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王たちの宴  作者: スギ花粉
124/200

死んでも 盗賊王編

え~~スギ花粉です。楽しんでいただけたら幸いです。ではどうぞ~~

「な、なぁ……どう思う?」


「何がだよ」


今、魔王城の城門の見張りの兵士たちが会話を繰り広げている。だが、これは魔国中の者たちが話している会話でもあった。


「……カイ様が異世界に帰ってしまったって話だよ」


「そ、そんな訳あるか!!あの方が俺たちを見捨てて、帰るなどありえない!!」


ギルバート様と一番親しかったのもカイ様だ。


城を抜け出すために、自分達を買収しようとするギルバート様を横で諌めてくれてたのもカイ様だ。


そして………あの時、神聖帝国との‘壁’での大攻防の活躍を自分はこの目で見たのだ。


自分たち魔族のために命を懸けて闘ってくれたあの姿を。


そんなカイ様がいなくなるなんて信じられるものか。


「で、でもよ……噂では確かにカイ様は行方不明って話だ。……もしかしたら、レイスに……」


「馬鹿な事をいうな!!」「そうだ!!あの方が簡単に死ぬか!!」


そう怒鳴り散らすもの達も、考えていない訳ではない……もしかしたら…と


みな不安で仕方がないのだ………魔王という存在はそれほどまでに、魔国には必要なのだ。


そこに、ザっザッザッザッザっと暗闇から足を引きずりながら歩いていくる何者かの気配を感じた


それに気付き、ジャキン・ジャキン・ジャキンっと槍を構える兵士たち。


「何者だ!!ここは魔王城だ!!止まれ!!」


「………を。……を」


近づいてくるその姿が篝火で、少しずつ鮮明になりはじめる。


その不審者は黒い長髪を後ろ縛り、腰にナイフのようなものを持っている。


しかも、白いローブを着た人間族の女だった。いや……そのローブは確かに白かったのだろうが、今や返り血で真っ赤になっている。


「止まれといっているのが聞こえんのか!!」


隊長が一歩前に出て叫ぶが……その人物はまったく止まらなかった。そして……


「赤鬼を出せって言ってるんだ!!」


その人物は隊長をいきなり殴り倒した。


「た、隊長!!」「この!!」「死ね!!」


残った兵士たちが槍で突き殺そうとした。だが、その人物はぱっと高く飛ぶと、器用に空中で縄を投げ城門をあっという間に乗り越えてしまう。


「な、何だあれは!!」「し、侵入者だ!!」「賊が侵入したぞ!!」


ぴ~~~~ぴ~~~~っと侵入者を示す呼び笛が響き渡った。






============== 執務室  ===============




「では…陛下はご無事なのですね?」


「……ああ」


今、魔王の執務室には二人の姿がある。


一人はきれいな銀の長髪をし、剣を腰に吊るしている。初代魔王の妹であり、魔国第一将軍…リサ・ジェーミソン。


もう一人は、深紅の髪をし、顔の半分をマスクで隠している。そして腕を組んで壁に寄り掛かっている。伝説とまで言われている傭兵…赤き狼……レンである。


「……ああ…本当によかった」


リサはレンから、カイの無事を聞いた瞬間……自分の中で何かが決壊してしまう。両手を顔にあて涙を流している。


そこからは、カイの事を本当に心配していたであろう事がすぐに分かった。


レンが賊と闘った日…なぜかは知らないがカイが一緒にいた。それを話すと、実はカイが行方不明になっているという事実を聞かされた。


すぐに南にいるリサに早馬を走らせ、今に至るのだ。魔王城に侵入されたという事もあり、闇の軍も少し戻ってきているようだ。


泣いていたリサも、しばらくして少し落ちつきを取り戻した。


「……申し訳ありません。少し…取り乱しました」


「………いや」


「それで……いったいどういう事でしょうか。陛下はなぜ賊と行動を共に?」


「……それは俺には分からない。ただ、無理やりという感じでは……」


だがその時……ぴ~~ぴ~~っと警戒笛が魔王城に響き渡った。


ドンドンドン!!っと扉が叩かれ、血相を変えた兵士が入ってくる


「た、大変です!!」


「何事ですか!!」


「も、申し訳ありません!!賊の侵入を許してしまいました!!その賊は赤鬼を出せっと騒ぎながら、突き進んできております!!」


その報告を聞いたレンが………


「……そいつだ。カイと一緒にいた賊に間違いない」


「な、何ですって!!そ、その賊は今どこに!!」


リサは兵士に詰め寄っている。


「は!!今、マリア隊長率いる闇の軍と交戦中です!!」




==========  中庭 ==================




「焦るんやない!!確実に仕留めるんや!!」


「「「は!!」」」


マリアの命令で3人一組となった、3つの集団がその人物を取り囲んでいる。


「……はぁ……はぁ……赤鬼を出せーーー!!」


そう叫けんだ瞬間を見計らい、3つの集団が時間差をつけて襲いかかる。


みな短い剣をもって、賊の急所を狙う


「!!!」


キン!!キン!!キン!!…………闇夜に鋼同士の火花が散る。


