ごめん、って謝れば許してもらえるレベルかな
前世でイジメを苦に自殺した。
そしたら、異世界に転生して勇者になった。で、お約束みたいに魔王を討伐しろって言われたんだけど、ぶっちゃけ鉄砲玉みたいに突撃かましても返り討ちにあうでしょ。だからさ、ダンジョンに篭ってレベル上げしまくったのよ。
それで俺最強ってなったんだよね。じゃ、とりあえず魔王でも倒しに行こうかとダンジョンを出たら驚くことに100年くらい経ってた。しかも既に魔王によって人間は俺以外全滅。俺一人じゃ人類再建不可能だし、だったら魔王に責任とってもらおうかと思って魔王城までやってきた。
途中、やたらと魔物とか魔族とかすげー攻撃してきたけど無傷だし、わりと簡単に魔王のところまで来れた。
「ってな訳で責任とってくれる?」
「いや、意味がわからん。だいたいオマエ勇者なんだろ、なんでこうなる前に倒しにこなかったんだ」
なんか魔王に正論で殴られた。
「だってしょうがないから。俺、転生者だし。ダンジョンの中が時間経過しないから、外も時間経過しないって普通に思うからね。だから俺、悪くない」
「あー…………。あれだ……。人間の事とかどうでもいいって思ってたが、少しだけ同情した」
残念。もう少し早くその気持ちに目覚めてたら、人間も全滅しなくて済んだかもな。
「ありがとう。じゃ、責任とって」
「だから、なんでそうなるんだ」
「だって、俺人間。最後の人間。同情するなら責任とって」
「…………。わかった」
魔王はそう答えた。そして俺は元の世界へと戻されることになった。
魔王曰く、平和な世の中に俺みたいに危険な人間は存在して欲しくないそうだ。
確かに人間の居ない世界では、魔物と魔族が手を取り合い平和に暮らしていた。それこそ、公園で遊ぶ魔物と魔族の子供たちや、それを微笑ましく見てる魔族の親。デートしてる魔族のカップルや、友達で買い物してる魔族たち。そんな彼らは俺を見て、悲鳴をあげ逃げだしたり、震えながら俺に向かって攻撃してきた。もちろん、いくら攻撃しても俺は無傷だ。
もう、この世界に人間の居場所なんてどこにも無い。それどころか、敵である人間を滅ぼした先にも平和はある、っていう事実の方が俺的にはこたえた。
だって、俺は勇者として世界を平和にしたようなものだろ。
とりあえず、死んだ人間たちには謝れば許してくれるかな。
「ごめん……って」
ふ……ふふふ………あははは。
いや、マジで笑える。
最高に爆笑ものだ。人間が全滅した? いいよ、最高だ。
それこそ、俺がこの世界に転生した瞬間から願ってたことだ。魔王がやらなければ、俺がこの手でやってたくらいだ。
この世界で俺を産んだ雌豚くらいは、この手で屠殺しておきたかったが、まあ家畜の屠殺など専門の業者に任せるものだし、このくらいなら許容範囲内だ。
ただ、あの雌豚のことは思い出してもムカつく。
客が興奮するからと俺を売春の道具に使ってた雌豚。酒代の代わりに数年で俺を奴隷として売り払いやがった。笑える話が、奴隷になってから食べたメシが、今までで一番美味しかったことだ。
その先々でも人間の醜さにまみれて過ごした俺には、人間に対して殺意しかもって無かった。
状況が変わったのは俺が勇者になった時だ。
王様とやらに呼び出され、魔王討伐を命令された。そこで俺は修行の大切さを説き、ダンジョンで修行することを認めさせた。もちろん、俺が逃げ出さないように監視役が数人いたが、俺は気にせずダンジョンの奥へ奥へと進んだ。その度に魔物たちは強くなり、俺も強くなった。
だが、他の人間は違った。
当然だろう。それが出来るならとっくにやってる。それが出来ないから、この世界の人間の強さは道具に依存してた。
その道具が通用しないくらい魔物が強くなった時、監視役は俺に助けろと命令した。
「ちゃんと監視して下さいね」
そう俺は言って、奥へ進む。監視役が一人殺され、二人殺され、残り人数が一人になった。絶望の表情を監視役は浮かべ、魔物に身体を食い千切られながら断末魔を上げる。
それを俺は高揚感を感じながら眺めていた。
俺は勇者。
勇気を持って人間が全滅する未来を決断した者だ。こんな俺を神が勇者にした。その意味を人間たちは死をもって知ることになったわけだ。
当たり前だが、俺は人間なんかに許されたいと思ったことはない。
それに、もし神が間違って俺を勇者にしたんだとしても、神も謝らないだろう。
さてと、そんな俺がいまから元の世界に戻るんだが、そっちの人間たち……覚悟はいいか?
ごめん、って謝れば許してもらえるかって?
あははは……
そんなわけ、ないだろ。