赤と銀
「き、今日は…いい天気ですね?」
「………………そうだな」
「「………」」
「い、いや~~、このところ雨ばかりでしたから、本当に晴れてよかったですね。はははは……」
「……………そうだな」
「「………………」」
(き、気まずい………)
今、魔王城の中庭にあるテーブルに二人の人物が座ってお茶を飲んでいた。一人は魔国第1将軍であり、先代魔王の妹である。リサ・ジェーミソン。その銀の長髪が、太陽の光を受けてきれいに光っている。
そして、その正面に座っているのは、深紅の髪をし、そして真っ赤な槍をテーブルに立てかけている……伝説とまで言われている傭兵…通称・赤き狼………レンである。
リサはずっと焦っていた。テーブルで向かいあいながらお茶を飲んでいるが、先ほどからまったく会話が続かないのだ。
(ど、どうしましょう。レン様も退屈そうにしていらっしゃるし……な、何とかしなければ)
実は先ほどまでは、カイとレンがテーブルで鍛錬の休憩をしていたのだ。ちなみにカイは仕事をさぼってである。
そこでリサがカイを見つけ出したのだが、仕事をしたくないカイがリサもお茶に誘って有耶無耶にしようとしたのだ。
初めは、リサとレンの間でカイがパイプ役として存在していたため、会話も続き盛り上がっていたのだが、そこに何人かの兵士が血相を変えてやってきた。そして、リサを見て少し顔を曇らせながらカイに何やら耳打ちしたのだ。
それを聞いたカイが顔を真っ青にしながら、
「い、いや~~。急用ができたから、少し待っててね?」
と言い残して兵士たちとどこかへ行ってしまった。リサが気をきかせて仕事なら私が行きましょうか?っと尋ねると…
「ダ、ダメだ!!リサは、ここを動かないでね?絶対だよ!!」
と凄い剣幕で言われた。いったい何があったというのだろうか?
陛下がどこかへ行ってしまって、しばらくして…………ハッと気付いた。自分がレン様と二人きりになったという事に。
(うぅぅぅぅ………で、でも、レン様といったい何を話せばいいのでしょうか)
自分がレン様と初めて会ったのは、兄様がしばらく行方不明となった後、陛下と共にアゴラスに戻ってきた時だ。
そのまま、陛下が将軍として魔国へと逗留する事になり、レン様も兄さまの客人として魔王城へと滞在した。
伝説とまで言われている傭兵・赤き狼…………その噂はこの魔国にまで知れ渡っていた。しかし、実際その目で見るまでは半信半疑だった。
しかし、実際にこの目で魔王城での鍛錬を見ると信じるしかなかった。凄まじい腕だった。兄様と陛下……そして、レン様。この3人なら、あの魔獣の巣窟とよばれるドルーン山脈でもあろうとも、無傷で帰ってこれたのも頷けた。
ちらっとレン様の様子を確認してみた。レン様は、普段は顔の半分を隠しているマスクを下にずらして紅茶を飲んでいた
「………」
そんな優雅な仕草をじっと見つめて、以前から感じていた疑念が頭をよぎった。
(……レン様は、陛下とどういた関係なのでしょうか?)
傭兵であるという事だが、時々見せるこの貴族のようなこの優雅さは何なのだろうか。
レン様は、兄様や陛下ととても仲がよかった。最初の頃は、あまりに仲が良かったためにレン様と、兄様が……その……そういう事なのかな?っと思った。兄様は、いつまでも結婚しようとはなさらなかった。今ならその理由が何となく分かるが、当時はまったく分からなかったのだ。
そこに、レン様という女性が突然現れたのだ。私がそう思ったのも、当然というものだと思う。一応魔王の妃になる可能性があるのなら、私の姉となるかもしれないのだ。心構えとして、知っておくべきなのではっと思った。
だが、兄上やレン様に直接聞く勇気はなかった。だから、二人と仲がいいカイ将軍に聞いてみた。だけど、カイ将軍からは訳が分からない返事が返ってきた。
「え?レンとギルが?………………あのさ?リサ将軍?その……俺はこの世界に来たばかりだから、詳しくは知らないんだけど。え~~とね?……その……あ、愛の形はそれぞれだよ?でもさ……あの……こ、こっちでは当たり前なのかな?……」
「………」
私はしばらくカイ将軍の話を聞き、この人はレン様の事を男と勘違いしているのだという考えにいたった。
そして、私はカイ将軍の事を本当に馬鹿なんだな~~と思ったものだ。そして聞いているのが馬鹿らしくなったので、私は話を切り上げて去った。
その後カイ将軍が魔王となり、神聖帝国との闘いが終わってしばらくしてから、私は陛下に呼び出された。何事かと思い、執務室を訪ねた私に陛下は……
「リサ……驚かないで聞いてほしい。…………実は、レンは女の子だったんだ」
「………」
私が盛大なため息を吐いたのは言うまでもない。私がレン様が女性である事は依然から、知っていた事を告げると陛下は目を見開いて驚いていた。
