約束 盗賊王編
スギ花粉です。楽しんでいただけたら、幸いです。では、どうぞ~~
「………やはり、ここに居たか」
オガンがチャングル山の麓へと下りると、思った通り5、6歳の少女が小さな岩の前で胡坐をかいていた。
その少女は黒い長髪を後ろで束ねてポニーテールのようにしている。その肌はギガン族のような赤黒い肌ではなく、褐色の肌である。
あれから……………メリタ―ザが死んでから3年がたった。いつもは明るいメリルも、この日だけは朝から晩までメリタ―ザの墓標の前から動かないのだ。
ザッザッザッザっとメリルの隣に立つオガン。
「メリル……そろそろ日が暮れる。腹も減っただろう……さぁ、チャングル山へ帰ろう」
「…………」
だが、メリルはオガンの言葉がまったく聞こえていないかのようにジ―――――――――っと墓標を凝視している。オガンはこんな時、なんて声をかけていいのか、まったくわからなかった。
(……やはり自分には無理です……ラグナ―様)
自分はメリルの教育係のような者をラグナ―様から任された。お前なら、メリルの気持ちを誰よりも理解できるだろうからな……という理由だった。
子供は……苦手だった。どう接すればいいのかまったくわからないのだ。
どうしたものか……っとオガンが途方に暮れていた時、メリルから話しかけてきてくれた。
「………なぁ…オガンよ~~」
「うん?何だメリル?」
「……何で、みんな死んじまうんだ?こんな悲しい事、ない方がいいに決まってるじゃねーか」
ふむっとそれを聞き、オガンはしばらく考え、ドカっとメリルの隣に胡坐をかいた。
「………限りある命だからこそ、みなそれを精いっぱい生きる事ができる。…………………いや、すまん。今のは忘れてくれ、メリル。自分でそう思っていない事を言うのは卑怯だな。私もな…メリル、大事に思っている者には、いつまでも……いつまでも、生きてほしいと思うのだ」
「……じゃあ…何で?」
「それは私には分からない。いや……この世界の誰であろうとそれに答える事ができる者はいないであろう。自分で答えを見つけ出すしかないのだ」
「………俺っちには、分からないよ…オガン。一人になるのは淋しいよ。もう……あんな思いしたくねーんだよ」
メリルはグスっと涙を流し始める。オガンは胸が締め付けられるような気持ちになった。
(この娘は……私と同じだ。常に、孤独を感じているのだ。私は昔、それを暴力で発散しようとし、この娘は明るく振る舞う事で考えないようにしているのだ)
それを見たオガンは、ポンっとメリルの頭にやさしく片手をのせた。
こんな時、メリタ―ザなら……親なら何と言ってやれるのだろうか?だが、私は本当の両親の暖かさというものを知らん。こう言うのが、自分なりに精いっぱいだ。
「……安心しなさい、メリル。我らはギガン族、300年は生きる種族だ。人間族のお前とは比べ物にならぬほどの時間がある。私は、もうお前にそんな思いは決してさせはしない」
今まで墓標だけを見ていたメリルは、その涙目のままオガンの方を向く。
「本当か!!絶対だぞ!!オガンは、俺っちより先に死んじゃいけねーんだ!!」
「ああ……約束しよう。私は、お前を悲しませたりはせん。だから、もう帰ろう……チャングル山へ」
「うん!!」
ゴシゴシっと目をこすり、ばっとメリルは立ち上がった。もう、いつものメリルに戻っている。
「キキキキキ…オガン~~。絶対だぞ?約束破ったらどうする?」
「ふん!!私は、約束は絶対に守るのだ。私が今まで嘘を言った事があったか?」
「じゃあよ~~。オガンが約束破ったら、俺っちは盗賊になるからな!!もう、俺っちを怒っちゃだめだ!!」
ゴチン!!っとメリルの頭にオガンの拳骨が落ちた。ぐぎゃ!!っといいながら頭を押さえるメリル。
「まったく……まだ、そんな事を言ってるのか!!盗賊など絶対に許さん!!」
「でもよ~~」
「うるさい!!さぁ……帰るぞ」
とオガンは立ち上がり、チャングル山へと歩き出してしまった。メリルは、う~~っと唸りバッと走りオガンに飛びつき、するするっとあっという間に肩に乗っかる。
「こ、こら!!何をするメリル!!」
「キキキキ……肩車だ!!お~~…オガンはでっかいな!!」
メリルは足をオガンの首に巻きつけ、背中でブランブランっと揺れている。
まったくっと言いながら、メリルの足をしっかりと持ち、チャングル山を登って行くオガン
しばらく、メリルは楽しそうに笑っていた。そして……何やらオガンの背中で恥ずかしそうにもじもじし始める。
「な、なぁ……オガン~~」
「何だ、メリル?」
「俺っちのさ~~………俺っちの………」
============= ==============
カイはラグナ―様に言われた通りにチャングル山の中に入り、下へ下へと階段を下りて行った。
今、チャングル山では闘い死んでいった戦士たちの魂を祭っている。
ギガン族でもない自分が、今だにチャングル山にいる事は掟に反するのでは?っとラグナ―様に尋ねたが、構わないという事だった。
「安心しなさい。……カイ、お前さんはワシらの聖地を…誇りを…命を懸けて守ってくれた。この聖地に他の者をそう簡単に入れる訳にはいかぬが、お前とメリルは特別じゃ。みな感じているのだ……お前さんたちのおかげで、我らは審判の日を乗り切れたとな。これは我らの総意でもあるのじゃよ」
子供達はいつも通りに自分に接してくれている。いつも通りというのは、今だに馬にされたり、髪を引っ張られたりしているという事だ。
