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王たちの宴  作者: スギ花粉
133/200

黒と銀

「カイ~~~~~」


……………ペタンペタンペタン………………略………


「おい~~カイってばよ~~~~」


…………ペタンペタンペタン………略……


(心を乱すな…今日中に終わらすためには、今この時間を無駄にする訳にはいかないんだ)


今、魔王城の執務室には二人の人物がいる。一人は褐色の肌に、長い黒の長髪を後ろで縛りポニーテールのようにし、白いローブを着たままの人間族の女性。メリル・ストレイユ。


そしてもう一人は、この魔王城の主である、第2代魔王……カイ・リョウザン。


カイは執務室に積み上げられた仕事の書類を黙々と片付けている。その横でメリルはしゃがんで机に顔をのせており、その顔は少しぷ~~~っと膨れている。


ラグナ―様と新たに選ばれた族長達と会議を行い、チャングル山の近くに一つの都市を建設する事が決まった。


そこは、魔国と西の大国であるドラグーン王国との交易の中継地となる予定だ。


警備兵のほとんどは魔国から出すことになるが、主にギガン族にその都市を統治してもらう事にしようと思っている。そうする事によって、かなりの利がギガン族達に落ちるはずだ。長年の食糧問題も解決できる。


すでにキャラバンの中継地として機能し始めている。ギガン族たちはそこで、チャングル山から汲んだ水などを売っていた。今は水だけだが、近い将来一大交易都市にしてみせる。


だが、新たな交易都市をつくるためには様々な準備が必要だった。さらに自分が記憶を無くしていた間に溜まった仕事もかなりの量にのぼっていた。


カイは泣きながらリサに頼み込み、毎日ある一定のノルマをこなせば、後は自分の自由な時間にしていいと確約してもらっていた。ちなみに、このペースでいくと終わるのは5年後らしい。


(………俺は夜は鍛錬の時間にまわしたい。だから、メリルには悪いけど今日はダメだ!!)


カイはメリルがぷ~~っと頬を膨らませているのには気付いていたが、心を鬼にして無視していた。


面白くないのは、メリルである。カイが魔王としての仕事をするようになってから、一緒にいる時間がかなり短くなった。カイは、ほとんどこの執務室にこもりっきりで何やらハンコを押し続けているのだ。


何度遊びに行こうといっても、カイは仕事があるから……リサが怒るから……必要なんだよ……っと言い訳ばかりだ。そして、メリルの中で限界が早くも訪れた。


「う~~~~~~……キキキキ…………うりゃ!!!」


「のわーーーーーーー!!!」


バラバラバラバラ………メリルが紙の束を下から持ち上げて放り投げる。大量の書類が宙を舞う。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!!な、何をするんだメリル!!これじゃ仕事になんないよ!!」


カイはハンコを片手に持ちながら、あまりの事に絶叫する。だが、メリルは笑ったままだ。


「キキキキキ……仕事に何ないんだろ?じゃあ……やっても無駄だ。さぁ…遊びに行こう!!俺っちにアゴラスを案内するんだ!!」


その言葉を聞き頭を抱えてしまうカイ。そして何とかメリルの説得しようと試みる。


「……だめだよ、メリル。俺には魔王としてやらなくちゃいけない事があるんだからね?そうだ!!明日とか……いや……う~~ん……やっぱり1週間待ってもらえれば……」


それを聞いたメリルはやれやれっと、呆れたように両手を上げた。


「まったく……カイは馬鹿なんだな!!いいか?王様ってのはな、何もしなくていいんだ!!」


「そんな…」


メリルは得意げになって、自分の考えを語り始めた。


「王様がしなくちゃいけないのは、優秀な部下を見つける事なんだ!!後はそいつに任せちまえばいいんだ!!考えてみろよ、カイ?お前にそんな難しい事判断できんのか?できねーだろ?……出来る奴がやればいいんだ!!」


カイはメリルに反論しようとして、ぴたっと動きを止める。


「…………うん?」


(…………あれ?メリルの言う通りなんじゃないか?)


カイはメリルの言う事をある程度聞き流そうとしたが、一理あるっと思った。


確かに自分がやっている事は、魔国の文官や武官がリサやバリスタンに持っていった仕事の最終確認をしているにすぎないのだ。


「だからな?王様ってのは、ド―――ン!!っと家来に任せればいいんだ!!だから………俺っちと遊びにいこう!!」


(もともと俺はただの一般人だし、政治とか経済とか分かんないし…魔国についてもみんな程詳しくないし……あれ?俺やる必要なくね?)


