真の意
え~~スギ花粉です。前に二つはいずれ削除したいと思います。ではどうぞ~~
「……ここは?」
気付くと、カイはベッドで寝ていた。何となく以前も同じような事があった気がする。
そして、ゆっくりと起き上がる。その時…ズキズキと足が痛んだ。
周りは岩肌がむき出しになっており、家具の少ない部屋だった。ここは見覚えがあった……そう、メリルの部屋だ。
そして目の前では、一人のギガン族の女性が背を向けて、何やら作業していた。
「あの……」
カイは話しかけてみた。それを聞き、パッと振り返る。カイが起き上がっているのを見て、微笑んでくれた。
「ああ……意識が戻ったのね?よかったわ」
「………あなたは?」
「私はエミュアというの。あなたの看病をしていたのよ。覚えてる?魔王様はオガン族長を背負って、ここにたどり着くと同時に倒れたのよ?」
エミュアさんは自分の額に手を当ててくれる。そんなエミュアに対してカイは、俯きながら言った。
「…………ごめんなさい」
「なぜ謝るの?」
「自分は……オガン族長を助けられませんでした」
エミュアさんはそれを聞いてしばらく沈黙していたが、ため息と共に言った。
「…………あなたのせいじゃないわ。男ってのはね?かっこつけたがりな生き物なのよ。普段は情けないくせに、いざって時になったら無茶ばかりして。…………残されて泣くのは女ばかりじゃない」
カイはそれを黙って聞いていた。この人がオガン族長とどういった関係なのかは分からないが、その声から悲しさが伝わってきたのだ。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。だが、それは長くは続かなかった。
バン!!っといきなり扉が開き、茶色のローブを着たカシム族長と何人かのギガン族の若者が入ってきた。
そして、カイが起き上がっているのをみて、入ってきた者達が一瞬動きを止めた。少し怯えた表情をみせる。
「???」
カイはそんな者たちを不思議そうに見、それとは対照的にエミュアさんはあっという間に冷たい表情になった。
「あら……カシム族長じゃない。寝ていなくていいの?お体は大丈夫なのかしら?」
エミュアさんは少し、感情を押し殺しているようだ。一言一言に何やら刺がある。
だが、そんなエミュアさんの言葉にまったく反応せずに、カシム族長は話しかけた。
「……エミュアよ。魔王が気がついたのだから、この事をラグナ―様に知らせてくるのだ」
それを聞いたエミュアさんは、明らかに不機嫌になった。
「はぁ?あんたが行けばいいじゃない?………どうせ暇なんでしょ?」
「いいから、行くのだ!!」
何なのよっといいながら、カシム族長の足を思いっきり踏みつけて、フン!!っと鼻をならしながらエミュアさんは出て行った。
カシム族長はピョンピョンっと痛そうに飛び跳ねている。
「ふむ……我に何か用かな?カシム族長よ」
カイは今まで忘れていたが、魔王としての演技を再開した。部屋にはカシム族長を除けば、ギガン族の若者が十二、三人が残っている。その全員が何やら怯えた表情をしながら、自分を見つづけている
カシム族長は少し逡巡していたようだが、懐から一枚の紙を取り出した。
「………魔王よ。これを読んでいただきたい」
カシム族長は、それを手渡してきた。何の事か分からずに受け取り、そこに書かれている事を読んでみるカイ。
しばらく、じっとそれを読み、カシム族長を見る。
カシム族長は、ばっと頭を下げてきた。その意味をカイはしっかりと理解し、
