5 証言者
フリードリヒの前に現れたデイモンはつい数週間前に会ったときとは様子が様変わりしていた。
顔の半分近くが焼けて爛れており、左目から頬にかけて大きな切り傷があった。
下半身のどこかに障害が残っているのか、足を大きく引き摺り、そして左腕が根刮ぎ無くなっていた。
それらの傷のほとんどは完治しており、一瞥すると旧い傷痕のようになって見えるが、痕そのものの色合いは黒ずみに沈着することなく、生々しく、そして痛々しく赤黒く腫れ上がっていた。
これは深い傷が急速に治癒されたときに起こる回復魔法痕現象であり、マルーディアの魔法兵団が優秀であることを想起させた。
しかしともかく、エネルギーに満ち満ちたかつての若々しいデイモンの姿はどこにもなく、そこには傷付き疲弊し、黄昏た戦士の姿があった。
「……それほどか」
デイモンの姿を見て、フリードリヒの口から最初に出た言葉はそれだった。
「"マルーディアの怪人"は、貴様ほどの男をそこまで」
フリードリヒはそこで言葉を止めた。
絶句していた。
デイモンの姿は、ことの重大性を実に雄弁に物語っていた。
「閣下。これは国家レベルの凶変だと思います」
デイモンはフリードリヒを睨むように見つめながら言った。
「彼奴の狙いは分かりません。今はまだ地方の村の中で暴れているだけですが、しかし、もしも、彼奴が本気で王都へ向かって来たら、その牙は王にすら届き得る」
フリードリヒは目を細めた。
それから、ほう、と短く息を吐いた。
「それは大きく出たな。相手はたった一人なのだろう?」
「はい」
「たった一人の男が、国家の軍隊よりも強いかもしれないと宣うのか」
「はい」
デイモンは即答した。
「馬鹿な」
フリードリヒは思わず首を振った。
優秀なデイモンの言葉であっても信じられなかった。
あまりに非現実的な話だ。
「デイモンよ。貴様の頭脳には信頼を置いているが、さすがにいささか誇大妄想が過ぎると言わざるを得んぞ。我がメストリア軍がどれだけの戦力を有しているのか、そして我が国にはどれだけの戦士がいるのか、よもや知らぬわけではあるまい」
デイモンは口を閉じ、唇を噛み締めた。
それからええ、と小さく頷いた。
「フリードリヒ様の有する軍力は世界屈指。まさに世界を統べるほどの力があると思っております。しかし、それでもなお、彼奴の戦闘能力を以てすれば、それらを駆逐するのではないかと感じてしまうのです。彼奴は……彼奴は……それほどに」
デイモンの額に玉の汗が浮かび上がった。
それからガタガタと身体が震え始め、その場によろめいた。
そのままその場にへたりこみ、ぜえはあと肩で息をした。
「も、申し訳ありません」
デイモンは怯えたように言った。
「よい。ゆっくりでよい。マルーディアの森で何があったのか、何を見たのか。話せ」
フリードリヒは手元にあった水の入った瓶を無造作に掴むと、それをデイモンに手渡した。
デイモンは申し訳御座いませんと慇懃に言った後、グビグビと乱暴にそれを飲み干し、なんとか息を整えると、話し始めた。
「私があの場で対峙したのは破滅。あれは――あれは、この世界の終焉そのもので御座いました」




