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王たちの宴  作者: スギ花粉
129/200

うまくなった

え~~スギ花粉です。楽しんでいただけたら、幸いです

カンカンカンカンカンカン!!っと見張り台から襲撃を知らせる鐘が響き渡った。


「て、敵襲-------!!」


それを聞き、チャングル山の中から戦士たちがフラフラになりながら出てきた。


「…持ち場につけ!!」「何とか持ちこたえろ!!」「な、何だ?」


みなが自分の持ち場に走って行く中、何人かは一色触発の雰囲気になっている子供達とカシム族長達に気付き戸惑った表情を見せる。


カシム族長は時間がたつにつれ自分達が、不利になっていくであろう事を瞬時に感じ取った。何人かの若者は何とか丸めこんだが、他の戦士達が自分のしようとしている事を認めるはずがないのだ。


「……………もはや、一刻の猶予もない!!助かるにはこれしか道は……」


だが、そのカシム族長の言葉を大きな音が遮った。


ブォォォォォォォォォォーーー!!ブォォォォォォォォォーーー!!


ホルンの音がチャングル山中に響き渡ったのだ。それを聞いたギガン族全員が、ぴたっと動きを止める。


「こ、これは?」「盗賊の銅鑼じゃないぞ!!」「ま、まさか」「み、見張り台!!」


チャングル山にいるすべての者が、希望に満ちあふれた表情をしながら、見張り台からの報告を待つ


「待て………よく確認するんだ!!………あの砂埃は、と、盗賊じゃないぞ!!あれは…あれは軍勢だ!!何万もの軍勢がこっちに向かってくるぞ!!旗印は………黒地に銀の流星!!魔国の旗だ!!」


わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!っとそれを聞いた戦士たちから歓声が上がった。みなが涙を流しながら抱き合っている。


「やった!!」「ほら!!魔国は絶対に来てくれるんだよ!!」「カイ兄を放してよ!!」


子供たちはカシム族長たちにつめよって鎖でぐるぐる巻きになっているカイをひったくった。だが、それを止めようとする者はいなかった。


しばらく呆然としていたが、ばっとカシム族長達はカイに対して土下座をし始める。


「も、申し訳ありません、魔王様!!どうか…どうか」


だが、カイとラグナ―はそんなカシム族長たちの方を見向きもしなかった。二人とも、驚愕の表情を浮かべている。そして、ラグナ―はガクっと膝から地面へと崩れ落ちた。


「き、来よった…本当に…来よった」


子供達はカイに巻きついている鎖を何とか取り外し、泣きじゃくりながらカイに抱きついた。


「うわぁぁぁぁん!!カイ兄!!本当によかったよ~~」「グス…もう駄目だと思ったよ!!みんな死んじゃうかと思ったよ!!」


カイは半ば夢のように感じながら、子供たちをあやしていた。


(メリル……本当にやってくれたんだね)


ここにはいないメリルに心の中で感謝していると………


「………ぃ」


その時、カイは微かな何かを聞いた。


「うん?…今、誰か俺の事呼んだ?」


カイはキョロキョロっと左右を見渡してみる。だが、子供達が自分に泣きついてくれているだけだった。気のせいか…っと思ったが、


「…カイ~~~!!」


今度は確実に聞こえた。メリルの声だ。左右をもう一度見渡すが、やはりメリルの姿はない


「カイ~~~~!!」


そして気付いた、メリルの声はカイの上から聞こえてきていたのだ。


ばっと上を見上げると………メリルが落っこちてきていた。


そう……真上からではなく、カイの200メートル手前辺りを。


「メリル!?」


(ど、どういう事!!)