「………………よかろう」
っとだけ、カイは言葉を漏らした。
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今、チャングル山の砦を紫色のローブを着た一人のギガン族の老人が、厳しい顔をして歩いていた。
(急がなくては…オガン達が稼いでくれた、この時間を無駄にする訳にはいかぬ。後…後少しのはずなのだ)
10日前、オガン・クライダス・ケヴァンが、たった3人で盗賊共に奇襲をかけた。
ワシが気付くべきじゃった。オガンの性格を誰よりも理解しているのはずではなかったのか。
抜け道の事で頭がいっぱいになっていて、そこまで頭が回らなかったのだ。
カイがオガンの亡骸をここまで運んでくれていた。オガンの死を知ったチャングル山中が、悲しみに包まれた。
ケヴァンとクライダスの亡骸はおそらくそのままだろう。家族の気持ちを考えると、胸が締め付けられる。
そしてその翌日から盗賊共の襲撃が止んでいた。もしや逃げたのかと思い斥候を出してみたが、今だに野営地にはいるという事だ。
主だった者の多くを失い、纏まりがつかなくなっているのだけなのだろう。
もう、食糧は3日前に底をついていた。戦士達は少ない食糧を子供達に分け与え、皆がチャングル山でぐったりしている。
もう………限界が近いことが誰にも明らかだった。希望はあの抜け道しかないのだ。
オガンは神官見習い達が掘っている抜け道の様子をみようと、チャングル山内に入ろうとして
「………何じゃ?」
ずっと先の方で何やら揉めているような騒ぎの気配を感じた
(??喧嘩………か?だが、戦士たちも空腹でチャングル山の中でぐったりしているはず…どういう事じゃ)
ラグナーはその騒ぎの場へと急いだ。
そして、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「カイ兄をどこに連れてくつもりだ!!」「そうだ!!」「カイ兄を放してよ!!」「魔王様が何をしたってんだ!!」
その小さな手に武器をもって、子供達が集まって騒ぎ立てていた。
「子供達!!いい加減にしなさい!!そこをどくのだ!!」
カシムが、12、13人のギガン族の若者を従え、子供達と向き合っている。
そして………そして、カシムの真後ろには、体に鎖を巻きつけられたカイが居た。
「な、何をしているのじゃ!!」
ラグナーは、急ぎ走った。自分の声を聞いたカシム達が振り返る。自分を見たカシム達は、しまったというような表情をした。
「あ!!ラグナ―様!!」「た、助けて!!カシム族長がカイ兄を、どこかに連れてこうとしてるんだ!!」「カイ兄を助けてよ!!」
子供たちは泣きじゃくりながら、叫んでいる。
「こ、これは、いったいどういう事じゃ!!カシム!!説明するのじゃ!!」
凄まじい剣幕で、カシム達に迫るラグナ―。カシム族長は、しばらく黙っていたが……
「……ラグナ―様、お喜び下さい。我らは見事、審判の日を乗り切ったのですよ」
「何じゃと?」
カシムの言っている事の意味がまったく分からないラグナ―。そんなラグナ―を余所にカシム族長は喋り続けた
「戦士たちは決死の思いで闘い続け、盗賊の猛攻にも耐え抜きました。そして、オガン族長を始めとする尊い犠牲の結果、盗賊共はついに我らに屈したのですよ」
「………はぁ?」
ラグナーは素っ頓狂な声を出してしまった。
(盗賊共がワシらに屈した?いったいどういう事じゃ?)
