのか……っと疑問に思ったが、あまりの迫力に私もバリスタン将軍もそれ以上何も言えなかった。
バリスタン将軍は、本気で心配しているようだった。陛下ぐらいの年齢なら女性に興味がないはずがないと断言してもいた。
自分だって子供ではないのだ。しかも、自分は将軍として男の兵士を鍛える事も多い。男性にそういう欲望があるというのは理解しているつもりだ。
(……しかし、兄様や陛下がそういう話をしている所を聞いた事がありません)
それとも、自分がいない所ではそういう類の話も話題に上っていただろうか?そんな事を考えながら廊下を歩いていると、いつの間にか陛下の部屋近くまで来ていた。
すると……ガチャっと前方の魔王の部屋の扉が開き、そこからマリアとシルヴィアが出てきた。
「マリアとシルヴィアではないですか」
私がそう話しかけると……ビクンっと二人が飛び上がった。そして、二人は恐る恐るっというようにこちらを振り返った。何やら顔が引きつっている。
「は……ははははは。リ、リサ将軍やん!!こ、こんな所で奇遇ですなぁ~~」
マリアが笑いながら、私に話しかけてきました。その横で顔を真っ青にしながらシルヴィアがコクコクっと頷いている。
(………これは……何か隠していますね)
二人は元は自分の軍にいたのです。顔色を窺う事など簡単だ。
「……二人とも?陛下の部屋から出てくるとは……どういう事ですか?」
「いや~~、そ、それはやな~~」「……」
マリアは目が泳いでいるし、シルヴィアはさらに真っ青になっていく。
それを見て確信した。どうせまた陛下が悪だくみをしているのだろう。
(ですが……絶対に逃がしません!!)
ばっとリサは瞬時に動き、バタン!!っと陛下の部屋の扉を力強く開け、突入しようとした。
だが、リサは入口付近でぴたっと動きを止めた。なぜなら、目の前にある人物が立ちふさがっていたからだ。
その人物は………ゆったりとした菫色のドレスを着、肩まで伸ばしたブロンドの髪をした、薄い碧目をしている………人間の女性でした。
「……………誰………ですか?」
リサは混乱した。こんな人間族の女性は今まで見た事がない。しかも………こんな絶世の美女を。
周りを見渡すが陛下の姿は見当たらない。この部屋の主である魔王がいないのに、マリアとシルヴィアとこの女性はどうしてこんな所にいるのだろうか?
「あ、あの………その……」
その謎の人物は、少し恥ずかしそうに俯きながら甲高い声であたふたと慌てている。ずっとドレスの裾を握りしめている。
そこで気付いた。自分があまりにも不躾である事に。初めて会った人に、挨拶すらしていないのだ。
リサは、コホンっと咳払いをし……
「……失礼しました。初めまして、私は魔国・第1将軍・リサ・ジェーミソンというものです。あなた様はどちら様でしょうか?」
っと自己紹介をした。それを聞いた目の前の女性は信じられないっというような顔をしていた。その瞬間、マリアが私とその女性の間に割り込んでくる。
「あ~~…リサ将軍?このお人はな?何でもないんや」
「……何でもない事などないでしょう。失礼ながら、私はそちらの方を見た事がありません。しかも、陛下の部屋にいるなど………マリア?どういう事か説明してもらいますよ?」
そう問い詰める私に対して、マリアはかなり言いにくそうにしていたがしっかりと説明してくれた。
「…………しゃーないな。魔王さんからは、絶対に秘密と言われてたんやけど、これは仕方ないで」
うんうんっとマリアが頷いている。
「こちらの方はな……カレン様というんや」
「カレン……様?」
(………いや、やはりそんな名前は聞いた事がないですね)
魔王城にいる侍女・武官・文官には、一応すべてに目を通している。だが、そんな名前の人物はいなかったと思う。しかも、人間だ。闇の軍などに多いとはいえ、まだまだ全体としてはかなり少ない。知らないはずはない。
「……他国からの賓客でしょうか?しかし、そんな報告を私は受けていませんが…」
リサが一人混乱していると……マリアが口ごもりながら
「いやいや、カレン様はそういうんとちゃうねん。その……魔王さんから絶対に言うなって言われてるんやけどな?……その……カレン様はな?…あの……魔王さんの夜伽のお相手なんや」
時が………一瞬にして止まったような気がした。リサはパチクリっと瞬きをし、体を硬直させた。しばらくそのままの状態でまったく動かなかったが………
「…………は?」
っとだけ言葉を漏らした。
(………い、今、マリアは何て言いました?……夜伽……誰の………陛下?)
