プロローグ 竜王編
え~~お久しぶりです。かなり不定期になりますので、毎日は期待しないでください。では、どうぞ~~
大陸の南西に位置するビーン荒野。枯れ果てた土地では育つ作物も少なく、ドラグーン王国の中でも圧倒的に人口の少ない地域だ。
そしてそんなビーン荒野に、人間族の男が一人佇み、黙って空を見上げていた。
「……………」
白い短髪に青い目をし、さらに全身に真っ白な鎧を纏っている。そしてその白いマントにはドラグーン王国の近衛騎士の証であるドラゴンの刺繍が施されており、腰には見事な双剣がぶら下がっている
夜空には満月と眩いばかりの星が無数にあるが、今はその存在感を完璧に失っていた。
青かった。そう……夜空には月よりも大きな青い星がゆっくりと流れていた。それは一か月前、突然空にあらわれたのだ。
ドラグーン王国では、その流星のことを災厄の始まりというものもいれば、吉兆と捉え大陸制覇の兆しだというものもいた。
(………私にとっては、確かに災厄だ)
その近衛騎士は、自分の首にぶら下がっているペンダントを握りしめた。そして、何かに思いをはせるように目を瞑り始める
そのままの状態で長い時が過ぎ………そして1時間あまりがたった頃、ゆっくりと目を開けた。
「…………来たようだね」
その近衛騎士が小さくつぶやいた瞬間、ゴウ!!っいきなり突風が吹いた。その凄まじい風の中、近衛騎士はまったく動かない。
しばらくすると、バサ…バサ…バサ…という音が聞こえ、空から金色のドラゴンが舞い降りてきた。
体長は5~6メートルはあろうかという巨躯。全身を金色の鱗で覆われ、見事な牙が生えている。
(…………相変わらず、君の優雅さには圧倒されるよ)
ドシーン!!っとドラゴンが着地をした衝撃で大地が揺れる。そして、その長い首をもたげ眼下に近衛騎士をとらえていた。
白い鎧を着た近衛騎士は黙ってそのドラゴンを見上げていたが、しばらくして親しげに話しかけた。
「……やぁ…久しぶりだね?アーサー」
そのアーサーと呼ばれた金色のドラゴンは、気軽に挨拶する騎士をギロっと睨みつけ、そして………
「……アーサーだと?…カカカカ……まるで人間のように我を呼ぶではないか、なぁ?氷結の?」
その金色のドラゴンは、可笑しそうに笑っている。
「………」
「カカカカ……氷結の支配者…ディーンよ。人間族と長く過ごしたことで、お前は人間にでもなったつもりか?」
それを聞いたディーンは、悲しそうにその問いに答えた。
「……私は人間にはなれない。どんなに強く願ってもな………………さて、世間話はこれくらいにしようか。……まぁ、大凡の予想はついているが、こんな所に私を呼び出して何用かな?黄昏の?」
っとディーンは相変わらず、アーサーを見上げながら尋ねる。それを聞いたアーサーは、
「ふざけるでないぞ。お主が一番よく分かっているだろうに……………氷結の!!なぜ、闘わぬ!!すでに‘ドラゴンの舞い’は始まっておるのだぞ!!」
さきほどまでの穏やかな声音とは打って変わり、その声には怒りがにじみ出ている。ディーンという名の人間に化けたドラゴンは、悲しそうに答えた。
「……ああ、分かっているよ」
「お主は分かっておらぬ!!いいかげんにするのだ!!まだ、あの人間族の小娘の傍におるのか!!いいかげん目を覚ませ!!」
アーサーの叫びを聞いた瞬間、ディーンが悲しそうに首を横に振りながら訂正した。
「……小娘じゃなくて、アラニスだよ。黄昏の…」
「どっちでも構わぬ!!」
グルルルルルルっとアーサーがうなりをあげた。
「あれを見るのだ…氷結の。お前も分かっておるだろうに……青き星が流れたのだ。‘ドラゴンの舞い’の始まりだ……このままでは、お前の大好きな人間族の国を巻き込む事になるぞ!!」
それを聞いたディーンは、少し嬉しそうに微笑む。
「…………君はやさしいね、黄昏の。でもね…………私は、アラニスの傍を離れる訳にはいかないんだ。アラニスには私が必要で………そして、私もアラニスを必要としている」
「………やめよ。我はそんな事が聞きたくて、お前を呼び出したのではない」
「最後まで聞いてくれ、黄昏の支配者……アーサー……そして、私の長年の友よ。私はな、自分の命にそこまで執着はなかった。いつ死んでもいいとも思っていたんだ。だが………今は違う」
「………ほう?」
ジャリンっとディーンが双剣の一本をゆっくりと鞘から抜き放った。
「私は、アラニスの傍にいつまでもいたい。いつまでも、あの娘を見ていたい。だから……私は覚悟を決めたのだよ……黄昏の。そう………‘王’になる覚悟を!!」
ブワっとディーンから殺気が漏れ出した。アーサーはそんなディーンの様子をじっと見つめていた。
このドラゴンとは、何千年も前から知り合いだ。だがディーンは昔から争いを好まず、自らの力を誇示しようともした事がなかった。
(だが、我には分かる。お前の力は、自らの力を示したがっている愚かなドラゴンとは比べものにならぬという事をな)
そのディーンが、ここまでの殺気を放っているのだ。それほどまでに、あの人間族の小娘はお前を突き動かすというのか。
「…………顕現するのだ、氷結の。そのままでは闘えぬであろうが」
本来のドラゴンの姿に戻るように促すアーサーに対して………
「断るよ、黄昏の。私は、ドラグーン王国・第3王女・アラニス・ドラグーンの近衛騎士だ。それが私の誇りであり、そして私が自ら選んだ道でもあるのだから」
「………………」
しばらく、アーサーはその人間族の男に化けたドラゴンを見下ろしていたが、シュルシュルシュル……っとみるみるその姿を変えていった。
そして先ほどまで金色のドラゴンがいた所に佇んでいたのは、金の長髪を後ろで縛り、全身に金色の鎧を纏った一人の人間族の男だった。
「……氷結の。我はお前に一目置いていた。例え、他のドラゴンがお前の事を変わり者だと蔑もうともな。我はお前と友であり続けた……………我は闘う時は、相手の流儀に合わせる。お前があくまで人間として我と戦うなら、我も全力でそれに応えよう」
「……そうか。自らの不利になるだろにな……黄昏の。しかし、私はアラニスの!!……そして自分自身のためにも!!負ける訳にはいかないんだ!!」
ジャリンっとその腰につるされた双剣のもう一本を抜き放ち構える……氷結の支配者……ディーン。
それを見たアーサーは、少し悲しそうに笑った。
「………それでいい。さぁ、始めようではないか、我が友よ!!‘ドラゴンの舞い’を!!」
そう叫びながら、同じように双剣を抜き放つ……黄昏の支配者……アーサー。
その二頭のドラゴンは、しばらく睨みあい、そして……激突した。
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