だが、その賊は自分たちの猛攻を凌ぎきっている。それどころか、すでに10名ほど気絶させられているのだ。


相当の使い手だ。その半月刀がきらりっと光っている。


「く!三方の陣!!」


ざっとその言葉と共に、その賊を中心に3角形の陣を敷く。そして……


「一槍!!放て!!」


その言葉と共に、30センチ程の槍が3本……3方向から一斉に放たれる。


「く!!」


それを半月刀で払い、またはしゃがんで避けている。だが、それで終わりではなかった。


「二槍!!三槍!!四槍!!五槍!!……」


間隙なく槍を投げつける。一人が槍を投げる間に、もう一人が槍を構え、もう一人が準備する。


ズシュ!!ズシュ!!っと何本かの槍が賊の体に刺さり、血しぶきがあがる。


「ぐ~~~~!!うりゃ!!」


だが、それでも賊は止まらなかった。そのまま三角形の一角の部下との間合いをあっという間につめ、3人が倒されてしまう。


「…はぁ…はぁ…うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


さらにブワっとその体から闇の魔力がこぼれだし始める。


それを見てぐっと唸るマリア。何て強さ……魔王さんにも匹敵するかもしれへん


(せやけど………………せやけど!!……………うちは!!)





~~~~~~~~~~~   ~~~~~~~~~~~~~~




「うりゃぁぁぁぁ!!」「せりゃーーー!!」


と鍛錬場に二人の気合いのこもった叫び声が響く。剣を持ち、二人がかりでカイに打ちかかっている。


だが、クルクルクルっと棒を振り回して簡単に防がれてしまっている。


しばらく、そんな鍛錬が続き………


「よし!!やめ!!」


そのカイの言葉と共に鍛錬場に倒れ込むマリアとシルヴィア。地面にへばりついている。


「うん!!二人ともよく頑張ったね!!」


カイは少しも息が乱れていない。やっぱりこの人は桁が違うとマリアは思う。


1時間あまり休憩して……やっと普段通りの調子を取り戻す事ができた。


「なぁ~~カイ将軍~~。お昼奢って~な~」「マ、マリア!!」


シルヴィアはあまりの事に驚いて止めにはいる。だが、カイは……


「う~~ん…お昼か~~。うん!!いいぞ!!街にでも食べに行くか……」


と言った。まさか本当に、奢ってくれるとは思わなかったマリアである。


「え?ホンマ?よっしゃ!!言ってみるもんや!!」「そんな!!カ、カイ将軍に御馳走になる訳には!!」


カイのその言葉を聞いた、マリアとシルヴィアは対照的な態度をとる。


「まぁ……俺としても初めての部下だしね。ご飯を奢るくらい何でもないさ…………あ~~~マリア今日の夜ならいつでもいいからさ?執務室に来てくれるかな?……一人で」


それを聞いたマリアは……………


「え~~~!!夜に執務室に一人で来いなんて……カイ将軍?…結構すけべ~やな~~」


とマリアがバシバシっとカイの肩をたたき、


「カ、カイ将軍とマリアが…」


隣のシルヴィアは疑わしげな目でカイを見る。その頬は少し赤くなっている。


「ち、違う!!シルヴィア!!そんな目で見ないでくれ、傷つくから!!マリア~~!!」


「アハハハハハ…冗談やて。カイ将軍がそんな事するはずないやん。ほな…何の用なん?」


と聞くマリアに対して……


「……いいから…夜、執務室に来るんだ。分かったね?」


「は~~~い」




~~~~~~~~~~~~  夜  ~~~~~~~~~~~~~~



コンコンっと扉を叩く


「カイ将軍~~。来たで~~」


「ああ…入ってくれ」


マリアは扉を開けて、執務室に入る。


「それで何の用なん?」


「………」


だが、カイは黙ったままマリアに何らかの袋を差し出す。


「???カイ将軍?これ…何や?」


「いいから、受け取れ」


それを開けてみてみると……………大量の金貨が入っていた。


「………え?え?」


どういう事なのか、まったく分からずカイと金貨の入った袋を交互に見てしまうマリア。


そんなマリアをカイはじっと見つめ……


「……マリア。なぜ、黙っていた?両親が病気だってことを………」


ピクッとその獣耳がかすかに動いた。


「治らない病じゃないんだろ?お金があれば、確実に治る病と聞く。まったく……自分の食事代まで削って…毎日ふらふらじゃないか」


「………」


それを聞いたマリアは、しばらく黙っていたが………


「……ぉ」


「うん?」


「……お、大きなお世話や!!こんなもん、いらへん!!…こんなものもらわんでも、うちの親の事や!!うち一人でなんとかするんや!!」


っとその袋をカイに突き返そうとする………だが…


「マリア!!」


その時、執務室にカイの本気の怒号が響き渡った。びくっと委縮してしまうマリア。


(……………カイ将軍のこ、こんな怒った顔初めてや)


自分にとってカイ将軍は、いつもやさしくて、からかいがいがあって、おもしろい将軍だった。


訓練でも怒鳴る事なんて本当になかった。だから、ひどく驚いてしまう。


「……マリア!!よく聞け!!…誇り高く生きる事を否定する気はない。だが……はきちがえるな!!