あまりの事に頭が正常に働かないカイ。だが、このままではメリルは地面に叩きつけられてしまうのだけは分かった。


カイは子供たちをやさしく自分から放し、ばっと走り出した。左足に激痛が走ったが、気にしていられなかった。


何とかメリルの落下点には間に合ったカイだが…………そこからどうすればいいのか、まったく考えていなかった。


「カイ~~~~!!」


もの凄いスピードで自分に迫ってくるメリル。


「え?え?……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


ドゴ―ンという音と共に、メリルが弾丸のようにカイに突っ込んだ


「ぐふ!!」


カイはその衝撃を何とか緩和させようとしたが、そのまま地面に倒れ込んだ。二人は抱き合う格好になりながら、ゴロゴロゴロ……と地面を転がり、ようやく止まった。


カイは半分意識をなくしかけていた。メリルはそんなカイに馬乗りになって、嬉しそうに改めて抱きつく。


「カイ~~!!俺っちはやったよ!!魔国が援軍に来てくれたぞ!!これで、みんな助かるんだ!!キキキキ…」


「……がは!!……ほ、本当に…助かったよ…よく、魔国を連れてきてくれたね」


カイは朦朧としながら、メリルに話しかける。それを聞いたメリルが、得意げにこう言った。


「おう!!聞いてくれよカイ、魔国はな?お前の事を魔王だと勘違いしたんだ!!」


「お、俺の事を??」


「そうさ!!そこで俺っちはピーンっときたね、魔王がいると思ったら絶対に来てくれるだろ?キキキキ……俺っちは魔国を騙してやったぜ!!」


成程っとカイは納得した。魔国は、魔王のために軍を出したという訳か。その時、メリルはカイが左足を怪我しているのに、気付いた。


「……カイ!!お前、左足怪我してるじゃねーか!!ここで待ってろ!!今、ラグナーを連れてきてやるからな!!動いちゃだめだ!!」


そういうと、メリルはラグナ―様の方へと走って行った。カイはその後ろ姿を見つめながら、こう思った。


(………メリルに突っ込まれたのが、一番痛かったんだけどね)






==========    ==============





本当によかった~~っとカイが安心していた時、ゾク!!っと何やら寒気がした。カイは瞬時に後ろに飛び退さる


ヒュー――――ン!!っという風切り音がしたかと思うと、ビ―――ン!!っと真っ赤な槍がさっきまでカイがいた地面に突き刺さっていた。


「な!…な!」


あまりの事に呆然とするカイ。


「ぐきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


そこに、バサバサっと3メートルはあろうかという怪鳥が飛来した。そして、その背には真っ赤な髪をし、顔を半分マスクで隠したあの人が乗っていた。


ばっとその赤髪の人は怪鳥から飛びおりると、ずぽっと槍を引き抜いた。


「………………まったく……あんな高さから飛び降りてよく無事だったものだ」


その人は、淡々と独り言をつぶやいていた。それを聞き、メリルが空から落っこちてきたのはそういう事かと思ったが、今はそんな事より重要な事があった。


「ち、ちょっと!!何するんですか!!」


カイはあまりの事に絶叫する。逃げなければ、この槍で死んでいたかもしれないのだ。ちゃんと理由を聞かねば、納得できない。


その赤髪の人はしばらく黙っていたかと思うと、


「………………いや、記憶をなくしたと聞いたんで、これで戻るかと思ってな」


「どういう事!?」


俺は槍をぶん投げられて記憶を取り戻すような生活を送っていたのだろうか?………てか、この人と俺はいったいどういう関係なんだ?


(今一、この赤髪の………えっと…男?…いや、女の人……だよね、との関係性が分からないんだよね)