「え?え?……気付いていなかったのは、お、俺だけ……だったのか」
それを聞いた陛下はガ――ン!!っと落ち込んでいた。というより、たったそれだけ言うのにいちいち呼び出さないで欲しかった。
その時からだ。陛下とレン様の事が少し気になり始めたのは。
今まで陛下はレン様を男だと思っていたらしい………それが改めて女性だと認識したのだ。だからといって、陛下のレン様に対する態度が変化するような事はなかったと思う。
でも………それでも……夜に陛下がレン様と出かけるのを見ると、鍛錬とは分かっていても……その……まぁ……少し気になるのだ
後……レン様を見ていると、時々陛下を目で追ってるような気がする。自分の勘違いかもしれないが………
(…………きれいだなぁ)
確かにレン様には男っぽい所があるよう気もするが、それでも凛とした美しさがあると思う。
「…………リサ」
私がレン様に見とれていると、レン様から話しかけてくれた。
「は、はい!!何でしょうか?」
しばらく、レン様はこちらをじっと見つめていたが……こう言った。
「………いや、何でもない」
「そ、そうですか」
「「………」」
また気まずい空気がその場を支配した。そして、リサはまた途方にくれるのだった
(へ、陛下……早く戻ってきてください)
============= レン ===========
(……………き、気まずい)
今、俺は魔王城の中庭でリサと共に休憩しているのだが、話が続かないのだ。
リサは自分のために、いろいろ話しかけてきてくれるが俺が話を終わらせてしまっている。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
こんな時は、メリルやカイのあの社交性が羨ましく思う。それと同時に、やはり自分は貴族には向いていないという事を再認識させられる。
ソロスはそういう意味では、領主に向いているとおもう。あの嘘くさい笑顔で、すらすらと心にもない言葉がよく出てくるものだ…………自分には絶対に無理だ。
ワタワタっと慌てているリサを見ながら、ある考えが頭をよぎった。
(…………そういえば…………リサとカイの婚約の話はどうなったのだろうか)
この話を聞いたのは、俺とカイとギルでアゴラスの街へと出かけた時だ。いきなりだった………ギルが俺に対して……その……素直になれとか、何とか言ってきた。
思い出したら急に恥ずかしくなったので、喉も渇いてなかったが紅茶を流しこんだ。
(………べ、別に俺は、カイの事が嫌いなわけではないが………俺はそういう目で見てはいないと思う………うん)
初めてカイと会った時の事は今でも覚えている。俺が神聖帝国の近くを歩いていた時、かすかな殺気を感じ取った。
俺がそれを追って森へとはいっていくと、カイが立っていた。そこに行く途中で何人もの怪しげな格好をした死体があった。瞬時に理解した………こいつがやったのだと。
自分の中で血が騒ぐのが分かった。そして、気付いたらいつものように槍をぶん投げていた。闘いの事になると我を忘れてしまうのが、自分の欠点だとも思うが、どうしようもないのだ。
それから、俺とカイは何となく一緒に旅をするようになったのだ。そして、ギルに会った。
(………運命とは……ああいう事をいうのだろうな)
ギルとカイの出会いは、まさしく運命だったのだ。
俺はカイから報酬をまだもらっていないから、一緒にいるにすぎないのだ。
だから、ギルの言った事は的はずれだ。
(………それに……………あいつは俺の事を女と気付かなかったしな)
ちらっとリサの方を見てみる。リサは先ほどから、真剣に何かを考えていた。
(…………リサは美人だ)
将軍という武官でありながら、それでいて女らしさを失っていないと思う。自分などとは大違いだ。
それに、カイとリサは結構お似合いだとも思う。普段のやり取りを見ていると、互いに大事な存在として思っているのも感じられる。
こんな美人と婚約など……どんな男でも嬉しいのではないだろうか。
(…………もう話は進んでいるのか?……カイは知っているのか?……リサは?)
考え始めたら止まらなくなった……だから、勇気を出してリサに聞いてみようと思った。
「…………………リサ」
「は、はい!!何でしょうか?」
だが、いざ聞こうとすると………なぜか、急に怖くなってきてしまった。だから………
「………………いや……何でもない」
っと自分で切り出しておいて、自分で話を打ち切った。
「そ、そうですか」
「「…………」」
そして、また気まずい雰囲気がその場を支配した。もうすぐ、紅茶が切れてしまう。そしたら本当に手詰まりだ。
(………カイ。早く戻ってこい)
ちなみに1時間後………両手に大量の食糧を抱えたメリルを引きずりながら戻ってきたカイを見た二人が、ほっとした表情を見せたのは言うまでもない。