 プライドには2種類ある。一つは絶対に曲げてはならないプライドだ。


 それは……自分が自分でいるためのものとして、死んでも曲げてはならないものだ!!


 そして、もう一つは……曲げなくてはならないプライドだ!!


 つまらない意地を張るな!!何が本当に大切かよく考えろ!!



 ――――――――――マリア……お前は俺の部下だ。もっと頼れ



 ――――――――いつでも俺はお前の味方だ。


 それが自分の信念に反するならそれでも構わない……何年かかってもいいから、返せばいい。


 だから……それは絶対に受け取ってもらう。これは命令だ。いいな?」




カイ将軍は……自分に様々な事を教えてくれた。やさしくもあり…そして厳しくもあった


うちはそんなカイ将軍が大好きで……そんなカイ将軍やからこそ忠誠を誓ったんや。


ギルバート様が死んだ時……自分はカイ将軍を近くで見ていた。


一番辛いはずやのに……自分たちを守ってくれた。そして……今も魔王として自分たちを導いてくれている。


せやから………せやから………………うちは!!




==============      =====================




「どけーーーー!!」


賊が半月刀を構えて、突進してくる。それをひたっと見据えるマリア。そして……


「どくわけ行くかい!!………こっから先には、死んでも行かせへん!!ここは、うちの大切な人が帰る場所なんや!!絶対に……行かせへん!!」


マリアは短い剣を構えて、賊の前に立ちふさがる。


賊はかなりの強さだ……自分では勝てない事など分かってる……だからなんや!!


「魔王さんは…うちらのために命を懸けて闘ってくれた!!そのうちらが命を懸けんでどないする!!これは命令や!!うちが一瞬でも動きを止めたる!!…その隙に…うちごと殺り!!」


マリアはそう叫ぶと同時に短い剣を握りしめ、さらに絞り出すように体中の炎の魔力を精いっぱい込め、賊に特攻をかけた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


守る事は捨てた。攻撃のみに集中する。キンっと自分の剣が思い切り弾かれた。だが、マリアはそれに臆することなく賊にしがみついた。


「今や!!うちごと殺り!!」


それを聞き、闇の軍の者たちが槍を構え、マリアごとその賊を射殺そうとした…だが。


「待ちなさい!!その者を殺してはなりません!!」


誰かの大声がそれを遮った。そして、その声を聞くと同時に…ゴン!!……自分の後頭部が何か固いもので叩かれたのを感じた。


「ぐ!!」


意識が朦朧としていく中……マリアはガシっと賊の足をつかんだ。


(…い…かせへん……死んでも……行かせへん)


そのまま……マリアの意識は完全に闇に落ちた。




============== リサ =============



「待ちなさい!!その者を殺してはなりません!!」


リサがそう叫んだ時、闇の軍は今にも槍を投げようとしている所だった。


それと同時にその賊は、マリアの後頭部を半月刀の柄で叩いた。ずるずるっと地面に崩れ落ちてしまう。だが、マリアはその賊の足をしっかりと握りしめている


リサは周りを確認する。そこら中に闇の軍の者が倒れているが、みな気絶しているだけのようだ。いったいどういう事なのか。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


黒い長髪を振り乱し、体中から血を流しながらその賊は息を整えている。


ジャリンっとその長剣を抜き放ちながら相対するリサ。


「…私は、魔国第1将軍・リサ・ジェーミソン!!貴様には聞きたい事が山ほどあります……武器を捨て投降しなさい!!」


闇の軍が時間を稼いでくれたおかげで、厳戒態勢を敷くことができた。何者であろうと決してこの城から逃がさない。


バババババっと弓を構えた兵士と、魔法撃部隊が勢ぞろいし今にも攻撃できるように態勢を整える


だが、その賊は自分の後ろの方をじっと見つめている。そして………


「赤鬼ーーーーーー!!」


と叫んだ。


「……………何だ?」


かなり不機嫌なレン様の声音が後ろから聞こえてきた。この方には珍しくかなり感情的になっているようだ。


いきなりだった……………ポイっとその賊は半月刀を放り投げ、丸腰になる。


「???」


(………武器を捨てた?いったい何をする気な)


そんな事をリサが考えた時、その賊は両手を地につけ……ドン!!っと地面に頭を叩きつけた


「…はぁ…はぁ…頼む!!みんなを……カイを!!助けてやってくれ!!」


悲痛ともいえるその叫び声が、魔王城の中庭に響き渡った

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