すべて
え~~スギ花粉です。楽しんでいただけてるでしょうか?ではどうぞ~~
ドジャー―ン!!ドジャー―ン!!
銅鑼が打たれ始めた……それを合図に雄たけびをあげながら盗賊共が攻め寄せてくる。
まず…矢が降ってきた。だが、石積みの前まで届く矢に威力はなく、地面に突き刺さる
銅鑼が激しくなると、盗賊がチャングル山を這い登ってくる
「「「わぁぁぁぁぁぁぁ」」」
ヒュンヒュンヒュンヒュン……ギガン族の戦士たちがパラパラっと矢を放つ。
「が!!」「ぐ!!」「ぎゃ!!」
と何人もの盗賊が倒れるが、微々たるものだ。
先鋒は、慎重に盾を構えて石積みを超えてくる。方々で石が3つ、4つと落ちた。
「来たぞ!!」「ここで押し返せ!!」「……怪我をしたものは後ろに!!」
それを族長たち率いるギガン族の戦士達が迎え撃つ。
「ぎゃははは!!」「どけ!!こら!!」「ぶっ殺すぞ!!」
そこはあっという間に大乱闘になった
キン!!キン!!キン!!
鋼がぶつかりあう音が響き、雄たけびが轟く。そこかしこで殺し合いがおきる。さすがは盗賊だ。荒れくれ者も多く、戦士達にも決して劣っていない。
「はぁぁぁぁぁ!!」
オガンはシュン!!っと盗賊共が固まっている所に踊り込み、自らの拳を次々と叩き込んでいる。
「が!!」「ぎゃ!!」「ば、化け物!!」
ブワっと何人もの盗賊がまるで、紙切れのように宙を舞う
グワっと唸りを上げた右腕が、人間の頭を鷲掴みにし……グシャ!!っと軽々握りつぶす。
プシャ――!!鮮血がとび散り、ドサっと頭が潰れた盗賊が倒れる。
さらに、一人の盗賊に蹴りをみまい、その体を軽々片手で持ち上げると、敵の中に放り投げた。一斉に敵が崩れる。
「……今だ!!引けーーーー!!」
オガンは片手を上げて、合図を送った。
さらに一番上の石積みを超えてくる人数が多くなってきた。
オガンは走り、4、5人を一気に打ち倒した。
さらに打ちかかってきたゴブリンの戟を奪い、振り回しながら走った。
石積みがなかなか崩れない。何人もの戦士たちが、真っ赤な顔で紐を引っ張っているのがちらりと見えた。
オガンは盗賊の間をめまぐるしく駆けまわった。血が飛んでいる。オガンが右手を一閃すると、魔族・人間族を問わず、その首が軽々宙を舞う。
その時……不意に地響きが起き、土煙が上がった。下がどうなっているのか…土煙がひどくて見極められない。
ただ…石積みは崩れた。敵の押してくる力が弱くなるのがはっきりと感じられた。
新たに上の石積みを超えようとしてくるものはいない。
オガンは他の戦士たちと共に、残った盗賊共を皆殺しにした。追いつめられた盗賊共は、死にもの狂いで戦うものもいれば、恐怖に襲われたのか崖から落ちていくものもいた。
土煙がおさまり、下の様子が見て取れるようになった。一番下の石積みがきれいになくなり、そこは崖の縁のようになっていた。崩れた石はずっと下の方で、相当の盗賊共を巻き込んだようだ。
麓の敵の混乱は大きく、ドジャーン!!ドジャーン!!っと撤退の銅鑼が鳴り響く。
盗賊共は、バクーダに乗り砂漠の彼方に土煙を上げて消えていった。
奴らはかなり離れた所に軍営を築いており、攻撃する時はバクーダに乗って攻め寄せてくる。
包囲しないのは逃げ道でも用意しているつもりなのか……愚かな、我らをただで逃がすはずがないではないか
一人残らず皆殺しにして、すべてを奪う気なのだ。
去っていく盗賊達をオガンはしっかりと確認し、指示を飛ばす。
「…はぁ…はぁ…負傷者を急ぎチャングル山へ運ぶのだ!!油断するなよ!!今日の襲撃がこれだけとは限らないのだからな!!」
「「「は!!」」」
オガンはそのまま砦を歩きまわり、みなの様子を見て回る。そんな自分の所に西地区で戦っていた戦士が報告に現れる
「オガン族長!!」
「……悪い知らせか?」
その戦士の顔が少し曇っている。
「……はい……ハインツ族長が」
「………そうか」
盗賊共の闘いが始まってすでに5日がたっていた。敵は、大小様々な盗賊団が集まり4万という数にまで膨れ上がっていた。
そしてどのような取り決めがなされているのかは分からないが、チャングル山を一斉に攻めるという事はしていない。
毎日、違う盗賊団が攻め寄せてくるのだ。じり貧になっていくのはこちらだ。
10人の族長のうち、すでに4人もの族長を失っていた。族長にはみなを守る責務がある。戦場では先頭にたち、闘うのだ。
今だに……何だかんだと言い訳をして戦場に出てこない愚か者もいるが。もともとあてにしてもいない。
族長程の腕のたつ者達でも次々に死んでいく。
「では、西地区は大丈夫だったのか?ハインツ族長なしではきつかっただろう」
「いえ……犠牲はさほど出てはおりません。ハインツ族長の代わりを見事に果たした者がいまして」
「誰だ?まさか…カシムの馬鹿ではあるまい?」
カシム族長を平気で馬鹿呼ばわりするオガンに苦笑する戦士。
「いえ……魔王です。魔王が戦士達の先頭に立ち、迫りくる盗賊共を蹴散らしておりました。まさに疾風怒涛の闘いぶりでした。さすがは魔王になるだけの事はあります」
「………そうか」
オガンは会議の間でカイと一度手合わせのようなものをした。
だから、分かる。カイは強い。あのときの私は殺さないまでも、肋骨の3、4本はへし折る気だったのだ。
盗賊共ごときに簡単に後れはとるまい。