カシムは懐から一枚の紙を取り出し、自分の方へと差し出してきた。それにすぐに目を通して見る。だが、そこには驚くべき内容がかかれていた。
ラグナ―はあまりの事に声にすることが出来なかった。そんなラグナ―の様子に気付いているのか、いないのか、カシム族長は流暢に話し続けている。
「……数日前、盗賊共がこのチャングル山に一本の矢文を撃ち込んできました。そこには、ある条件を呑めば、もうこのチャングル山を襲撃しないという内容が書かれていました。一つ目の条件は月々、ある一定の財宝を盗賊共へと提供する事。そして……………自分達の仲間を大量に殺した、黒髪の人間族を引き渡す事」
クシャっとその紙をラグナ―は握りつぶした。あまりの怒りに体が震えるのが分かった。
「……お、お前達は、ワシらのために命を賭して闘ってくれた者を、敵に差し出すというのか!!」
ラグナ―の心の叫びを聞いた何人かの若者が恥ずかしそうに俯いた。そう、何人かはまだそれを恥じるだけのものを持っている。
「こんなものを本当に信じておるのか!!盗賊共は、カイを恐れているから、差し出せといっているに決まっているであろうが!!それに……それに財宝など、どこにあるというのじゃ!!」
それを聞いたカシム族長は……こう言った。
「………メリルがいれば…」
その言葉にラグナ―は完全にキレた。
「このたわけ者が!!カイを盗賊に差し出しておいて、メリルが我らのために働いてくれるとでも本当に思っているのか!!」
「………………あの娘は、我らを見捨てたりはしません。やさしい娘ですから」
「き、貴様という奴は……」
だが、そこでカシム族長は声を張り上げる。
「ラグナ―様!!勘違いなされては困ります!!神官はあくまでご意見番……すべてを決定する権限は私達族長にあるのです。そして今、6人の族長は死に、3人は重傷です。私が決めねばならないのですよ。そう!!これぞ神託の真の意!!今、この絶望的な状況で魔王がこの場にいることこそ、神が我らに救いの道を示しているという事なのです!!さぁ…子供達そこをどきなさい!!」
今度は子供達が、また騒ぎ立てる。
「カシム族長の馬鹿!!」「そうだ!!カイ兄は闘ってくれたじゃないか!!」「オガン族長を連れて帰ってくれたもん!!」「カイ兄を助けるために魔国は絶対来てくれるんだ!!」
わぁぁぁぁぁ!!わぁぁぁぁぁ!!っと叫ぶ子供達をラグナ―は誇りに思った。そして、キッとカシム族長をはじめとする者たちを睨みつける。
「……見なさい。こんな年端もいかない子供達ですら、こんなにも誇り高いのだぞ!!恥を知れ!!カイよ…なぜ黙っておるのだ!!」
すると、ずっと黙っていたカイが口を開いた。
「良いのだ……我も納得しているのだからな」
「な、何じゃと?」
あまりの事に驚くラグナーに、カイは淡々と告げる。
「………我はギガン族を救うと申した。だが、今になっても魔国は来ぬ。我が伝言を頼んだ者に何かあったのかもしれぬ。…………だが!!我は魔王なり!!約束は必ず守る!!子供達………そこをどくのだ!!」
「カ、カイ…お前は」
「そう……我の名はカイ・リョウザン!!魔国を統べる魔王だ!!カシム族長よ…さぁ…行こうではないか!!我がギガン族を救って見せよう!!」
(お、お前は……我らのために、魔王を演じきろうというのか)
何という事だ。このチャングル山に連れてこられたばかりの、ギガン族でもない……人間族の若者が、我らのために命を投げ出すという。
そう……逃げる事もできたのだ。だが、カイは最後の最後まで我らのために闘い、そして裏切られてもなお我らのために……
フラッとラグナ―は体を揺らしながら、カシム族長達の前に立った。
「……ラグナ―様。族長の決定は絶対です。邪魔をするというのなら……ラグナ―様とて無事では済みませんよ?」
ざっと、カシム族長の後ろにいた一際大きなギガン族二人が前に出た。だが、ラグナーはスッと体を沈みこませたかと思うと掌を二人の顎に下から突き上げた。
「ぐ!!」「ぎゃ!!」
その巨体がふわっと空中にうき、バタバタっと地面に倒れ込む二人。それをカシム族長達は驚いた表情で見つめる。
ラグナ―からは凄まじい殺気が放たれる。その圧力におされ、みなが一歩下がった。
「………ほっほっほっほ。ワシも歳をとったものじゃ……若い者たちはワシの事をただの好々爺だと思っておるのであろうな?さぁ……来なさい。その腐った性根を叩き直してくれる!!カイを連れていくのいうのなら、ワシの屍を超えてゆくがいい!!」
ラグナ―はざっと流水のような構えをとった。
カシム族長達は突然の事に、二の足を踏んでいる。ラグナーが跳躍しようとしたその時………
「て、敵襲ーーーーーーーーーーー!!」
カンカンカンカンカンカン!!っと見張り台から襲撃を知らせる鐘がチャングル山中に響き渡った。
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