もともと自分がやるハンコの必要性については疑問視しており、また逃げ出した事もあるカイである。カイは少しずつ…少しずつ……自分の心が揺れ動いていくのを感じはじめていた。


「なぁ~~~だから~~行こうぜ~~カイ~~」


メリルがカイの腕をとり、ブランブランっと揺らす。そして、カイは自分を騙す事に成功した。


(し、仕方ないな~~~。お、俺はやらなくちゃと思うんだよ?でもメリルがどうしてもというなら…………うん!!)


カイは執務室の椅子からゆっくりと立ち上がって、メリルに笑顔を向けた。


「そうだね!!じゃ……俺がアゴラスを案内してあげるよ!!」


「ホントか!!キキキキ……やったぜ!!」」


二人は意気揚々と執務室を出て行こうと、扉を開ける。すると………


「……どこに行かれるのですか?陛下?」


扉を開けると………そこは地獄への入り口だった。


廊下ではリサが凄まじい殺気を放ちながら、カイとメリルの前に立ちふさがっていたのだ。


リサを見て、カタカタカタカタ………カイが震え始める。そのあまりの迫力に腰が砕けそうになったのだ。


そして、リサはちらっと部屋の床に散らばっている書類の山みてさらに表情に硬化させた。


「な、何ですか!!これは!!」


カイに冷たい笑顔を見せながら、リサは説明を求めた。


「………陛下?まさかとは思いますが……お逃げになるつもりでしょうか?」


「い、いや!!違うんだ!!そ、そんな訳ないじゃないか!!」


しどろもどろになりながら言い訳をするカイに構わず、リサは懐から手帳のようなものを取り出した。そしてそれはカイにとってまさに死刑宣告と同義だった。


ビ―――!!……カキカキっと何やらその手帳に棒線を引っ張り、何かを書き直しているリサ。


「陛下…………逃げようとした罰として一日の仕事量を二倍にします」


「いやだぁぁぁぁぁぁ!!」


カイはそのまま膝から崩れ落ちた。すでにリサに対しては精神を折られていた、仕事の事に関して文句言うことなどありえない。


床に四つん這いになり愕然とするカイを心配するメリル。


「お、おい!!大丈夫か、カイ!!」


そして、きっとメリルはリサを睨みつけた。


「こら!!銀髪!!カイを虐めるんじゃねーー!!」


「な、何を!!私は陛下を虐めてなどいません!!」


メリルとリサは、双方一歩も引かずに部屋の中でガルルルルっと睨みあった。


初めてカイがリサにメリルの事を紹介した時から、二人は犬猿の仲なのだ。カイにはその理由が何となく分かるような気がした。


リサは真面目だから規則のようなものを重視するし、キチっとした性格だから自由奔放な人物とは本来あまり合わないのだ。ギルについては、実の兄だから許していたという事が大きい。


そしてメリルは自分独自のルールというものを創ってしまっており、それに対してリサのように理屈を並べるタイプを非常に嫌うのだ。


だから、二人は会うたびに喧嘩ばかりしている。カイとしては頭を抱えるしかなかった。そして、今も床で我関せずの立場を貫いていた。


「虐めてるじゃねーか!!やりたくもねー仕事をやらされてよ!」


「これは魔王として、しなくてはならない政務なのです!!」


「カイは俺っちと街に遊びに行くんだ!!邪魔すんな、銀髪!!」


「この盗賊風情が、何を馬鹿な事を!!陛下が魔国の大事な政務を放りだす訳がありません!!」


ぎゃーぎゃーっと二人はわめき散らしていた。そろそろ、俺が止めた方がいいかもしれないなっと思った時、メリルが急に静かになり真面目な表情をした。


「仕方がないぜ……俺っちもこれだけはやりたくなかったけどな」


「な、何ですか」


何やらメリルの雰囲気が急に変った事を感じ取ったのか、リサも少し身構えた。


メリルはあ~~うん…あ~~ゴホゴホっと何やら咳払いをし、そして……………火に油を注いだ。


「この魔国を盗んだ………盗賊王・メリル・ストレイユの命令だ。銀髪……お前、あっち行け」


シッシっとまるで野良犬でも追い払うかのように、手を振った。


カイはその言葉を聞いた瞬間、自分の顔がこわばるのが分かった。


(メ、メリルさん!!あなたは何と言う事を!!それをリサの前で言っちゃダメって言ったのに!!)