助けにきてくれたのだから、敵ではないのか?でも槍なげられたしな~~っと悩むカイ。そんな疑念を持つカイに対して、赤髪の人は淡々と喋っている。


「…………まぁ、これで戻らないとなると、後はこいつに任せるしかないな」


シュルシュルっとその背中に背負っていた何かを取り出す赤髪の女性。


「こいつ?」


奇妙な言い方をするではないか。まるで、もう一人いるような言い方だ。


そして、背負っていた袋から取り出されたのは……一本の剣だった。


その剣を見た瞬間、自分の頭にズキっという痛みが走った。だが、それでもその剣から目線を逸らす事ができなかった。


カイはパクパクっと口を動かしているが、言葉になっていない。赤髪の人は、その様子をじっと見つめながら、カイに語りかけた。


「…………記憶をなくしただと?あの時、お前は誓ったはずだ。すべてを背負うとな。さぁ……言ってみろ。自分はすべてを忘れたと…………ギルの前で言ってみろ!!」


ギル……その名前を聞いた瞬間、今までにない激痛が頭を襲った。


「ぐぅぅ!!」


とカイは頭を押さえながら、地面に膝をついた。


そんな自分を見下ろしながら、その赤髪の女性はさらに淡々と告げる。


「………まだ、思い出せないのか?俺は、あの時、あの場所に居なかった。だが、お前は確かに聞いたはずだ。あの言葉を……ギルの魂の叫びを!!」


「あの……言葉?」


カイは苦しそうに言葉を吐き出した。赤髪の女性は、大きく息吸い込む………


「…………虐げられし我が民に発展と栄光を!!」


その剣を天に突き出し叫んだ。そして、ドクンっと自分の心臓がはねたのが分かった。


「我らが暗黒に対して燃える灯となろう!!」


心が……ざわめく。自分の頭の中が、ゆっくりと溶けていくように感じた。


「夜明けをもたらす、礎になろう!!」


みるみる………頭の中にその光景が鮮明に浮かび上がってくる。そう……あの時の光景が。


  「眠りし者は目覚めよ!!

 

   すでにホルンは鳴り響いた!!

 

   恐れず進め!!


   誇りを胸に!!

        

   我らは民を守りし楯になろう!!」


その言葉を聞き終わるのと同時に、完全にカイはあの時へと戻った。


そして……そして……壁の上に、魔王が立っていた。月夜がそのきれいな銀髪を照らし、周りは氷の魔剣が放つ青白い光に満ちている。


何千もの魔族の戦士たちが涙を流しながら、叫んでいる。そんな中、記憶の中の俺は微動だにせず壁の上を見つめていた。


俺の唯一の主君であり……友でもある………魔王・ギルバート・ジェーミソンが、俺の方を見て何かを囁いた。


「………カイ………後は…………頼む」


そして、ゆっくりとギルは後ろに倒れた。


それを見た、戦士たちは慟哭しながら泣き崩れ、リサたちはすぐにギルに駆け寄った。けど、俺はその場を動けなかった。


(ギル…少しだけ、お前の事を恨んだよ。俺の事を誰よりも理解してくれてるお前なら、俺の気持ちを分かってくれていただろうに)


後を追いたかった………いつまでも、お前の傍にいたかった。でも、主君の最後の頼みを叶えるまで、俺は死ぬ訳にはいかないじゃないか。


将軍として……お前の国を守ろうと思った。けど………


カイは頭を押さえながら、小さな声で囁いた。


「……レン」


「そうだ……俺は、レンだ。そしてお前は…」


「そう。俺の名は………カイ・リョウザンだ。そして……俺は」


「カイ!!」


そこにラグナ―血相を変えて走ってきた。そして地面に膝をついているカイの耳元で、カイにしか聞こえないような小さな声で囁いた。


「カイ、逃げるのじゃ」


「……ラグナ―様?」


「メリルから話は聞いた。魔国はここに魔王がいると勘違いしておるという事をな。だから、軍を出したのだ。だが、真実を知った魔国がどういった行動をとるのか分からん。今のワシらに、魔国と闘う力はない。ワシが何とかしよう……良いな?特に魔王を名乗っていたお前は、特に危ない。ここは、ワシにまかせて早く逃げるのだ」


ラグナ―様はそういうとその紫色のローブを翻し、砦の門の方へと走って行った。


それをカイとレンはじっと見つめ


「…………どうするんだ?」


それを聞き。カイは、ゆっくりと立ち上がった。


「ハハハハ。そうだね、行かなくちゃね。………ところでさ、レン……その……リサ……怒ってる?」


「…………自分で確認しろ」


その反応から、怒ってるんだろうな~~っと直感したカイ。


(……そうか…これは、最高記録更新かな?)


ほんの少しだけ、帰りたくないな~~っとカイは思った。




============   ============



「…はぁ…はぁ…」


ラグナーはチャングル山を急いで下りて行った。昔ならば、この程度の急斜面は何でもなかったはずだが、年老いた今となってはすでに息が上がってしまっている。


それでも何とかチャングル山を下り、砂漠を東へと進んでいった。


小高い砂丘を登ると、何万という魔国の軍勢がチャングル山へと進軍しているのが見えた。そこかしこに、黒地に銀の流星がかかれている魔国の旗がたなびいている。


ラグナ―はぐっと拳を握りしめ、砂丘を急ぎ下りて行った。


魔国の軍勢はずっと進軍していたが、砂漠に一人立つラグナ―に気付き少し離れた所で停止する。


ラグナーは魔国の軍勢の正面で待ち、そして大声で叫んだ。


「ワシはギガン族の神官を務めている、ラグナ―・プリ―ストという者じゃ!!魔王の事について、伝えねばならぬ事がある!!この軍の指揮官と話がしたい!!」


それからしばらく、魔国の軍勢で何やら動きがあり。その軍勢の中から、銀髪の長髪をした、魔人族らしき女性を先頭に騎馬隊がドドドドドドっと地響きを上げながら自分の方へと向かってきた。