これは懐かれているのではなく、下に見られているだけなのではないだろうか?っと何度も疑問に思ったが、やっぱり好意をもたれるというのは嬉しいものだ。
チャングル山の奥深くへと下りていくと、一際大きな扉があった。両側を剣と盾を持った3メートルはあろうかというギガン族の石造に守られている。
そこに手を置き、ゆっくりと押してみる。ギギギギギーーーっと音をたてながら開く扉。
その部屋はかなりの広さがあった。そして、何枚もの石壁が均等に並んでいる。一枚一枚に何百何千という名前が刻まれている。
ここはかなり深いはずだが、天井から太陽の光が漏れてきており、辺りを明るく照らしている。
そして、一番左端の……まわりに多くの花束が置かれている石壁の前にメリルがいた。そして、ジ――――――っと一枚の石壁を凝視している。
「……メリル」
「………」
カイはメリルに話しかけてみたが、メリルは黙ったままだ。カイもそれ以上、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。
オガン族長の最後の言葉を伝えた時、初めメリルはオガン族長の死を信じようとしなかった。
「オガンが死ぬはずないんだ!!約束したんだ!!俺っちをおいて、オガンは死なねーんだ!!」
そう言うとメリルは、チャングル山中をオガン族長を探しまわった。
止めても……止めても……メリルは頑として聞かなかった。
そして………祭壇の石壁に、オガン族長の名前があるのを見つけてしまった。
それから、メリルはずっとここから動かないでいるらしいのだ。
「なぁ……カイよ~~」
メリルはじっとオガン族長の名前を見つめながら、話しかけてきてくれた。
「うん?」
「………カイは…死なねーよな?いつまでも、俺っちの前からいなくなったりしないよな?」
「メリル。……うん。約束するよ。俺はどんな事があっても死なない。俺にも、やり遂げなくちゃいけない事があるんだ」
メリルは、初めて自分の方を向いてくれた。
「……………約束は守らなくちゃならね~。そうだろ?カイ」
「……うん」
「約束したからな!!カイは俺っちを悲しませちゃダメなんだ!!」
メリルは鬼気迫る勢いで、カイに詰め寄った。だが、カイもそれに気圧されるような事はしなかった。
「大丈夫だよ…メリル。約束するよ。………そうだ…後、メリルにはお世話になったからね。何か、お礼をしなくちゃと思ってるんだけど……」
「お礼?……それは……………何でもいいのか?」
「そうだね。メリルの願いを何でも叶えてあげるよ」
「本当か!!やったぜ!!今すぐじゃなくてもいいよな?……よ~~し、後で言うからな!!絶対だぞ!!」
(……じゃあ………じゃあ……カイには俺っちの家族になってもらおう…キキキキ)
メリルは凄く嬉しそうだ…………どんな願い事をされるのか物凄く心配になった。
(……自分が叶えられるものならいいんだが)
カイがそんな事を考えていると、メリルはぱっと立ちあがった。その顔にはいつものように笑顔が戻っている。
やっぱりメリルには、笑顔が特に似合うな~~~っとカイは思った。
そんカイに対して……
「カイ……先に行っててくれ。俺っちも、すぐに行くからな!!」
「………分かった」
カイはその場にメリルを残して、祭壇を後にした………
========== メリル・ ================
カイが扉の外に出て行ったのをしっかりと確認してから、メリルは石壁に話しかけた。
「………約束を破ったオガンが悪いんだからな?俺っちが、盗賊をやっててもオガンは怒れないんだ!!」
すると、キンっとメリルは鞘から半月刀を抜き放ち、ガリガリと石壁を削り始める。
「キキキキキ……盗賊は盗んだ物を、絶対に返したりしないんだ!!だから、オガンは我慢するしかねーんだ!!これは、もう俺っちのもんだからな!!絶対にオガンに返してやらね―んだ!!」
しばらく、がりがりっと石壁を削り、メリルはピョンっとその石壁から飛び退る。
その石壁の一部が、見事に削られ完全に読めなくなってしまっている。
そこは…………オガン族長の姓が掘られた場所だった。
「キキキキ……俺っちはオガンから盗んでやったぜ!!母ちゃんは、名乗った事なかったから分からなかったんだ!!だから、俺っちはずっと欲しいと思ってた!!」
どかっとメリルは地面に胡坐をかいた。
「俺っちは……メリル。そう……砂漠の女盗賊・メリル・ストレイユだ!!…キキキキキ!!」
そう嬉しそうに笑うと、メリルはゆっくりと頭を下げた。
「……い、一回しか言わねーからな?俺っちだって、恥ずかしいんだ!!
………………今まで……………………本当にありがとな
……………………………………父ちゃん」
その時、祭壇の間の天井から湿った風がメリルを吹き抜けていった。
どうも……スギ花粉です。盗賊王編、いかがだったでしょうか?いや~~長かったですね。3月ぐらいに始まって、もう4月です。早いものだな~~と思います。
え~~ここで終わりでもよかったのですが、エピローグがまだ一つだけ残ってます。早ければ明日には投稿できると思います。
さて、読んでいただいている、みなさん全員が感じてる事だと思いますが、どこに‘王’が出てきとんねんと。「王たちの宴」ちゃうんかい?っと。
もっともです。それはエピローグでご確認ください。よろしくお願いします