あの謁見の間での出来事の後、リサの怒りようったらなかった。だから、メリルにリサの前だけでも言わないようにあれだけ頼み込んだのに、すっかり忘れてしまっている。


執務室の温度が2、3℃一気に下がったような気がした。


メリルは言ってやったぜ…っというような満足したような表情を浮かべている。


それとは対照的に、プルプルっとあまりの怒りのために俯いて体を震わしているリサ。そして、言葉を振り絞る。


「………な、何たる屈辱か………許すまじ!!」


リサがジャリンっとゆっくりと剣を鞘から抜き放とうとしたのを見て、さすがにカイが床から立ち上がり、リサを羽交い絞めにして止めた。


「リ、リサ!!ダメだって!!お願いこらえて!!」


「陛下!!魔国に対する侮辱を、許すわけにはまいりません!!お放し下さい!!この盗賊をき、斬って捨てます!!」


逆上したリサを、怪我を負わせないようにおさえるのはかなり大変だった。


そしてカイとリサがぎゃーぎゃーっと騒いでいるのを見て、今度はメリルがぷ~~っと頬を膨らませて不機嫌になっていく。


「う~~~……何かモヤモヤするぞ!!………カイ!!お前は俺っちのもんなんだからな!!だから、俺っちから離れちゃダメなんだ!!」


そう叫びながら、リサを羽交い絞めにしているカイを引っ手繰り、後ろから抱きつくメリル。


「メ、メリル?」


(せ、背中に柔らかい感触が!!)


カイはあまりの事にワタワタっと慌てている。そして、メリルはカイの肩ごしにリサに対してアッカンベーをした。


それを見たリサも完全に逆上し、


「ば、馬鹿な事を言わないでください!!陛下は、あなたのものではありません。陛下は……陛下は……その……あの……ま、魔国のものです!!」


っと顔を真っ赤にしながら叫んでいた。それを聞いたメリルがまた応戦した。


「へーんだ!!カイは、俺っちといっしょに居た方が楽しいにきまってるんだ!!」


「そんな事はありません!!陛下は、魔国の事を第一に思っているんです!!もちろん、仕事をします!!」


(………あれ?な、何か………雲行きが、怪しくなってきてない?)


二人の間で、何とかこの騒ぎを収めようとしていたカイは、背筋にいやな汗が流れるのを感じた。第6感が告げていた………今すぐ逃げた方がいいぞ!!っと


だが、メリルに抱きつかれたままであるため逃げられなかった。そして、予想どおり嫌な流れになっていった。


「カイは俺っちと一緒にいたいんだ!!」


「そんな事はありません!!」


「そうなんだ!!」


「違います!!」


二人はしばらくそのまま睨みあい………キッとカイを見てきた。


「カイは俺っちといたいよな!!」「陛下は魔国を第一に思ってますよね!!」


そう自分に確認する二人を見て、カイは途方にくれた。


(え、え~~~~~!!お、俺にどうしろと?………い、いや、落ちつくんだ俺!!ここで選択を間違えれば………死だ)


カイは必死に考えた結果、リサなら分かってくれるのではないかと判断した。


「あ~~~、あのさ…リサ?その…メリルは、アゴラスに来たばっかりだからさ?ちょっとぐらい……」


だが、そのカイの言葉を最後まで聞かず、リサは底冷えのする声でカイに話しかけた。


「……そうですか。陛下は魔国よりも、こんな盗賊風情の方が大事だと」


リサは、またジャリンっと鞘から剣を抜き放ち、そして、氷の魔力を込めていった。剣が青白い光を放つ、心なしか戦場の時より光ってるような気がする。そして、にこにこ笑っている。


(……こ、恐い!!今までで、一番恐い笑顔だ!こ、殺されてしまう!!)


その様子を見てカイは瞬時に、自分の考えを軌道修正した。


「あ~~、メリル?あの~~やっぱり今日は……」


「……………ふ~~ん?カイは俺っちよりも、この銀髪を選ぶのか?そうかそうか…ふ~~ん?」


キンっと鞘から半月刀を抜きはなち、闇の魔力を込めていくメリル。メリルは明らかに不機嫌になっている。


「……………」


(これ正解ないよ!!どうすんの、俺!!どっち選んでも死ぬじゃんか!!う~~~ん………)


カイは二人の殺気に晒されながら、必死に自分が生き残れる方法を考えた。そして……一つの可能性を見出した。


(そうだ!!こ、これなら二人のどちらかを贔屓せずにすむぞ!!絶対に助かる)


ポンっと手を叩き、カイは何かを思い出したかのような演技をした。そして………


「あ、ごめん!!俺、今日はレンと出かける用事があったんだ!!だから……」


だが、それを聞いた瞬間…………


「うら!!」「せい!!」


リサとメリルが、同時にカイに襲いかかった。


「な、何でだーーーーーーーーーーーーー!!!」


執務室にカイの絶叫が響き渡った。









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