その騎馬隊にいる者たちはみな見事な鎧を纏っており、将軍級の地位である事が想像できた。


そして、先頭の銀髪の女性が話しかけてきた。


「……私は魔国・第1将軍・リサ・ジェーミソンという者です。こちらに我らが魔王陛下がおられるという聞き、参上いたしました。ご安心下さい…ギガン族の皆さま方に敵意はありません」


それを聞いたラグナーは、バッと紫色のローブを翻したまま、砂漠に手をつき土下座をした。


「我らを…我らを助けてくれた事には感謝する!!だが、すまぬ!!ここに、魔王はおらんのじゃ!!騙しておいて、許してくれというのも虫がいい話かもしれぬ!!だが、頼む!!チャングル山に住む他の者たちは、この事を本当に知らぬのだ!!すべてはワシの責任なのじゃ!!どうか…どうか…ワシの命一つで…」


ラグナーが叫び声を上げている途中で、ガチャガチャガチャ……と何か金属がこすれるような音がした。不審に思ったラグナーが、少し頭を上げて様子を見てみる。


するとそこには、魔国の将軍達が砂漠に片膝をつき、頭を垂れている姿があった。


ラグナ―はどういう事なのか分からず、軽いパニックに陥った。


そんな中、先頭の銀髪の女性が……


「お迎えに上がりました…陛下」


と言った。それを聞いたラグナ―は完璧に訳が分からなくなった。そんなラグナ―の後ろから、知っている声音が聞こえてきた。


「うん…ありがとうね、リサ。心配させちゃったかな?」


「それはもう……陛下には言いたい事が山程ありますが、今はそのご無事を何より嬉しく思います」


「……ごめんね。それで、早速で悪いけどギガン族のみんなに食糧を持っていって欲しいんだけど……けど、あの山に入る事は俺が禁ずる。あそこはギガン族にとっての聖地だからね。その手前まで、運んでくれないか?」


「分かりました。すぐに準備いたしましょう」


リサは、すぐに伝令にカイが言った事を伝えた。兵糧の部隊が急がしく、兵糧を準備し始めているのが分かった。


「そういえば…バリスタンは?」


「はい。バリスタン将軍は、サンサ隊長と共に逃げた盗賊共の殲滅にあたっております。何やら盗賊どもは統率がとれておらず、ほとんどの者は簡単に討ち取れたのですが。逃げた者も多数おりましたので……」


ラグナ―はその様子を地面に座りながら、ポカーンと見つめていた。


カイはそんなラグナ―様の手を握り、ゆっくりと立たせた。そして……


「ラグナ―様、改めて自己紹介をさせていただきます。俺の名は、魔国…第2代魔王…カイ・リョウザンです。記憶のない間、本当にありがとうございました。………あなたは見事に、神託をお受けになりましたよ」


しばらくラグナ―様は呆然としていたが、やっとその意味を理解した。


「………おお……ギガンの神よ」


ラグナ―様は涙を流しながら、地面へと崩れ落ちた。そして、まるで子供のように泣きじゃくっている。


カイはラグナ―様の横でずっと、そんな様子を見守っていた。すると、そんな時チャングル山の方からメリルが驚きながら、走ってきた。


「お、おい、カイ!!」


と珍しく驚いた表情をしている。


「やぁ、メリル。実は俺は……」


カイがメリルに衝撃の事実を告げようとした時、メリルの大声がそれを完全に遮った。


「カイ、お前~~~!!演技うまくなったな!!」


そういうメリルに対して、カイは苦笑するしかなかった。

誤字・脱字ありましたら。感想ぜひ下さい。励みになります。いただいた感想はすこしづつ返していきたいとおもいます

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