「お前達も辛いと思うが、頑張ってくれ」
「いえ…魔国が来るまでどんな辛い事にも耐えて見せます!!」
「………」
それを聞き、オガン族長は黙ったまま西地区へと向かった。
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西地区でも傷だらけの戦士たちがたくさんいた。自分を見て立とうとするのを手で制す。
「よく踏ん張ってくれた」
「いえ…自分などは。魔王が我らを率いてくれました」
「そうか……それで魔王はどこにいる?」
「先ほど、あちらで子供達と一緒にいるのを見ました。まだ、近くにいると思います」
それを聞いたオガンが歩いていくと、子供達に囲まれたカイを見つける事ができた。
カイは不思議な魅力がある人間だ。チャングル山に来て日が浅いのに、子供達と打ち解けてしまっている。そして、他の種族に排他的なギガン族の大人たちも心を許している気配がある。
子供達はカイが魔王であると聞かされてから、しばらくは遠くから見ているだけだったが、今や普段通りになっている。
「カイ兄!!凄かったよ!!」「うんうん!!めっちゃ強い!!」「ねぇ!!異世界ってどんな所なの?」「魔王って美味しい物食べてるんでしょ?世界一美味しかったのは何?」
ワイワイっとカイを質問攻めする子供達
「う、うむ。異世界か?そ、そうだな~~我が居た世界は……何と言えばいいかな」
とカイはしどろもどろになっている。
「……カイ」
「あ!!オガン族長だ!!」「オガン様~~!!」
とオガン族長に気付いた子供達が群がってくる。だが、オガンは子供達を相手にせずカイに近づいていく。
「ふむ。我に何か用かな?ギガン族の族長よ」
「……少し話したい事がある。……二人きりでだ」
それを聞き、ゆっくりと立ち上がるカイ。
「……分かった。では子供達…我はオガン族長と話しあわねばならぬ事がある。」
「え~~!!」「まだ質問に答えてないよ!!」「早く帰ってきてね!!」
そんな子供達の声を背にしながら、二人はチャングル山をさらに登って行った。
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二人はチャングル山の一際高い所にある、修練場を訪れる。そこからは砂漠が一望でき、地平線の彼方まで砂で埋め尽くされている。
「ふむ……それで我に何の用かな?」
とカイがその不自然な口調のまま話しかけてくる。
「……カイ……私の前でそのような事をする必要はない」
それを聞いてカイは、しばらく黙っていたが……
「…はい。やはり気付かれていましたか…」
と普段の喋り方に戻るカイ。
オガンはドカっと修練場で胡坐をかき、ポンポンっと自分の隣に座るように手で合図する。
カイは自分と同じように隣で胡坐をかく。オガンは改めてカイを観察していみる。
やはり………かなり若い。人間族ではかなり珍しい黒髪、黒目であり、凛々しい顔立ちをしている。ただ見ているだけでは、どこにでもいそうな青年だ。
だが、私には分かる。この者の動き一つ一つに洗練された動きを感じる。今までは、ただメリルが連れてきた者という認識しかなかった。だが、改めて思う。この者は……いったい何者なのだろうか。
そこまで考え…今さらどうでもよいと思う事にした。
「私はラグナ―様とは長い付き合いなのだ……あの方の事は何となく分かるよ。
そして、あれからチャングル山を少し調べてみた……神官見習い達が抜け道を掘っているようだな?
まだ完成してはいないようだが、そこから子供達だけでも逃がすつもりだという事もとある者から聞いた。その時間稼ぎのために、お前は魔王を演じたという訳だ」
「………」
カイは黙ったまま俯いている。その反応で確信した。
(ラグナ―様……何という事を。神託を偽るなど………)
「……オガン族長…逃げて下さいませんか」
「………」
オガンはじっと目の前に広がる大砂漠を見つめている。
「ここが…ギガン族にとって大切な場所だという事は分かります。しかし、このままでは皆死んでしまいます。逃げるのではなく、一時的に退くとお考えください。そして、取り戻せば……」
カイは自分に熱心に語りかけてくれる。カイは本当にやさしい青年だ。我らの事についてここまで本気になってくれている。
さすがはメリルが認めた者だけの事はある。あの子は……純真そのものだ。何百年も生きる我らでさえ、時にハッとさせられる事がある
(………カイがいれば…安心であろう)
「……分かった。カイ…私も考えてみよう」
じっと前を見ていたオガンが、カイの方をみていう。
「本当ですか!!」
それを聞いたカイは嬉しそうな表情を見せる。
「ああ……私がみなを説得してみよう。新たな道を模索するのも良いかもしれぬ」
「ありがとうございます!!」
「うむ……カイ。私は少しここで精神統一をしていく。先に戻っていなさい」
「はい!!」
とカイは下へと去っていった。それをじっと見つめ、視界から消えるのを確認する。
そしてまた、前方に視線を戻す。
そして………一言。
「…………すべては………この時のために」
オガンのその呟きは砂漠に吹く風にのって、砂漠の彼方へと消えていった
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