もう一度マリアの後ろに隠れている、ブロンドの髪の女性を見る。そのカレンという名の女性はマリアの袖を強く、クイクイっと引っぱっている。
その仕草は………そういう事を人前で言われ、すごく恥じらっているかのようにみえた。
============== シルヴィア ==============
今、私の前でリサ将軍がパクパクっと口を動かしているが、まったく声が出ていません。
さっき廊下でいきなりリサ将軍に会った瞬間は、心臓が飛び出るかと思いました。
(……………それにしても)
チラっとマリアの後ろに隠れている、菫色のドレスを着ている女性を見る。というより、金髪の鬘をかぶり、女性に扮しているカイ様を。
マリアが考えた計画は、突拍子もないものだった。カイ様に女装をさせ、その変装のまま城を抜け出すというものだったのだ。
初めてこの計画を聞いた時は、絶対うまくいかないと思った。けど………
(…………き、きれいになりすぎだと思います!!)
カイ様にマリアと二人で化粧を施していくうちに………洒落にならないほどきれいになってしまった。
もともと、カイ様は端正な顔立ちをしているから、女装も可能かもしれないっと軽く考えていたであろうマリアも、予想以上の出来に声を失っていた。
(………な、何でしょうか……この敗北感)
私が意味不明の敗北感をヒシヒシ感じている中、リサ将軍にばれていないと分かったマリアがいつもの調子を取り戻していました。
「いや~~魔王さんは、異世界の頃からモテモテでな?何人もの女性と付き合った事があったんや。だから、かなり経験豊富なんやで?まぁ………そんな魔王さんがアゴラスへ一人で遊びに出かけた所!!悪漢に襲われそうになっていたカレン様と偶然出会い、我らが魔王さんは華麗にカレン様を助け出された訳や。そんな二人が恋に落ちるのにそう時間はかからなかったんや!!魔王さんは恥ずかしがりやから公にしとうなくて、こうやってうちらが時々カレン様をお城に秘密裏に連れてきているという訳や。魔王さんは普段も凄いんやけど、そら~~夜の方もすごくてな?カレン様を全然寝させてくれへ…………って…リサ将軍?き、聞いてます?」
マリアが怒涛の勢いで喋っている間、ず~~っとリサ将軍は固まっていた。
そして…………ふらっとリサ将軍の体が揺れたかと思うと、後ろに倒れそうになっていた。
「あ、危ない!!」
私はすぐにリサ将軍に駆け寄り、何とか倒れそうになったリサ将軍を後ろから支えた。
「だ、大丈夫ですか!!」
そう心配する私に、リサ将軍は顔を蒼白にしながら……
「え、ええ。少し……目眩がして、頭痛がして、耳鳴りがして、動悸が激しくなって、世界から色彩が失われて、床と天井がグルングルン高速回転しているだけですから……私は全然大丈夫ですよ」
「だ、大丈夫じゃないですよ!!」
そう叫ぶ私に対して、リサ将軍は何とか自らの足で立ち、頭に右手をあてながら私にこう言った。
「…………シルヴィア?陛下に会ったら伝えておいて下さい。私は今日は少し、体調がすぐれないので休ませていただきますっと」
「は、はい!!」
リサ将軍はそれだけ言い残して、ふらつく足取りでカイ様の部屋を後にして、自分の部屋の方へと向かっていきました。
私はその後ろ姿を見つめながら…………申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
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